自由の都
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「この橋を渡ればモンド城はすぐそこよ」
整備された石橋を見るとモンド城からこの石橋までは人間の領域なのだということを実感させられる。歩いてきた草原を振り返り、それまでの整備されていない道をみて魔物の影響について嫌でも考えさせられた。外を歩くのには問題はないが整備するほどの平和でもない。あるいはそんなことをするほど人々が郊外を歩かないのかもしれない。もしかしたら自由の国だと言っていたのでモンド城外……生活圏ではないところは手をいれずに自由にしようという方針なのかもしれない。真実がどれにせよ、それは異邦の旅人である空が口に出していいことではない。
おいしいものあるかな? とワクワクした様子でなまえに話しかけるパイモンの声を聞きながら空は皆の後を追った。
「――親愛なる旅人さん。モンドへようこそ!」
西風騎士団であるアンバーと共にいたおかげか城門を守る西風騎士団員に見慣れない人物だからといって不審がられることもなく歓迎の言葉を受けてモンド城に入ることができた。そんな彼女の背中に続いてモンド城に入ると、まず統一された色の家屋に目を奪われ空は思わず辺りを見回した。外からは巨大な風車がいくつもまわっている様子は確認できていたが、今は見えない。正面にまっすぐに続く噴水へと至る階段が見えた。その向こうにとても巨大な像があることにも気が付いた。
「(やけに大きい像だな……)」
うすぼんやりと見えることから巨大な像までの距離は遠いがそれでもその像がフードを被っているとわかるほどその像は大きかった。
「あらためて紹介させてもらうわ。風と蒲公英の牧歌の城、自由の都――」
アンバーの声に空は像に向けていた意識を彼女に向けた。
「西風騎士団に守られてやって来た旅人さんたち、モンドへようこそ!」
「案内してくれてありがとう」
「やっと野宿しないで済むな」
アンバーの歓迎の言葉を受けてなまえが礼を言った後にパイモンがこちらを向いて安心したような表情を見せた。何を言い出すのかと思えばモンドに対する感想ではなく、まだ昼間なのに来て早々宿を気にするパイモン。空は旅人らしい答えではあるが、一番最初にいうほどパイモンは野宿が嫌だったのだろうかという疑問を覚えた。パイモンの場合、寝心地というよりはおそらくご飯の問題であるだろうが今は口に出さないでおこう。なんとなくそう思った。
そんなことを空が考えているとは知らずにパイモンはきょろきょろと周りを見まわしていた。そして自分の知識にあるモンド城内との雰囲気の違いに首を傾げる。
「でも、城内のみんなは……あまり元気じゃなさそうだ」
自由の都という呼称はモンド人の気質によるものが大きい。人々は自由に生きていて、昼間なら詩人の歌が流れているはずなのだ。それなのに今はそんな詩人たちの姿はなく、笑い声も聞こえることはない。閑散とした大通り、人通りの少ない噴水広場。モンド城の城壁が圧迫感を与えているようなその雰囲気に戸惑う。明るい青空とは正反対のその姿にパイモンの言うことはもっともだと空もなまえもアンバーを見た。
「最近、みんな風魔龍の件で頭を悩ませてるからね」
アンバーはその理由をやはり風魔龍だと言った。キャラバンルートの変更や人的被害はモンド城内の人間にも暗い影を落としているという。しかし、そういうアンバーの顔は絶望に沈んでいるわけではなかった。
「でも、ジンさんがいれば、きっと全てうまく行く!」
「ジンさん?」
聞き慣れない人名を出されてアンバーの話を聞いていた一同が首を傾げる。
「西風騎士団の代理団長――ジン、モンドの守護者だよ。ジンさんが一緒なら、風魔龍レベルの災害でも、きっと打ち勝てるはず」
アンバーの話す言葉の端々にそのジンという人物への信頼が見てとれて、空はその人がすごい人なのだという感想と同時にその人なら風神への手掛かりを得られるかもしれないと期待せずにはいられなかった。空とパイモンがすごい人だとジンがどんな人物なのだろうかと考えているときになまえだけはアンバーの言葉に何か感じるものがあったようで話を続けていた。
「打ち勝つ……?」
「うん、ジンさんならとても頼りになるから。モンドのみんなもこわいのはこわいけど、ジンさんがいるからモンドを逃げ出すことはないんだ」
「そうなんだ。……すごい人なんだね」
アンバーのその言葉になまえは礼を言って彼女との会話を終わらせた。アンバーやパイモンは気づかなかったようだが空だけは気づいていた。なまえにとってアンバーの言葉が彼女の望むものではなかったことに。
「……」
その後、考え込んでしまったなまえの様子に一体どうしたのだろうと空はなまえの様子が気になって仕方がなかった。