わたしが望まぬことだから
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
龍が飛び去り少しの間、森の中は龍の起こした風のせいでざわめいていたが、次第にそれもなくなりまたもとの静寂へと戻った。
「……はあ、風止んだね。パイモン、大丈夫だった?」
「おう、なまえが助けてくれたおかげだぞ。ありがとうな!」
危険が過ぎ去ったことを確認したなまえはパイモンを離した。風圧により巻き上がった葉っぱが3人の体についている。体についた葉っぱを払いながらパイモンがなまえに礼を言った。そして、髪に葉っぱついているぞとパイモンがなまえの髪から払ってやると今度はなまえがパイモンに感謝を告げた。その様子を見ながら空もまた服に着いた葉っぱを払う。しかし警戒は怠っていない。もう一度辺りを見回していた。そんな彼の様子に気づいて、パイモンとなまえは空の傍に近寄った。
「危なかった、吹き飛ばされるところだった!」
「うん。パイモンが飛ばされなくてよかったよ」
同じように空もパイモンの無事を喜んでいた。
「おう、なまえが掴んでくれたおかげだぞ。……あっ、もちろん最初におまえの髪を掴んだおかげでもあるからな。助かったぞ」
「俺も髪が抜けなくて良かった」
風で乱れた髪を慣れたようにさっとなおして空はパイモンに言葉を返してなまえを見た。今の出来事で頭から抜けていたが先ほどなまえは泣いていた。しかし、空が今見る限り彼女はそんな様子は見せることもなく、涙の跡さえ見えなかった。空の視線を感じたなまえがそれに気づいて彼に話しかけた。
「空も無事でよかった」
「なまえも……「あ、」」
なまえの言葉に空も返事をしかけたとき、彼女が不意に声を出して一言断りを入れると空へと手を伸ばしてきた。
「!」
それが先ほど彼が無意識に彼女に触れようとしたことを思い出す引き金となってしまった。自身の先ほどの恥ずべき行動を思い出して空の顔に熱が集まる。鼓動が高まり、なまえの手が近づくにつれさらに耳に伝わるその音が大きくなって早くなってきたような気がして。ドキドキという音が全身に響いているような感覚に陥り、なまえにまで聞こえてないだろうかと気持ちも焦りだす。
そしてそんな彼の気持ちを知るはずもないなまえの手が目の前に来た時、空は思わず目を閉じた。しかし、ふわりと髪にそっと触れたような感覚が一瞬あっただけで彼が期待したようななまえのぬくもりをどこにも感じることはなかった。
強張った体をそのままにそろりと目を開けると親指と人差し指で葉っぱをつまんだなまえの姿が見えた。
「空の髪にも葉っぱがついてた」
「……っ、」
私と一緒だね、と楽しそうに笑うなまえに空はなんとか頷いて、打算などみられない彼女の純粋さに目も合わせられなくなって下を向いた。なぜだかわからないけれど、笑うなまえの周りだけがなんだかきらきらと輝いているように見えた気がした。
「なまえー、オイラの髪にはもう葉っぱついてないよな?」
「大丈夫! ついてないよ」
「なら良かった。それにしてもさっきは何があったんだ? 食われるかと思ったぞ」
そんな二人のやり取りを見ていたパイモンがなまえの傍によってそんなことを聞いていた。くるりと一周まわってなまえに確認してもらい、葉っぱがついてないことに安心したパイモンは先ほどの龍の話へと話題を変える。話題が変わったことに空は安堵した。少し顔が熱い気もするがきっと気のせいだろう。
「絶対、あのドラゴンと話してたやつが関係してるよな……」
パイモンの疑惑の声に空は思考を切り替えた。あの龍と話していた緑色が印象深いあの謎の人物。一瞬で姿を消したことといい、怪しい人物であることは確かだ。
「……この世界ではドラゴンと話すのも普通なの?」
パイモンが当たり前のようにその名を出したことにより、空はこの世界では龍という存在が一定の認知を得ているのだと理解していた。しかし、龍と話すことが普通であるのかはわからなかった。
「そうだよな。やっぱりおまえから見ても普通じゃないよな。……ん? なんだあれ……?」
「え? なに?」
「あれだよ。あの赤い……光の……、……石?」
うんうんと何度も頷きながらパイモンは空の質問に答えていたが、不意に龍がいた場所に何かを見つけたようだ。空もなまえもパイモンの視線につられて同じように顔を向けた。草や木々の緑の中でその光は異彩を放っていた。赤く目立つその光は確かに気になる。
「近くで見てみようぜ」
好奇心に駆られたパイモンはひとりでその光のもとへと近づいて行った。残された二人はパイモンの思い切った行動に顔を見合わせた。
「私たちも行こうか」
「あ、待って……なまえ、ひとつ聞いてもいい?」
パイモンのもとへと進もうとしたなまえをわざわざ引き止めたのは先ほどのことを聞くためだった。
「ん、なに?」
「……さっき、……」
空はそこまで出かけた言葉を一度飲み込んだ。なまえの少し困ったような表情を見てしまったから、躊躇った。本当に話していいのだろうか。どうして泣いていたのかと聞くのは簡単だったけれど、それを聞いたらいけないような気がした。それは空が今まで旅をしてきた勘というものだったのかもしれない。理由はわからなかったけれど、そんな気がした。
「空? どうしたの?」
「……いや、ごめん。なんでもない。パイモンに何かあったら危ないから行こう」
なまえが黙ってしまった彼にもう一度声をかけると空は首を振って、そのままパイモンが手を振るところへと歩いて行った。残されたなまえは、彼の後ろ姿に小さく声をかけた。
「……、空。ありがとう」
その言葉を聞いた空はやはり聞くべきではないことだったと理解した。空にも隠していることがあるように彼女だってそうなのだろう。しばらくして後ろからついてくるなまえの気配を感じながら空はそう思った。先に謎の赤く光る石の近くまで来ていたパイモンはなかなか来ないふたりに怒っていた。ふたりが到着するとパイモンはせかすように手招きをしていた。
「遅いぞ! ふたりとも!!」
「待たせてごめん」
「ごめんね、パイモン」
「ふたりでなにやってたんだ? ……あ、それよりも気をつけろ! この石、なんか嫌な感じがするんだ」
そう注意を促されて身構えたふたりは警戒しながら石を見ることにした。その石から放たれる赤い光はどこか禍禍しく、見ていてあまり気分の良いものではない。
「これは……」
「たしかに……なんだか嫌な感じがする」
「待っている間に見ていたけど、こんな石、見たことない……なんなんだこれ?」
首を傾げるパイモンだったが、この世界のパイモンが知らないのなら、異世界から来た空も分かるはずがなく一緒になって首を傾げた。
「危ないってことだけはわかるな。とりあえず回収しておくか」
「じゃあ、私が持っているね」
パイモンの言葉になまえがすぐさま名乗りを上げて石を手に持った。しかし、それに空が待ったをかけた。
「いや、俺が持っておくよ」
「え、でも……」
戸惑うなまえに大丈夫だからと答えて空は自分がその石を預かることにした。
補足
このお話の空君は圧倒的紳士です!