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読切

 村の外れにある森の中、どんな怪我や病にもよく効く薬を売ってくれる店があると噂になっている。
 誰が言い出したのかは分からないが、村人の中にも既に買い求めた者がいるようだ。
 畑の作付けに悩む青年もまた、森の奥へと足を踏み入れる。鬱蒼とした茂みの中に、新しく踏み締められた道ができている。
 やっと辿り着いた建物は、木の板を寄せ集め急拵えで作られたようなーー良い表現が思いつかない。そう、どう見てもボロ小屋としか言えない代物だった。人が住んでいるかも疑わしい。
 青年はそっと近寄り、板の隙間から中を覗こうとしたが、真っ暗で何も見えない。
 試しに軽くノックをしてみる。何かが動く気配がした。虫か、ネズミか。
 意を決して戸板を開くと、その内装に息を呑んだ。
 天井は高く、大きな窓からは陽光が燦々と降り注ぐ。広い室内には大きな棚が設置され、様々な薬瓶が整然と並べられていた。
 ボロ小屋の外観からは想像がつかない、いや、どう考えても一致していない。
「これ、は……」
「いらっしゃいませ」
 声をかけられ振り向くと、カウンターの向こうに人形ような美少女が座っている。さらさらの黒い髪は艶やかに輝き、こちらを見つめる深い緑色の双眸は宝石のようだ。落ち着いた声色が、不思議と心に響いて惹きつけられる。
「生憎、師匠は不在でして、私で良ければ話をお伺い致します」
「え……あ、えっと、よろしくお願いします」
 相談をすれば、彼女はすぐに薬を持ってきてくれた。
「用法容量は添付の紙に纏めてあります」
「あ、ありがとうございます……」
 代金を支払い、薬の入った袋を受け取る。予想より良心的な値段だった。
 ふと目が合って、彼女が微笑む。
 青年の心臓がとくんと鳴った。
 ボロ小屋の戸板を閉めて、元来た獣道を惚けた頭で村へと歩いていく。
 ああ、また会いに行こう。
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