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秘密の黄昏時

「とても魅力的なお誘いね。でも私は、じっくり時間をかけて実力を高めていきたいの」
 ああ、断ってしまった。残念な気持ちと、これで良かったのだという安堵が半々だ。
「残念です」
 断られても嬉しそうな声色に変化はない。
 私は教室の出入り口に移動して、パチリと明かりをつけた。天井の蛍光灯が一斉に光を放つ。
「代わりに、絵の練習に付き合ってくれる?」
 自分の席に戻り、練習用スケッチブックを取り出す私の問いかけに、彼は嬉しそうに頷いた。

 * * *

 それから、部員が帰ってから校舎が施錠されるまでの放課後のわずかな時間は二人だけの秘密の時間になった。
 毎日着々と減っていくスケッチブックの残りページ数。
 教室の飾り付けを見ながら彼は微笑む。
「楽しみですね」
「うん。もちろん君も文化祭に来るんでしょう? 作品いっぱい描いてたし」
「僕の作品は、自分で並べておきます。部長や部員の皆さんの手は煩わせません」
「……絵を描くのが好きならさ、君も部員だよ」
「ありがとうございます」
 穏やかな笑みを浮かべて彼は言った。
 もしかしたら、もう会えないかもしれない。そんな予感がした。
 暗くなった窓の外を見る二人。
「あの…」
 言いかけたタイミングでチャイムが鳴った。もう帰らないと。
「さよなら、部長」
「さよなら…」
 名前も知らないキミーー。



  * * *



「あれ? 部長また上達してない?」
「文化祭前、一番最後まで残って描いてたもんね〜」
「この無記名の作品誰の? めっちゃ上手いんだけど」
「こんなの描いてる人いたっけ?」
「先生かな」





『秘密の黄昏時』
部長の画力がただ上がるだけ√
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