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三振りの小夜左文字

 山奥の奥、広い敷地の広いお屋敷。そこはかつて、審神者と刀の付喪神が拠点として過ごした本丸だった。今は夜でもないのにひっそりと静まり返っている。
 両手いっぱいの野菜を抱えて歩いていくのは小夜左文字。
「これで飢えなくて済む」
 大きな厨房の一画には、短刀でも調理ができるように床に木の箱が並べられているスペースがあった。
 小夜左文字は流し台まで運んで、一振で作業を始めた。小さな手でネギを刻み、鍋に入れていく。
 慣れた手つきで下拵えを済ませて、煮込む間に食器の用意を始める。ごはん茶碗と汁椀が三人分。
 やはり、小夜左文字以外にもいるのだ。しかし、審神者や、初期刀である打刀すら、姿を見せる気配がない。
 ゴーン、ゴーン、ゴーン…
 鐘の音を聞いた小夜左文字は、小走りで門へ向かった。第一部隊の帰還だ。
「おかえり」
「ただいま」
 帰ってきたのは極の小夜左文字。道中拾った資材を担いでえっちらおっちら進む。僅かであっても、小さな体には重たいものだ。
 資材を半分こして二振で蔵まで運ぶ。
「もうすぐお昼ごはんだよ」
「手伝うよ」
 ぱたぱたと駆けていく二つの小さな影。
 厨房に着いた二振りはてきぱきと盛り付けていく。
 再び帰城を知らせる鐘が鳴り、三振り目の小夜左文字が姿を現した。
「トク、キワメ、ただいま」
「ハツ、おかえり」
「今ちょうどできたところ」
「間に合ってよかった」
 それぞれの席に着き、手を合わせる。
「ネギと大根の味噌汁、おいしいね」
「キワメ、今日の出陣先のこと、聞かせて」「あと少しで何か分かりそうだったんだけど……」

 食後、畑当番のトクが畑の隅で見つけたという箱を持ってきた。
「曲げわっぱだ」
「誰のだったんだろう」
「中は……もしかして数年前のお弁当?」
「……これは」
 そうっと蓋を開けて出てきたのは一回り小さな箱で、重ねて守られた中に入っていたのは短い手紙だった。
 読んだハツがぽつりと呟く。
「やっぱり、それがぼくを残した理由なんだね」
 手紙を丁寧にたたんで、キワメとトクを見る。何も言わなくても通じたのか、二振りは静かに頷いた。
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