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好きな人





俺はぎこちない動作で、殺風景な壁から・・そっと視点をズラしていく。




ゆっくりと。

時間を掛けて。


そして、ようやくぴぃの姿を確認できる位置まで首を動かせた。



ぴぃはすでに真っ直ぐと俺を見つめていた。




そして。

そのまま、ゆっくりと。



どこかうっとりとした面持ちでぴぃは瞳を揺らすと、綺麗な形をしたソノ唇に甘美なる弧を描いた。










どういうことなのだろうか。




ソレは、何か、とても大切な意味を含んでいるような・・。


自身の胸底に渦巻いている何らかの‟気”を、あえて俺だけに伝えているかのように・・・。




初めて、目にするかもしれない奴の表情がソコに舞い降りる。



俺の勘違いでなければ、斗真がいる位置からは角度等の問題で見ることは叶わない。




・・・俺だけに、ソノ美しさが放たれた。






本当に、俺だけに・・・?









・・怖い。




触れてはいけない、禁断の魅惑的な色香を俺に見せつけているのか宛らに、ぴぃは睫毛を震わせながら目を細めた。



ぴぃを包み込む一つ一つの空気の流れが、全てスローモーションの如く繊細に心に焼き付いてしまう。




目が離せない・・。








俺の戸惑いも、全部見透かされている気がする。






・・いや、待てよ?



・・・もしかして、コレは罠なのではないだろうか。



ぴぃの瞳の奥には、仄かに挑発的な煽りさえも映し出されている。


・・・ふと、そんな気がした。



甘ったるい快楽へと誘われている危険な感覚を覚え、俺は早くも身も心もぴぃに拘束されてしまいそうだ。



そんなこと、あるはずないのに・・。



ソノ甘さでトロトロに溶けている内部の奥底では、凛として固く揺るがない‟雄”の存在が見え隠れしている。



そうしたぴぃの艶めかしさが薫る目元、口元に、俺は再び頬に熱が集中するのを感じ取った。






やっぱり・・。


間違いなく、自分だけに贈られている。








おまえ、そんな顔もするのか・・?




どうして、何やっても・・そんなに綺麗なんだよ・・・。//




何で、・・俺に、・・?












あ、熱い。//





ど、どうしよ。








柄にもなく、ドキドキする。







まただ。



ドクン、ドクン、ドク、ドク・・、と・・心臓が激しく揺れる。



呼吸困難にでもなったのか、息が苦しい。




求めている・・。//




ぴぃ、という・・酸素を。






「そうだよな~♪ぴぃも一緒に見に行こうぜ!」

「はい。是非。」



斗真がぴぃと直接対面する頃には、ぴぃにはもう妖しげな雰囲気はなかった。


ぴぃは普段どおりにニコニコと明るく微笑んでいる。


ソノ屈託のない笑顔に、ぴぃから俺への先ほどの言葉を斗真は軽い冗談だと解釈したみたいだ。



「明日行こうぜ!!」

「・・・・は?明日?」

「そうですね~。では、そう致しましょうか。」

「けって~~♪」

「・・・・ちょっ、・・ぉ~ぃ・・(苦笑)。」


俺がぴぃという酔いから解放された時にはすでに遅く、事態は深刻なものへと悪化していた。




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