伽藍堂
ナマエヘンカン
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不穏な空気を察して地を蹴り、白いロボットから距離を取ろうとする。
が、しかし、今更になって身体の自由が効かないことに気づいた侵入者───もとい、死神と名乗る男、
帯に似た淡い緑色に輝く光が、腕や、そして武器である背負った赤い鎌と太腿のベルトに刺した二丁の拳銃ごと拘束しているのだった。
その実体を持たない帯は13の隆々とした体躯を戒めるにはあまりにも頼りなさげに見える代物であったが、彼の渾身の力をもってしてもびくともしない。
物理的な力ではどうにもできないと悟った13は抵抗を諦め、このような芸当を手足ひとつ動かさずにやってのけた目の前のロボットを睨みつけることにする。
「今日のところはお暇しようかと思ったんだが、ずいぶん熱烈な引き止め方だな。俺様に一目惚れでもしちまったかァ?」
「発言ノ意味ヲ理解シカネマス」
目は鋭く細められたまま愉快そうな口調で問うてくる13に、Voidollは微かな駆動音と共に首を傾げた。
最高知能を持つ自分のデータベースには、最速の思考回路を保つため恋だの感情だのといった無駄なモノは存在しない。
今の行動の流れでなぜ彼がそのような発言をしたのか純粋に疑問に思うが、13は面倒臭そうにあっそ、とため息を吐いた。
「で、これナニ?新種のカードスキルか何か?」
「オヤ、アナタ、知ラナカッタノデスカ?」
「あ?」
「カードスキルヤヒーロー達ノステータスハ、アクマデアリーナ上デノミ反映サレルモノデ、ココノヨウニアリーナデナイ場所デハカードスキルハ使用不可能デス。ヒーロー達ノ能力モ、並ノ人間程度ニ抑制サレマス」
「あ、そーゆーこと。でも俺はここの奴らとは違う質の力を使う。フツーに考えて誰も俺を縛れねぇはずだろ?じゃあこれはなんなのよ」
「アナタ、ワタシノ話ヲ聞イテマシタカ?」
今度はVoidollが目を細める番だった。
正確には、視覚素子である淡い青緑色の光だが、三日月型のそれは、間違いなく13を嘲る色を含んでいる。
「ワタシハ、コノホーム内デナラ、スベテノ″力″ヲ管理デキマス。外カラノ侵入者トイエドモ、アナタモ例外デハアリマセンヨ」
「なっ……!?」
やや舌足らずな、あどけない音声で告げてきた内容に、13は絶句した。
なんということだ。
いくら異質な存在だとしても、#コンパスの世界に介入した時点で13もVoidollの管理下に置かれてしまう、ということである。
だいたいのバグは介入すらできずに排除されてしまうという話だったので、すんなりと侵入できただけで満足していたのだ。
完全に想定外だった。
しばし呆然と立ち尽くした13だったが、やがて、乾いた笑い声を洩らす。
「……じゃ、俺も『オソウジ』されちゃう感じ?」
「理解ガ速イノハ良イコトデス」
答えるが速いか、Voidollが腕を伸ばす。
恐らく13のデータを一応閲覧し、それが終了した時点で内部から分解を始めるのだろう。
身体の中を掻き回されるような気持ちの悪い感覚に耐えきれず、13の意識が朦朧としてきた。
真っ白な世界の中で、Voidollのボディの輪郭が曖昧になっていく。
少しずつ、少しずつ、自分という存在が内側から崩れていくのを感じる。
──俺ってば結局、″出来ない″まま終わっちまうんだな。
そんなことを考えながら、13は目を閉じた。
そのときだ。
「ちょっと待ち、ボイちゃん」