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霞みの森の剣士

霧が蠢く。
異様な匂いを感覚を漂わせて。

「あー!!あのボケ逸!何で自分からヤバい方に行っちまうんだ!」
伊之助は腰の1対の日輪刀の布を乱暴に剥ぎ取る。
「いや、自分からって感じじゃなかった!霧に引きずり込まれたんだ!伊之助!ここを突破して、後を追うぞ!」
炭治郎も抜刀する。
「へっ!それは俺が言おうとしたことだぜ!親分だからな!」
二人は背中合わせになり、お互いの死角を庇い合う。

炭治郎の鼻が、匂いを捉えた。
何かが混ざった異様な匂い。
霧の中から…。

「来るぞ!伊之助!」
「俺が先に気づいていた!」

それは、霧を裂いて襲いかかってきた。
幾つも絡まり綱のように太くしなる幾本もの蔦の乱舞。
炭治郎、伊之助に四方八方から襲いかかってきた。

すうぅぅ…。
炭治郎の呼吸が、水の揺らぎのような息を吐く。
水の呼吸、肆の型。
「打ち潮!」
刃が独特の軌跡を描き、荒れ狂う波の如く蔦をばらばらに切り裂いた。

ふしゅうう。
伊之助の呼吸が、臨戦態勢の獣の唸りのような息を吐く。
獣の呼吸、伍の牙。
「狂い裂き!!」
伊之助の両腕が翻り、獣の爪の鋭さの如く蔦を引き裂いた。
ぼとぼとと、斬られた蔦が彼らの周囲に散乱する。

「植物にしちゃ、嫌な手応えだぜ」
刃に付着する液体を払い、伊之助が言う。
「伊之助もわかってたのか」
「当たり前だろうが」
「…植物と人が混ざったような、嫌な感触だった」
「おう。例の植物人間じゃねえか」
植物人間…鬼が絡んで、人が植物化してしまったとしたら、自分たちは人間を斬る事になる。
「ぼさっとすんな権八郎!本体はまだ斬ってねえ!」
伊之助が一喝した。

霧が蠢く。
次が来る。

「さっきと違って、霧に匂いと感触がある!わかりゃどうって事はねえ!」
ごう!と霧を再び裂き、蔦の群れが襲い来る。
「蔦は任せろ!伊之助、本体を倒すぞ!」
「俺様に指図すんじゃねぇ!言われなくても本体引きずり出してやらぁ!」

伊之助の呼吸が、次の型を導く。
獣の呼吸、弐の牙。
「切り裂き!」
二つの刀身は、霧を左右上下に鋭く力強く切り裂いた。

炭治郎は、伊之助の援護に陸の型『ねじれ渦』で蔦を剣圧に巻き込みながらことごとく切り払った。
「なっ!!」
「こいつが、種撃ってきた元かよ!」
炭治郎、伊之助は息を飲む。
霧を切り裂いて現れたそれは、『木』だった。
それも、蔦や葉に覆われた幾人もの人が捻れ捩れ1つになった鬼でもない、化け物。
「これって…いなくなった人達なのか…?」
炭治郎は恐怖よりも愕然となった。
そして、腹の底がずんと重く熱くなった。
あの『木』から漂ってきたのは、鬼の匂い。
そして、幾人もの苦しむ匂い。
「何の為に、こんな酷い事を!!」
鬼が絡んでいる。
この『木』を倒してここを出られる確証はない。
善逸を探さなくてはならない。
鬼を狩らなくてはならない。

「ムカつく感触だぜ…命ってのは弄ぶもんじゃねえぞ」
伊之助も怒っていた。
「こんなのは、命じゃねえ!命は玩具じゃねえんだ!!!」
刀が鳴るほど、伊之助は柄を握りしめ吠えた。
「炭治郎、こいつらは斬ってやるしか助けてやれねえ…どうしようもねえぞ」
「……わかってる…わかってるよ」
炭治郎もまた、怒りに柄を握りしめ、刀を震わせた。
「あの人達を解放しよう。」
「だから、俺様に指図済んじゃねえよ」
蔦が唸る。
二人は、それぞれの呼吸を吐き、『木』に斬りかかっていった。


一方、善逸は…。
「ここどこなんだよぉ……」
泣きながら、霧の中をさ迷っていた…。
種の弾幕をよけ続けていた筈なのに、いつの間にか森の中にいて、出口を探していたらすっかり迷ってしまったのだ。

「炭治郎、伊之助……今日だけ休ませてとかもう言わないから助けてよぉ」
今二人は、『木』と戦闘中でそれどころではない。
善逸が『木』を見たら再び意識が飛ぶだろう。
「何にも音がしないし、霧は濃いいし、誰もいないし」
また、新しい涙が溢れてきた。
「何でこうなるんだよ…だから俺ろくな事にならないって言ったのに…」
ざわりと霧が揺れた。
「ひっ…ぐ…!!」
恐怖で嗚咽が、喉の奥につかえる。
異様な音だ。

1つではない。
人の歩くような音。だけど、人の歩き方にしてはおかしい音で幾つも近づいて来る。
頭に乗っていたチュン太郎が、異様さに耐えきれず羽織りの袖に潜り込んだ。
「ちょっ!!チュン太郎!炭治郎達を呼んできてよお!!」
善逸は絶叫する。
鎹烏等が来れないのに、この中でチュン太郎が動けるわけがない。
ざわり、と霧を揺らしあらわれたのは…。
「ひいぃぃぃっ!!」
二足歩行の蔦に絡まれた、人の成れの果て。
人の顔の位置には、人の目らしきものが開き、虚ろに善逸を捉える。

「無理、無理、無理!!無理ですからぁぁっ!」
善逸は植物人間が現れたのと逆方向へと、全力で爆走し敵前逃亡した。


(逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ!)
全力で走り続けた。息が上がって足が止まるまで。
気がついたら、無音の霧の中。
木々が生い茂っているから、森の中ではあることだけはわかった。

(でも…。これって一番良くないんじゃないの)
頭が冷静になってくると、急に自分が情けなくなってきた。
「どうしよう…。さすがに、これじゃ炭治郎も伊之助も俺の事なんて身限っちゃうよな…」
気がつけば森の中。
完全に任務から逃げ出したと思われてもおかしくない。
きっと二人は、あの種弾を撃ってきた『主』と戦っているはずだ。
耳は、それを聴いていた。
場所だってわかっていた。
それなのに。
「いつまでたっても駄目だな…。俺」
どうしよう。自分でまた周りに迷惑をかけている。

立ち止まっていてもどうしようもなくて、とぼとぼと歩きだした。
目の前には、誰もいない。
伊之助も炭治郎も。

「俺、また1人になっちゃうのかな…」
今度は自分への情けなさから、涙が溢れてきた。
「じいちゃん、俺、…じいちゃん…」
師匠、桑島慈悟郎の事を善逸はじいちゃんと呼び慕っていた。
涙を拭いながら歩いていると……。
がつっ!
と爪先が何かに引っ掛かった。
「へっ?」
それは木の根。
張り出した木の根に善逸は足をとられた。
「わ、うわっ!」
態勢を崩し、善逸は左手に倒れてしまう。
そこは傾斜、しかも沢に向かってまっしぐらに善逸は転落してしまったのだった……。


「ふふ……いろんな狩場を転々としてきたが、体の強化の集大成に鬼狩りが自ら来てくれるとはな」
森の最深部で嗤う影があった。
「弱っちいがないよりマシだな」
ベロりと長い舌が舌なめずりする。
「外の2匹もいずれ来るだろう。奴等が帰らなくなりゃ、鬼殺隊はバカのドミノ倒しで餌をどんどん送り込んで来る」
けたけたと影は嗤う。
「俺だって結構力をつけた!二度と鬼狩りに負けねえ!無惨様に認めていただくんだ!」
二つの眼がぎらつく。
「十二鬼月に!!」
鬼の始祖、鬼舞辻無惨。
彼に選ばれし鬼のみ名乗る事ができた。
その数十二。
そして、一点を睨み付ける。
「出て来い。『間引き』をあえて貴様が減らしたいと言った時はどうなるかと思ったが、良い撒き餌が来てくれた」
「こっちから仕掛けるのも、策の一つさ。鬼を匂わせれば、奴等は動く」
若い男の声だ。
「それに、もう何十年も経つ。貴方も自分で言っていたではないか。力をつけたと」
若い男と言葉を交わす影はふん、と呼気を吐く。
「そう、貴方の言う通り集大成になるだろう。鬼殺隊は、あの少年達が帰って来なければ、数を送り込んで来る。そして、いずれは、柱を」
柱。
鬼殺隊の最強の剣士。
柱と聞いて影の反応が変わった。
「貴方は力をつけている。柱が出る頃には、かなりの隊士らを補食し柱を喰らう程に強くなっているさ」
ざり、と声の主は影の間合いに入って来る。
出で立ちは、剣士。
袴姿の。
「十二鬼月に貴方が昇格したら、交わした約束果たしてもらう」
その額には僅かな盛り上がりがあった。
「そのために、生きたのだからな」
「わかってるさ。だから、最後まで付き合え」
「……承知」
剣士は静かに応えた。
「まずは、沢に落ちたあの少年を狩る。それから、あの二人もだ」
言って、男は姿を消した。


















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