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第4章 終

更に、4年の月日が流れた。

柱合会議を終え、耀哉が退室するのを見送り、9人の柱立ちもそれぞれに立ち去って行
く。
この4年の間に、変化もあった。
事情があり、炎柱は代替わりした。
槇寿郎の跡を引き継ぐように、煉極家の長男、杏寿郎が炎柱として立った。

そして新たな柱も立った。
恋柱、甘露寺蜜璃。
彼女は杏寿郎の師事を受けたが、独自の呼吸に行き着いた。
蛇柱、伊黒小笆内。
霞柱、時任無一郎。
無一郎は14歳、柱の中で最年少だ。
そして、蟲柱。
胡蝶しのぶ。18歳。
花柱胡蝶カナエは4年前、上弦の弐と戦い命を落とした。
妹しのぶは、姉の仇討ちを誓い、死にもの狂いの修行に明け暮れ柱となった。

4人の柱達は、蟲柱を除いて産屋敷邸から去っていった。
「おい、富岡ァ」
立ち去ろうとしていた義勇を実弥が呼び止めた。
「聞いたぜ?お前、昔水柱になるのを固辞しまくっていたんだってなァ?」
「……」
どこの誰から聞いたのやら、実弥が食ってかかってきた。
散々固持しまくっていたのだから、実弥の耳に入っていても当然か。
しかし、そんな古い話、一体誰から聞いたのか。
「どういう風の吹き回しで、水柱を拝命しようと心変わりしたんだァ?。聞かせろよ」
義勇は沈黙している。
「柱の拝命を固辞するってのは、お館様に無礼を働くも同じじゃねぇかよォ?つか、鬼殺隊クビもんだろ?」
(他の柱もまだいる中、聞くか?不死川と二人だけでも話す気も無いが……)

4年前のあの日の光景が義勇に甦る。
耀哉は病の体で、一対一で義勇に向きあってくれた。
相応しい者が現れるまででいいから、柱として鬼殺隊の士気向上に協力して欲しいと、お願いされた。
耀哉の心配りを何故、話さねばならない。
「身の程をわきまえろ」
「ーなんだとてめえ!!」
実弥が怒りで吠えたが、義勇は取り合わず姿を消した。

「あの野郎……なんだあの言い草は!!聞いただけじゃねぇかよォ!」
こめかみ、頬が怒りでぴきついている。
「そんなに、俺達とは違うってかァ?」
「不死川さん、私が思いますに」
と胡蝶しのぶ。
「不死川さんは、富岡さんをちょっぴり怒らせたのではないのですか?」
「俺が怒らせたァ?つか、あいつ怒ったのかよ?」
「分かりにくいと思いますけど、ちょっぴり怒っていましたよ」
にっこり笑顔で、しのぶは言う。
「ま、不死川も人の事言えねぇよな?」
にやにやと、宇髄が会話に入ってきた。
「何がっすかァ?」
「お前だって、4年前に風柱拝命の時、この場所でお館様に暴言吐いたよな?」
「宇髄さんっ!それは、あの時は」
実弥はあたふたとなる。
「あぁ、姉のカナエが悲しげに話してくれたあの件ですか」
しのぶは笑顔だが、目が笑ってない。
「胡蝶……」
助け船を悲鳴嶋に求めたが、数珠を擦り合わせ念仏を唱えていて、絶望的だった。
「良いんじゃねえの?義勇は水柱を拝命した。その裏を探ろうなんて不粋の何物でもねぇ、地味過ぎるわ」
「触れない方が良いことも、ありますからねぇ」
宇髄、しのぶの笑っていない目線が、実弥に突き刺さる。
「なんだよ……俺、悪者かよォ」
誰の援護もなく、実弥は小さくなるしかなかった。

本部を後にして、義勇は一人歩く。
この年、鬼殺隊に新しい顔が入った。
「錆兎、今年は五人生き残ったぞ」
その数が、多いのか少ないのか判断しかねるが。
それでも、耀哉は嬉しそうにしていたのを記憶している。
「五人も生き残った」
そう言っていた。

この年の最終選抜を生き残った隊士らは、確認しただけでも実戦において、強い鬼と戦い生き残っている。
義勇の弟弟子の竈門炭治朗。
元鳴柱の弟子、我妻善逸。
独学で型を納めた嘴平伊之助。
性格も個性もバラバラ。
しかし、三人で難局を乗りきっている。

正確には、4人か。

炭治朗の妹、竈門祢豆子。
鬼に傷を負わされた事がきっかけで鬼となったが、人間を傷つけたり食べたりしていない。
人間に、炭治朗達と共に鬼と戦っている。

「嫌だよ!やっぱり嫌だ!調査だけで済む訳がないじゃんかー!!」
汚い高音に顔を向けると、どうやって染めたのか、黄色い髪の少年が町の往来でぐずりまくっていた。
「俺、絶対死ぬって!!炭治朗や伊之助は強いからいいけど、俺はものすごく弱いんだぜ!」
「善逸、今更ここに来て困らせないでくれよ」
炭治朗の膝にしがみついて泣きわめく善逸に、炭治朗はほとほと困り顔だった。
「目的地に早く行かなきゃ、夜になって藤屋敷にも着けずに、野宿だぞ。」
「うう……じゃあ、俺の事守れよ!俺は弱いんだからあ!」
「善逸……」
炭治朗は困った顔で善逸を見下ろしていたが。
「分かった。守るよ」
「炭治朗!!ありがとー!」
満面の、笑顔一色に善逸の顔が輝いた瞬間。
善逸の首に手刀が落ちた。
これに、義勇は固まった。

「過激だな……綿パチ郎……」
頭に猪の被り物している伊之助がドン引いていた。
「こうでもしないと、藤屋敷にたどり着けないよ」
妹の入った箱を胸にかけ直して、気絶した善逸を背負う。
「善逸を守るって言うのに嘘はないよ。」
炭治朗が伊之助に、にっこり笑う。
「頼むよ、伊之助!君はすごく強いから、俺も善逸も守ってくれるよね?」
「あったり前だろうが!!任せろい!」
自信満々に炭治朗に言い放ち、伊之助は先頭を歩き出す。
炭治朗は箱と善逸を抱えていても苦もなく、伊之助の後を追う。
義勇には全く気がついていなかった。

炭治朗に出会ったのが二年前、鱗滝に預けたが最終選抜をくぐり抜け、鬼殺隊士になっていようとは、あの日再開して驚いた。
まだまだ未熟だが、仲間が二人もいる。
いつか水の呼吸を極め、いずれは義勇に代わる柱となりうるだろう。

それまでは、水柱として有り続ける。
耀哉の願いに応える。
義勇は、決めていた。

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