短編連載
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
▶︎獪岳視点
あいつは突然俺の目の前に現れた。汚れて気づきにくいがその辺のガキが着れないような服を着ていて、俺の真似して泥水を飲んでむせていた。無性に気に食わなくて声をかけてみると、無視された。あいつは耳が聞こえず声も出せないようだった。そんなんだから、売られて逃げてこんな底辺に落ちてきたんだろうと勝手に想像した。持っていた奴が全部失ってここにいるんだと思うと、ザマアミロという清しさと少しの哀れみが湧いた。惨めな人生だって、思ってないんだろうか。チラリと見えたあいつの目は青い空をそのまま写したような…苦しみや痛みと無縁な空っぽな目つきをしていた。
優しすぎる盲目の先生に拾われ、まともな人間らしくなった頃にあいつは寺に連れてこられた。人の真似して足を引っ張るしかなさそうなあいつの世話を任される。先生に頼られるのは嬉しいけど、相手は話せなくて聞こえない奴だからあんまり乗り気になれなかった。でもあいつの頭は悪くないようで、俺と一緒に過ごしてるだけで人並みに近づいていった。耳と口のこと以外は他の子供より優れていて、悪いところを補うように使えるもの全てを利用して自分の力に変えていた。目の見えない先生も、心の目というもので俺のことをよく理解していた…あいつが特別だと少しは認めてやってもいいかもしれない。
何も聞こえないから、人の名も呼べない。あいつは自分や他人の名前に興味がないんだろう。先生と俺だけなら、あいつとかあの子とかで済んでいた。あいつは文字をかけるから、自分から名乗るまで待っていたんだ。それでも先生が新しい子供を増やして、どんどん呼ばれる名前が増えていく。事情を知っててもみんな子供で、あいつは相変わらず名前に興味を持たないままで。
ついに一番小さな子供があいつの名前を無邪気につけてしまった。クチナシ、なんて。花の名前だろうが盲目の先生が知ったらまずいだろって名前。反論を誰も言わないから、先生の前ではチナチャンなんて呼んで子供みんなで嘘ついて。俺以外の奴らみんなが頭悪そうにニコニコ笑ってた。いつまで経っても名乗らないあいつが悪い。俺が一番最初に見つけたのに、話せない聞こえないってだけで勝手に名前つけやがって。ずるがしこいだけの俺の名前とは違った、特別な名前が…ムカつくほど愛された名前があるだろ。誰も知らないその名を捨てるなら、俺が名前をつけてやったのに。
夕暮れ時。金を盗んだことが他の子供にバレた。一晩反省しろと数人に言われて部屋に閉じ込められて数時間。全員に俺のしたことが知れ渡ったのか、怒りきった全員に罵られ寺の裏から追い出された。
都合良く家族扱いして、勝手に喚いて俺のこと何も知らずに!何も知ろうとしないで勝手なことばかり!先生じゃないのに、先生のこと勝手に決めつけて!あいつのことさえ勝手に決めつけて!
日が暮れて薄暗い中で闇雲に走った先に、あいつが現れた。
澄み渡る空色の目が、不思議なくらい良く見えて。偶然出くわしただけなのに迎えに来たんだろうって甘えた顔で俺を見る。何も知らないで…違う、何も知れないんだ、こいつは聞こえないから。話せないから。こいつはいつも通り、手を繋いで俺と寺に帰ろうとする。
「俺は、寺に帰らない。あいつら、金を盗む悪い奴はいらないって。先生だってもう許さないぞって。帰りてぇなら、お前だけ帰れよ。もうあんなとこ、こっちから願い下げなんだよ。俺にはもういらないんだよ。お前は…、」
こいつに聞こえるわけないのに、いつもこいつの前では本音が溢れる。ただ俺が力を込めた分だけ、同じように握り返してくる。それが無性に気持ち悪くて脚を動かした。お前の家である寺を見れば、お前の名前を勝手に呼ぶ家族が目の前にいれば。聞こえなくたって話せなくたって、頭の悪くないお前はそっちを選ぶ。だから俺はお前もいらない。突き飛ばして振り返らずに走った。
呼吸が苦しくなってしゃがみこんだら、力が抜けて何故か動けなくなった。孤児だった頃に戻るだけなのに、力が上手く入らない。座り込んでると、またあいつが俺の元にやってきた。
まっすぐに俺を見てくるあいつから目をそらす。すると何かを置いてさっさといなくなった。俺の側に置き去りにされたのは、大事にされていそうな花柄のお守りだった。寺で毎晩焚いていた、藤の花の香と同じ匂いがした。
夜はこの辺では鬼が出るって先生は信じてたから、毎晩焚かれたこの香りはよく覚えていた。藤の花の香りを鬼は嫌うから、こうすることで自分たちが暮らす寺に入って来ないようにするんだと。
藤の花の香りのするお守りを俺に置いてって、あいつはどこに行ったんだ。今更俺を置き去りにしたのか?確かめる為に、寺の様子を見に向かう。途中で、揺らいだ空色が俺の目の前に現れた。喋り出しそうなこいつは初めて見る。しかしこいつの後ろから悲鳴が聞こえて、俺を見て揺らいでるわけじゃないと知り先を急ぐ。
寺の目前に着いた。悲鳴と何かが潰れる音、不気味な空気に鳥肌が立つ。
目の前で何が起きてるのか、一瞬よく分からなかった。横にこいつがいないと、腰を抜かしてたかもしれない。動けずにいると急に横にいた奴がすいすいと歩きだし、先生と化け物の横を通り過ぎて子供を持ち上げて寺の中へ運んでいった。
倒れて動かなくなった全員を、あいつがずるずると中に入れ終える頃には朝日が昇っていた。俺は目の前で起きていることを黙って見ていた。先生は途方に暮れていた。奥にはあいつの名付け親が呆然とあいつを見ていた。誰も何も言えなかった。多分みんな恐怖で疲れていたんだと思う。平気な顔してあいつは先生に近づき肩を叩き、先生を泣かせた。次に名付け親の子供に近づく。
「ひっ!な、なんで?みんなチナチャン、みんなをつれてったの?」
あぁ、俺も聞きたい。でもあいつにクチナシなんて名前付けたのはお前だろ。その問いが聞こえるわけないし、答えられるわけがない。泣いてしがみつかれてることしか分からないから、見よう見真似で覚えた慰めだけをする。ぼんやり突っ立ってると、涙を止めた先生が俺の前までやってきた。
「あの子はお前を捜しに、外に出ていたのだな」
「せん、せい」
「いつもお前ばかりに、背負わせてしまっていた。あの子だけは気づいていたんだな。私は、何も見えていなかった。本当に済まない。お前が、無事で良かった」
あ…おれ、先生にそんな風に謝って欲しくない。俺は、だって。
「待ってください、受け取れません。俺が、無事で良かったなんて。先生は知らないからそんなこと言えるんです。俺が、」
俺が、自分の為に寺の金を盗んであいつらを怒らせて。夜に追い出されなきゃいけないくらい悪いことで。それを何にも知らないこいつが俺を捜しにきて。だから俺が金を盗まなかったら、いつも通りこいつを迎えにいってれば。こんなことにはならなかったんじゃないか。いつも通りの日常を裏切ったのは、壊したのは俺だ。
「そう、だったのか…。でも、お前だけが悪いなんてことはない。私の悪いところ、あの子達の悪いところ、重なって壊れてしまった。子供の責は、親である私が背負う」
「いやだ、先生。先生だけ、背負わないでください」
「弱くて頼りない私が悪かったんだ。どうか、それだけでも背負わせてくれ。しかしお前が責任を感じて苦しむのなら、人のお金や物を盗まないと約束をしてくれるか」
先生の優しさが苦しくて苦しくて堪らない。ちゃんと頷けただろうか。久しぶりに撫でられた感触がする。いつの間にか、あいつと名付け親と知らない大人達が周りにいた。
先生は大人達にこの寺で起きたことを説明したが、鬼のことになると全く信じてもらえなかった。子供である俺や名付け親にも事情を聞かれ、鬼のことをきちんと伝えたが結果は同じで。先生は事情を詳しく説明する為に連れて行かれることになった。寺に大人がいなくなる為、最年少の育ての親は大人たちで保護することになり、中途半端な歳の俺と死体を運んだあいつは別の孤児院を勧められた。
道を教えられてさあ行こうというところで、こいつは俺の手を引いた走り出した。自発的にこいつが動くことは珍しくてされるがままになっていたが、繋いだ手がこいつのお守りを握ってた方だと気づき振り払う。
「おい!なんのつもりだ。これを返して欲しくて、こんなことしたのか?お前は聞こえなくて不安ってわけじゃないだろ。先生がもう寺にいられないから俺とお前は新しいとこに行くんだよ」
信用ならないけど、前みたいな孤児に戻るよりマシな道だろうが。伝える為に手振り身振りで表現する俺に対抗してこいつも手振り身振りで表現してきた。全くわからず時間だけが過ぎる。俯いたこいつは地面に手をつき、土いじりを始めた。
「今度はなんだ、あぁ…」
こいつは文字が書けたんだった。聞こえなくて話せないのに、文字は何故かよく理解してて。仕方なく一言だけの俺の返事を書いてみせる。嬉しそうに緩んだ顔が憎くて足で消しておく。初めて聞いたこいつの声は全く言葉になってなかったけど、不満が全力で伝わってきた。
俺はこの先お前といきてやるんだ、何言ったって今更逃がさないからな。消された地面の上に俺の名前とずっと知りたかったことを書いて、空色の目に合わせる。
「お前の名前はなんていうんだ?」
▷探検コソコソ話。
基本的な人の呼び名について。
あいつ、あの子、こいつ、お前はほぼ転生主です。子供達は寺の子たち、最年少と一番小さな名付けの親は沙代、先生は悲鳴嶼です。
獪岳の問いに転生主は、しぶしぶ生前の名前を名乗ります。
あいつは突然俺の目の前に現れた。汚れて気づきにくいがその辺のガキが着れないような服を着ていて、俺の真似して泥水を飲んでむせていた。無性に気に食わなくて声をかけてみると、無視された。あいつは耳が聞こえず声も出せないようだった。そんなんだから、売られて逃げてこんな底辺に落ちてきたんだろうと勝手に想像した。持っていた奴が全部失ってここにいるんだと思うと、ザマアミロという清しさと少しの哀れみが湧いた。惨めな人生だって、思ってないんだろうか。チラリと見えたあいつの目は青い空をそのまま写したような…苦しみや痛みと無縁な空っぽな目つきをしていた。
優しすぎる盲目の先生に拾われ、まともな人間らしくなった頃にあいつは寺に連れてこられた。人の真似して足を引っ張るしかなさそうなあいつの世話を任される。先生に頼られるのは嬉しいけど、相手は話せなくて聞こえない奴だからあんまり乗り気になれなかった。でもあいつの頭は悪くないようで、俺と一緒に過ごしてるだけで人並みに近づいていった。耳と口のこと以外は他の子供より優れていて、悪いところを補うように使えるもの全てを利用して自分の力に変えていた。目の見えない先生も、心の目というもので俺のことをよく理解していた…あいつが特別だと少しは認めてやってもいいかもしれない。
何も聞こえないから、人の名も呼べない。あいつは自分や他人の名前に興味がないんだろう。先生と俺だけなら、あいつとかあの子とかで済んでいた。あいつは文字をかけるから、自分から名乗るまで待っていたんだ。それでも先生が新しい子供を増やして、どんどん呼ばれる名前が増えていく。事情を知っててもみんな子供で、あいつは相変わらず名前に興味を持たないままで。
ついに一番小さな子供があいつの名前を無邪気につけてしまった。クチナシ、なんて。花の名前だろうが盲目の先生が知ったらまずいだろって名前。反論を誰も言わないから、先生の前ではチナチャンなんて呼んで子供みんなで嘘ついて。俺以外の奴らみんなが頭悪そうにニコニコ笑ってた。いつまで経っても名乗らないあいつが悪い。俺が一番最初に見つけたのに、話せない聞こえないってだけで勝手に名前つけやがって。ずるがしこいだけの俺の名前とは違った、特別な名前が…ムカつくほど愛された名前があるだろ。誰も知らないその名を捨てるなら、俺が名前をつけてやったのに。
夕暮れ時。金を盗んだことが他の子供にバレた。一晩反省しろと数人に言われて部屋に閉じ込められて数時間。全員に俺のしたことが知れ渡ったのか、怒りきった全員に罵られ寺の裏から追い出された。
都合良く家族扱いして、勝手に喚いて俺のこと何も知らずに!何も知ろうとしないで勝手なことばかり!先生じゃないのに、先生のこと勝手に決めつけて!あいつのことさえ勝手に決めつけて!
日が暮れて薄暗い中で闇雲に走った先に、あいつが現れた。
澄み渡る空色の目が、不思議なくらい良く見えて。偶然出くわしただけなのに迎えに来たんだろうって甘えた顔で俺を見る。何も知らないで…違う、何も知れないんだ、こいつは聞こえないから。話せないから。こいつはいつも通り、手を繋いで俺と寺に帰ろうとする。
「俺は、寺に帰らない。あいつら、金を盗む悪い奴はいらないって。先生だってもう許さないぞって。帰りてぇなら、お前だけ帰れよ。もうあんなとこ、こっちから願い下げなんだよ。俺にはもういらないんだよ。お前は…、」
こいつに聞こえるわけないのに、いつもこいつの前では本音が溢れる。ただ俺が力を込めた分だけ、同じように握り返してくる。それが無性に気持ち悪くて脚を動かした。お前の家である寺を見れば、お前の名前を勝手に呼ぶ家族が目の前にいれば。聞こえなくたって話せなくたって、頭の悪くないお前はそっちを選ぶ。だから俺はお前もいらない。突き飛ばして振り返らずに走った。
呼吸が苦しくなってしゃがみこんだら、力が抜けて何故か動けなくなった。孤児だった頃に戻るだけなのに、力が上手く入らない。座り込んでると、またあいつが俺の元にやってきた。
まっすぐに俺を見てくるあいつから目をそらす。すると何かを置いてさっさといなくなった。俺の側に置き去りにされたのは、大事にされていそうな花柄のお守りだった。寺で毎晩焚いていた、藤の花の香と同じ匂いがした。
夜はこの辺では鬼が出るって先生は信じてたから、毎晩焚かれたこの香りはよく覚えていた。藤の花の香りを鬼は嫌うから、こうすることで自分たちが暮らす寺に入って来ないようにするんだと。
藤の花の香りのするお守りを俺に置いてって、あいつはどこに行ったんだ。今更俺を置き去りにしたのか?確かめる為に、寺の様子を見に向かう。途中で、揺らいだ空色が俺の目の前に現れた。喋り出しそうなこいつは初めて見る。しかしこいつの後ろから悲鳴が聞こえて、俺を見て揺らいでるわけじゃないと知り先を急ぐ。
寺の目前に着いた。悲鳴と何かが潰れる音、不気味な空気に鳥肌が立つ。
目の前で何が起きてるのか、一瞬よく分からなかった。横にこいつがいないと、腰を抜かしてたかもしれない。動けずにいると急に横にいた奴がすいすいと歩きだし、先生と化け物の横を通り過ぎて子供を持ち上げて寺の中へ運んでいった。
倒れて動かなくなった全員を、あいつがずるずると中に入れ終える頃には朝日が昇っていた。俺は目の前で起きていることを黙って見ていた。先生は途方に暮れていた。奥にはあいつの名付け親が呆然とあいつを見ていた。誰も何も言えなかった。多分みんな恐怖で疲れていたんだと思う。平気な顔してあいつは先生に近づき肩を叩き、先生を泣かせた。次に名付け親の子供に近づく。
「ひっ!な、なんで?みんなチナチャン、みんなをつれてったの?」
あぁ、俺も聞きたい。でもあいつにクチナシなんて名前付けたのはお前だろ。その問いが聞こえるわけないし、答えられるわけがない。泣いてしがみつかれてることしか分からないから、見よう見真似で覚えた慰めだけをする。ぼんやり突っ立ってると、涙を止めた先生が俺の前までやってきた。
「あの子はお前を捜しに、外に出ていたのだな」
「せん、せい」
「いつもお前ばかりに、背負わせてしまっていた。あの子だけは気づいていたんだな。私は、何も見えていなかった。本当に済まない。お前が、無事で良かった」
あ…おれ、先生にそんな風に謝って欲しくない。俺は、だって。
「待ってください、受け取れません。俺が、無事で良かったなんて。先生は知らないからそんなこと言えるんです。俺が、」
俺が、自分の為に寺の金を盗んであいつらを怒らせて。夜に追い出されなきゃいけないくらい悪いことで。それを何にも知らないこいつが俺を捜しにきて。だから俺が金を盗まなかったら、いつも通りこいつを迎えにいってれば。こんなことにはならなかったんじゃないか。いつも通りの日常を裏切ったのは、壊したのは俺だ。
「そう、だったのか…。でも、お前だけが悪いなんてことはない。私の悪いところ、あの子達の悪いところ、重なって壊れてしまった。子供の責は、親である私が背負う」
「いやだ、先生。先生だけ、背負わないでください」
「弱くて頼りない私が悪かったんだ。どうか、それだけでも背負わせてくれ。しかしお前が責任を感じて苦しむのなら、人のお金や物を盗まないと約束をしてくれるか」
先生の優しさが苦しくて苦しくて堪らない。ちゃんと頷けただろうか。久しぶりに撫でられた感触がする。いつの間にか、あいつと名付け親と知らない大人達が周りにいた。
先生は大人達にこの寺で起きたことを説明したが、鬼のことになると全く信じてもらえなかった。子供である俺や名付け親にも事情を聞かれ、鬼のことをきちんと伝えたが結果は同じで。先生は事情を詳しく説明する為に連れて行かれることになった。寺に大人がいなくなる為、最年少の育ての親は大人たちで保護することになり、中途半端な歳の俺と死体を運んだあいつは別の孤児院を勧められた。
道を教えられてさあ行こうというところで、こいつは俺の手を引いた走り出した。自発的にこいつが動くことは珍しくてされるがままになっていたが、繋いだ手がこいつのお守りを握ってた方だと気づき振り払う。
「おい!なんのつもりだ。これを返して欲しくて、こんなことしたのか?お前は聞こえなくて不安ってわけじゃないだろ。先生がもう寺にいられないから俺とお前は新しいとこに行くんだよ」
信用ならないけど、前みたいな孤児に戻るよりマシな道だろうが。伝える為に手振り身振りで表現する俺に対抗してこいつも手振り身振りで表現してきた。全くわからず時間だけが過ぎる。俯いたこいつは地面に手をつき、土いじりを始めた。
「今度はなんだ、あぁ…」
こいつは文字が書けたんだった。聞こえなくて話せないのに、文字は何故かよく理解してて。仕方なく一言だけの俺の返事を書いてみせる。嬉しそうに緩んだ顔が憎くて足で消しておく。初めて聞いたこいつの声は全く言葉になってなかったけど、不満が全力で伝わってきた。
俺はこの先お前といきてやるんだ、何言ったって今更逃がさないからな。消された地面の上に俺の名前とずっと知りたかったことを書いて、空色の目に合わせる。
「お前の名前はなんていうんだ?」
▷探検コソコソ話。
基本的な人の呼び名について。
あいつ、あの子、こいつ、お前はほぼ転生主です。子供達は寺の子たち、最年少と一番小さな名付けの親は沙代、先生は悲鳴嶼です。
獪岳の問いに転生主は、しぶしぶ生前の名前を名乗ります。