短編連載
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▷無音地獄の探検
自分の不注意でトラックに轢かれそうになって真っ暗になったかと思えばここにいた。私は無音の地獄に落ちたらしい。異様に静かで、暗闇の中に見える景色が少し古くて、腐臭のする鬼らしき化け物が人の姿をしたモノを遊びながら食っているからだ。無神論者だが、ここを地獄と呼ばずになんと呼べばいいんだ。無害で無実そうな人がこんなにズタズタにされて良いわけがない。きっとあれは人じゃない、地獄の亡者だ。鬼らしき化け物は地獄の鬼だ、絶対に人とは違う価値観を持った別の存在だ。
地獄の鬼は一通り暴れて満足したのか、日が出る前に私を放置して何処かへ行ってしまった。食い散らかされて新鮮な亡者は道の真ん中にいたので、通行の邪魔にならないように横に寄せる。そして彼らが道端で起きてからも恥ずかしくないように、自分が羽織っていた着物を目立つ傷の上に乗せておいた。とりあえず行くあてがないので朝日で明るくなった地獄の探検を始めた。
この地獄には月や太陽があるんだなぁ。
▷探検コソコソ話
新鮮な亡者は転生主の家族です。転生主は親に庇われ隠され、藤の花のお守りを渡されてたので無事でした。元の転生主の記憶と人格は親が食われた様子を見た衝撃で消えました。代わりに深層意識っぽいところにあったトラックが存在する時代の記憶と人格が表に出てきました。
この地獄には疲れや空腹、痛みがあるようだ。どれくらい歩いただろうか。足が痛いし空腹で身体がとても軽く感じる。賑やかそうな街っぽい場所についた。自然災害や戦争で街ごと地獄に落ちたのかなぁとぼんやり歩く。悪いことを一つもしてない善良人間なんて絶対に存在しないだろうし。皆平等に地獄に落ちてるようだが、この貧富の差は生前の罪の量によるものなんだろうか。
亡者の街にも生前の規則は適用されるらしく、盗みをする者は子供の姿をしてても容赦無い。通貨も規則も何も持てないものにはどこの世でも厳しいと思った。
現在進行形で感じてる空腹の痛みも罰の一つなんだろうと思うのでとくに何も思わなかった。私が犯した罰で一番心当たりがあるのはクラクションを鳴らした善良な運転手を加害者にしてしまった事くらいだが。
とにかく今は空腹をどうにかしないとそろそろ動けなくなりそうだ。手持ちのものは花柄の守りくらいで、金銭になりそうなものはない。道端で泥水を啜っている少年亡者を見習って泥水デビューしようか。
▷探検コソコソ話
転生主は普通の人と比べて夜目が効き、臭い探知ができ、消化器官が強くて、強弱の気配が分かります。人を落ち着かせる声色をしていて、稀血です。しかし全て、登場人物と比べると弱いです。その上自分が亡者でここが地獄だから、という価値観で何一つ生かせません。音は一切聞こえません。
泥水から始まり、虫や雑草を食い歩きした地獄のサバイバル生活数日目。
涙を流す青年の亡者に出会った。何を言ってるか全く分からないが、手を繋がれたら着いていくしかないだろう。そこでご飯や寝床を与えられたら、定住するしかないだろう。ホームレス生活を生前の罰だと受け入れていても、正直疲れた。そろそろ優しさに流されたっていいだろ、なんて開き直ってしまった。青年の家には、この前見かけた泥水飲んでた先輩が以前より綺麗な格好で現れた。連れてこられた無言の私を怪訝な顔で見てきたが、青年の言うことに従ったのか何もしてこなかった。
衣食住与えられて何もせずにここに居続けるわけにはいかない。私の怠慢への罰で、もしも鬼がきたら恩人を困らせることになる。床磨き庭掃除、日が暮れても山をかき分け食える雑草を持ち帰り。分からないなりに自分なりの恩返しを勝手にする。帰りの遅い私を迎えに来てくれた顰めっ面の先輩に、いろんなものを横取りされ…先輩は困らせてる気がするが、恩人の青年は困った顔を一度もみせなかった。青年も先輩も、私の奇行を見ていても追い出したりはしなかった。心配になる懐の広さだった。
一人、また一人とこの家には子供の亡者が増えていった。青年は寂しがり屋なのだろうか。生活がどんどん苦しくなっていくのに、涙を多少流すだけで全然困った顔を見せない。先輩は顰めっ面が多くなった。音を聞きとれない私は、そこに居るだけで自覚の有無関係なく人の足を引っ張る。増えて群れて、構って来ようとする子供からなるべく距離を置いた。全く自慢にならないが、私は人を楽しませることができない自信だけはあるんだ。
それから相変わらず、いつも通り日が暮れる頃まで山で食える雑草をむしっていた。私以外の子供は日が暮れたら外には出てこない。でも、先輩は時々帰るのが遅い私を迎えにきてくれる。この日も先輩が私を迎えに…夜といった方が正しい頃にやってきた。いつもより複雑そうな顔をして、それでも私の手を離さないように痛いくらい強く握って引っ張ってくれた。
でもその手は家に着いた途端離し、先輩は逃げるように山の方へ消えてしまった。青年が迎えてくれたが、先輩がどっかいってしまったのでお辞儀を一つして彼を追いかけることにした。
▷探検コソコソ話。
先輩の獪岳は見かけた時だけ転生主の手助けをしていて、青年の悲鳴嶼に撫でられる機会が増えました。追い出された先の道に転生主が偶然いなかったら連れて帰るために寺へは引き返しませんでしたが、その行動が鬼との遭遇回避に繋がりました。
地獄の夜は案外明るいようで、先輩はすぐに見つかった。ふて腐れた顔で私の存在を無視していた。ふと、腐った臭いと家に漂っていた藤の花のお香の匂いが風に運ばれやってきた。なんだか嫌な気配がする。先輩は性別も違うし私より少し大きいから動かすのは難しい。仕方ないので持ち歩いていたお守りを私の代わりとして先輩の側において、臭いの元へ向かう。
遠目でも分かるくらいすごいことになっていた。
なんと、青年が鬼と戦っていたのだ。意外と力が拮抗していることに感動していたが、鬼と青年の騒ぎを知った子供が家から湧いてきて状況が悪化した。子供達は刃物や武器らしきものを持っていたが、彼らに気がついた鬼は青年を飛び越えてあっさり八つ裂きにしていく。地獄の鬼に攻撃しようなんて思うから痛い目に遭うんだ。私は痛い目見たくないのでそっとその場を離れ、置き去りにしていた先輩の方の確認へ戻る。するとお守りを握りしめてこちらへ歩いている先輩と合流した。返して欲しくて先輩の手を握るが、勘違いしたのか青年と鬼のいる方へ引きずられた。
悲惨な現場に戻ると、青年が鬼に勝っていて、子供は最年少の子供を一人を残してみんな倒れていた。よく見るとその子だけは武器らしきものを持っていなかった。無力だとみなされて運良く放って置かれたのかな。横にいる先輩は私のお守りを返してくれないが動くこともしなかったので、私は倒れたみんなのところに行くことにした。
この家で過ごした恩を返すため、青年とみんなに追い出されないように少しでも役立つことをしたい。亡者だろうと子供なんだし外で寝てたらきっと風邪をひいてしまうだろう。服だって多少引き裂かれて寒そうだし毛布を被せて温かくしとこう。私は、子供達を家の布団で眠らせようとがんばった。全部で7人いて重労働だったが、意識を失ってるから部屋まで運ぶのは楽な方だった。
そうこうしてるうちに朝が来たようだ。不思議なことに青年がボコボコにしていた鬼が灰になり消えて、先輩はずっと何もしないでそこにいてくれていたようだ。
いつも帰りの遅い私を、青年が泣かずに見つめているのは珍しい。血も流してるし疲れたんだろうな。労わるように体に触って自己主張すると、青年はようやく涙を流した。
▷探検コソコソ話。
転生主は自分を含めた亡者のことをどれだけ大怪我をしてもまた目を覚ますだろうと思っています。ここは地獄なんだから何度も痛い思いしないと生きていた頃の罪は消えないはずだと信じています。これ以上自分の罪が増えないように人に優しくを本人なりに心がけています。
大人の亡者が珍しく早朝にやってきた。家の様子を一通り見て蒼褪めてると、青年をどこかへ連れ去ってしまった。やはり鬼を殺すのは地獄的にはあんまり良くないことだったんだろう。最年少の子供も同じように連れてかれるのを見て、このままではまずいと思って先輩を引っ張って逃げた。鬼殺しに関わって亡者が無事に解放されるとは思わない。痛い目見る前に、それ以上に私のお守りを返してもらいたいからという理由での逃亡だ。奴らに捕まりたくないから、あの家にはもう戻れない。
途中で思い詰めた顔をした先輩に突き飛ばされ、ついでに望んでいたお守りをぶつけられる。太い眉毛と強く寄せて私に身振り手振りで何かを伝えようとしていた。仕方ないので先輩の真似をして身振り手振りでこれからどうするかを伝えてみる。頭を抱えられ首を振られ、結局全然伝わってないことしかわからなかった。
地面に視線を落として、ハッと気づく。言葉が話せず聞こえないなら、文字を書けば伝わるのでは?今更だが、いつまでもコミュケーションを諦めてはダメだ。しゃがみこんで指で土に文字を書き出した。伝えたいことを端的に…。先輩は怪訝に見下ろしていたが、私の書いた文字を読んでくれたらしい。一番下に「わかった」と書いてくれた。見上げた瞬間に頭をぐしゃりと乱暴に乱されて、文字のほとんどが一瞬で先輩の足に消された。文句を言いたくて、聞こえぬ自分では確かめようがない声を出してみる。
死んでから初めて出してみた声は当然うまく音にはならなかったようで、先輩は舌をベェと出して笑いだした。
▷探検コソコソ話。
この獪岳は泥水時代からの顔見知りで、悲鳴嶼の次に長い期間関わった転生主に絆されました。獪岳と悲鳴嶼と沙代のいざこざは転生主の奇行で原作より落ち着きを取り戻した為、穏やかな別れ方をしています。寺の子供たちは勇敢でした。
自分の不注意でトラックに轢かれそうになって真っ暗になったかと思えばここにいた。私は無音の地獄に落ちたらしい。異様に静かで、暗闇の中に見える景色が少し古くて、腐臭のする鬼らしき化け物が人の姿をしたモノを遊びながら食っているからだ。無神論者だが、ここを地獄と呼ばずになんと呼べばいいんだ。無害で無実そうな人がこんなにズタズタにされて良いわけがない。きっとあれは人じゃない、地獄の亡者だ。鬼らしき化け物は地獄の鬼だ、絶対に人とは違う価値観を持った別の存在だ。
地獄の鬼は一通り暴れて満足したのか、日が出る前に私を放置して何処かへ行ってしまった。食い散らかされて新鮮な亡者は道の真ん中にいたので、通行の邪魔にならないように横に寄せる。そして彼らが道端で起きてからも恥ずかしくないように、自分が羽織っていた着物を目立つ傷の上に乗せておいた。とりあえず行くあてがないので朝日で明るくなった地獄の探検を始めた。
この地獄には月や太陽があるんだなぁ。
▷探検コソコソ話
新鮮な亡者は転生主の家族です。転生主は親に庇われ隠され、藤の花のお守りを渡されてたので無事でした。元の転生主の記憶と人格は親が食われた様子を見た衝撃で消えました。代わりに深層意識っぽいところにあったトラックが存在する時代の記憶と人格が表に出てきました。
この地獄には疲れや空腹、痛みがあるようだ。どれくらい歩いただろうか。足が痛いし空腹で身体がとても軽く感じる。賑やかそうな街っぽい場所についた。自然災害や戦争で街ごと地獄に落ちたのかなぁとぼんやり歩く。悪いことを一つもしてない善良人間なんて絶対に存在しないだろうし。皆平等に地獄に落ちてるようだが、この貧富の差は生前の罪の量によるものなんだろうか。
亡者の街にも生前の規則は適用されるらしく、盗みをする者は子供の姿をしてても容赦無い。通貨も規則も何も持てないものにはどこの世でも厳しいと思った。
現在進行形で感じてる空腹の痛みも罰の一つなんだろうと思うのでとくに何も思わなかった。私が犯した罰で一番心当たりがあるのはクラクションを鳴らした善良な運転手を加害者にしてしまった事くらいだが。
とにかく今は空腹をどうにかしないとそろそろ動けなくなりそうだ。手持ちのものは花柄の守りくらいで、金銭になりそうなものはない。道端で泥水を啜っている少年亡者を見習って泥水デビューしようか。
▷探検コソコソ話
転生主は普通の人と比べて夜目が効き、臭い探知ができ、消化器官が強くて、強弱の気配が分かります。人を落ち着かせる声色をしていて、稀血です。しかし全て、登場人物と比べると弱いです。その上自分が亡者でここが地獄だから、という価値観で何一つ生かせません。音は一切聞こえません。
泥水から始まり、虫や雑草を食い歩きした地獄のサバイバル生活数日目。
涙を流す青年の亡者に出会った。何を言ってるか全く分からないが、手を繋がれたら着いていくしかないだろう。そこでご飯や寝床を与えられたら、定住するしかないだろう。ホームレス生活を生前の罰だと受け入れていても、正直疲れた。そろそろ優しさに流されたっていいだろ、なんて開き直ってしまった。青年の家には、この前見かけた泥水飲んでた先輩が以前より綺麗な格好で現れた。連れてこられた無言の私を怪訝な顔で見てきたが、青年の言うことに従ったのか何もしてこなかった。
衣食住与えられて何もせずにここに居続けるわけにはいかない。私の怠慢への罰で、もしも鬼がきたら恩人を困らせることになる。床磨き庭掃除、日が暮れても山をかき分け食える雑草を持ち帰り。分からないなりに自分なりの恩返しを勝手にする。帰りの遅い私を迎えに来てくれた顰めっ面の先輩に、いろんなものを横取りされ…先輩は困らせてる気がするが、恩人の青年は困った顔を一度もみせなかった。青年も先輩も、私の奇行を見ていても追い出したりはしなかった。心配になる懐の広さだった。
一人、また一人とこの家には子供の亡者が増えていった。青年は寂しがり屋なのだろうか。生活がどんどん苦しくなっていくのに、涙を多少流すだけで全然困った顔を見せない。先輩は顰めっ面が多くなった。音を聞きとれない私は、そこに居るだけで自覚の有無関係なく人の足を引っ張る。増えて群れて、構って来ようとする子供からなるべく距離を置いた。全く自慢にならないが、私は人を楽しませることができない自信だけはあるんだ。
それから相変わらず、いつも通り日が暮れる頃まで山で食える雑草をむしっていた。私以外の子供は日が暮れたら外には出てこない。でも、先輩は時々帰るのが遅い私を迎えにきてくれる。この日も先輩が私を迎えに…夜といった方が正しい頃にやってきた。いつもより複雑そうな顔をして、それでも私の手を離さないように痛いくらい強く握って引っ張ってくれた。
でもその手は家に着いた途端離し、先輩は逃げるように山の方へ消えてしまった。青年が迎えてくれたが、先輩がどっかいってしまったのでお辞儀を一つして彼を追いかけることにした。
▷探検コソコソ話。
先輩の獪岳は見かけた時だけ転生主の手助けをしていて、青年の悲鳴嶼に撫でられる機会が増えました。追い出された先の道に転生主が偶然いなかったら連れて帰るために寺へは引き返しませんでしたが、その行動が鬼との遭遇回避に繋がりました。
地獄の夜は案外明るいようで、先輩はすぐに見つかった。ふて腐れた顔で私の存在を無視していた。ふと、腐った臭いと家に漂っていた藤の花のお香の匂いが風に運ばれやってきた。なんだか嫌な気配がする。先輩は性別も違うし私より少し大きいから動かすのは難しい。仕方ないので持ち歩いていたお守りを私の代わりとして先輩の側において、臭いの元へ向かう。
遠目でも分かるくらいすごいことになっていた。
なんと、青年が鬼と戦っていたのだ。意外と力が拮抗していることに感動していたが、鬼と青年の騒ぎを知った子供が家から湧いてきて状況が悪化した。子供達は刃物や武器らしきものを持っていたが、彼らに気がついた鬼は青年を飛び越えてあっさり八つ裂きにしていく。地獄の鬼に攻撃しようなんて思うから痛い目に遭うんだ。私は痛い目見たくないのでそっとその場を離れ、置き去りにしていた先輩の方の確認へ戻る。するとお守りを握りしめてこちらへ歩いている先輩と合流した。返して欲しくて先輩の手を握るが、勘違いしたのか青年と鬼のいる方へ引きずられた。
悲惨な現場に戻ると、青年が鬼に勝っていて、子供は最年少の子供を一人を残してみんな倒れていた。よく見るとその子だけは武器らしきものを持っていなかった。無力だとみなされて運良く放って置かれたのかな。横にいる先輩は私のお守りを返してくれないが動くこともしなかったので、私は倒れたみんなのところに行くことにした。
この家で過ごした恩を返すため、青年とみんなに追い出されないように少しでも役立つことをしたい。亡者だろうと子供なんだし外で寝てたらきっと風邪をひいてしまうだろう。服だって多少引き裂かれて寒そうだし毛布を被せて温かくしとこう。私は、子供達を家の布団で眠らせようとがんばった。全部で7人いて重労働だったが、意識を失ってるから部屋まで運ぶのは楽な方だった。
そうこうしてるうちに朝が来たようだ。不思議なことに青年がボコボコにしていた鬼が灰になり消えて、先輩はずっと何もしないでそこにいてくれていたようだ。
いつも帰りの遅い私を、青年が泣かずに見つめているのは珍しい。血も流してるし疲れたんだろうな。労わるように体に触って自己主張すると、青年はようやく涙を流した。
▷探検コソコソ話。
転生主は自分を含めた亡者のことをどれだけ大怪我をしてもまた目を覚ますだろうと思っています。ここは地獄なんだから何度も痛い思いしないと生きていた頃の罪は消えないはずだと信じています。これ以上自分の罪が増えないように人に優しくを本人なりに心がけています。
大人の亡者が珍しく早朝にやってきた。家の様子を一通り見て蒼褪めてると、青年をどこかへ連れ去ってしまった。やはり鬼を殺すのは地獄的にはあんまり良くないことだったんだろう。最年少の子供も同じように連れてかれるのを見て、このままではまずいと思って先輩を引っ張って逃げた。鬼殺しに関わって亡者が無事に解放されるとは思わない。痛い目見る前に、それ以上に私のお守りを返してもらいたいからという理由での逃亡だ。奴らに捕まりたくないから、あの家にはもう戻れない。
途中で思い詰めた顔をした先輩に突き飛ばされ、ついでに望んでいたお守りをぶつけられる。太い眉毛と強く寄せて私に身振り手振りで何かを伝えようとしていた。仕方ないので先輩の真似をして身振り手振りでこれからどうするかを伝えてみる。頭を抱えられ首を振られ、結局全然伝わってないことしかわからなかった。
地面に視線を落として、ハッと気づく。言葉が話せず聞こえないなら、文字を書けば伝わるのでは?今更だが、いつまでもコミュケーションを諦めてはダメだ。しゃがみこんで指で土に文字を書き出した。伝えたいことを端的に…。先輩は怪訝に見下ろしていたが、私の書いた文字を読んでくれたらしい。一番下に「わかった」と書いてくれた。見上げた瞬間に頭をぐしゃりと乱暴に乱されて、文字のほとんどが一瞬で先輩の足に消された。文句を言いたくて、聞こえぬ自分では確かめようがない声を出してみる。
死んでから初めて出してみた声は当然うまく音にはならなかったようで、先輩は舌をベェと出して笑いだした。
▷探検コソコソ話。
この獪岳は泥水時代からの顔見知りで、悲鳴嶼の次に長い期間関わった転生主に絆されました。獪岳と悲鳴嶼と沙代のいざこざは転生主の奇行で原作より落ち着きを取り戻した為、穏やかな別れ方をしています。寺の子供たちは勇敢でした。
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