成り代わり主の死に方
成り代わり夢主の元の名前
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不注意で俺は転んだんだろう。顔面から地面にぶつかり頭全体が痛い。普段ならこんな無様に転ばず受け身をちゃんと取れた筈なのに、何故だ?
「か、獪岳ぅ!?…すごい音したけど、大丈夫?」
聞き覚えのある情けない声がさらに情けなく聞こえる。振り返ると出会った頃の貧相な黒髪の善逸がいた。どうやら今は最悪な出来事が起きる気配のない比較的に穏やかだった時だった。痛む頭で突然降って湧いて来た複数の記憶を確認する。
あの記憶は今までの俺がしてきたことだ。生きる為に逃げて、生かすために戦って、死ぬために願って、何もできないまま死んだ。細々とはもう思い出せないが記憶にこびりついた恐怖と遣る瀬無さでドロドロに煮詰まった重い感情を受け止め切れず今の俺が潰れそうになる。涙腺がぶっ壊れたように止まらないし呼吸もままならない。結局今はいつだ?ここはどこだ?わからない、気持ち悪い、なんで俺がこんな目に合わなきゃいけない!?
不意に揺すられ、少しの重さと鬱陶しい温もりに気がつく。俺を呼んでる。あぁ、そういえば今は出会った頃の黒髪の善逸がいたんだった。確か今日爺さんに連れて来られたんだったか。記憶が戻る前にしていたことがうまく思い出せない。今世でのタイミングの悪さってのは記憶の混濁か?善逸の目の前でみっともなく泣き面を晒すことか?どちらかといえば後者な気がするが、今までの出来事と比較すると生死が関係ない生温い場面だな。まぁ、悪くないのか。安堵してもいいのか。
泣き止まない俺を見かねて善逸が爺さんを呼んだらしい。情けない奴だと叱られると思ったのに真剣な顔をされた。前前世に見た怒った爺さんの顔が記憶にこびりついていて、俺に真剣に向き合う爺さんをみると不思議な気分になる。
善逸は前前前世にも見た相変わらずの阿呆面だ。俺はどんな顔すればいいんだ。
「先生、これは眼にゴミが入って涙が止まらなかっただけです。お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「え!嘘でしょ他にも何かあったよね?すごい音したのに、それだけなんて変だよ」
「うむ…まだ止まらんようじゃし、獪岳よ。視覚になにかあれば剣士としての道は険しくなるぞ。今日のところは大事をとって休みなさい」
なんだこれは。
大変だった記憶が濃くて、急に労られるとどうすればいいのかわからなくなる。身体がむず痒いというかぞわぞわするというか何か恐ろしいような、気がする。爺さんの意向を否定したくないので大人しく家で休む事にしたが、着く頃には涙は止まっていたので擦りむいた顔面を治療しておく。
俺はこれからどうしようか。今爺さんのとこに俺がいるからあの悲劇は終わったあとだ。鬼殺隊に入れば間違いなくあの男に殺される。ここに来てから今まで面倒見てくれた爺さんに悪いけど鬼殺隊になることはやめよう。俺は鬼がいると知った日から、鬼を倒せる力が欲しかった。でも俺程度がどれだけ努力しても勝てない鬼がいて、俺が鬼になっても勝てない奴がいる。そんな負け続けるだけの力はもう嫌だ。
普通の漫画とかならもっと強くなろうって頑張ろうとするんだろうけど、先々であんなに打ちのめされることがわかってるのに俺には無理だ。そんな何の役にも立たないことに人生をかけたくない。
そもそもの前世で俺は獪岳じゃなかったんだ。その頃のようにひっそり生きよう。そうと決まればここをでたら何の仕事をしようか。俺の人生に役立つことがしたいな。前世の記憶に区切りがつき、居ても立っても居られなくなった俺は家の掃除をすることにした。
外は晴れ晴れとしていて、雷のような悲鳴と怒声がなりひびいていた。