成り代わり主の死に方
成り代わり夢主の元の名前
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柱に就任した数年間で、明確に思い出した記憶を頼りに粂野の死亡フラグを破壊して胡蝶の死亡フラグも破壊して安定した鬼殺ライフを過ごしていた。兄弟子の善逸を継子に迎えて数週間経つ頃、鬼喰いをしていたモヒカンの奴を成り行きで拾った。そういえばこいつは悲鳴嶼さんの弟子だったな。悲鳴嶼さんが鬼殺隊にいる今、こいつに俺が介入する必要があるのか…悩んだが胡蝶を紹介するくらいはしよう。記憶じゃ俺は途中で死んでたし、鬼喰いの末路はよく覚えていない…。あとは自力で悲鳴嶼さんに弟子入りしてくれれば、死なない程度の力を身につけることはできるだろう。
そういう行動を取っていたのにモヒカンの奴は悲鳴嶼さんに会いに行こうとせず度々俺に付き纏ってきた。まさか…悲鳴嶼さんの代わりのように俺が柱になってたからか?もうじき悲鳴嶼さんだって柱になれるのに…仕方なしに稽古をつけることにした。多少に厳しめに扱っても善逸より根性があって好感が持てたが最終的に悲鳴嶼さんに引き渡した。やっぱり人の指導は俺より人間性ができてる悲鳴嶼さんが相応しい。
柱合会議に竈門兄妹が連れてこられて来た。鬼の妹の裁判に、俺が裁く側として参加する羽目になるなんて全く想定してなかった。意見を聞かれても、人を喰わない鬼は今後必ず無惨に対抗する手段として利用できるから生かすべきだと素直に主張した。それから耳飾りの奴が余計な怪我をしないように上手く抑え込む。前世から傍観していた通りに風柱によって鬼の妹は乱暴に試されていたが、無事 他の鬼とは違うことを証明してみせた。散々フラグを破壊して来たがこんな風に記憶通りのことが起きると俺の知識に確証が持てて安心できる。これからも耳飾りの奴を苦労させることになるが、痣持ちのお前が頑張らないと色々問題が起きるんだ。前世より犠牲者を増やさないよう、俺も尽力を尽くすから…いや、直接言葉にして伝えよう。前世の記憶のおかげでだいぶ順調に鬼を倒せているが、俺一人だけでこれからもどうにかできるわけがない。俺の知る知識も事情も、もしもの未来を知っておいて損は無いはずだ。その未来よりも確実に強くなって貰う為にも。
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夢を見た。現実と区別がつかないほど鮮やかに、あの鬼の恐怖を、悲鳴嶼さんに殺されたことを思い出した。
その日から眠るのが怖くなった。藤の花のお香、寺の家族、悲鳴嶼さん、玄弥、今の俺の周りに存在するものを一つずつ確認して言い聞かせる。今は前世じゃない、一切の面影すらない、俺は大丈夫だ。次の任務は善逸を休ませているから、俺一人だけだ。恐怖のこびりついた記憶が俺の足を竦ませる。玄弥にはもう悲鳴嶼さんがいるから心配ない。俺が居なくなってからも今後問題がないように遺書は準備できている。俺は大丈夫だ、知識は出し切っている、生きることに執着する必要はもうない。
夢を見た。これが俺の過去だと俺の罪だと自覚するしかない、人を喰う感触と、日に焼かれる痛みを思い出した。
今まで思い出してきたものは都合の良い記憶だったんだと絶望する。遡った先にあった記憶は今の俺には毒でしかなかった。今までの俺は、記憶を思い出してからどうやって正気を保っていたんだ?今世は前世と違うと分かってるのに、腹の中を空にしてもまだ吐き気が止まらない。食事を摂らないと身体が弱ってこちらの方がやられてしまう。食事を摂らないと、俺は鬼じゃない、だから大丈夫だ。雷の呼吸の為、俺を認めてくれた爺さんの為に。鬼殺隊最強の悲鳴嶼さんを失わない為に。もう鬼じゃないけど、俺は一人じゃない。仲間がいるから大丈夫だ。
寺の家族が俺の睡眠不足と体調不良を悲鳴嶼さんに告げ口をした。盲目で何も見えなくても、悲鳴嶼さんは一目見ただけで俺の不調を理解していた。体調管理を怠っていたことを叱られると思っていたのに、私は頼りないかと泣かれた。余計な心配を掛けさせたくなかったんだと告げると、それが余計だとあーだこーだ募られ仕方なく連続で夢見が悪いと白状した。すると誰かが魔除けが必要だとか返した勾玉はどうしたとか…今日から身につけてみろという話になり、解散となった。数年ぶりの勾玉は箱の中に閉まった時の状態のまま、罅割れ一つなく黄色に輝いていた。青い紐を通し、鏡を見ながら首に巻き付ける。
鏡の中には、やつれてはいるが見たことない柔らかな表情をした獪岳がいた。
任務中、不注意で鬼の血鬼術を受けてしまった。使用していた鬼は既に倒しているし受けた自分は特に外傷はなく、些細なことだと切り捨てて帰路につく。
ふと、目に留まる人影があり俺は気になって立ち止まる。大正時代とはかけ離れた見覚えのある服装をした男で、真っ直ぐにこちらに向かって来て、俺にぶつかってきた。避けられないことはなかったのに、不思議と目が離せず身体が動かなかった。
「俺は誰かの代わりなんて御免だ」
痛みに慣れていて理解が遅くなった。呼吸が上手くできず、雷が走った刀身が俺の体から引き抜かれるのをぼんやり眺めていた。血が程々に流れる。こいつ、通り魔か?
「俺の幸福も人生も、誰にも奪わせない。俺だけのものだ」
相手の存在を漸く確認した。焦燥した顔つきではあるが、見間違えるわけがない。だってコイツはこの世界をフィクションとして眺めていた頃の自分の顔だったから。
「本当の望みが叶えば元に戻るとアレが言っていた。もう誰も彼も、俺自身もまともに信用できないが、これ以上は耐えられない。
テメェは俺に人生を捧げることを願っていたんだろ」
コイツの言っていることの意味が理解できず、全く別のことを考えてしまう。この任務には善逸と一緒に来ていたんだ。今は鬼に吹き飛ばされてこの場にいないけれど、あいつは耳がいいから俺の異変を聞きつけて…五月蠅く騒ぐだろうなぁ。余所見をしている俺に、相手はお構い無しに掴みかかる。
「おい!独りで死に行く俺を観て願ったんだろ!?哀れみ、見下し、嘲笑って叶うことはないと…俺のことを初めから見限って」
違うと否定したいのに声が出ず相手からの言葉をぼんやり受け入れていた。反応の薄い俺に冷静さを取り戻したのか、相手は深呼吸して刀を自分の頸に、あれ、だって相手は自分で、あれあれあれ?
「地獄だろうが何だろうが、繰り返されるなら終わりじゃない。まだ、大丈夫だ。まだ生きてる。負けじゃない。いつか俺は勝てる。だから、俺は…違う、俺が」
獪岳だ。口の動きから続きそうな言葉を想像する。言い切る前に自分は派手に血を飛び散らせて頸を斬った。自分の手からこぼれ落ちる刀を咄嗟に受け取る。どくどくと流れ続ける血を、俺は止める術を知らない。だって自分は呼吸なんて知らないから。しかし呼吸が本格的に苦しくなってきた。そういえば俺刺されてたな。獪岳を自称していた自分が言っていたことを思い出す。本当の望みが叶うと元に戻ると。アレとは何だ?全く心当たりが無いが、俺の望みは獪岳に人生を捧げるという信者めいた願いらしくて今、俺の目の前で自分がここで死んでしまおうとしてる…俺は元々この死んでしまおうとしている人間だった。
あぁ!捧げるってそういうことか?!
俺の本当の願いが、獪岳と心中することだった可能性に漸く気がついた。そうならそうとちゃんと説明して欲しかったけど、すごい感情的になってたし空気を察して感じなきゃ駄目な場面だったな。だって獪岳は生きることに執着してたし。元に戻す為だとしても、俺の願いに巻き込んで望まぬ自害をさせて、何度謝れば何を願えば救われるんだろう。許されちゃいけないことを許されたがる自分の底抜けた屑さが笑える。
突然現れた不審者の意見を鵜呑みにしている疑問は罪悪感や責任感で上書きされて、頭がおかしくなったのか。
手にとっていた刀を頸に当て、俺は躊躇いなく引いた
筈だった。
頸が痛むと思っていたのに落雷のような衝撃を受けて身体中の痛みに気がつく。腰の辺りに五月蝿い金髪が見えた。どうやら俺のところに善逸が飛び込んで軽く吹っ飛んだらしい。周りにいなかったのにどうしてこいつがここにいる?訳がわからん。
「訳わからんって音と表情で二重で主張してるけど、こっちが訳わからんよ!?戻ってきたらアンタからヤバイ音聞こえてきて超急いで駆けつけたんだからな!!アンタさっき何しようとしてたの!?頸に刀を当てて、何しようとしてたんだよ…!」
本当にどうしたんだってくらい距離が近いし五月蝿い。嘘過ぎとか嫌だとか喚いて善逸が胸の怪我を俺の上から慌てて止血しようとしている。それより、獪岳だ。早く獪岳のところにいかないと。独りで死なせない、死なせるもんか。これが獪岳の人生を奪ってしまった俺の役割なんだ、果たさないと。獪岳に全てを返して、獪岳の望みを叶えたいんだ。もうそれ以外、俺の人生に意味なんて無い。空っぽのまま、無駄に消費していくだけだろう。
手元に俺が、獪岳が持っていた刀あった。
「兄貴、返事してよ!」
兄貴なんて呼び名にぷつりときた。反射的に気持ち悪い、耳障りだと、自分に向けるつもりだった刀を善逸に向けていた。掠った程度で絶望した表情を見せつけてくる。あぁ、イラつく。
「俺は兄貴でも獪岳でも無い。誰でも無い…お前と何の繋がりも無い赤の他人だ。本当の獪岳は、あそこで死んでる。俺は今まで名前が無かったから、勝手にアイツの存在も生き方も奪ってずっとお前らを騙してきた。だから今こうして死にかけてるんだ。兄貴なんて馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇ」
「…っでも、今ここにいるアンタは俺の兄貴だよ!今のアンタが、誰でもないわけ無い! アンタは爺ちゃんや他の柱から認められた鳴柱で、俺の大切な弟弟子で兄貴だろ!」
止めろ黙れ認めない!そんな風に真っ直ぐ俺個人を見るな!善逸の口から、獪岳じゃない人間を兄貴と呼ぶなんて聞きたくない!あぁ失敗した!善逸の話し相手になることがどれだけ時間の無駄なのか、なんで俺は忘れていたんだ!善逸の言葉はいつも俺を不快にさせる。善逸の存在や行動がいつも俺を苦しめる。
「兄貴、死なないで。呼吸で止血をして、諦めるなよぉ…」
でも、俺に泣き付く善逸に苛立ちを通り越して呆れがやって来た。泣きついて何になる。こんな時でも関係なしに普段通り汚く泣きやがって。どこまでもふざけた奴だ。
クールダウンしさっきまでの自分の思考に違和感を覚え、思考整理する。
こいつのいう通り…今世の善逸は俺の兄弟子であり継子だ。1ヶ月しか同門でもないのに、爺さんが認めてるから、自分の使えない雷の型を使うからとあれこれ理由をつけて兄貴と呼んでいた。俺はそれを許していて、一緒にいて不快に思うことがあっても楽しく思うことだってあった。今世での俺の記憶が善逸の言葉を起点に鮮明になっていく。前世の知識を利用して違う選択をし続けて、決意をして色んなことを乗り越えてこの世界で生きていたんだ。なのに、俺は何故自分の人生が空っぽだと思い込んでたんだ?なんで、こんなに俺の思考は飛んでいた?更に考えようにも密着して愚図る善逸に意識が向いて集中できない。本当にコイツは。
「みっともなくびぃびぃと。泣くよりやることあるだろ、ぜんいつ」
「だって、だって音が。兄貴のこと、全然俺にわかんないよ。いくら俺を嫌ってもいいから死ぬなよ。頼むよぉ…」
「生きて欲しいならここでグズグズしてんなっていってんだよ…!肩かせ、蝶屋敷いくぞ。音より俺の声をきけよ。お前は、俺のおとうとなんだろ」
ほんとに、どこまでも。間抜けな不注意で死にそうになってる俺に対して、何故ここまで泣けるのか。俺の声で慌てて俺を抱えて立ち上がろうとする。カチリと手元から音がしてそちらに思考が向く。そうだ、自分の姿をした獪岳を見た時から突飛な方に思考が向かっていたんだった。周囲を見渡すと獪岳の死体が見当たらない。そりゃそうか、いくら善逸でも死体を放置して俺に泣きつくなんてあり得ない。俺が見た獪岳は一体…何気無しに手元を見ると刀が映る。
黒い稲妻が走った俺の、獪岳の刀だと認識した途端に余計なものが抜け落ちる。
俺は今までの想いも記憶も無意味で無価値だったことを思い出した!?
なんだこれ?
違う!
違うってなにが???
鬆ュ縺後♀縺九@縺上リ縺」縺溘ヮ縺具シ
あぁ!
何よりも大事なことを簡単に忘れるなんて、最悪だ!どこまで俺は間抜けなんだ!獪岳の願いを叶えないと。それが元々俺の望みだったんだから。変とか善とか些細なことに振り回されるな、果たさないと。獪岳の為に自分の命を使うんだ。少しでも意味のある死を迎えるために、…?あれ、俺は…これじゃ、まるで自分が救われたくて、獪岳を利用してたみたいじゃないか……?
みたいなんかじゃない、俺は利用してたんだ。獪岳の無意味感溢れるあんまりな舞台装置的死に様が辛くて哀しくて、他に救われる方法は無かったのかって虚しくて羨ましくて!
獪岳が俺に直接伝えてくれていたのに、自分の間抜けさに絶望する。もう終わらせないと。これ以上続けたって誰も救われないし救えない。俺は絶対に許されない。これ以上生きてはいけない。胸が苦しい。
周りにあるものを全力で振り切り、
暗転