成り代わり主の死に方
成り代わり夢主の元の名前
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「兄ちゃん、いっちゃった…」
「これは…?」
「悲鳴嶼さん!ソレ、ずっとナナオが首に着けてた勾玉だよ!」
「なんであいつ、大事なもんを」
「売っていいからだろ」
「要らないっていってたよね」
「ナナオのせいで寺の金が底を尽きたんだよ、これくらい差し出して当然だろ」
「それ形見なんじゃないか?売るのは良くないと思う」
「行冥さん、どうするのー?」
「ナナオが帰ってくるまで、預かっておこう」
「はっきり要らないっていってたじゃん」
「そうだよ、無責任に逃げちゃってたし」
「おい、逃げたなんて決めつけるのは早すぎじゃないのか?」
「もしお前らがあいつの立場でも、同じように大事なものを渡せんのかよ」
「そんだけおれ達に迷惑かけたんだよ、当然じゃん」
「でも悲鳴嶼さんは預かるっていってるよ!」
「ぎょうめいさんの言うことちゃんと聞かなきゃだめだよ」
「そーそ。それにどーせこんなの、金になんないでしょ」
悲鳴嶼さんの空気を揺らす程の合掌で途端に静かになる。普段の頼りない雰囲気が消えていることに子ども達は漸く気が付いた。
「家族会議を始めようか」
▼
鬼を狩る為の呼吸も型も、記憶の中にあった元柱の爺さんから教わったことを実行していく。既視感あるそれらは幼い身体ではだいぶキツかったが徐々にできるようになっていき、鬼を選んだ記憶の時期より早くに最終選別にいけるようにと鍛錬を重ね続けた。
それから前世の記憶を頼りに最終選別に参加した。強力な異形の鬼に出会ったが、戦闘中に狐面の少女が現れ成り行きで共に戦った。狐面の奴らはこの鬼と因縁があるらしい。生き残ったのはそいつを含めた数人だった。これで漸くスタートラインに立てた。金稼ぎは順調で、人助けもそれなりに順調。時々ある合同任務では鱗滝を名乗る狐面の少女が俺に関わってくる。同期だから仲良くしたいのかもしれないが、馴れ合いをする暇は俺にはない。
鬼殺隊最強だった悲鳴嶼さんの代わりにここにいるんだ。あの人はどれだけの鬼を倒して、どれだけの人を助けたんだろう。俺はあの人に及ばないが、一人でも多く鬼を倒して人を救うと決めたんだ。努力をし続けて人を助け続けて、鬼を倒し続けなければならない。俺の給金は寺に全て届くようになっている。悲鳴嶼さんからの寺の様子が書かれた手紙を読むことで自分を保っているが、必死に戦っていると寺を出た時の感情を忘れてしまいそうになる。忘れたくないから何度も自分に言い聞かせる。悲鳴嶼さんが助けるはずだった人を俺が代わりに助けるんだ。力が及ばないことは十分知ってるがそんなことで折れちゃダメだ。もっと頑張るんだ。寺の時と同じように俺が悲劇を食い止めるんだ。苦しい思いをさせないように、全力を尽くして彼らの日常を護るんだと。
任務の合間に捜し続けていた胡蝶の苗字の付く家を漸く見つけたが、既に悲惨なことが起きていた。
血の海になった室内を目の当たりにしてもう出遅れだと勝手に絶望する自分の諦めの早さを呪った。決めるのが早過ぎる、まだ物音がするじゃないか。立ち止まるな、俺は何故ここにいる!鬼を見つけて呼吸を使い、とっとと頸を斬るんだ!
ボロボロと崩れていく鬼の身体の後ろに、俺と同じくらいの少女が二人。間に合った。やった。やってやった!悲鳴嶼さんじゃなくても、俺でも誰かを救うことができたんだ。あぁ、鬼はもういない、だからもう大丈夫だ。
そう伝えるのは、この姉妹に自分自身を重ねていたからだ。誰かを犠牲にする方法でしか助かろうとしなかった最低な自分なんかと、同じわけないのに。悲鳴嶼さんに救われたという運命を変えた、辻褄合わせのようなものなのに。俺は姉妹の両親の助けが間に合わなかったことを上手く謝罪できただろうか。
半月経つ頃、親戚に引き取られたと聞いていた姉妹が何故か俺の目の前にやって来た。決意に満ちた目と合い、咄嗟に遠くに視線を逸らす。悲鳴嶼さんはこの二人をどうやって追い出したんだろう。
「ナナオ様ですね。突然、押しかけた無礼をお許しください」
姉妹は可憐で凛々しい感謝の言葉を口にする。同い年くらいの餓鬼に向かってよくこんな礼儀正しい態度がとれるな。そもそも姉妹の家が鬼に襲われることを予め知っていたのに、全てを守りきれなかった俺が受け取っていいものなのか?早く話を終わらせたいので素っ気なく告げる。
「鬼の頸を斬るのが俺の仕事だ。気にする必要はない」
「はい。隠の方に、鬼殺隊についても教えて頂きました」
姉妹が目を合わせて頷きあっている…なんだか嫌な予感がする…
「今日はお願いがあってきました」
「私と姉さんに、鬼の頸を斬る方法を教えて」
俺は前世の記憶から姉妹の行く末を思い出し、背を向ける。俺の知る善良な奴らをこれ以上鬼殺隊に関わらせたくない。
前世での恩義や後悔を引きずってるわけじゃないけど、もしもの未来を知っているんだ。姉妹を上弦の弐の犠牲者にしたくない。一呼吸して俺は拒絶の言葉を告げた。
▼
「帰ってくれ」
「帰る家なんてない。全部捨ててきて何もないわ。私には姉さんだけ」
「なら、姉と助け合って生きていけ。お前ら姉妹は鬼殺隊にいるべきじゃない。今からでも遅く無い、普通の人間として幸せに生きられるだろう」
「目の前で父さんと母さんが殺されたのよ!?そんなの、できるわけないじゃない!!自分を誤魔化して、普通に暮らすのが幸せなら!そんな幸せ私はいらない!!」
胡蝶妹の泣き出しそうな叫びがざくりと刺さり前世の記憶が過ぎる。俺は前世でどんな選択をしていた?寺の奴らを死なせてしまったことを苦しんでたのに、悲鳴嶼さんから役割を与えられたと喜んで普通に暮らしていた。そうするべきだと、俺は自分に言い聞かせて。
「ナナオさんは大切な人を殺されて、それでも何もなかったみたいに生きられるの?もしそうなら、なんで鬼狩りになったのよ!」
胡蝶妹は容赦無い言葉を言い放ちこの場から離れていくが、何も言えなかった。俺が鬼殺隊に入ったのはいつだって利己的な理由だからだ。記憶にある理由は謝罪の為と鬼になる為で、しかも今世では金の為だ…俺の大切な人は生きてるし、例えその人が大切だと言う一緒に暮らしてた寺の子ども達が死んでも。自分が助けられたはずの人を見捨ててしまった罪悪感が少しだけ湧く位だ。全然、何もなかったみたいに生きていくだろう。今更、自分の薄情さに嫌気がさす。
「心配ありません。すぐに戻ってきます」
背後から胡蝶の声がした。この人は見つけるのが上手いのか?振り返ると胡蝶は頭を下げ、妹のかわりに謝罪と事情を勝手に話し出す。二人は両親に愛されて過ごしていたんだろう、親の居ない自分にも善良な価値観を持っていることが伝わる。
「私は人も、鬼も救いたいんです」
この胡蝶は、俺の知る胡蝶と何も変わらない人だった。鬼殺隊に不似合いな眩しい価値観をした、人や鬼に寄り添う優し過ぎる人。
「まだ壊されていない誰かの幸福を守りたい。アナタが私たちにしてくれたように、私も誰かの大切な人を守りたい。そうすることで悲しみの連鎖を止めたいんです」
「その結果、自分や妹が死んでもいいのか?」
「…っ!覚悟の上です。しのぶと約束したんです。私たちと同じ思いを、他の人にはさせないと」
そう言うと思っていた。正直、そんな覚悟決めないで欲しい。人のことなんて気にせず自分の命を大事にして欲しい。でも、それは俺にも言えることだ。胡蝶のことなんて気にせずに自分のことを考えられたらいいんだ。俺はこの二人の未来を多少知っているからってどこまで介入するつもりなんだ。今の俺は、悲鳴嶼さんの代わりになれるように足掻くので精一杯だというのに。余所見ができる程、俺は強くなったのか?俺が姉妹に介入するイベントはもう終わったんだ、姉妹のことはこいつら自身に対処させればいいんだと言い聞かせて、俺の知識にある姉妹の末路を打ち明けることにした。
俺が姉妹に手を貸すのは育手を紹介する事と末路の知識だけに決めた。もっと方法があるんじゃないかって思うけど、残念な自分の根本は死んでも治せなくて。今更謝ったって誰の救いにもならない。どうか、姉妹が何も知らずにいるよりもマシな結末を迎えますようにと、祈ることくらいは許して欲しい。
「これは…?」
「悲鳴嶼さん!ソレ、ずっとナナオが首に着けてた勾玉だよ!」
「なんであいつ、大事なもんを」
「売っていいからだろ」
「要らないっていってたよね」
「ナナオのせいで寺の金が底を尽きたんだよ、これくらい差し出して当然だろ」
「それ形見なんじゃないか?売るのは良くないと思う」
「行冥さん、どうするのー?」
「ナナオが帰ってくるまで、預かっておこう」
「はっきり要らないっていってたじゃん」
「そうだよ、無責任に逃げちゃってたし」
「おい、逃げたなんて決めつけるのは早すぎじゃないのか?」
「もしお前らがあいつの立場でも、同じように大事なものを渡せんのかよ」
「そんだけおれ達に迷惑かけたんだよ、当然じゃん」
「でも悲鳴嶼さんは預かるっていってるよ!」
「ぎょうめいさんの言うことちゃんと聞かなきゃだめだよ」
「そーそ。それにどーせこんなの、金になんないでしょ」
悲鳴嶼さんの空気を揺らす程の合掌で途端に静かになる。普段の頼りない雰囲気が消えていることに子ども達は漸く気が付いた。
「家族会議を始めようか」
▼
鬼を狩る為の呼吸も型も、記憶の中にあった元柱の爺さんから教わったことを実行していく。既視感あるそれらは幼い身体ではだいぶキツかったが徐々にできるようになっていき、鬼を選んだ記憶の時期より早くに最終選別にいけるようにと鍛錬を重ね続けた。
それから前世の記憶を頼りに最終選別に参加した。強力な異形の鬼に出会ったが、戦闘中に狐面の少女が現れ成り行きで共に戦った。狐面の奴らはこの鬼と因縁があるらしい。生き残ったのはそいつを含めた数人だった。これで漸くスタートラインに立てた。金稼ぎは順調で、人助けもそれなりに順調。時々ある合同任務では鱗滝を名乗る狐面の少女が俺に関わってくる。同期だから仲良くしたいのかもしれないが、馴れ合いをする暇は俺にはない。
鬼殺隊最強だった悲鳴嶼さんの代わりにここにいるんだ。あの人はどれだけの鬼を倒して、どれだけの人を助けたんだろう。俺はあの人に及ばないが、一人でも多く鬼を倒して人を救うと決めたんだ。努力をし続けて人を助け続けて、鬼を倒し続けなければならない。俺の給金は寺に全て届くようになっている。悲鳴嶼さんからの寺の様子が書かれた手紙を読むことで自分を保っているが、必死に戦っていると寺を出た時の感情を忘れてしまいそうになる。忘れたくないから何度も自分に言い聞かせる。悲鳴嶼さんが助けるはずだった人を俺が代わりに助けるんだ。力が及ばないことは十分知ってるがそんなことで折れちゃダメだ。もっと頑張るんだ。寺の時と同じように俺が悲劇を食い止めるんだ。苦しい思いをさせないように、全力を尽くして彼らの日常を護るんだと。
任務の合間に捜し続けていた胡蝶の苗字の付く家を漸く見つけたが、既に悲惨なことが起きていた。
血の海になった室内を目の当たりにしてもう出遅れだと勝手に絶望する自分の諦めの早さを呪った。決めるのが早過ぎる、まだ物音がするじゃないか。立ち止まるな、俺は何故ここにいる!鬼を見つけて呼吸を使い、とっとと頸を斬るんだ!
ボロボロと崩れていく鬼の身体の後ろに、俺と同じくらいの少女が二人。間に合った。やった。やってやった!悲鳴嶼さんじゃなくても、俺でも誰かを救うことができたんだ。あぁ、鬼はもういない、だからもう大丈夫だ。
そう伝えるのは、この姉妹に自分自身を重ねていたからだ。誰かを犠牲にする方法でしか助かろうとしなかった最低な自分なんかと、同じわけないのに。悲鳴嶼さんに救われたという運命を変えた、辻褄合わせのようなものなのに。俺は姉妹の両親の助けが間に合わなかったことを上手く謝罪できただろうか。
半月経つ頃、親戚に引き取られたと聞いていた姉妹が何故か俺の目の前にやって来た。決意に満ちた目と合い、咄嗟に遠くに視線を逸らす。悲鳴嶼さんはこの二人をどうやって追い出したんだろう。
「ナナオ様ですね。突然、押しかけた無礼をお許しください」
姉妹は可憐で凛々しい感謝の言葉を口にする。同い年くらいの餓鬼に向かってよくこんな礼儀正しい態度がとれるな。そもそも姉妹の家が鬼に襲われることを予め知っていたのに、全てを守りきれなかった俺が受け取っていいものなのか?早く話を終わらせたいので素っ気なく告げる。
「鬼の頸を斬るのが俺の仕事だ。気にする必要はない」
「はい。隠の方に、鬼殺隊についても教えて頂きました」
姉妹が目を合わせて頷きあっている…なんだか嫌な予感がする…
「今日はお願いがあってきました」
「私と姉さんに、鬼の頸を斬る方法を教えて」
俺は前世の記憶から姉妹の行く末を思い出し、背を向ける。俺の知る善良な奴らをこれ以上鬼殺隊に関わらせたくない。
前世での恩義や後悔を引きずってるわけじゃないけど、もしもの未来を知っているんだ。姉妹を上弦の弐の犠牲者にしたくない。一呼吸して俺は拒絶の言葉を告げた。
▼
「帰ってくれ」
「帰る家なんてない。全部捨ててきて何もないわ。私には姉さんだけ」
「なら、姉と助け合って生きていけ。お前ら姉妹は鬼殺隊にいるべきじゃない。今からでも遅く無い、普通の人間として幸せに生きられるだろう」
「目の前で父さんと母さんが殺されたのよ!?そんなの、できるわけないじゃない!!自分を誤魔化して、普通に暮らすのが幸せなら!そんな幸せ私はいらない!!」
胡蝶妹の泣き出しそうな叫びがざくりと刺さり前世の記憶が過ぎる。俺は前世でどんな選択をしていた?寺の奴らを死なせてしまったことを苦しんでたのに、悲鳴嶼さんから役割を与えられたと喜んで普通に暮らしていた。そうするべきだと、俺は自分に言い聞かせて。
「ナナオさんは大切な人を殺されて、それでも何もなかったみたいに生きられるの?もしそうなら、なんで鬼狩りになったのよ!」
胡蝶妹は容赦無い言葉を言い放ちこの場から離れていくが、何も言えなかった。俺が鬼殺隊に入ったのはいつだって利己的な理由だからだ。記憶にある理由は謝罪の為と鬼になる為で、しかも今世では金の為だ…俺の大切な人は生きてるし、例えその人が大切だと言う一緒に暮らしてた寺の子ども達が死んでも。自分が助けられたはずの人を見捨ててしまった罪悪感が少しだけ湧く位だ。全然、何もなかったみたいに生きていくだろう。今更、自分の薄情さに嫌気がさす。
「心配ありません。すぐに戻ってきます」
背後から胡蝶の声がした。この人は見つけるのが上手いのか?振り返ると胡蝶は頭を下げ、妹のかわりに謝罪と事情を勝手に話し出す。二人は両親に愛されて過ごしていたんだろう、親の居ない自分にも善良な価値観を持っていることが伝わる。
「私は人も、鬼も救いたいんです」
この胡蝶は、俺の知る胡蝶と何も変わらない人だった。鬼殺隊に不似合いな眩しい価値観をした、人や鬼に寄り添う優し過ぎる人。
「まだ壊されていない誰かの幸福を守りたい。アナタが私たちにしてくれたように、私も誰かの大切な人を守りたい。そうすることで悲しみの連鎖を止めたいんです」
「その結果、自分や妹が死んでもいいのか?」
「…っ!覚悟の上です。しのぶと約束したんです。私たちと同じ思いを、他の人にはさせないと」
そう言うと思っていた。正直、そんな覚悟決めないで欲しい。人のことなんて気にせず自分の命を大事にして欲しい。でも、それは俺にも言えることだ。胡蝶のことなんて気にせずに自分のことを考えられたらいいんだ。俺はこの二人の未来を多少知っているからってどこまで介入するつもりなんだ。今の俺は、悲鳴嶼さんの代わりになれるように足掻くので精一杯だというのに。余所見ができる程、俺は強くなったのか?俺が姉妹に介入するイベントはもう終わったんだ、姉妹のことはこいつら自身に対処させればいいんだと言い聞かせて、俺の知識にある姉妹の末路を打ち明けることにした。
俺が姉妹に手を貸すのは育手を紹介する事と末路の知識だけに決めた。もっと方法があるんじゃないかって思うけど、残念な自分の根本は死んでも治せなくて。今更謝ったって誰の救いにもならない。どうか、姉妹が何も知らずにいるよりもマシな結末を迎えますようにと、祈ることくらいは許して欲しい。