成り代わり主の死に方
成り代わり夢主の元の名前
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俺はこのまま終わりかと思っていた。
俺はバラバラに刻まれたが、鬼だからまだ生きていて。上弦の壱に俺の斬撃はそこそこ効いていて生まれた隙に、善逸が見たこともない型を使った。頸は落とせなかったけど、善逸の刀に俺の血鬼術を纏わせていたから深手は負わせたと思いたい。身体が治ってくのに腹が減って仕方ない。善逸が血を流したまま転がってる。上弦の壱の意識は乱入者の方に向いている。あれは、前世の記憶で見たことある双子の天才の剣士だ。二人なら持ち堪えられるだろうか。
腹が減った。意識がぼんやりする。俺はまだ死んでない。生きてる、上弦の壱を倒せてない。再生させないと。でも腹が減った。善逸は生きてるが動けないようだ。軟弱だな。善逸が作った型なのに反動大きすぎないか。俺の身体が動かせる程再生した。
そうだ、その足。もう使えないなら俺が
「ぉ、いクズ…しっかりしろよ…っ」
蚊の鳴くような死にそうな声。思い出すのは廃屋と月明かりと、善逸の兄貴ぶってた頃の記憶。そういえば、爺さんと善逸と一緒にいた時は何故だか寺の頃より居心地が悪くなかったな。ぼやけた意識が明確になる。
「クズじゃねぇよ。善逸、ここじゃ戦闘に巻き込まれるから移動するぞ」
引きずりながら前世の知識を思い出す。上弦の壱の攻撃範囲は広い。今以上に戦闘が激しくなる前にこいつを避難させないと刻まれて即死だ。まだ血の匂いに意識が向くが、前世の記憶が呪いのように俺の意思を強く繫ぎ止める。
「俺まだ、アンタと戦うよ」
「これ以上関わっても足手纏いだ、無駄死にしたいのか」
「じゃあ俺と来いよ、ここ敵の本拠地。ほっとかれたら俺死ぬから。アンタの側が俺にとって一番安全なの」
戦力外が何故こんなに太々しい態度を取るんだ、状況を理解してねぇのか。本気で喰ってやろうか。イラついて睨み付けると善逸はまっすぐ俺を見ていた。今度ばかりは仕方ないなんて、流されないぞ。役割を果たさないと記憶を受け継ぎ俺の人生は続くだろうけど、善逸の人生はここで終わるんだ。それはなんか癪だ。歩いた先に輪切りになったモヒカンの奴が転がっていた。鬼喰いのこいつは鬼を喰えば治るんだったな。自分の髪の毛を刀で切り落とし口に突っ込む。
「善逸、役に立て。こいつの身体をくっつければ多少は再生するはずだ」
「…!うん!」
双子はまだどちらも生きていて、悲鳴嶼さんはまだ来ていない。周囲の状況を確認していると視界が揺れ、稀血の酷い匂いに気づく。あの傷跡野郎、前世で何度も助けられたがこれは良くない。これじゃ。俺が戦力外になる。上弦の壱には知識は殆ど無意味で積み上げてきた経験しか役に立たないというのに。稀血で足も視界も最悪だが俺はもう完治できている。善逸の一撃を受けた上弦の壱の皮膚は罅割れ続けているんだ。俺達のしたことは無駄にはなってない。再度、挑むべく上弦壱に刃を向ける。
斬撃を避けることは可能だったが、攻撃が掠りもしない。血鬼術を警戒されてるのは分かるが、当然のように歯が立たない。腕を斬撃に吹き飛ばされてこれ以上欠損したらまずいと一旦腕を取り戻しに離脱する。クソ稀血で頭が変になりそうだ。途中から悲鳴嶼さんが来て上弦の壱の相手をしているようで、傷跡野郎が止血しに戦闘から距離を置き俺に近づいてくる。え、近付く?ふざけてんのか!?俺が理性保ててんのを褒めに来たのか!?
「おい、稀血は鬼の力になるだろ。目玉野郎を斬る為にテメェがそうなったんなら、力を貸せ」
「は?いやいやいや!稀血だろうと舐めるだけで状況が改善されるわけないだろ!?」
「はァ?」
「え?」
こいつは俺に多少喰われるつもりできたらしい。で、俺のパワーアップをしようって…嘘だろ!?命を大事にしてくれよ!弟がこの場にいるだろ、やめてくれ!というかお前鬼が嫌いなんじゃないのかよ!?え?自分を襲ってきたらこの状態でも問題なく俺の頸を叩っ斬ってくれるのか!そっかだったら何も怖くねぇ。そんなに稀血を飲ませてーなら飲んでやる!俺は上弦の壱を倒すと決めているんだ、その為に生きてきたようなもんだからな。
ぺろっとして上弦の壱に刀を向ける。今なら霹靂一閃もいけそうだ、そんな気持ちで雷の型を使う。
稀血ってすげーな。
舐めただけじゃ、状況改善しないと思ってたのに割と効いたらしい。いけるか?って思ったらまた刻まれた。俺を始末することに特化した斬撃が追加で来るが、悲鳴嶼さんに庇われ細切れにならずに済んだ。早く再生させて戦闘に復帰して悲鳴嶼さんの役に立たないと。再生させた手が人外になってるが気にしない。俺の利き手じゃないからな、俺は運が良い。さっきの雷の型を使った感覚が良かった。新しい型を作ったんじゃないかって程、スピードも威力も出ていた。俺が欲しかった壱の型の劣化版だが、それでも、俺の使える型の中で一番威力があった。
善逸が当てた場所にもう一度俺の血鬼術を打ち込む。攻撃を当てられたがすれ違いざまに真っ二つにされた。一応再生を頑張るけど、身体が人外になるのは少し怖いな。手元を見ると俺の日輪刀が折られていることに気づく。仕方ない、善逸のを借りよう。善逸に近付くと化け物を見るような目で見られた。今の俺は醜い姿を晒してるんだろうが、見た目なんて役割とは無関係だ。
「善逸。刀、貸してくれるか」
「…獪岳、だよな?」
「俺が獪岳じゃなきゃ、誰が獪岳なんだよ。ほら、終わったら返すから」
「なぁ、…かえってくるよな?」
「当たり前だろ」
上弦の壱を相手にするが借り物を壊すつもりはない。三度目を打ち込みに飛び込んだが、行動が読まれてて真っ先に細切れにされた。けど、タイミングが良かったようだ。視界が暗くなっていくが、俺を優先したせいで上弦の壱の頸が飛んでいったことを確認できた。俺は鬼にやられただけだからまた再生するのか?疑問に思っていると視界が真っ暗になった。周りの音も消えていく。
そういえば善逸が最後に言っていたのは、刀のことじゃなくて俺のことだったのか?今となっては知る術はないが、もし後者なら嘘ついてしまったことになったな。まぁ相手は善逸だし、別に良いか。
身体の感覚もなくなり、意識も暗闇に溶けていった。
△
鬼舞辻無惨との戦いが終わってから俺は爺ちゃんの家で暮らしてる。あれからだいぶ経つが一緒に戦った獪岳が目を覚まさない。
始まりの鬼が死ねば他の鬼もみんな死ぬって言われてたけど、やっぱりこの人は特殊だったらしい。残骸を集めたら元の大きさよりは小さいけど人の形に再生して、消えずに残ったままここで眠り続けている。呼んでもいない医者を名乗る特殊な鬼が獪岳の状態を診てくれたが、死んではいないらしい。炭治郎からは禰豆子ちゃんも二年近く寝てたって聞くし、時間が解決するのかもしれない。鬼がいなくなって漸く平和になったんだ。爺ちゃんだってアンタのこと気にしてるんだから。
あの時聞こえた、俺や爺ちゃんを懐かしむ音が忘れられないんだ。待ってるからさ、答えを聞かせてくれよ。