成り代わり主の死に方
成り代わり夢主の元の名前
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鬼になった俺が一番最初にしたことは俺の監視をする上弦の壱からの逃走だった。鬼の力と雷の呼吸の合わせた脚力はすごかった。しかし逃げ終えてから恐ろしい事実に気づく。
無惨の呪いが解けているんだ。初めからかかっていなかったとは考えられない。心当たりは前世の記憶位だが、いくら何でもこんなのおかしいってことはよくわかる。飢餓感も空腹感程度で不安になる。前世で鬼として過ごしていた時もこんな感覚だった…けど大事なのはこれからどうするかだ。空腹感への対処法は鬼の妹がしていた寝ることしか浮かばない。それ以外いい案がないからやれるだけやってみよう。いい感じの山奥に洞穴を見つけたのでそこで過ごすことにした。
それからどれくらい眠っただろうか。鬼の気配を感じ、目を覚ました。とりあえずその鬼を倒したが、髪の長い子どもに見つかった。まずいと思い咄嗟にこの場を去る。
俺の空腹感は起きてからも相変わらずだった。でも進んで人を食べたいなんて思えないので、動物や鬼を狩って食べて過ごしていた。満たされないままふらふらしていると五月蝿い金髪と出会ってしまった。今世で初めて会う善逸は相変わらず貧相な姿をしていて、対面早々おかしな奇声をあげていた。そういえばこいつは耳が良いんだったな。
「おい、落ち着け。俺は鬼だが人だった頃と何も変わらない価値観を持っている。俺に戦意はない。頼むから俺の話を聞いてくれないか?」
「ファッ?!」
それから俺の今世での経緯を話した。この善逸は意外と話をちゃんと聞いてくれた。それが嬉しくて気が緩み爺さんがどうしてるか知りたくて少しきいてみた。
「爺ちゃん?俺より元気そうだけど、アンタは爺ちゃんのこと知ってるの?すごい厳しい人でさ、稽古から逃げ続ける俺のことずっと見捨てないでいてくれた恩人なんだけど、俺しか教える奴がいないからってずっと付きっ切りで稽古でボコボコに叩かれて毎日散々…」
それだけ聞けて安心したので、愚図る善逸と別れる。警戒心丸出しの五月蝿い雀をちらりとみる。報告されるだろうな。耳飾りの奴は無惨や柱、いろんな奴との繋がりがあったから見逃されたが、善逸は奴とは違う。どんな理由があろうと鬼は鬼。人と一緒にだけで面倒が付き纏うんだ。
食事の為に鬼を狩って生き延びてきたが運が良いのか悪いのか、浅草で鬼の妹の戦闘に介入してしまった。前世でいい思い出がない場所だというのに、俺が間抜けだった。今更撤退もおかしいので外野を無視して鬼を斬る。食事を諦めて面倒ごとから逃げようとしたら女の鬼に止められた。無惨の呪いについてどうこう言われたが、最終的に俺の血を要求された。断る理由もないし女の鬼の後ろにいる書生の鬼と妹を人に戻したい耳飾りの奴の圧もあり、要求を受け入れる。
「鬼狩りが鬼になるには無惨の血を多く必要とするらしい。だから俺の血はアンタ達の役に立てるかもしれないな」
前世では上弦の陸にまで上り詰めたしな。なんとなく出た言葉が耳飾りの奴に刺さったらしく問い詰められる。仕方ないので自分の事情をざっくり話すことにする。ふざけた内容なのに真剣に聞くから少し引いた。
「貴方はどうして鬼になったんですか?自分を鬼にした者を憎んだりしてないんですか?」
「俺にとって必要なことだったからな。不確定要素がおおいが日の下を歩けない程度で致命的なデメリットがまだ出てないし、他のことは考えたこともなかった」
そういえば今までずっと上弦の壱に対して恐怖しか感じなかった。よくよく考えることさえ恐ろしさで放棄していた。今考えても憎しみは湧かないが、何故だろう。
鬼の女は医者で俺の身体を調べたいと言われたのでこちらからも頼むことにした。自分でも謎過ぎるからな。無惨の呪いがそんなポンコツな訳がない。大怪我をしたことがないからなのか、飢餓感がないのも不穏だ。俺の身体の詳細が知れるならいくらでも調べてくれ。結果が分かり次第、連絡をくれるらしい。連絡手段はよくわからないが、助かる。
この場を去り、鬼を狩り鬼殺隊から距離を置く俺の日常に戻る。鍛錬はずっと続けているが、結果は来ないまま時が過ぎていく。列車の脱線事故に立ち会ってしまった時は焦った。自分の存在が上弦の参と柱にハッキリ認知されてしまったからだ。耳飾りの奴が俺の名を叫んだのがとどめになり、俺は逃げたい心を制して上弦の参に刃を向けた。
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ギリギリの戦いだった。攻撃は中々当てられなかったが回避は前世と比べてマシになっていた。俺の斬撃は血鬼術を纏っていたが上弦の回復力を甘く見ていた。相手が鬱陶しく感じる程度の効果しか発揮できず、罅割れた部位を斬り落として再生させれば無傷に元どおりだ。こんなんじゃ上弦の壱に全く歯が立たない。自分の弱さを再認識した。朝日が昇るまでの時間は稼げたようで、上弦の参は撤退した。俺も鬼なので煉獄と他の連中の無事を確認してこの場を離れる。何故か耳飾りの奴が喚いていたがスルーだ。俺のせいで生死を左右する人はいないんだ、太陽の下にい続ける意味はない。
あれから鬼側からも鬼殺隊側からも俺への対応は変わらずにいた。襲ってくる鬼は全て狩っているし鬼殺隊に会うと刀を向けられるが逃げれば済む話で。血鬼術も変わらず弱いまま、対策を考えながら過ごしていると善逸と再会してしまった。雷の呼吸を使い鬼を倒す俺に興味を持ったのか、無害だと分かると俺を人として扱ってきた。鬼を連れた同期のことを話しだしたと思ったら、俺と一緒に戦おう!なんてとんでもない発言をした。ゾッとして雀を見るが、様子見を決めこんでいてチュンとも言わない。
「アンタは鬼だけど人襲わないってわかってるよ。煉獄さんと一緒に戦ったんだろ?」
「全部成り行きだ。俺の最終目標は上弦の壱を倒すことだから、あの場は自分の実力を測るのに丁度良かったんだ」
結局弱いって知ることができたから強くなるためにどうすべきか模索中なんだが。やっぱり人を喰わないと鬼は強くなれないのか。俺が悩んでる中しつこく食い下がる善逸にめんどくさくなって八つ当たりな発言をする。
「お前を喰ってもいいっていうのかよ」
「えっ痛いのは嫌なんですけど…でも、戦ってるうちに怪我は多少するだろうしそん時に出た血くらいならあげるよ?」
「そこまでして、何故俺に拘る?」
「だって、ほっとけないよ。雷の呼吸を使うし。アンタ、隠してるけど爺ちゃんの知り合いなんでしょ?耳が良いから俺、聞こえてくるんだよ。俺と爺ちゃんのこと懐かしんでるって音」
こいつ超能力者かよ、勝手に俺の心情読みやがって冗談じゃない。
「一緒に戦おうなんて言ってたが、鬼殺隊が鬼と行動を共にするってどういうことか理解できてないのか?俺がもし人を殺して喰ったら俺の頸斬って自分の腹切ることになるんだぞ?耳飾りの奴は妹の為にとっくに覚悟を決めてる筈だが、お前にその覚悟はあるのか?」
「でも、アンタは」
「俺はお前の身内でもなんでもない、赤の他人だ。鬼の妹が前代未聞で特殊な例なんだよ。覚悟もねぇなら俺の前から消えろ」
人のことより自分の命を大事にしろよ、馬鹿かよ。俺は何度も会ってるけどお前は会ったの二度目だろ。相変わらず善逸が理解できない。側にいた雀が漸くチュンと鳴いた。
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俺は結局善逸に流される運命なのか?全力で否定したいが、いつの間にか善逸に外堀を埋められていた。善逸に見つかり目隠しをされどこかに連れてかれたと思ったら、鬼殺隊本部だった。どんな手段を使ったのか爺さんと岩柱の悲鳴嶼さんを巻き込んでいて、俺を鬼殺隊として復帰させることを鬼殺隊側に認めさせやがった。俺は爺さんと悲鳴嶼さんの判断に弱いんだ、クソ。今世では兄弟弟子でもなんでもない赤の他人だからと善逸を甘く見ていた。いや、だとしても普通ここまでするか?しねぇよ!いくらこいつでもおかしいぞ。鬼殺隊もおかしい。俺が関わってない間に何があったんだよ。
経緯は気になるがもう決まってしまったことだ、覆す方が難しい。思考放棄して結果を受け入れる。全部善逸のせいだ、俺は悪くない。俺は一応拒否したんだ、そんなに俺と行動したいなら死ぬまで扱き使ってやる。だってこいつは善逸だから大抵のことで死にはしないし、例え死んでも俺は傷つかない自信がある。善逸が死ねば爺さんが悲しむかもしれないが、今回は鬼の俺と一緒にいるのを選んだこいつが悪い。口枷を渡され、身体を縮めて箱に入ることを要求された。原理がわからないが、縮むことに成功する。これから鬼の妹のように箱で生活しろと言うのか??この場にいるのが善逸だけなら全力で拒否するのに。こいつ…絶対に許さねぇ。
その日から善逸と共に行動することになった。とは言っても、夜は問答無用で箱から出る。一人で好きに歩きたいし、箱から出ないと戦闘に巻き込まれるからな。善逸の戦闘にはなるべく手を出さないようにしてる。その方が経験を積めるだろうし、なにより怪我で出血したらその分を俺が貰うことになってるからな。欠損されそうな危ない攻撃がくれば俺も手を貸すがそれ以外は放置する。
まぁ大抵一瞬で片がついて善逸が無傷なわけだが。ぎゃんぎゃん喚くこいつの血は飲むと弱くなりそうだけど、人は人だ。血をやると言ったのはこいつなのに生きのいい魚のように抵抗する。こんな奴だと理解はしてるが、つい黙らせたくて噛み付きたくなる。噛み付いたら噛みちぎりたくなりそうだから絶対やらないが。人を喰えば鬼は強くなるらしいし、これで以前より多少はマシになるのか…?
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自分がどれだけ強くなれたのか実感できないまま月日が流れ、善逸と無限城まで来てしまった。色々な疑問はあるが俺がここにきてやるべきことはただ一つ。上弦の壱を倒すことだ。
「おい、いつまでついて来る気だ」
「アンタが死ぬまで着いてくつもりだけど。アンタだって俺を死ぬまでこき使ってやるって言ってなかったっけ」
口に出して言ってねぇぞ。人の音で勝手に判断しやがって。
「上弦の壱を倒しに行くんだよね?多分あっちだよ。あっちからヤバそうな音がする」
「…本気でついて来るのかよ」
「アンタの頸斬って自分の腹切る覚悟ができてるのに、今更アンタから離れるなんてしないよ」
「じゃあ巻き添え食らって死ぬなよ」
襖を開けると、上弦の壱がそこにいた。
威圧感で立っていられなくなりそうだ。善逸がいるんだ、情けないところは見せられない。
「来たか。鬼狩りと……お前は…あの時私の前から逃げた…鬼狩りか」
逃げたのはあの時だけじゃない。前世から俺は散々逃げ続けていたし恐怖で逃げることしか考えてなかった。けどもう俺は逃げない。積み重なった記憶から自分が果たすべき役割を見つけたんだ。俺が望んだ未来の為に、諦めずに最期まで戦うと決めたんだ。振り返り善逸を確認する。ムカつく程に真剣な顔している。上弦の壱を前にして動けるんなら悪くない。とどめは善逸にかかってるんだ。俺は刀に手をかけ、慣れた型を使う。