成り代わり主の死に方
成り代わり夢主の元の名前
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ふと、意識が浮上する。熱でぼうっとして頭がぐらぐらする、腹が減りすぎて気持ち悪い。全身が擦り傷だらけで汚い。家が無い俺は人を避けて建物の陰にいるが、不快な視線を向けられる。じわじわと自分に何が起きたのかを理解する、俺は前世の記憶を思い出したんだ。
真っ先に浮かんできた感情は疑問だった。どうして俺がこんな目に遭うんだ?家族も家も何も無い、名前だけしか持っていない俺が何をしたっていうんだ?この歳で何か罰を受けるような悪いことはしていないぞ。ただゴミ同然に生き残ってるだけだ。
何故また時間が巻き戻って、死んだはずの俺の人生が続く?
受けるべき罰とか仕方ないとか、自分の感情を誤魔化して俺は一体何がしたいんだよ。いくつもある前世の記憶のせいで頭が変になったんじゃないか?
あぁ、でも。
善逸に頸を斬られる時からおかしかったな。どうせ死ぬなら無駄死には嫌だと、爺さんの命を保とうとした時も。間抜けさを隠さずにあの悲鳴嶼さんにぬけぬけと、あんな態度をよくとれたな。善逸の言動に流されて出会った耳飾りの奴に、なけなしの罪悪感を晒して自爆もしていたな。善業をそこそこ積んでた気がしたのに、二連続でアレに出くわして死んでたし。正気でいる方が異常だったな。散々なことしかない前世の記憶を受け入れてしまってる時点で、この世の全てが偽物に思えてしまうけど。
漸く気付けた、俺の行動は間違ってたんだと。
きっと俺にとって鬼になることが最善の路だったんだ。何度も上弦の壱に出くわしていたのはそれが理由だったんだ。そうすることで爺さんが責任を取って死んでしまったことがあったが、そんなの爺さんに俺が関わらなければ済む話だ。
蹲ってると声を掛けてくる人間がいた。悲鳴嶼さんだ。まさか、俺は今日この人に拾われるのか?拾われたら悲鳴嶼さんや沙世や寺の子ども達がどうなるか、前世で散々思い知らされてきた。互いにとって地獄の始まりみたいな寺だぞ。とにかく悲劇は起こしたくない。立ち上がり悲鳴嶼さんのいる方向とは逆に進み出す。平衡感覚が馬鹿になってるようで、優しさしかない悲鳴嶼さんにすぐに捕まった。人の温かさに触れて意識が落ちていく。
意識が朦朧としている中で記憶と知識が頭の中で反響する。鬼になってからの俺の行動は上弦の壱を倒すことのみに向けられていた。爺さんの命がかかってたんだ。それしか、鬼に成った自分の正当性を証明する術がない。でも不思議と自信が湧いてくるんだ。俺の血鬼術はアレを倒すのに役に立つ筈だって、その為に生き残ったんだと。
この世界を題材にした作品を見ていた前世で、上弦の壱と交戦していた人の一人に悲鳴嶼さんがいた。命懸けの激しい戦闘だった。そんなことさせたくない、前世で俺の道標になった人に生きていて欲しい。今までたくさんのことを間違ってきたけど、無駄なんかにしてたまるか。俺の役割を果たすんだ。
目を覚ますと、俺の回復を涙を流して喜ぶ悲鳴嶼さんがいた。まず、俺がやるべきことはこの寺からとっとと出ていくことだな。体力を回復させて、もう貧相な餓鬼じゃないと証明しなくては。それから俺は早く寺を出たくてコツコツ頑張っていたが、香炉を壊してしまうという致命的な事故が起きた。
幸い誰にも気付かれずに済んだが寺の金を使い込んでしまった。すぐ返せる額ではないが、香炉は寺の命綱だ。金が無くなってることを子ども達に知られ、好き放題言われてしまったが金を稼げば済む話だ。早速金を稼ぎに行こうと寺から出ていく。当然、すぐに金が入手できるわけもなく空振りのまま時間だけが過ぎて行った。
夜になった為急いで寺に帰っている途中鬼と出くわした。夜に鬼が出ることを忘れてたわけじゃないのに、なんでこんな時に!とにかくやり過ごそうと寺とは逆方向を指差して子ども達と香炉のこと、有る事無い事ひたすら話した。結果どうにか鬼がいなくなり安堵する。もう散々だ、帰ったら悲鳴嶼さんに金を使ったことを謝罪しよう。
寺にたどり着くと悲鳴が聞こえて来た。嫌な汗しか出ない。鬼は藤の花の匂いが嫌いで近づけない筈なのになんで?嘘だろ?寺のことを話したけどそんなすぐ寺を見つけるのか?寺を襲っているのはさっきまで俺と話していた鬼なのか?わからない、でもぼんやり思考してる場合じゃない。俺は前世で世話になった藤の花の家紋の家を知ってる!脚を動かせ、そこに行って早く助けを呼ぶんだ。
事件が起きてしまったがまだ全部終わったわけじゃないんだ。全て手遅れになる前に、早く。
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結局寺の子ども達で生き残ったのは沙代だけで、悲鳴嶼さんは鬼殺隊入隊を決意していて、謝罪ができてわだかまりが減ったが前世と似た結末になってしまった。でも今回の俺は悲鳴嶼さんと同じように鬼殺隊に入隊する。鬼殺隊に入れば鬼との、上弦の壱との遭遇率が上がるからだ。俺なら遭えるだろう。最善の路を行く為だ、前世の記憶も知識も使えるものは全て使う。
前世の爺さんの教えを思い出して鍛錬を積んで、育手無しで最終選別に向かう。せっかく参加したのに自分だけ鬼が見つけられず怪我人の手当てばかりしていた。このまま生き残るのは流石にまずいと思い、戦意を喪失した参加者から刀を借りる。ようやく鬼を見つけて嬉々として斬り込みに行くと戦闘中だったらしく、戦闘に水を差すようなことをしてしまった。咄嗟に助けるような対応もしてしまったが、これが鱗滝の因縁のアレか。また悪いことしてしまった。戦っていた鱗滝に殴られると思ったのに実際そんなことなくて、小言は言われたが何事もなく終わり、日輪刀を入手し鬼殺隊に入隊ができた。合同任務や療養時に鱗滝が時々関わってくるが、それだけで至って普通の鬼殺隊の日常が続いた。
でも長続きはするわけなくて、鱗滝はいつのまにか引退をしていて、半々羽織の奴を見かけることになった。療養で世話になる蝶屋敷では貼り付けた笑顔をした胡蝶妹を見かけるようにもなった。これも鬼殺隊の日常かと鬼を狩る日々を続けていたら、ついに上弦の壱と遭遇できた。知識を利用して鬼と関わってて良かった。今までで一番早い遭遇で冷や汗が止まないがやるべきことは初めから決まっている。俺は平伏し、鬼にしてくれと胸を張って伝えた。