成り代わり主の死に方
成り代わり夢主の元の名前
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柱合会議を終えてから数日、元花柱の胡蝶カナエと嵐柱の粂野匡近が俺に関わってくる。知らんと突き放すと真面目に自己紹介してきた。関わり合いになりたくないから知らずにいたかったんだが。この付き纏いに嫌悪感を抱かないでいれるのは、階級や年齢が上だから とかで認めているからだろう。蝶屋敷で回復機能訓練をしている弟弟子を話題に出すと胡蝶に屋敷へと引きづり込まれた。妹や弟はかわいいと粂野と勝手に盛り上がっていた。粂野も着いてくるが休暇なのか?というか俺は弟じゃなくて弟弟子の話をしていたんだが。出会いが早く交流も長いが未だに俺は善逸が苦手で 存在が気に入らない。無理に認めなくていいとは思っているし本人も爺さんもそれを理解してるが。それでも、善逸は俺にとってよくないことの発端でもあるからどうにかしたい。
「獪岳くん、弟弟子と仲良くなりたいのね」
「何でそうなるんですか」
「弟弟子との仲を改善したいんだろ?」
「そりゃ、まぁ。俺の中にある弟弟子の印象を最低から普通にしたいだけで、良くしたいわけじゃないですよ」
爺さんから受け継いだ雷の呼吸は、俺と善逸だけだから共同で後継になっても連携がとれるよう、普通の兄弟弟子という関係性になりたいんだ。二人はそれを聞いてにこにこと温かい笑みを浮かべている。居心地が悪い、全部善逸のせいだ。案内されて着いた先に手足が短くなった善逸がいた。
「兄貴ぃ!!助けて薬スッゲー不味いの!俺だけ、俺だけ不味すぎてもうヤダ!」
「出されたものを好き嫌いするなと屑にほざいてたのはどこのカスだったっけなぁ。あぁ、蜘蛛の毒が頭にまで回ってたのか可哀想に」
「ハァアア!?それ今言う!?あの時のアンタは健康体じゃん!無駄にするなって意味でいって…っ」
「そうだな、あの時は俺が悪かったよな。で、お前に合わせて調合された貴重な薬を喚いて無駄にするつもりなのか?それを飲まないと手足は完治しないんだろ。その口で言葉を話すよりとっとと薬を飲んだらどうだ」
「うーーわーーーっ!!せめて、せめてさぁ、兄貴には俺に優しくして欲しかったの!グダグダ飲めずにいて本当にごめんね!ちょっとくらい怪我人に優しくしてくれたっていいじゃん」
…ダメだ、俺にはこの甘ったれに優しくなんて無理だ。うざくて堪らない。だいたい善逸の怪我は初めから真面目に仕事をしてれば負うこともなかった怪我だろう。今年まで選別を見送り、それまで何度稽古つけてきたと思ってんだ。あの時間は無駄だったのか。外野がいるから少しは優しくしなければと思っていたのに。深呼吸をして波立つ感情を落ち着かせる。
「……仕方ない弟弟子だなぁ、飲ませてやるからそのまま大人しく口開けろ。抵抗するなよ」
「音と表情が合わなすぎて怖いんですけど!?ごめん飲む飲みますちゃんと飲むから、無理矢理はやめて!いやぁあああッ」
「そんだけ元気なら初めから飲めカス」
「うぅ〜うっせぇ屑…苦いよぉ〜嫌だよぉ〜」
「同室の奴ら、長居して煩くして済まない。善逸、一緒に来てる奴がいてもう出て行くから 俺がいなくてもちゃんと飲めよ」
情けない声を背景に病室を出た。粂野と胡蝶は俺と善逸のやりとりを聞いていたようで、また温い笑顔を向けてくる。
「聞こえてましたよね、騒がしくしてしまい本当にすみません」
「でも、全然仲よさそうに見えたな」
「私にもそう見えたわ。でも、そうね。薬の味の改良をしようかしら」
「薬の被験体にあいつを使うのは良いですが、あいつに手間をかけるのは時間の無駄になりますよ」
「向き合って真剣に取り組んだ時間は決して無駄にはならないわ」
前を行く胡蝶は薬の調合について妹に相談しにいってしまった。
「貴方は行かないんですか?」
「あぁ、獪岳と話がしたくてカナエさんと一緒にいたんだ。今時間があるなら、付き合ってくれないか?」
二人で話ができる部屋に移動し、要件を聞く。粂野は元々風の呼吸の者だった。下弦の壱討伐の任務で見た雷の呼吸を自分の呼吸に取り入れることを閃き、嵐の呼吸を生み出したらしい。何故か俺を命の恩人と呼び、良ければ継子にならないかと言われた。展開が唐突すぎて驚いた。継子になるならないは置いといてこれからも仲良くなりたいからよろしくとも言われて、保留の返事だけ告げて逃げるように出て行く。とにかくどこかで一人になりたかった。継子になるのはなんとなく嫌だった。それじゃ、断りきれる理由にはならないから保留にしてしまった。
今更、自分の知らないイベントが起きるのを恐れているのかもしれない。誠心誠意の謝罪を岩柱に伝えるという目的は果たされたが、その後のことを全く想像していなかった。寺での罪を認め鬼殺隊として生きて償い続けると言わないと殺されると思ったからあの場でそんな発言したが、本心ではなかったからだ。
一人で庭の日陰に座っていると胡蝶に見つかった。ずっと俺と話がしたかったという胡蝶は、上弦の弐と戦闘した時のことを勝手に話し出した。その戦闘が原因で引退したのに何故か俺に感謝をし、俺の知識にある鬼について知りたいから友人?になってほしいと言われる。
「鬼となるべく戦わず、対話の意思を貫く貴方となら私の夢を共有できるんじゃないかと思ったの」
俺が戦わず対話をするのは自分が力不足だからだ。それに話を聞く鬼は、気を抜けば一瞬で命を刈り取れるであろうレベルであり、生死は鬼の気分に左右される。俺とは別方向に鬼殺隊とは違う考え方をした胡蝶の話を聞くくらいしかできない。それを伝えるとそれでも良いと、粂野のようなことを言って去っていった。
偶然側にいただけなのに。そうしないと俺の命が危うかっただけなのに。善人はどうして、俺の保身を都合良く解釈するんだ。俺には理解できない。
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指令が来て、列車の任務についた。前世の知識では炎柱が殉職していた任務なんだが…下弦の壱と上弦の参相手に炎柱の煉獄と流柱の鱗滝と俺と、善逸、耳飾り、猪の六人だけで大丈夫なのか。親方様はそんな判断でいいのか。険しい顔をしていると柱二人が笑った気がした。
「心配無用!君が鬼の戦闘法を俺たちに伝えたおかげでこの列車のカラクリも分かっている!多少の苦戦はするだろうが、ここまで分かれば覚悟を決めて行くだけだぞ!」
「俺たちは親方様の信じたお前の知識を信用しているが、盲信はしていない。知識を利用して違う選択をするんだ。未来は全くの別物になるだろう」
「その通り!この任務に向かう隊士に変化があるんだ、良い結果になるに違いない!なにより、俺は死ぬ気など毛頭ない!」
「必ずここで上弦の参を討伐するぞ。俺たちならできる」
その俺たちに俺も含まれてないか?視線が合い、力強い笑みを向けられる。俺もなのかぁ。しかしアレはそんな生易しい奴じゃない。弱くて卑怯者の自覚がある俺は、きっと知らないうちに恨みを買って真っ先に殺される…。意気揚々とする二人の柱のノリに気力を削がれる。遅れてやってきた善逸達に八つ当たりしたくなった。
鱗滝と耳飾りが兄弟弟子らしく意気投合している。話題に俺の名前も出てなにかと思うと、善逸と耳飾りと猪に最終選別について話していた。選別にいた複数手がある異形の鬼と水の一門は因縁があり、その存在を選別を終えてから亡き姉弟子から伝えられた。異形の鬼はその時の選別で倒されていたと後に知り、因縁を勝手に終わらせた参加者を探して今に至ると。鱗滝の同期でそのことを話せずにいた奴は俺で最後になる為、話す機会を伺っていたようで…視線が俺に集中する。聞かなきゃよかった。選別にいた異形の手強い鬼は確かにいたが、見つけてどうするつもりなんだ。声を出さない代わりに流柱の視線に情けない視線で答える。
「やはり、お前だったんだな。水の一門の因縁を終わらせてくれて感謝する。選別に行く前に、因縁の鬼の存在を知っていたらお前をまず殴ってた。水の一門の因縁は、俺が終わらせたかったから」
切符拝見の声が届き、鱗滝の話が区切られた。
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下弦の壱の討伐は難なくとはいかないが、乗客も味方も無事に終わった。それから上弦の参が空から降ってきて、鱗滝と炎柱の二人が立ち向かったが、上弦の参は俺を視界に捉えると、真っ直ぐに俺に向かってきた。
「お前が勾玉の隊士だな。口を閉じたまま死ね」
拳をギリギリで避けることができた。俺は上弦の参相手に囮になれるのか?刀を弾き飛ばされた瞬間に無理だと悟る。単純に俺には力も無いし覚悟もなかった。俺へ真っ直ぐに向けられる殺意で身体が重く感じる。何も話せず呼吸を使い避け続けるので精一杯だ。柱二人がんばれ、俺に意識を向けている間に頼むから隙を突いたりしてくれ。祈りは届くわけもなく、上弦の参の拳が無情に俺の腹を貫いた
かと思われた。
「よかったぁ、まだ死んでない。戦いに水を差して済まない、猗窩座殿」
「貴様…!何故ここにいる」
「鬼と信者の情報を集めて勾玉の隊士ならここに来ると予測してきたんだ。いつ振りだろう、また会えて嬉しいよ。勾玉の隊士、君の名前はなんていうんだい?」
「何のつもりだ、童磨」
なんのつもりだよ本当に。なんで上弦の弐がここに来るんだよ。おい上弦の参、キャラ取られた程度で帰るんじゃない。帰るならアレも連れて帰ってくれ。まってくれ、いかないでくれ。
「俺はね、あの夜から君にずっと会いたかったんだよ。君の話を聞いてると背中や内臓がゾワゾワするんだ。こんな感覚はじめてでさ。もっと知りたいんだ」
鱗滝と炎柱が上弦の弐に刃を向ける前に、上弦の弐は扇を一振りしてみせ、血鬼術で生み出された複数の氷人形が二人に襲いかかる。柱二人は上弦の弐に近づけず、きっとこのまま体力を消耗し続ける。善逸と耳飾りと猪は氷人形二人分だけでも大変そうだ。
「可哀想に。まだ諦めてないみたいだけど、そう時間はかからないだろうな。以前、場合によって君は俺達の味方をすると言っていたね。今はどうかな?君がこちら側に来てくれたら、この場にいる全員見逃そうかとも考えているんだが」
愉しそうに語りかける。こんなの、まるで寺の悲劇の焼き増しじゃないか。
鱗滝と炎柱が何か言っているのにひどく遠くに聞こえる。ただただ、圧倒的な力の差を目の前にして絶望していた。
前世の知識を伝えることは、感謝されることなんかじゃなかったんだ。自分の保身の為に、鬼の前に命を差し出す行為と何も変わらない。全て無意味どころか、マイナスだ。また間違えた。今更、俺に何ができる?
「もう一度聞くよ、勾玉の隊士。こちら側に来ないか?そうしたら、俺がこの場の全員の命を救ってあげるよ」
耳障りの良い声がする。みんなを救うだと?このクソ野郎が、救うといったのか?思い出すのは前世の知識で得た情報。こいつにとって救いとは何かを俺は知っている。
「テメェの腹に収めて永遠に生き続けることが救いなんだろ?そんなもの選ぶ訳がない。俺はもう間違ってても、俺の力で全員救ってみせる!だいたい、そっち側に行っても人を大勢喰わなきゃテメェを殺せるだけの力が直ぐには手に入らねぇんだ。デメリットばかりの不便な力なんて俺は要らない」
「振られてしまったか。でもそんな情報をくれるなんて、やはり君だけは殺さないとな」
ゾッとするほどの殺意を向けられ強張る身体を無理やり動かして、弾き飛ばされた刀へ駆ける。俺の力で救うと言ったが、口先だけのノープランだ。でも、はじめて俺は全力で抗いたいと思った。