成り代わり主の死に方
成り代わり夢主の元の名前
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日が昇り上弦の弐は退散し、俺ともう一人は奇跡的に生き残れた。よくお喋りする鬼だったからだろう、時間稼ぎがこんなにうまく行くとは思わなかった。自分の力不足で負傷したが、俺の方は今後の任務に影響が出ない程度だった。上弦の弐との遭遇の後処理を済ませると、今度は寄り道せずに爺さんの家に向かう。強い鬼と遭遇し追い詰められる度に、自分も鬼だったらよかったのにと思ってしまう。鬼は人を喰い殺し、日の光で死に、鬼殺隊に追われて、生きるのに不便ないきものなのに。よくない方向に思考が向く。馬鹿は死ななきゃ治らないらしいが、爺さんの言ってたとおり俺は大馬鹿ものだ。人の性根はそう簡単に変われない。もっと鍛錬をして強くなり鬼に勝ち続けられれば、そんな考えに囚われずに済むはずだ。
前世ぶりの善逸は、俺の記憶にいる善逸よりも貧相で幼かった。爺さんに善逸の歳を確認し、本人からも歳を確認し、ここにいる我妻善逸が12歳だと理解した…
……俺はまだ14だったのかぁ…前世の記憶に気を取られて自分の歳を誤認してた…えぇ…前世とだいぶ違うじゃないか。これは些細で済まない。
なんかこう、俺の知る前世と大幅なズレがあるのは良くない気がする…念の為、善逸が16になるまでは選別を見送ってもらうことを今日は爺さんに頼もう。あとは前世で起きたあらましをまた話して…爺さんに迷惑をかけてしまうが、頼れとも言われてるし…いいだろうか。
就寝前、そのことを爺さんに話をしていると耳の良い善逸も内容をしっかり聞いていたらしく、こいつなら仕方ないかと巻き込むことにした。
▼上弦の弐と参の会話
「面白い隊士がいたんだよ。朝日が出てきてしまったから逃してしまったんだけどな。俺達や鬼殺隊の未来を知っているんだと。死んで地獄に落ちてからの話まであるなんて驚いたよ。俺は信者の妄想話をよく聞いていたが、聞いていて割と凝った設定だなぁって思ったんだ。だって俺しか知り得ない過去の話まで語り出すんだぜ、その隊士。身に覚えのあることをあんなに当てられたのははじめてだよ。
俺の友人が猗窩座殿だってことも当てたんだぜ。出まかせの妄想と片付けるには少し惜しくなって、もっと彼の話を聞きたいと思わされてしまったんだ。全く上手くしてやられたなぁ」
「その隊士の特徴は何だ」
「首に勾玉を着けた若い男の…もう行ってしまったか。場合によってはこちら側に来てくれそうな奴だから殺すのは待って欲しかったんだが。猗窩座殿より先に見つけないとな」
▼胡蝶姉妹の会話
「ちょっと待ってください!貴方の治療が済んでません!」
「しのぶ、行かせてあげて」
「姉さんは休んでて!」
「しのぶ。彼はあの鬼と戦闘を殆どせずに、退けたの。おそらく怪我はないわ」
「鬼と仲良くお喋りをして見逃してもらったみたいじゃない。鬼殺隊として間違ってるわ」
「うん…そうね。それでも、彼は自分の力量を理解している普通の隊士で、私は手負いの柱で。あの鬼は上弦の弐だったの。彼の選択で誰の命も落とさないで済んだ…それが悪だとは責められないわ」
「姉さんは、まだ鬼と仲良くなれると思ってるの?」
「えぇ勿論、諦めないわ。あの鬼と堂々と話していた彼の姿を見て光明が見えたの。私は鬼のことも彼のことも、もっと知りたい」
「…もう。今度勾玉の彼に会ったらお礼をしなきゃね…」
▼
善逸が最終選別を突破し、無事鬼殺隊に入隊した。
それまでの俺は毎年のように十二鬼月と遭遇しては生き残っていた。奴らは何故か俺のこと勾玉の隊士って呼んで認知してくる、冗談じゃない。一応、十二鬼月との相対時は死者はゼロだ…鬼を含めてゼロの場合もあるが、俺が奴らを引きつけて逃げ回っているからな。朝日が昇るまで逃げ回るときもあれば、俺が引きつけてる間に味方がどうにか鬼の隙をついて頸を斬ってくれる時もある。
狐面をつけた宍色の隊士と稀血で傷跡の多い隊士には非常に助けられた。そいつら二人はもう柱だが二人共相棒がいるらしく、現在の柱は俺の知らない奴がいた。選別から 自分が何かしでかしたんだろうとは予想できるが、心当たりがありすぎてどう修正したらいいのか分からない。
あの人に誠心誠意の謝罪しに行こうとして鬼殺隊に入隊したのに、十年近く経過してまだ謝罪できていない。どうしようともたもたしてる間に前世で印象深い那田蜘蛛山任務につき、前世より手際よく下弦の伍を倒してしまった。面倒ごとから避難しようと行動していると鴉に名を呼ばれてしまった。再び鬼殺隊本部に面倒ごとのついでに連れてかれた。前世のシチュエーションと被って頭痛がする。
面倒ごとの裁判が終わり俺の番になる。今回は面倒ごとだけ先に退場させられて俺が残された。大丈夫だ。素直に寺での罪を認めて、この命尽きるまで鬼殺隊として償い続けることを伝えるだけだ。緊張で喉がカラカラになっているが、必死に話し続けた。
「獪岳。私は君の謝罪を受け入れよう」
想像以上にあっさり岩柱に信じられた。そういえば前世でもあっさり切り捨てられたな。きっとそういう人なんだと思っていたら、元花柱のことを突然話された。彼女は俺に命を救われたと何故か思っていて、その善良な奴の意見もあっての判断らしい。俺と岩柱の話に決着がつき、解放されると思っていると、親方様の一言で流れが変わった。
「獪岳について、元鳴柱の桑島から手紙を預かっていてね。君の持つ鬼舞辻の情報を私たちに共有させてくれないか」
それを話しても、裏切り者扱いされないのか。鬼殺隊は俺の言葉を信じるつもりなのか。俺が信じて伝えた爺さんが、鬼殺隊を信じて俺のことを伝えたんだ。逃げずに、向き合うんだ。
「俺が知るのは、俺が上弦の壱に殺されるまでの鬼殺隊と、それまでに対峙した鬼達の情報だけです」
それでもいいらしい。裏切りの記憶を隠して、前世で得た知識を告白した。
▼風の兄弟子の小話
「おい、下弦の壱。太陽を克服する方法を知りたくはないか?」
戦闘に水を差す声。稀血ではない、鬼の気をそらしそうな餌をぶら下げて。鬼殺隊として正しくない発言をしながら鬼の注意を引きつけ続けた。その行動が無ければ鬼に隙は生まれず、命を失うところだった。上弦の弐と遭遇して生き残ったもう一人の隊士は彼だったのか。十二鬼月と相対して臆さずお喋りを続け、視線は鬼の一挙一動を見逃さないよう離さない。攻撃されてもギリギリで躱したり刀で流していく。時間稼ぎをするような、鬼に殺意を持たない戦い方をしていた。
彼は獪岳という。甲の位の隊士で十二鬼月を倒し、今回の柱合会議に呼ばれたらしい。親方様の前で岩柱との因縁を終着させると、鬼を引きつける知識の正体を明かした。
彼には上弦の壱と対峙するまでの前世の記憶があり、これから起きる鬼殺隊の受難を話した。列車と下弦の壱討伐と炎柱の殉職、遊郭と上弦の陸討伐と音柱の引退、刀鍛冶と上弦の肆・伍の討伐と痣の出現、そして
「竈門禰豆子は太陽を克服する鬼となり、鬼舞辻無惨は彼女を取り込もうと本腰を入れて行動し始め、鬼が一切出なくなった頃に上弦の壱に遭遇。以上が俺の知る情報です」
堂々と話す姿を見て十二鬼月と相対していた彼の姿と被るのは、きっとまだ彼が何かを隠しているからだ。純粋に知りたいと思った。一度命を助けてくれた彼の隠す情報を、今ここで暴く必要はないだろう。この柱合会議を終えたら彼に直接聞きにいきたい。伝えられた情報についての対策会議が続けられた。