成り代わり主の死に方
成り代わり夢主の元の名前
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稽古中は善逸とは勝敗を競わないよう心掛けた。俺には鬼になってもこいつに勝てない未来があるんだ。変に対抗意識を向けると俺は自滅するだろう。だから余計に苛つかないように、爺さんから学んだことを一つ一つ善逸に打ち込む。
それはそれとして、いつも情けない声で喚いてるやつに生意気な顔を向けられるのは癪だから空いた時間に鍛錬を続ける。あの前世から俺はこれまで、一度たりとも善逸に勝利を譲ったことはない。
最終選別に向かう前の日、あいつとはもう二度と会うことはないだろうと思い祝いの品をその辺の店で買った。うらは色の組紐と青めのうの勾玉だ。どっかで見たことあると思いつつも善逸に渡す。受け取った善逸はそれを握りしめ、何かを堪えて真剣な顔をした。
「俺、兄貴のこと護るから!お願いだから、一緒に戦おうよ…今日でお別れなんで嫌だよぉ!」
…一年でこいつに何があったんだ。善逸はここに連れてこられてきてから何を勘違いしてるのか兄弟子の俺を兄貴と呼ぶ。呼ぶなって最初に言っていたはずなのに俺の意思は無視かよ、腑に落ちねぇ。
結局俺は折れてしまった。
善逸がみっともなく泣き震えながら土下座をしたからだ。発狂してこんなとこで死にたくないとなりふり構わず土下座をした前世の自分を思い出して見ていられなかった。あの時とは全く状況は違うのに、仕方ない弟弟子だな、なんて調子の良いことを言って。
それから迎えた最終選別では共に行動できなかった。ふと目を離した隙にあいつが逸れていたからだ。別にいいかとスルーして七日を過ごし突破した。生き残った善逸は汚かったが大した怪我もなく無事のようだ。モヒカンの奴と耳飾りをした奴が案内役に絡んで話が止まっていたので、二人まとめて足払いをかけ案内人を元の位置に正す。
「お前らは何故ここにいる?他所でやれ」
善逸が俺のそばに駆け寄ってきた。護るとか言ってたけどまさか俺の後ろに隠れるって意味だったのか?善逸のことはつくづく理解できないな。
案内役の話が終わり、玉鋼を選び二人揃って帰宅すると爺さんが涙を流して迎えてくれた。その日の飯は好物がたくさんで、善逸はこっちまで笑えるくらい喜んでて爺さんも笑ってた。多分これが一番穏やかな時間だった気がする。それから隊服や日輪刀が届けられた。刀鍛冶の職人に勧められて二人同時に刀を抜くと、見事に雷が走り互いの対になるように色に変わった。最高の兄弟刀だとはしゃぐ善逸と職人に呆れる。これから善逸の希望を裏切る鬼殺隊の仕事が始まるというのに。雀の鳴き声と鴉の鳴き声が聞こえてくる。当面は死ぬつもりはないし死なないだろうけど、もしも俺が一人で死んだら半分は善逸のせいにしよう。一緒にいるとか言って鬼殺隊に俺を誘ってしまったんだから別にいいよな。あぁ、清々するな。
爺さんと善逸と別れ、同期のモヒカンの奴と合同任務をしたり、浅草で耳飾りの奴の応援に行ったり、一人で任務をしたり合同任務をしたり一人で任務をしたり。一人でも多くの鬼を切ることに専念した。
任務の出来事で覚えているのは、モヒカンの奴には関わらないことがベストであることとか、耳飾りの奴と共にいた書生の鬼がとんでもなく地雷だったことくらいだ。特に書生の鬼。善逸並みに無理なやつがこの世にいるなんてこと、あって欲しくなかった。俺は敵意の有無で切る切らないを判断する為誰が鬼とか本気で興味がない。あの時は面倒そうな空気を察してさっさと退散したが、鴉が何も言わないところを見るとあの敵意のない鬼どもの存在を鬼殺隊は容認しているのだろう。なんとなく気に入らない。
そういえば家を出てから善逸からの手紙が届いてくる。生存報告と生存確認なのに、遺書のような雰囲気がある。大丈夫かこいつ。前世のように返事を返さないままでいるのはちょっと不憫に思えたのでこれから向かう任務について書くことにした。
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今回の任務は複数。数合わせのように階級の低い俺が呼ばれた。階級が一番高い奴が先導するらしい。命が危なくなったら真っ先に応援を呼びに戦闘離脱すると伝える。そいつからの反応が薄かったが、前世知識が正しければこの山には恐らく十二鬼月がいたはずだ。入山したらさっさと離脱しよう。
入山して数日持ち堪えてしまったが、怪我人を手に入れ名誉の下山に成功。道中で応急処置をしていると善逸が耳飾りの奴と猪と共にやってきた。
「兄貴!その人は!?兄貴は無事!?」
「五月蝿い。こいつは気を失ってるだけで、俺は大丈夫だ。お前ら、この山に入るのか?」
「はい!あの、そうです!」
「たりめーだ!鬼がいるんだろ!」
「そうか。なら教えとくが、もうたくさんの鬼殺隊員がこの山に住む鬼の餌食になっている。もし生き残っている隊員がいても剣を向けてくるようなら、助けることは不要。自分の命を優先するんだ」
「そんな…!見捨てろってことですか?!」
「行けばわかる。まだ戦闘してるやつもいたから、人助けをしたいなら早く行け」
俺を見てからずっと何か言いたげな耳飾りの奴。再会の挨拶でもしたかったのか?元気いっぱい行く気満々な猪。こいつは初対面だが確か同期だったはずだ。一番に来たのに俺に切り捨てられ空気を読んで静かになった善逸。おずおずと俺に問いかける。
「兄貴はどうするの?」
「この隊員の応急処置をしてからまた入山する。ほぼいないであろう生存者を増やしにな。大元の鬼は柱に任せる」
「テメェ、鬼倒しにいかねぇとか弱えのか?紋逸は兄貴がスゲー強えって言ってたのに」
「俺はそんな名前のやつなんか知らないし俺に身内は存在しない」
「えっ!?兄貴!?」
「耳飾りの奴も猪も善逸を連れてとっとと行ってこい、あとで向かうから」
「俺は竈門炭治郎です!わかりました。伊之助、善逸行こう!」
「おう!権太郎、紋逸、俺についてこい!」
「ちょ、待って二人とも!俺は置いてっていいよ!兄貴とちょっと話があるから!」
そうして善逸は俺と向かい合わせになり、座り込んだ。あいつらと同時期に山の任務を言い渡されたんじゃなかったのか?話をする理由なんてあるか?
「本気で分かんないって音と顔で二重で伝えてくんの傷つくんですけど…鬼殺隊になってから漸く再会できたのに。俺はちょっと怒ってるんだよ。
身内なんていないってどういうことさ!俺は兄貴の弟弟子で爺ちゃんも血の繋がりはないけど、あの家で過ごした兄貴の家族じゃないか!」
…急に何を言いだすんだこいつは。俺にとってあそこはホームステイ先の家という認識なんだが、髪が金髪に変わって今更だが価値観もそっちに寄ったのか?
「あとそれだけじゃない!俺より先に炭治郎の妹の禰豆子ちゃんと出会っててかっこ良く鬼から護ったんだってな!兄貴が誇らしいし羨ましいよ!俺より顔が良いからって禰豆子ちゃんに選ばれると思うなよ!」
本当に何を言いだすんだ?さっきの家族云々についてはスルーしたが、いつもどんな妄想をしてるんだこいつは。
「そうか。その禰豆子ちゃんには興味ないから安心しろ。でも奴らの側に彼女はいなかったが今どこにいるんだ?」
「へ?炭治郎が背負ってる箱の中…ぁああっ!!あいつ!女の子を鬼がわんさかいる危ない山に連れて行きやがった!!」
おろおろと善逸の視線がこちらと山に行き来する。鬱陶しい奴だな。行きたいならさっさと行け。こいつはいざという時の俺の肉盾だが、それは今じゃないだろうし。俺がしっしと手を動かすといってきますと、元気よく入山した。
応急処置を終え、俺は再度入山する。生存者の気配は無い。先に進んでいると雷が落ちたような大きな音が山に響いた。あの音は間違いなく雷の呼吸の一撃だが、あんな音だっただろうか?とにかく行き先が決まり、足を進める。
月明かりに照らされた宙吊りの廃屋がある、鬼の気配も生存者の気配も薄い場所に着いた。宙吊りの隊員と人面蜘蛛がいる気味の悪い場所だが、敵意はどこからもしない。善逸の居場所を呼吸音から判断する。面倒だが死にかけだ。遺言くらい受け取ってやろう。
「おいカス、死んだか」
「ぁ、にき…かすじゃねぇ……」
「へぇ…毒か。こりゃ俺には無理だな。言い残した事とかやり残した事とかあるなら兄貴の俺が聞いてやる」
雷に打たれた時もそうだったが死にかけている善逸を見てると不謹慎だがつい笑ってしまう。こんな目にあってもこいつはケロッと復活するんだよなぁ逞しすぎだろ、愉快だ。いかん、本音はこいつによく聞こえるんだ。優しくしよう。
「ね、ずちゃ…ねずこちゃ、を…たんじろのとこ…たすけて……」
「おぅ。わかった、捜しとく。俺に任せろ。善逸は呼吸続けとけよ」
もごもごと口を動かしていたが善逸じゃないから全く聞き取れない。呼吸の再開を確認し、サッサと降りて耳飾りの奴を捜しに行く。
向かった先は何故かちょうど良いヤバそうなシーンで、その中に飛び込むことになるとは思いもしなかった。耳飾りの奴とその妹、どちらも欠損もなく無事のようだ。もしここで俺が逃げれば三人仲良く死ぬだろう。敵は下弦の伍。その辺の鬼とは別格だが、十二鬼月の中で下から二番目。決して勝てない相手じゃない。うっかり味方に攻撃をしないように気を付けよう。