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目を覚ますと、薄暗い学校の教室らしき部屋にいた。眠っていたらしく、身体が痛む。廃校のような雰囲気に怯えていると、黒板の横に存在するロッカーがガタガタ動いて中から女の子が飛び出してきた。
桃色のベストを着た、金髪の女の子。高校生だろうか。椅子に座りっぱなしの私の存在に気がつき、声を掛けようと視線を合わせる。
声を出そうとした口は、横で揺れるロッカーの音に止められる。出て来た黒い制服の男の子はすぐそばにいた女の子をみて悲鳴をあげる。
周りを見渡し、落ち着いた男の子はこちらの存在に気がつく。
混乱に乗って教室から出ていけばよかったなと少し後悔しながら彼らに視線を合わせる。
自分の記憶が抜け落ちている。昨日のこととかここに来る前とかではなく大事なこと、今までの自分のことや家族のことが思い出せないのだ。なのに明確に覚えていることがある。ダンガンロンパというゲームのことだ。頭の片隅で理解してはいけないと警報が鳴っている。この2人が、私の知る赤松楓と最原終一であってはいけないんだ。理解してしまえば戻れなくなる。戻るところなんて無いだろうな、と薄々感じながら。それでもこの現実を否定する。
私は、名前を名乗れなかった。代わりにポケット中を漁り、電子生徒手帳を取り出した。生徒の名前にひとつ見覚えが全く無いものを見つける。
「私は、黒羽緋色……超高校級の…」
「超高校級の幸運?」
声を遮るようなモノクマーズが登場する。
そうだ、何も起きる前に片付けてしまえばいいんだ。人が死んでない分、難易度は上がってないはずだ。みんな、みんなのことをよく知らないから…おかしいことも知らないから動けるんじゃないか?
マンホールの下。地下のトンネルの向こうに何があるか私は知っている。止めないのは、私と言うイレギュラーがいる中でシナリオが私の知るものと同じかどうかを確かめたいからだ。結果はシナリオ通りの赤松さんを批判するものだった。解散となったが、図書室と女子トイレ隠された場所の確認に向かう。体力がだいぶ削がれたがなんとか確認だけを終える。図書室の向こう側にある部屋を確認し終えるとさっさと女子トイレに向かう。誰にも会わなかったことに少しだけ安堵する。女子トイレの掃除用具の場所を弄るとガタリと通路が開く。存在を確認し、さっさと不気味な学園を出ることにした。
寄宿舎に入ると、女子側に私の部屋らしいところができていた。鍵をモノクマーズから受け取り、今日を終える。
モノクマーズアナウンスで目を覚ます。食堂に集合する時間に遅刻したら面倒が起きる。無理やり起きあがると身支度をして食堂に向かう。
私が最後だったようで気まずく思いながら、空いてる席に着く。はじまったのは昨日の反省会。王馬くんが責められ始めた時にモノクマが登場する。コロシアイの動機提示だ。裁判免除の初回特典。
やんややんや。百田がモノクマに立ち向かう。無謀なやりとりだ。背筋に悪寒が走る。百田を突き飛ばそうと足を踏み込んだ瞬間、靴紐が引っかかり靴が飛び…私が盛大に転んだ。次の瞬間爆発が起きる。痛みを堪えて顔を上げるとモノクマがシナリオ通りにペシャンコになっていた。
百田は黒羽に感謝しなよと言う流れになっていてどういうことなのか聞いてみると、私が飛ばした靴がエグイサルにぶつかって軌道が盛大にズレ、モノクマに攻撃が直撃したらしい。ヒヤリとした。もし私が何もしないでいたらどうなっていたかとか、自分にあるかもしれない本物の幸運とか…あまり考えたくないな。
百田には顔面を心配された。東条さんに治療されることになった。
モノクマがいなくなったからもう自由だと安心したみんなは散らばってしまった。全員に声かけしたかったが、東条さんと百田に捕まって昨日の情報を誰にも共有できないでいた。いっそこの2人だけに話してもいい気がしたので、思い切って話すことにした。
「依頼なら、その確かめたいことに私も同行させてもらうわ」
「女子トイレってマジで俺も大丈夫なのかよ」
「大丈夫です。本当に用があるのは女子トイレではないので。それに、モノクマがいなくなった今がチャンスなんです」
近代的で無機質な通路を抜けると悪趣味な部屋に出た。布に隠されたそれを睨む。ここは、生徒の中に紛れ込んだモノクマ側の生徒のための隠し部屋だ。
結果として護身用に持っていた砲丸でマザーモノクマを破壊した。入ってきた時と同様に東条さんを先頭に女子トイレを出る。具合が悪くなった黒羽に百田が付き添って女子トイレに入っていき、それを見かけた東条が追いかけて今に至る…という設定でトイレから出る。
百田と2人きりになって命を大事にと言われたので思わず言い返す。
「話が長くなるので省略しますが、初めて会った昨日よりも前から、私はあなた達に生きていて欲しいと思っているんです。
確かにそこらの女子よりヒョロいしドジも多いし話下手です。でも、覚悟はあります。私は、私の命を賭けてでもみんなをこの世界の悪意から護りたいんです」
「ふー。全くびっくらこいちゃったよ!予備がなきゃ危なかったんだから!」
次の日の朝の食堂に奴は姿を現した。モノクマ製造機となる、マザーモノクマは破壊したはずだ。あれがまさか、飾りだったのか…?私はそういえばあれがモノクマを生むところなんて見たことがない。あんなあからさまに怪しくてやばそうなやつ、黒幕にとって大して大切なものではない可能性もあったことを失念していた。マザーモノクマは辻褄合わせのための装置なんじゃ…?
電子でできた南の島に存在したワダツミインダストリアルやモノクマ製造工場を思い出す。この世界はあの電脳世界同様、モノクマが神のような存在なら、いくらモノクマの攻撃手段を取り上げても無駄なのではないか?そしてこの世界から脱出する方法は、クロとして卒業するか、最後の2人になるまで生き残ることしか、……
私は考えるのをやめた。
「俺と黒羽と東条でテメーを作る機械だってぶっ壊したはずだってのに、なんでテメーがここにいるんだよ!?」
「ほんとオマエラの中にそんなアクティブに動く生徒がいたなんて予想外だったよ!もうボクの命に代えが無くなっちゃうなんて…よくもやってくれたね!」
「ちょっとまって!百田くん、それってどういうこと?」
「あぁ、昨日の朝か。俺と黒羽と東条が、運良く隠し通路を見つけてな。そこを探索してみりゃ、悪趣味な部屋に着いたんだよ。中には複数のモニターとキモチワリー機械があって、さっき壊したっつーのはその機械だ。モノクマを量産する機械だってそいつがいうもんだからよ、俺らでガツンと一発で再起不能にしたんだ。だからモノクマが出て来ねーはずなんだ」
「ええぇい!オマエラよくもボクのマザーモノクマを破壊してくれたね…ボクは怒ったぞ!」
「なんで、そんな危険なことしちゃったの…!?モノクマからの罠かもしれないんだよ!?」
みんなが話てる間、思考の海に沈んでいたが、モノクマの一言に一気に現実に引き戻された。
「内通者がオマエラの中に紛れ込んでるって知っちゃったみたいだし、この際だから教えるね。本当は16人だけでコロシアイが始まる予定だったんだけど、1人だけコロシアイをよ〜く知っていて、みんなよりはるかに優位に立てちゃうウソツキがいるんだよね〜」
モノクマからの手痛いしっぺ返しが来た。17人目の生徒が私だと、モノクマの言葉から伝わる。
内通者を捜そうとしたのは誰だ?そうやって疑心暗鬼のタネを蒔いたのは誰だ?
「タイムリミットを設けます。2日後の夜時間になったら、殺し合いに参加させられた生徒をエグイサルで皆殺しにするよ!まぁ、さっき話した子は生き残るけどねー!うぷぷぷぷ〜」
私はモノクマにもみんなにも反応できない。このコロシアイを止めるには、モノクマをどうこうなんて、無意味で無駄なことだったんだ。必要なのは、みんな殺し合わないで済むくらい仲良しになることだったんじゃないか?だけど、今の私はみんなと絆を深めるには難しいくらい怪しい人物になってしまった。
どうしたら、みんなを生き残らせることができる?
どうしたら、みんながコロシアイを望まなくなる?
私は………どうしたい?
百田はモノクマと対決するしかねーとかどーとか言っている。無駄死にするだけだ、考えたくない。研究室は発明家とピアニストと、幸運が開いた。真っ先に私は幸運の研究室に向かった。幸運の研究室は、寄宿舎の裏側にできていた。内装はまるで、旧校舎の寄宿舎にある部屋だった。扉が閉まると同時にガチャリと重い音が鳴る。振り返り確認してみると扉には鍵がかかっていた。ドアの横には暗証番号を入力する機械が取り付けられている。混乱を置いておいて、部屋の確認をしようとするとモノクマーズが出てきた。
要約すると、この部屋は試運転中だから今はまだ難易度が低く設定されている。室内は完全防音、内側からはパスワードを入力しないと絶対に出られない。外側からは簡単に開く。以上の説明は初回特典らしい。一通り説明し終えると勝手に退場した。モノクマーズなら何故か出入りは簡単のようだ。改めて、周りを確認する。
天井からつけられたテレビに監視カメラ。鉄板が打ち付けられた窓。入り口付近に飾られた金箔の模擬刀、机の上にはメモ用紙、白いベッドにクローゼット。もう一つの扉は開かなかったが、少しずらして開けようとすると簡単に開いた。立て付けが悪かったようだ。中はシャワールームになっていて、壁には11037とかかれていた。このままにしておきたくないと思ったので汚れをシャワーの水で洗い落とす。一旦戻ってクローゼットの中を確認すると、中には何もなかった。机の中を確認すると工具セットと、もうひとつ。サバイバルナイフが存在した。咄嗟に、服の中に隠す。メモ用紙に先ほど見た5桁の数字をメモする。部屋に誰かが入って来る。ガチャリという重い音に赤松さんがドアを見つめ返していた。
ひとまず、赤松さんにこの部屋のことを伝えることにした。
「この研究室のことまだ調べきれてないからモノクマーズに確認しようと思うんだ。赤松さん、時間に余裕があれば付き合ってほしいな」
「うん、いいよ!私も少し気になる所があるし、モノクマーズと二人きりじゃ危ないと思う。私でよければ付き合うよ」
ありがとう。じゃあ、呼ぶね。と、モノクマーズを呼ぶとモノタロウが出て来た。
「監視カメラのことなんだけど、この研究室内ってあの監視カメラ以外はないんだよね」
「そうだよー。この研究室は幸運だからね、監視カメラはあのカメラと、シャワールームにあるカメラだけだよ」
「そうなんだね…ありがとう」
「私もいいかな?あの金箔の刀って、この部屋に不釣り合いだけど、あれって一体なんなの?」
「金箔の模擬刀だね。えっとね、あれは先制攻撃するための道具だよ!」
「…とくに意味はない飾りってこと?」
「い、意味はあるよー!そうだ、護身用に持って行っていいんだよ。なんたってあれで刃物をガードできるんだからね」
「そ、そっか、遠慮しとくよ…」
「質問に答えてくれてありがとう。もう帰っていいよ」
「ううん、どういたしまして!ばーいくま!」
次の日、幸運の研究室に来てみる。暗証番号は変わりないようだ。シャワールームも確認してみる。文字はない。扉が開いたと思ったら王馬がいた。昨日赤松さんに説明したことを伝える。
「ふーん。黒羽ちゃんの研究室、なかなかいい趣味してるね。でも、どこが幸運なのかさっぱりだね。なんかここって監禁部屋みたいじゃん。監視カメラまで準備されてるし、閉鎖感溢れ出てるね!」
「それには同意ですね…あ、その監視カメラなんですけど…モノクマーズに確認したのですが、幸運の研究室にはこの部屋とシャワールームにだけ監視カメラがあるみたいです」
裏を返せば、この研究室以外には監視カメラが存在するんじゃないか?王馬くんが去った後ひっそりとモノクマーズをこの研究室に呼び出す。
「モノタロウ、この研究室の外には監視カメラがあるの?」
私は私が思っている以上に、この現実から逃げ出したいらしい。
「黒羽さん!?なんでそんなところにいるの?!」
「せ、せっかくここまで自力で登れたのに…!自力で勝手に降りるんで野次馬はおかえりください!!」
「ご、ゴン太くん!」
「うん!ゴン太、ちゃんと受け止めるよ!」
「受け止めないでください!!高所から頭を打ちたいんです!ちょっと記憶喪失したいんです!」
自由時間で、最原くんと獄原くんが行動を共にしていたんだろう。思いつきで白昼堂々、失敗した。
「あはは、頭を打ちたいんならゴン太に頼めばいいのに、よくそんなとこまで登ったね〜」
「紳士は人を殴ったりしないよ!」
ふらっと1人行動をしていたらしい王馬の一言にストンと納得した。
「…あ、そうでしたね。誰かに殴って貰えば良かったんだ……すみません。おさわがせしました」
「でも黒羽ちゃんって結構思い切ったことするよね。また幸運なことがあったの?」
「いえ、特にはないですね…」
「じゃあ、キミも気づいちゃったんだね。この学園のとんでもない秘密にさ!」
「それって、王馬さん…嘘ですよね…?」
「うん!嘘だよ!ほら、ゴン太を待たせてないで降りてきなよ!早くしないと黒羽ちゃんが自殺しようとしてるって言いふらすよ?」
そういえば、と王馬くんはボソリと呟く
「最原ちゃんの位置から黒羽ちゃんのパンツみえるんじゃないの?」
私は今日ここで死のうと思う。皆殺しのタイムリミットで赤松さんと天海くんを失うというシナリオを崩そうと思考した結果がこれである。自分が第1犠牲者になればいいんだと。幸いなことに幸運の研究室でナイフを手に入れた。凶器はこれでいいだろう。幸運の研究室にはカメラが2つだけしかないという情報も、あの研究室に置かれていたメモに書きおき済みだ。事件現場は教室C。思い出しライトを作ることができる教室だ。調べ通したらライトをセットアップする機能を起動させることができた。それを放置し、教室を出入りすると、元の教室に戻っていた。探してる最中、結構散らかしていたはずなのに、不自然なほど元どおりだ。ここなら、不自然な死体を作ることができる。水を散らして実験をすると、水が無くなっていた。血が飛び散っても、元どおりになりそうだ。ただ、機能を起動させないとそうはならないらしい。セットアップ機能を起動させた散らかった教室を倉庫で見つけたカメラで写真に収める。
赤松さんが手を下す前に、何人かに声をかける。教室Cで、とんでもないものを見つけたので、9時にきて欲しい。食堂にいるメンバー、通りすがりの百田たちに急ぎ足でそれだけを告げる。全員とはいかなかったが一通り話しかけたので教室Cに入る。時刻は8時からそう経ってない。どうか、だれか。私の死体を見つけて欲しい。機能を起動させたまま、ナイフで首を思い切り引き裂く。
視界に赤が散ったかと思うと、全てが暗く、黒に塗りつぶされていった。
桃色のベストを着た、金髪の女の子。高校生だろうか。椅子に座りっぱなしの私の存在に気がつき、声を掛けようと視線を合わせる。
声を出そうとした口は、横で揺れるロッカーの音に止められる。出て来た黒い制服の男の子はすぐそばにいた女の子をみて悲鳴をあげる。
周りを見渡し、落ち着いた男の子はこちらの存在に気がつく。
混乱に乗って教室から出ていけばよかったなと少し後悔しながら彼らに視線を合わせる。
自分の記憶が抜け落ちている。昨日のこととかここに来る前とかではなく大事なこと、今までの自分のことや家族のことが思い出せないのだ。なのに明確に覚えていることがある。ダンガンロンパというゲームのことだ。頭の片隅で理解してはいけないと警報が鳴っている。この2人が、私の知る赤松楓と最原終一であってはいけないんだ。理解してしまえば戻れなくなる。戻るところなんて無いだろうな、と薄々感じながら。それでもこの現実を否定する。
私は、名前を名乗れなかった。代わりにポケット中を漁り、電子生徒手帳を取り出した。生徒の名前にひとつ見覚えが全く無いものを見つける。
「私は、黒羽緋色……超高校級の…」
「超高校級の幸運?」
声を遮るようなモノクマーズが登場する。
そうだ、何も起きる前に片付けてしまえばいいんだ。人が死んでない分、難易度は上がってないはずだ。みんな、みんなのことをよく知らないから…おかしいことも知らないから動けるんじゃないか?
マンホールの下。地下のトンネルの向こうに何があるか私は知っている。止めないのは、私と言うイレギュラーがいる中でシナリオが私の知るものと同じかどうかを確かめたいからだ。結果はシナリオ通りの赤松さんを批判するものだった。解散となったが、図書室と女子トイレ隠された場所の確認に向かう。体力がだいぶ削がれたがなんとか確認だけを終える。図書室の向こう側にある部屋を確認し終えるとさっさと女子トイレに向かう。誰にも会わなかったことに少しだけ安堵する。女子トイレの掃除用具の場所を弄るとガタリと通路が開く。存在を確認し、さっさと不気味な学園を出ることにした。
寄宿舎に入ると、女子側に私の部屋らしいところができていた。鍵をモノクマーズから受け取り、今日を終える。
モノクマーズアナウンスで目を覚ます。食堂に集合する時間に遅刻したら面倒が起きる。無理やり起きあがると身支度をして食堂に向かう。
私が最後だったようで気まずく思いながら、空いてる席に着く。はじまったのは昨日の反省会。王馬くんが責められ始めた時にモノクマが登場する。コロシアイの動機提示だ。裁判免除の初回特典。
やんややんや。百田がモノクマに立ち向かう。無謀なやりとりだ。背筋に悪寒が走る。百田を突き飛ばそうと足を踏み込んだ瞬間、靴紐が引っかかり靴が飛び…私が盛大に転んだ。次の瞬間爆発が起きる。痛みを堪えて顔を上げるとモノクマがシナリオ通りにペシャンコになっていた。
百田は黒羽に感謝しなよと言う流れになっていてどういうことなのか聞いてみると、私が飛ばした靴がエグイサルにぶつかって軌道が盛大にズレ、モノクマに攻撃が直撃したらしい。ヒヤリとした。もし私が何もしないでいたらどうなっていたかとか、自分にあるかもしれない本物の幸運とか…あまり考えたくないな。
百田には顔面を心配された。東条さんに治療されることになった。
モノクマがいなくなったからもう自由だと安心したみんなは散らばってしまった。全員に声かけしたかったが、東条さんと百田に捕まって昨日の情報を誰にも共有できないでいた。いっそこの2人だけに話してもいい気がしたので、思い切って話すことにした。
「依頼なら、その確かめたいことに私も同行させてもらうわ」
「女子トイレってマジで俺も大丈夫なのかよ」
「大丈夫です。本当に用があるのは女子トイレではないので。それに、モノクマがいなくなった今がチャンスなんです」
近代的で無機質な通路を抜けると悪趣味な部屋に出た。布に隠されたそれを睨む。ここは、生徒の中に紛れ込んだモノクマ側の生徒のための隠し部屋だ。
結果として護身用に持っていた砲丸でマザーモノクマを破壊した。入ってきた時と同様に東条さんを先頭に女子トイレを出る。具合が悪くなった黒羽に百田が付き添って女子トイレに入っていき、それを見かけた東条が追いかけて今に至る…という設定でトイレから出る。
百田と2人きりになって命を大事にと言われたので思わず言い返す。
「話が長くなるので省略しますが、初めて会った昨日よりも前から、私はあなた達に生きていて欲しいと思っているんです。
確かにそこらの女子よりヒョロいしドジも多いし話下手です。でも、覚悟はあります。私は、私の命を賭けてでもみんなをこの世界の悪意から護りたいんです」
「ふー。全くびっくらこいちゃったよ!予備がなきゃ危なかったんだから!」
次の日の朝の食堂に奴は姿を現した。モノクマ製造機となる、マザーモノクマは破壊したはずだ。あれがまさか、飾りだったのか…?私はそういえばあれがモノクマを生むところなんて見たことがない。あんなあからさまに怪しくてやばそうなやつ、黒幕にとって大して大切なものではない可能性もあったことを失念していた。マザーモノクマは辻褄合わせのための装置なんじゃ…?
電子でできた南の島に存在したワダツミインダストリアルやモノクマ製造工場を思い出す。この世界はあの電脳世界同様、モノクマが神のような存在なら、いくらモノクマの攻撃手段を取り上げても無駄なのではないか?そしてこの世界から脱出する方法は、クロとして卒業するか、最後の2人になるまで生き残ることしか、……
私は考えるのをやめた。
「俺と黒羽と東条でテメーを作る機械だってぶっ壊したはずだってのに、なんでテメーがここにいるんだよ!?」
「ほんとオマエラの中にそんなアクティブに動く生徒がいたなんて予想外だったよ!もうボクの命に代えが無くなっちゃうなんて…よくもやってくれたね!」
「ちょっとまって!百田くん、それってどういうこと?」
「あぁ、昨日の朝か。俺と黒羽と東条が、運良く隠し通路を見つけてな。そこを探索してみりゃ、悪趣味な部屋に着いたんだよ。中には複数のモニターとキモチワリー機械があって、さっき壊したっつーのはその機械だ。モノクマを量産する機械だってそいつがいうもんだからよ、俺らでガツンと一発で再起不能にしたんだ。だからモノクマが出て来ねーはずなんだ」
「ええぇい!オマエラよくもボクのマザーモノクマを破壊してくれたね…ボクは怒ったぞ!」
「なんで、そんな危険なことしちゃったの…!?モノクマからの罠かもしれないんだよ!?」
みんなが話てる間、思考の海に沈んでいたが、モノクマの一言に一気に現実に引き戻された。
「内通者がオマエラの中に紛れ込んでるって知っちゃったみたいだし、この際だから教えるね。本当は16人だけでコロシアイが始まる予定だったんだけど、1人だけコロシアイをよ〜く知っていて、みんなよりはるかに優位に立てちゃうウソツキがいるんだよね〜」
モノクマからの手痛いしっぺ返しが来た。17人目の生徒が私だと、モノクマの言葉から伝わる。
内通者を捜そうとしたのは誰だ?そうやって疑心暗鬼のタネを蒔いたのは誰だ?
「タイムリミットを設けます。2日後の夜時間になったら、殺し合いに参加させられた生徒をエグイサルで皆殺しにするよ!まぁ、さっき話した子は生き残るけどねー!うぷぷぷぷ〜」
私はモノクマにもみんなにも反応できない。このコロシアイを止めるには、モノクマをどうこうなんて、無意味で無駄なことだったんだ。必要なのは、みんな殺し合わないで済むくらい仲良しになることだったんじゃないか?だけど、今の私はみんなと絆を深めるには難しいくらい怪しい人物になってしまった。
どうしたら、みんなを生き残らせることができる?
どうしたら、みんながコロシアイを望まなくなる?
私は………どうしたい?
百田はモノクマと対決するしかねーとかどーとか言っている。無駄死にするだけだ、考えたくない。研究室は発明家とピアニストと、幸運が開いた。真っ先に私は幸運の研究室に向かった。幸運の研究室は、寄宿舎の裏側にできていた。内装はまるで、旧校舎の寄宿舎にある部屋だった。扉が閉まると同時にガチャリと重い音が鳴る。振り返り確認してみると扉には鍵がかかっていた。ドアの横には暗証番号を入力する機械が取り付けられている。混乱を置いておいて、部屋の確認をしようとするとモノクマーズが出てきた。
要約すると、この部屋は試運転中だから今はまだ難易度が低く設定されている。室内は完全防音、内側からはパスワードを入力しないと絶対に出られない。外側からは簡単に開く。以上の説明は初回特典らしい。一通り説明し終えると勝手に退場した。モノクマーズなら何故か出入りは簡単のようだ。改めて、周りを確認する。
天井からつけられたテレビに監視カメラ。鉄板が打ち付けられた窓。入り口付近に飾られた金箔の模擬刀、机の上にはメモ用紙、白いベッドにクローゼット。もう一つの扉は開かなかったが、少しずらして開けようとすると簡単に開いた。立て付けが悪かったようだ。中はシャワールームになっていて、壁には11037とかかれていた。このままにしておきたくないと思ったので汚れをシャワーの水で洗い落とす。一旦戻ってクローゼットの中を確認すると、中には何もなかった。机の中を確認すると工具セットと、もうひとつ。サバイバルナイフが存在した。咄嗟に、服の中に隠す。メモ用紙に先ほど見た5桁の数字をメモする。部屋に誰かが入って来る。ガチャリという重い音に赤松さんがドアを見つめ返していた。
ひとまず、赤松さんにこの部屋のことを伝えることにした。
「この研究室のことまだ調べきれてないからモノクマーズに確認しようと思うんだ。赤松さん、時間に余裕があれば付き合ってほしいな」
「うん、いいよ!私も少し気になる所があるし、モノクマーズと二人きりじゃ危ないと思う。私でよければ付き合うよ」
ありがとう。じゃあ、呼ぶね。と、モノクマーズを呼ぶとモノタロウが出て来た。
「監視カメラのことなんだけど、この研究室内ってあの監視カメラ以外はないんだよね」
「そうだよー。この研究室は幸運だからね、監視カメラはあのカメラと、シャワールームにあるカメラだけだよ」
「そうなんだね…ありがとう」
「私もいいかな?あの金箔の刀って、この部屋に不釣り合いだけど、あれって一体なんなの?」
「金箔の模擬刀だね。えっとね、あれは先制攻撃するための道具だよ!」
「…とくに意味はない飾りってこと?」
「い、意味はあるよー!そうだ、護身用に持って行っていいんだよ。なんたってあれで刃物をガードできるんだからね」
「そ、そっか、遠慮しとくよ…」
「質問に答えてくれてありがとう。もう帰っていいよ」
「ううん、どういたしまして!ばーいくま!」
次の日、幸運の研究室に来てみる。暗証番号は変わりないようだ。シャワールームも確認してみる。文字はない。扉が開いたと思ったら王馬がいた。昨日赤松さんに説明したことを伝える。
「ふーん。黒羽ちゃんの研究室、なかなかいい趣味してるね。でも、どこが幸運なのかさっぱりだね。なんかここって監禁部屋みたいじゃん。監視カメラまで準備されてるし、閉鎖感溢れ出てるね!」
「それには同意ですね…あ、その監視カメラなんですけど…モノクマーズに確認したのですが、幸運の研究室にはこの部屋とシャワールームにだけ監視カメラがあるみたいです」
裏を返せば、この研究室以外には監視カメラが存在するんじゃないか?王馬くんが去った後ひっそりとモノクマーズをこの研究室に呼び出す。
「モノタロウ、この研究室の外には監視カメラがあるの?」
私は私が思っている以上に、この現実から逃げ出したいらしい。
「黒羽さん!?なんでそんなところにいるの?!」
「せ、せっかくここまで自力で登れたのに…!自力で勝手に降りるんで野次馬はおかえりください!!」
「ご、ゴン太くん!」
「うん!ゴン太、ちゃんと受け止めるよ!」
「受け止めないでください!!高所から頭を打ちたいんです!ちょっと記憶喪失したいんです!」
自由時間で、最原くんと獄原くんが行動を共にしていたんだろう。思いつきで白昼堂々、失敗した。
「あはは、頭を打ちたいんならゴン太に頼めばいいのに、よくそんなとこまで登ったね〜」
「紳士は人を殴ったりしないよ!」
ふらっと1人行動をしていたらしい王馬の一言にストンと納得した。
「…あ、そうでしたね。誰かに殴って貰えば良かったんだ……すみません。おさわがせしました」
「でも黒羽ちゃんって結構思い切ったことするよね。また幸運なことがあったの?」
「いえ、特にはないですね…」
「じゃあ、キミも気づいちゃったんだね。この学園のとんでもない秘密にさ!」
「それって、王馬さん…嘘ですよね…?」
「うん!嘘だよ!ほら、ゴン太を待たせてないで降りてきなよ!早くしないと黒羽ちゃんが自殺しようとしてるって言いふらすよ?」
そういえば、と王馬くんはボソリと呟く
「最原ちゃんの位置から黒羽ちゃんのパンツみえるんじゃないの?」
私は今日ここで死のうと思う。皆殺しのタイムリミットで赤松さんと天海くんを失うというシナリオを崩そうと思考した結果がこれである。自分が第1犠牲者になればいいんだと。幸いなことに幸運の研究室でナイフを手に入れた。凶器はこれでいいだろう。幸運の研究室にはカメラが2つだけしかないという情報も、あの研究室に置かれていたメモに書きおき済みだ。事件現場は教室C。思い出しライトを作ることができる教室だ。調べ通したらライトをセットアップする機能を起動させることができた。それを放置し、教室を出入りすると、元の教室に戻っていた。探してる最中、結構散らかしていたはずなのに、不自然なほど元どおりだ。ここなら、不自然な死体を作ることができる。水を散らして実験をすると、水が無くなっていた。血が飛び散っても、元どおりになりそうだ。ただ、機能を起動させないとそうはならないらしい。セットアップ機能を起動させた散らかった教室を倉庫で見つけたカメラで写真に収める。
赤松さんが手を下す前に、何人かに声をかける。教室Cで、とんでもないものを見つけたので、9時にきて欲しい。食堂にいるメンバー、通りすがりの百田たちに急ぎ足でそれだけを告げる。全員とはいかなかったが一通り話しかけたので教室Cに入る。時刻は8時からそう経ってない。どうか、だれか。私の死体を見つけて欲しい。機能を起動させたまま、ナイフで首を思い切り引き裂く。
視界に赤が散ったかと思うと、全てが暗く、黒に塗りつぶされていった。
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