誰かの秘密
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と、いうことで。
「リラちゃんは組織の幹部役ね!! カラーコンタクト入れてしっかりメイクすればそれっぽく見えるから大丈夫よん!」
「え、私もやるんですか?」
「当たり前よ!!」
「当たり前だろう。」
リラの戸惑いは有希子だけでなく優作からも肯定されたことで遠く彼方へ押しやられた。こうなれば彼女に拒否権などない。
「いや、リラ君は下手に変装させずにそのままでいこう。味方と信じて疑っていなかった人物に裏切られる経験は中々出来るものじゃないからな。」
「あら!! いいじゃない! そうしましょ!!」
実の息子を恐怖の海に突き落とす計画をここまで楽しそうに立てる両親など、二人以外いないだろう。
リラは二人に言われるままにするしかなかった。有希子を止められるのは優作だけなのに、その優作も乗り気になってしまえば誰の手にも負えない。
何より彼女自身、計画を立てている間に段々楽しくなってきてしまったのだ。
( ごめんね、新一くん )
と心の中で謝りながら、リラは身を乗り出してこう言った。
「変装した二人が追い詰めて絶体絶命なときに、私が登場するっていうのはどうですか?」
つまり彼女は、味方が来たと思って希望を光を見た瞬間に、「実は敵でした」と地獄に堕とそうと言っているのだ。鬼である。
* * *
しんしんと雪が降り積もる冬の日のこと。
コナンはテレビの前を陣取り、コントローラーを握って格闘ゲームをしていた。その姿は小学一年生に相応しいもので、誰も工藤新一だという疑いすら持たないだろう。
「そういえばコナン君のご両親、連絡も何もないけど大丈夫なのかしら。コナン君も早くご両親のところに帰りたいよね?」
「あーー、うん」
コナンは蘭からの問いかけに生返事をした。
江戸川コナンという人物は架空のもので、その両親などいるわけがない。もしいたらそれは親を装ってコナンを誘拐しようとする誘拐犯か、江戸川コナンが工藤新一であると知った組織の者か、そのどちらかしかありえない。
だからコナンは、蘭に「コナン君のお母さんが迎えにきたよ」と言われた時、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をすることしか出来なかったのだ。
「あぁぁ〜コナンちゃん!! 待たせてごめんなさいねぇ!! 会いたかったわぁ〜!!」
そう言って一人で感動の再会をしているのはメガネをかけた小太りの女。頬擦りされているコナンは体を硬くしたまま動けなかった。
一体この女は誰なのだ。まさか組織の者に正体がバレてしまったのか。そんな不安が心を支配して冷静でいられず、物事を深く考えることができない。
「私、江戸川文代と申します。正真正銘この子の母親ですわ」
言葉とともに差し出された名刺を受け取りながら、小五郎は「はぁ」という気の抜けた返事をした。
そしてあれよあれよと言う間にコナンは文代が乗ってきた車に乗せられ、毛利探偵事務所を後にした。
毛利探偵事務所が遠くなっていく中、コナンは小学一年生とは思えない鋭さを剥き出しにして言った。
「お前は誰だ」
「あら、忘れちゃったの? 私の名前は文代。正真正銘あなたの母親よ?」
「江戸川コナンに母親なんていない!! だって江戸川コナンは…っ!!」
「存在しない架空の人物だから。……そうよね? 工藤新一君。」
「ーーーッッ!!!」
コナンは息を呑んだ。恐れていたことが現実になってしまった。
いつ、何がきっかけで正体がバレてしまったのか見当もつかない。だがこの江戸川コナンの母親を名乗る女が毛利探偵事務所を訪れた時点で、コナンに逃げ場はなくなった。
彼女が母親ではないと証明することは出来ない。江戸川コナンに母親はいないと言えば、必ず理由を聞かれる。江戸川コナンは新一が作った架空の人物だなんて口が裂けても言えない。つまり、彼女は全てわかったうえでやってきたのだ。
とはいえ、コナンもこのまま黙って車に乗っているわけにはいかない。
信号待ちのために停車した時、コナンは女の脚を蹴って無理やりアクセルを踏ませた。前に停車していた車に衝突して焦った女の意識がコナンから外れた瞬間、ドアを開けて飛び出した。
「あ! こら!!! 待ちなさい!!」
その声にコナンが立ち止まるわけもなく、喧騒の中に消えていった。
女を撒くことに成功したコナンは、彼が工藤新一であることを知る唯一の人物、阿笠に助けを求めることにした。
肌を突き刺すような寒さの中、マフラーや手袋はおろか、コートすら着ていない彼は限界に近づいていた。早く身体を温めなければ命に関わる。
辺りを窺っていると、道の向こうから阿笠が歩いてくるのが見えた。
助かった。
そう思って一歩踏み出したコナンは、背後から近付いてくる影に気付かなかった。
コナンは後ろから薬剤を染み込ませたハンカチで鼻と口を塞がれ、目的を目の前にして意識を失った。
気絶させられたコナンは空き家に連れてこられ監禁されていた。なんとか誘拐犯の目を背けることに成功し、闇の男爵ナイトバロンの仮面をつけた男とコナンの母親を名乗った女が米花ホテルで組織の者と密会をする情報を知ったコナンは、迷わず単身でそこに乗り込んだ。
不自然に切り取られた新聞紙やカレンダーから推測するに、米花ホテルの30番の駐車場。その場所にいけば、30という文字の横に小さくチョークで1が追加されていた。つまりは301号室で取引が行われるということである。
そんなこんなでやってきた3階。
別の部屋から301号室にルームサービスを頼み、その台車の影に隠れて室内に入ることに成功したコナンは、絶体絶命の危機に陥っていた。
ナイトバロンの仮面をした男に、コナンの行動が全て読まれているのだ。
男は迷わずクローゼットを開けて、そこにいたコナンを引き摺り出した。
「それで隠れたつもりか? ……出ろ。お前は俺が直々に手を下してやる。」
額に拳銃を突きつけられ、頭が真っ白になる。この男が人差し指に少し力を入れただけで己の命は消し飛ぶのだ。なんて無情で、呆気ないものだろうか。
二人には自分が工藤新一で、毛利探偵事務所に居候していたことも、阿笠の発明品の力を借りていたことも、全て知られてしまっている。考えられる限り、最悪の状態だった。
そんな時、コナンの背後の扉が開いた。皆の視線が扉を開けた人物に集まる。
「!!! コナンくん?! なに、この人たち!!」
リラは仮面を付けた男がコナンに拳銃を向けているのを見て迷わず室内に入り、コナンを庇うように抱き締めた。
「……ッ!! リラさん、逃げて!!」
必死の形相で叫ぶコナンにリラは首を傾げると「なんで逃げる必要があるの?」と言った。
コナンは聞き間違えたのかと思った。
「………ぇ?」
「私には逃げる必要なんてないの。」
リラはゾッとするほど表情を無くした顔で言う。目を見開いて固まったままのコナンの耳に顔を寄せ、そっと囁いた。
「……ねぇ? 新一くん?」
「……ッッ!!!!」
まさか、そんなはずは。
コナンの頭が真っ白になる。リラのことを疑ったことなどなかった。自分が生まれた時から知っている存在で、血の繋がりこそないが姉のような存在だったのだ。それがどうだろうか。彼女も組織の一員だったということだろう。
コナンを絶望に堕とすには充分すぎた。
「フッ、終わりだな。」
「えぇそうね。さっさと始末しましょう。」
リラは懐から拳銃を取り出すと、その冷たい銃口をコナンの額に当てた。そして慈愛に満ちた母のような顔でこう言うのだ。ーーーーーーさようなら、と。
ピコンッッ
コナンは衝撃で後ろに吹き飛び、尻餅をついた。だが不思議なことに生きている。
「???」
恐る恐る額に手を当ててそこにくっついたおもちゃの吸盤を取った時、どこからかクスクスという笑い声が聞こえてきた。
「あっははははは!! もうダメ、我慢できない!!」
「完璧に騙されててっ、あっはは!」
「???」
小太りの女とリラが腹を抱えて笑っている。コナンは数秒前までと同一人物だと思えず、さらに混乱した。
「クックックッ……まだわからないか? 私だよ、新一。」
「と、父さん?!」
ナイトバロンの仮面の下から現れたのは、工藤新一の実の父親、優作である。
「ってことは……」
「ごめんねぇ、新ちゃん。」
「母さん?!」
「じゃ、じゃあリラさんも……!!」
「演技よ、演技。まさかあんなに騙されてくれるとは思わなかったけど!」
思い出すだけで面白いのかリラは再びクスクスと笑う。
コナンにとっては笑い事でもない。本気で殺されると思い、肝を冷やしたのだ。足元から迫り上がってくる恐怖に溺れそうだったのだ。
「新一、私たちと一緒にアメリカで暮らそうか。事件は父さんたちに任せなさい。身体のことも何とかする。だから安全なアメリカで一緒に暮らそう。」
「いやだ!! これは俺の事件だ! 俺が解決する!!」
「新ちゃん……」
どうしても守りたい人がいると叫んで拒否するコナンに優作も有希子も諦めたようだった。
「じゃあ本当に申し訳ないけど、新ちゃんのことお願いね、リラちゃん。何かあったらいつでも連絡してちょうだい? 例えば彼女が出来たとか!!」
「私からも頼むよ。」
「もちろんです!! 新一くんの恋の進捗状況は特に念入りに♡」
「あら、楽しみだわん♡」
そう言って工藤夫妻はアメリカに旅立って行った。
誰かの秘密【完】