彼の秘密
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ある日の午後2時。世間一般では平日と呼ばれる今日は、大抵の大人は仕事、子どもは学校に行く日だ。だが不定期勤務の大人や彼女のように働いても働かなくてもいい人は自由気ままに過ごしているだろう。
リラはフォトスタで流行をチェックしながら次の服のデザインを考えていた。といっても、大抵は彼女が着たいと思った服をデザインするため、あまり参考にならない。
あれやこれやと考えているうちにだんだんと瞼が重くなってくる。腹が満たされれば眠くなるのは古今東西不変だ。
欠伸をして微睡んでいたとき、誰かから電話が掛かってきて一気に覚醒した。
「わっ!? ……もしもし?」
「あ、リラちゃん? 今ひま?」
挨拶もなしにこんなこと聞いてくるのは一人しかいない。リラの母の友人で二軒隣に家を構える有希子だ。リラにとっては歳の離れた姉のような存在。
にしてもだ。
こうやって有希子が突然電話をかけてくることにあまり良い予感がしない。大体は突発的に思いついたことで彼女が満足するまで振り回されるのだ。
「いえ、今は、」
「どうせお昼寝しようと思ってたんでしょう? こっちにいらっしゃい、紹介したいイケメンがいるのよぉ!!」
「こっちって、ロスですか?」
「やだ、リラちゃん!! そんなところに私が呼び出すわけないじゃな〜い!! 今日本に帰って来てるのよ! 二軒隣までいらっしゃい!」
有希子なら平気でロサンゼルスに呼びそうである。
返事を聞かずにブツッと切られた通話にリラはため息を吐きたくなった。これで行かなければ多分、いや絶対、ここに乗り込んでくる。彼女はそういう女性だ。
仕方なく起き上がって準備を始めた。
イケメンを紹介すると言われても、リラは恋人を募集しているわけでもない。彼女も気付けば27歳で、世間一般的にはそろそろ結婚を意識し始める歳なのかもしれない。だが彼女には結婚はおろか、恋人すら出来そうにない。
ーーーーーー隠し事の出来ない彼女は嫌だろう。
今まで何人かと付き合ったことはあれど、付き合ってしばらくするとどうしてもその人がいつも持ってるもの、腕時計や財布といったものの記憶を視てしまう。そして知りたくないこと知ってしまい、別れるまでが一連の流れだ。
ちなみにリラのタイプは優作のような人だ。落ち着いており、包容感たっぷりの大人な男が良い。些細なことにぎゃーぎゃー騒がず、冷静に対応する人が良い。
だが、リラも一応女である。イケメンと言われれば少しは気にするし、だらしない格好では出られない。
巨大なウォークインクローゼットからダメージ加工のネイビージーンズとロゴTシャツ、そしてスモーキーピンクのストライプシャツを取り出した。
髪は高い位置で団子にして、メイクは下地代わりの日焼け止めと、アイブロウを少し。ほぼ外国人顔だからか、しっかりメイクをしなくてもそれなりに見える。こればかりは父と母に感謝である。
「バディちょっとおでかけしてくるね」
血色がよく見えるようにピンクベージュのリップを塗り、バディに挨拶した後、財布とスマホだけ持っていざ出陣だ。
歩いて30秒の工藤邸のインターフォンに指を置いた瞬間、ドアが開いて有希子が出てきた。今か今かと待ち構えていたようだが、にしてもタイミングが良すぎる。リラの背に薄寒いものが走った。
「リラちゃんいらっしゃぁい! さ、入って入って〜!」
「有希子さん、今日も元気そうで何よりです。優作さんもお元気ですか?」
「元気じゃないわよぉ! リラちゃんが良い旦那見つけてくれたら元気になれるんだけどねぇ〜!!」
「あっはは、」
元気100倍だ。今日も有希子はパワフルである。
スリッパを履いた途端にぐいぐいと背中を押されて、ダイニングに連れて行かれた。
「おや、その方ですか」
ダイニングで紅茶を飲んでいたのは、ピンクブラウンの髪をした眼鏡の男性。目は細く見えないが、整った顔立ちをしていることはわかる。
「そーよー!! 私の妹同然の、リラちゃん!! 昴くん仲良くしてあげてね!」
「沖矢昴です。訳あってこちらのお宅に住まわせていただくことになりました。ご近所さんということになりますので、よろしくお願いします。」
「あ、ご丁寧にありがとうございます。二軒隣に住んでいます、篠宮 リラです。よろしくお願いします。」
有希子が見守る中、互いに自己紹介して頭を下げる。
立ち上がった沖矢はリラが見上げるほど背が高い。腰の位置も高く、脚もすらっとしてとてもスタイルがいい。何より上半身の鍛え方が尋常ではない。広い肩幅に、見惚れるほど逞しい胸板。見事な逆三角形が描かれている。しかし暑苦しいほどではなく、頼もしい体つきという言葉が似合う。
それにしても住むことになったとはどういうことだろうか。そんな彼女の疑問は有希子が解決した。
「昴くんは大学院生なんだけど、下宿先が火事で全焼しちゃったの」
「えぇ?! 大丈夫だったんですか?! 怪我は?!」
「幸いにも、論文に煮詰まって出掛けていまして何とも。ただ、家に置いてあった物は全て燃えてしまいまして、困っていたところに有希子さんがここに住めばいいと……」
「新ちゃんもあんまり家に帰ってないし、掃除してもらうことを引き換えにね! だからリラちゃん、彼のことよろしくね? 彼、料理全然出来ないの! リラちゃん得意でしょ?」
「確かに料理は得意ですけど……」
「じゃあ決まりね!! 週一でいいから、彼に料理教えてあげてよ!」
別に構わないが、なぜ私が。
そんな顔をしていたリラだったが、沖矢の食生活を聞いて決心した。
「朝は大抵ブラックコーヒーだけで……」
「ん?」
「昼は適当にカップ麺やクラッカーを食べるくらいで……」
「ん??」
「夜は毎晩のように晩酌していまして、そのつまみとしてナッツやチーズを……」
「んんん??!!」
病気待ったなしのとんでもない食生活である。一日に摂るべき栄養素が何も満たされていない。そんな食生活を送っていても身体に不調をきたさない辺り、流石と言える。
「じゃあ早速、今日の夕飯は二人に作ってもらおうかしら!!」
「え、」
両手を合わせて笑顔で言い放った有希子を止められる人は誰もいない。あの優作ですら振り回されてる。
「でも有希子さん、冷蔵庫に何か入ってるの?」
「あ。」
「……ですよね」
時々しか家に帰ってこない人の冷蔵庫にまともな食材が入っているがわけない。帰ってきた時はコンビニや出前で済ませていたようだ。
つまりは、買い出しからである。