彼の秘密

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コナンがその人を見つけたのは、本当に偶然だった。



せっかく組織の尻尾を掴めると思ったのに、楠田陸道は追い詰められて拳銃自殺してしまった。
しかしこちらにはまだ水無玲奈という切り札が残っている。彼女はキールというコードネームを持つ幹部。交通事故にあって未だ意識不明の状態だが、組織もFBIも彼女の目覚めを心待ちにしている。


そんな緊迫した状況の中で発生した、集団食中毒と異臭騒ぎと火事。大勢の患者が杯戸中央病院に押し寄せ、FBIが身元を確認する前に病院のロビーは患者で溢れかえった。
大声で泣く子ども、それを必死であやす母親、気が立って病院のスタッフに怒鳴る男、気分が悪く真っ青な顔で座り込む女性。誰が組織の者なのか全く判断がつかない。

しかも、いずれも一目見て症状がわからないものばかりなのだ。
食中毒は吐き気や腹痛、下痢。異臭は気分の悪さや吐き気。火事は火傷をしない限り、喉や目の痛み。顔色はメイクでどうとでもなるし、吐き気や腹痛に至っては本人にしかわからない。つまりは患者に紛れて組織の者がいてもそれを判別する手立てがないのだ。


内心苦渋を噛みながら、それでも怪しい人物がいないか探す。一度怪しいと思えば誰も彼もが怪しく見え、怪しくないと思えば皆怪しくない。そう思ってしまう脳を必死に修正し、論理的な思考で人々を選別していく。

そんな中、コナンの目は知った顔を見つけた。

( あれ、なんでラウラさんが……? )

新一とラウラは、新一が生まれた頃からの付き合いだ。彼らの母はハリウッド女優で、話が合うのか、年齢は離れていても二人は特に仲が良かった。その子どもも当然のように遊ぶことが多く、新一からすればラウラは親戚のお姉さんのような存在である。
彼女の一家が日本に移り住んできた時は、有希子がはりきって近所の土地を紹介し、知り合いが少ない日本で住むならと、彼らもそこに家を建てた。家族ぐるみの付き合いはラウラの両親が交通事故で亡くなってからも続き、新一が薬で縮むまで彼女の都合が悪かった時に愛犬バディの散歩を任されていたほどだ。

ラウラはコナンの正体を知る数少ない人物。当然組織の者であるわけがない。だからこそ、彼女がここにいるのは何か巻き込まれたためだと思ったのだ。

「あれ、ラウラさん?」
「あら、コナンくん。どうしてこんなところに?」

振り向いたラウラの顔色は青白く、疲れが滲んでいた。

「ボクはちょっと用があって……ラウラさんはどうしたの?」
「食中毒になっちゃってね、点滴受けてたの。」
「え!!! 大丈夫?!」
「今はだいぶ楽になったから大丈夫よ。」

食中毒で点滴を受けるということは、自力で水分補給が出来なくなっていたのだろう。割と重症である。

「……ところでコナンくんは一人なの? 誰か保護者の人は?」

コナンの身を心配して保護者を探す彼女は、間違いなく善人だ。

「一人じゃないよ! あのお兄さんと一緒にいるから大丈夫!」

コナンはラウラを安心させながら、自分も振り返って赤井を見た。つられてラウラもそちらを見る。
赤井とラウラの視線が交わる。すると二人は数秒見つめ合うと、互いに目を見開いたのだ。これには流石のコナンも驚いた。

( 二人は知り合いなのか…? )

コナンがその疑問をラウラにぶつけようとした時、ロビーにアナウンスが響いた。

「224番の方、3番窓口までお越しください。」
「!!! コナンくん、私呼ばれたから行くね。」

弾かれたように立ち上がるラウラにどこか違和感を覚えたが、彼女が呼ばれているのも事実。引き留めることは出来なかった。

「あ、うん。ラウラさんお大事に。」
「ありがとう。コナンくんも一人じゃ危ないからあのお兄さんと一緒にいるんだよ。」
「はーい。」

コナンはどこか慌てたように窓口に向かうラウラの背中を見送った。その目に映るのは好奇心。



コナンは赤井のもとまで戻ると、先程から壁に背を預けたまま静かにラウラを見る赤井に話しかけた。

「ねぇ赤井さん。赤井さんは、」
「彼女、名はなんという。」

コナンの言おうとしたことは赤井に遮られて全てを口にすることはできなかった。赤井にしては珍しい行動にコナンの疑惑が深まる。しかし、名前すら知らないとはどういうことなのか。二人の反応を見る限り、どこかで会ったことがあるのだろう。

「……篠宮 ラウラさんだよ。」
篠宮 ラウラ、か。彼女は昔アメリカにいたか?」
「うん。確か、7年くらい前まで。」
「そうか。……7年前といえば、君はまだ生まれていないな、ボウヤ。」

二人のことを知りたい一心で普通に答えたコナンは、赤井から思わぬカウンター攻撃を食らって焦った。新一としての記憶を思い出して7年前と当然のように口にしてしまったが、そういえば彼は今小学一年生なのだ。

「えっ?! あ、うん! ボクまだ6さいだもん!」
「ふ、そうだな。」

赤井はそれだけ言ってからまた目を瞑ってしまった。彼女との関係を自ら話す気はないらしい。しかしそれで諦めるコナンではない。

「ねぇ、赤井さん。ラウラさんと知り合いなの?」
「……いや、知り合い、というわけではない。ただ一方的に彼女のことを探していただけだ。」

赤井の脳裏にあの事件のことが浮かぶ。

ニューヨークの音楽祭で計画された銃乱射。しかしそれは計画を偶然知ってしまったという一般人女性の情報提供のおかげで犠牲者ゼロ、犯人全員逮捕という結末を迎えた。
その後の取り調べで、犯人たちは不思議なことを供述していたのだ。ーーーーーー「自分たちが計画を立てたのはアジトとして借りている一室で、漏れるはずがない」と。

赤井は犯人のアジトにも足を踏み入れたが、確かにおかしいところはなかった。盗聴器も隠しカメラも、何もない。
ではなぜ、彼女は計画を知り得たのか。それをいくら考えても答えが出ることはなかった。

しかも彼女は、赤井にだけ伝えてすぐに去っていった。まるで逃げるように。ということは、彼女にも何か知られたくないことがあるのだろう。その結論に行き着くのにあまり時間はかからなかった。

どうやって計画を知ったのか。それが知りたい。だから赤井は事件の合間に彼女を探していたのだ。

「へぇー、それはなんで?」
「昔、俺が新人だった頃、彼女に世話になったことがある。それの礼を言いたいだけだ。」

そう言う赤井の顔は到底礼を言いたい人のそれではない。僅かに口角を上げて、エメラルドを瞬かせる。何か面白いものを見つけた子どものような、それでいてハンターのような目をしていた。




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