碧を知る
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珍しく全員揃った日の朝。
私と傑は、やって来た夜蛾先生にカードサイズの紙を渡された。
「新しい生徒証だ。」
そう言われて紙を見ると、確かに私の生徒証だ。証明写真の左上には"一"の文字。
あれ?私二級じゃなかったっけ? 準一はどこ行ったの? 飛んだ? スキップ制度ありなの??
混乱しながら自分の持っている生徒証を取り出す。やはり二級だった。準一級はどこに?
「元々涼森の等級は暫定的だった。先日の任務で一級呪霊を問題なく祓えていたことから、一級に昇級となった。」
ふーん。まぁなんでもいいけど。
「おめでとう、美桜。」
「ありがと。傑もおめでとう。」
「ありがとう。実感はないけどね。」
にしても、入学してまだ数ヶ月。もう呪術師の一番上に達してしまったわけだ。
一級の上には特級というものが存在するけど、あれは例外中の例外。一級の枠に納まりきれない規格外専用の等級だ。だから通常は一級が一番上という認識で間違いない。
私が生徒証を眺めていると、横から手が伸びてきて生徒証を奪われた。
「へぇ〜。傑も美桜も一級か。」
「なんか奢ってよ。」
「お、いいねそれ。五条、私高い酒飲みたい。」
さすが硝子。高校生のくせにタバコ吸ってるだけある。ヤンキーだ。
「私は高い焼肉がいいな。」
「あ、お肉いいね! 私も食べたい!」
「はぁ!? なんで勝手に俺が全員奢ることになってんの!? 大体硝子! お前は昇級してねぇだろ!」
「硝子にだけ突っかかるってことは、私と傑はおっけーなんだね。」
「硝子だけ仲間はずれは可哀想じゃないか。」
すぐに揚げ足を取る私と傑に、悟が文句を言おうとした時、黒いオーラを纏った夜蛾先生が、いつもより低い声で告げた。
「外食するのは自由だが、わかっているとは思うがお前たちは未成年。酒は禁止だ。」
夜蛾先生に怒られた。でもそんなこと気にする私たちじゃない。その証拠に、みんなベロ出してテヘペロって感じの顔してる。怒られちゃったね、あはは、みたいな。
隠す気もない私たちに夜蛾先生の顔に青筋が浮かぶ。もう私たちに何を言っても無駄と思ったのだろう。深いため息をついてから授業を開始した。
放課後。
途中傑が任務で抜けたけど、すぐ戻ってきてその後誰も任務が入らなかった。行くなら今日がいいんじゃ? という話になり、焼肉を食べに行くことになった。
お酒は今度寮で飲もうということになった。よって今日は焼肉だけである。
私服に着替えた後、悟が暇そうな補助監督を連れてきたから、六人乗りの車で都心方面に向かう。
「どこで食べるんだい?」
「とりま銀座でいんじゃね?」
悟の言葉に、傑と硝子が顔を寄せて何かを話している。
「とりま銀座ってなんだよ。」
「坊っちゃまは銀座が庭なんじゃないかな。」
別に銀座って気軽に行けるところだと思うけどなぁ。そう思っていると、悟がどこかに電話していた。
「五条だけど、一時間後に四人行ける? もちろん個室で。....じゃあそれで。」
一分もしないで電話を切った悟は、私たちに向けて親指を立てた。予約が取れたらしい。
「どこにしたの?」
私が焼肉屋の名前を聞くと、聞いたことのある名前が返ってきた。あぁ、あそこか。行ったことあるわ。
傑と硝子が、一体どんなところに行かれるのか戦々恐々してたことなんてつゆ知らず、私の頭の中は焼肉でいっぱいだった。
銀座の高層ビル郡。キラキラした雰囲気に懐かしさを覚えながら、補助監督に指示して目の前で車を止めてもらう。
車から降りた私たちに、やってきた支配人が深々と礼をした。
「ようこそいらっしゃいました、五条様。涼森様もお久しぶりでございます。」
支配人が私にも頭を下げたことで、傑と硝子が私をバッと見たけど、気にせずに私も挨拶を返した。
「お久しぶりです。お変わりないですか?」
「えぇ。本日はお越しいただきありがとうございます。」
そんな話をしながら、一階で停止していたエレベーターに乗り込み上へ向かう。
最上階ではないものの、その数階手前で止まったエレベーターは、ゆっくりと扉を開けた。悟が慣れたように奥へ歩いていく。こうして見ると本当にお坊っちゃまだな。支配人の後に続き、私たちも奥へと案内される。
案内された個室は二十畳ほどの広さがあり、壁一面の窓からは、銀座の夜景を見下ろすことができる。四方には上品に飾られた生花がある。
さっきから傑と硝子の顔が強張りっぱなしだけど、大丈夫だろうか?
ひと足先に座ってメニューを広げる悟の隣に腰を下ろした私は、悟の見ているメニューを覗き込んだ。当然ながら値段は書いていない。ここはそういう場所だ。
「値段が書いてないって本当にあるんだね。」
「五条はまだしも美桜までこーゆー場所に慣れてることに驚いている。」
「美桜も良いところの出だからな。俺同様、家の付き合いで連れてこられてるだろ。」
「ううん、家の付き合いというか、ただ家族で外食に。」
ここで外食かよ、と声が聞こえた気がするけど、これ普通じゃないの?
「それにしても悟。本当に奢ってくれるの?」
この焼肉はグレードが高いことに比例して、値段も高い。それを四人分。ノリで決まったことだけど、本当に大丈夫だろうか。
「傑と美桜の昇級祝いだからな。今回だけだぞ。」
「「「じゃあ遠慮なく。」」」
声を揃えて言った私たち三人に、悟が叫ぶ。
「おい!! 少しは遠慮しろ!!!」
「じゃあここからここまでふた皿ずつと、あとはこの....「いや聞けよっっ!!」」
しばらくするとお肉と野菜が運ばれてきた。
それを悟が無秩序に金網に乗っけていく。どんなにお高い店だって、悟はブレなくていいね。
私もトングを持ってよくわかんないお肉を乗っけていく。店員さんの説明なんて聞いていない。美味しければそれでよし。
焼けたお肉をみんなで頬張る。数回噛むだけでとろけるように消えていくお肉。美味しい。
「うっまっっっっ」
「悟はいつもこのレベルを食べているのかい?」
「まぁ大抵こんなもんだぞ。」
「「「流石坊っちゃま。」」」
私たち三人の声が揃う。
「美桜! それはお前もだろ!? あっ! それ俺が育てた肉だぞ!?」
「今日は私と美桜の昇級祝いなのだろう?」
「....っ!」
悟が手元で大事に育てた肉を傑が掻っ攫っていって、悟が文句を言う。傑は悪びれた様子なく言い放つ。何も言えなくなった悟に、傑は笑いながらさらに肉を攫っていった。
一級になった昇級祝い。もしかしたらもう昇級なんてないかもしれない。そうなれば、最初で最後の昇級祝いだ。きっと悟もそう思ってこの焼肉を奢ってくれるのだろう。
じゃあ私もお言葉に甘えよう。使える特権は使わなければ損だ。そう思って、私も悟の育ててる肉を掻っ攫った。
「あっ! 美桜っ!!!」
個室に笑い声が響く。良い夜だった。
焼肉を堪能した後、心なしか重たくなった身体で店を出た。もちろん悟にお礼を言うことも忘れない。
「悟、ありがとう。すごい嬉しかったよ。」
「....別に。俺が特級になったら、お前ら全員になんかさせるから覚えとけ!」
「その時を楽しみにしとくよ。」
補助監督に迎えにきてもらって高専に戻る。車内が焼肉臭いのはきっと気のせいじゃない。