碧を知る
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「だぁぁ〜!!つまんねぇぇ!!」
椅子に寄っ掛かり、長い足を前にだらしなく伸ばした悟が大きな声で言った。
そんな悟に、板書していた夜蛾先生が振り返って眉間に皺を寄せる。
「うるさいぞ悟。授業中だ。」
「夜蛾センセ、これいつまでやんの?もう良くない?」
入学して数日。たかが数日、されど数日。
九時から三時までの休憩を除いた五時間。永遠と知っている内容をやらされ続けるのは想像以上に辛かった。
復習になるからいいや、なんて思ってた私も流石にしんどくて机に伏せって脱力した。
そんな私たちを見た夜蛾先生が時計を見たあと息を吐いた。
「そんな悟と涼森に免じて、午後は外で実技にしよう。階級は知っているが、お前たちの実力が知りたい。」
私と悟はバッと顔を上げて時計を見る。今は十一時。あと一時間でご飯、そしてその後は実技! それなら頑張れそうな気がする。ありがとう夜蛾先生!
お昼になり、みんなでゾロゾロと食堂へ向かう。この食堂は高専に出入りしている呪術師や補助監督なら誰でも無料という最高なシステムなのだ。営業時間に食べるのが難しい場合は、事前にメニューを伝えておけば取っておいてくれるという神対応。まさに食べ盛りの味方! 呪術師の味方!
それぞれメニューを選んで席につく。私は天ぷら蕎麦、悟は特盛カレーライス、傑は特盛カツ丼、硝子はきつねうどんだ。
悟と傑は身体が大きいからか、よく食べる。二人の前に置かれたご飯が、まるで掃除機に吸い込まれていくかのごとく口の中に入っていくのを見るのは嫌いじゃない。
大きな海老天を口いっぱいに頬張ってむふふとしていると、傑が一度箸を止めた。
「そういえば、みんな階級はいくつなんだい?」
確かに入学してからその話になったことはなかった。別に隠すものでもないし、と私は胸ポケットを漁るため一度箸を置いた。上着のボタンを開けると、男二人の目が胸に集中した気がするけど、そんなに私の階級が気になるのか?
ほい、と無造作に机に投げた生徒証には、二の文字。
「お、同じだね。」
そう言って傑が取り出した生徒証にも二の文字。あれ、入学時から二級ってすごいんじゃなかったっけ。聞き間違いかな?
ってか、
「「人相わっる。」」
私と硝子の声が重なった。
傑は片方だけ長い前髪に後ろはお団子という髪型。そして前髪から覗く切れ長の目に、拡張されたピアス。いつもはそこににこやかな笑顔が加わるから温厚そうに見えるけど、生徒証の傑は笑顔の"え"の字すらない真顔。どこの指名手配犯かと思った。
「ん?よく聞こえなかったからもう一度いいかい?」
笑っているけど笑っていない。そういう顔をしてる傑に、私と硝子は何でもないと言って麺を啜った。
私はもぐもぐしながら悟と硝子の階級を聞く。
「悟と硝子は?」
「私は四級。戦闘はからっきしなんで。」
そうだよね。硝子は反転術式使いだもん。そんな貴重な人材を戦場に出すわけがない。
悟の方を見ると、よくぞ聞いてくれた! みたいな顔で生徒証を取り出した。右手の人差し指と中指で生徒証を挟んで、それを左肩から机にシュッと滑らせる。すんごいかっこつけるじゃん。でも勢い余って裏面になったの最高。
悟がいそいそと表面を上にすると、そこにある文字は一。
「さすがー。」
「すごーい。」
「うわー、かっこいー。」
「おめぇらもっと良い反応しろっ!」
三人でうへーって感じの変顔しながら反応をしたら、悟が拗ねた。
まぁでも、
「いっぱい努力した証だよね。」
丸いサングラスの奥で目が見開かれたのがわかった。
「生まれ持った才能が八割と言われるこの世界でも、その才能を活かすか殺すかは努力次第。無下限術式なんて理論聞いても意味わかんない術式を使いこなしてここまで登ってきたのは、間違いなく悟が努力した結果だよ。」
何の縁か、ここにいる四人は皆才能に恵まれている。だけど、それに溺れているような人は一人もいない。まだ短い付き合いだけど、みんなの目がそう言っている。
なんか変な空気になったから、わざとらしく時計を見た。
「みんな後十五分しかないよ。」
そう言って私も残っていた蕎麦をすすった。
そこからは誰も喋らずに無言で食べてた。相変わらず変な空気だったけど、決して嫌な感じではなかった。
言葉には表せない一体感。そんな感じだった。
待ちに待った実技の時間だ!!
自室で制服をぽんぽこ脱ぎ捨ててベッドに放り、下着だけになる。その状態でクローゼットから真新しいジャージを取り出した。
襟元が広く開いた白いTシャツに、黒い上下。サイドには白いラインが入っていて、スタイリッシュに見える。
それに手早く着替えて、下ろしていた髪を上の方で一つに結ぶ。鏡でおかしいところがないかサッと確認した後、運動靴を履いて部屋を出た。
隣を見ると硝子も部屋を出てきたので、他愛のない話をしながら運動場に向かう。
あ、結構時間ギリギリだ。
「全員集まったな。午後は実技だ。お前たちの実力が見たい。術式なしの体術のみで手合わせしてくれ。悟と傑からだ。」
ご指名された二人は肩を回しながら離れたところへ歩いていった。
どっちも背が高くリーチも長いし、よく鍛えられている。これは相当レベルが高そうだ。
「始め!」
夜蛾先生の合図を受けても二人は向かい合ったまま動かない。お互いの出方を見ているようだ。
「来ないのかい、悟。」
「傑こそ来いよ。」
「私は挑発には乗らないタチでね。もしかして怖くて動けないのかい? 仕方ない、では私から行くとしよう。」
傑がそう言った瞬間、悟の額に青筋が浮かんだのがわかった。そのまま傑に突っ込んでいく。 挑発されてるってわかってないのかな? 単細胞すぎない?
呆れを通り越してもはや心配になった私をよそに、悟と傑が激しい組み手をしている。
悟の右手の拳を傑は左手で受け止め、そのまま悟に蹴りを入れようとする。それを悟は足で受け止めるというように、力が拮抗しているようだ。お互いに一歩も譲らない。
それがものすごい速さで行われている。きっと一般人には見ることができないだろう。
「傑の術式って呪霊操術だよね? なんであんな体術出来るの?」
「そーいえばそうじゃん。ゴリラかよ。」
硝子がゴリラって言った瞬間傑がこっちを向いたけど、すぐに悟に隙をつかれそうになって向き直してた。その姿に硝子と笑う。
しばらく組み手をした後、互いに距離を取って硬直状態になった。あれだけ激しい動きをしていながら、二人とも息が乱れていない。
「ジレったくね?」
「奇遇だね悟。私もそう思っていたところだよ。」
傑がそう言った瞬間、悟は右手の人差し指と中指をクロスさせ、傑は手のひらを上に向けた。そこから傑が調伏しているであろう呪霊が現れる。未登録の呪霊の出現により、高専のアラートが鳴り響く。
「悟!! 傑!!」
すぐに夜蛾先生の怒声が飛ぶも、聞こえてないかのようにそのまま続ける二人に苦笑いするが、すぐに初めて見る無下限術式と呪霊操術に釘付けになった。
見る限り、無下限術式を発動している時は触れることが出来ないらしい。その無限をどうにかしないと詰みだ。そして無限をどうにか出来たとしても、中身は体術の鬼。無理じゃん。
一方、呪霊操術は手札が多く、個々は弱かったとしても数の暴力で押し切られそうだ。対式神遣いの定石である術師を狙えば、体術がゴリラという事実。こっちも無理じゃん。
「センセー、私非戦闘員なんですけどー。」
硝子が夜蛾先生に"非戦闘員だからこいつらと組み手したくない"アピールをする。最もすぎる。私ですらちょっと引くレベルだ。非戦闘員からしたらとんでもないだろう。
「いいだろう。家入、お前は組み手なしだ。」
夜蛾先生から許可が出た途端、硝子が思いっきりガッツポーズをする。もうちょっと隠しなさい。
「セン「お前はやれ、涼森。」」
ひどい。まだ全部言ってないのに却下された。
「そこまでだ!」
夜蛾先生の一言で二人の動きが止まった。二人とも術式を解除する。
「呪霊操術って結構うざってぇな。雑魚が湧いてきてイラつく。」
「無下限術式は触れないだけじゃないだろう? 次を楽しみにしておくよ。」
二人の目からバチバチした雷のようなものが飛んでいるように見えるけど、気のせいかな。
次は私の番である。マジでやりたくない。コワイヨォ。
「ねぇ、術式使っていい?」
私体術だけじゃ訓練で死にそうなんだけど。私がそう言うと、悟は余裕そうな表情でかかって来いやとばかりに指をクイクイとやった。
それを見た私は、ジャージのチャックを胸の下まで下ろすと、胸元まで大きく開いたTシャツの襟から自分の谷間に手を入れた。
「お前どこに手入れてんだよ!!!」
悟がギョッとしたように目を見開いてるのが面白い。でも目線はしっかり谷間にあるのも最高に面白い。
仕方ないじゃん。ここからじゃないと大きいのは取り出せないのよ。
私は手に呪力を纏い、そのまま肌に指を突き立てた。肌は傷付くことなく手を受け入れる。私はある神器を思い浮かべると、指に何か触れた。それを掴んで谷間からゆっくりと手を引き抜くと、その手には一本の
「....
天叢雲剣。それは
しかしこの剣はあくまでも呪力を吸収するだけであって、呪霊を祓うのには向いていない。呪霊操術を使う傑の場合、呪霊をこの剣で祓っても他の呪具と違いはないが、傑本人にこの剣を近付けると、そこから呪力が吸収されるというわけだ。
「その剣すっげー嫌な感じがするんだけど。」
悟が丸いサングラスの奥で観察するように天叢雲剣を見ている。
私は思いっきり足を踏み込むと、一気に悟と距離を詰めた。その勢いのまま、上から剣を振りかざす。悟は直前までかわさず無下限術式で受けようとしたらしいが、呪力が吸われて術式を乱されたことがわかったのだろう。碧い目を見開くと、すぐに身体を翻し剣を躱した。否、躱そうとしたが躱しきれなかったようだ。悟の腕に一筋の赤が走る。
「....呪力吸うのか?」
「そうだよー。悟との相性バッチリでしょ。」
「美桜さ、うん百年ぶりの六眼と無下限術式の掛け合わせの俺に傷を負わせることがどーゆーことかわかってんの?」
急に真面目なトーンで聞いてくるから、ちょっとびっくりして私も理由を真剣に考える。
....あ、わかったかも。
「傷が残ったら嫁にもらってあげるから安心して。」
「そーだよ、俺を殺せそうだって呪詛師から狙われ....。は??」
ブフッと誰かが吹き出す音が聞こえた。悟はぽかんとしてる。
「お嫁にもらってくれるんだって。よかったな、さと子。」
傑が笑いながら悟に声をかける。さと子って悟の女版か。硝子は隣でヒーヒー言って笑ってる。
「上等だ。美桜に傷が残ったら俺が貰ってやるから安心しろ。」
「あら、それは嬉しいわ。よろしくね。」
そう言ってからまた足を踏み込んだ。先程と同じように上から剣を振りかざすと、悟は避けずに腕で受けた。しかし腕は傷付いていない。なるほど、無下限を一点に集中させて厚くしたのか。上手いな。じゃあこれならどうかな。
私は腕の皮膚から呪力で短剣を作り、悟に放つ。悟は咄嗟に無下限で受け止めるも、集中が乱れたのだろう。天叢雲剣を受け止めていた無下限が薄くなり、腕に傷がついた。チッと舌打ちをした悟は一度私と距離を取った。
「谷間からしか出せねぇんじゃねぇの!?」
「誰もそんなこと言ってないよ〜。大きいのはここからしか出せないだけ。ちなみに今のは私の呪力で作っただけだからどこからでもおっけ。」
このまま押し切ろう。そう思ってすぐに距離を詰めた。
体術でも素手で受けるとそこから武器が出てくる。かといって無下限を全身に纏うと剣が呪力を吸い取って綻びが生じる。悟にとってはさぞかしやりにくいだろう。
「そこまでだ!」
せっかく楽しくなってきたところだったのに、夜蛾先生のストップが入った。全身に細かい傷がある悟と、ほぼ無傷な私。
「勝った。」
「勝ってねぇよ!! 美桜なんか蒼使えば一瞬だからな!?」
「じゃあ使えば良いじゃない。」
「....まだ練習中なんだよ。」
今のところ私の術式が悟に有利だから勝てたけど、今後はどうなるかわからないなぁ。悟が言っている蒼が完成した場合、近付けなさそう。
それに私は傑みたいなタイプには弱いからなぁ。呪霊を片付けている間に本体のゴリラきたら詰む。要は相性だよね。
硝子に傷を治してもらう。私のはほぼ打撲だけだったから、すぐに終わった。
悟は全身に細かい傷があるから、少し時間がかかるみたい。その様子を目の前でしゃがんで観察する。どんどん治っていく傷に、ちょっと残念に思っている自分がいて驚いた。
「傷、治っちゃったね....。」
「さと子を嫁にもらえなくて残念だね。」
「ほんとそれ。さと子欲しかったのに〜。」
「お前らマジで覚えとけよ....っ!!」
傑と一緒にふざけていると、悟がすぐにムキになって反応するから面白い。
さと子が私のものになるまであと何年かな?