碧を知る
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無事恋人という関係になった私と悟は、授業と任務の合間に都心の方に行ってショッピングしたり、カフェで美味しいものを食べたり、どちらかの部屋でダラダラ過ごしたり、恋人らしいことをしてきた。
しかし、悟は私が「誕生日プレゼントに悟が欲しい」と言ったこともあってか、キスはしてもそれより先に進もうとはしなかった。律儀かよ。
私はそれをちょっと残念に思いながら、今日を迎えた。
今日は11月7日。私の誕生日だ。今日、私は悟を貰うのだ! といってもデートした後になるので今すぐというわけではない。
私はブラウンのタイトスカートとホワイトのタートルネックのニットをクローゼットから取り出し、ベッドに放り投げた。靴はお気に入りのショートブーツ。バッグは今日誕生日プレゼントとして実家から届いたブラックのシンプルなショルダーバッグ。金色のチェーンがアクセントになっていて、なんでも合わせられる物だ。中は三次元ポケットになっているみたいだから、荷物の量を気にしなくても大丈夫。最高。お母さんありがとう。
いつもはしないけど、今日くらいメイクをしよう。そう思いメイク道具を広げて、下地を手に取った。パウダーを塗ってアイシャドウをのせ、「睫毛が密集しすぎて隙間なんてないんだけど」なんて独り言を言いながらアイラインを引く。元々上に上がっている睫毛にマスカラ塗って、良い感じの色のリップを塗れば完成。鏡にはいつもより華やかな自分の顔が映っている。
好きな人のためにあれこれ考えるのってどうしてこんなに楽しいんだろうね?
寒くなりそうだから、ブラウンチェックのチェスターコートを羽織ってから部屋を出た。
デート感を味わいたいという私の希望で、同じ場所に住んでいるけど新宿で待ち合わせをしているのだ。
私は暇そうな補助監督に新宿まで送ってもらうと、待ち合わせ場所に向かった。
携帯をいじりながら時折辺りを見回して悟を探していると、"そこまでかっこよくないくせに俺かっこいいって思ってる系"の男二人に話しかけられた。
「ねぇお姉さん、いま暇? 誰かと待ち合わせしてんの〜?」
「相手来るまでそこでお茶しない??」
私はそちらをチラリとも見ずに携帯で兄へのメールを打ち込み続ける。誕生日プレゼントもらったからね。お礼言わなきゃ。
「よく見ればお姉さんすっごい良い身体してる〜!」
「俺らなら天国連れて行ってあげるよ?」
全身を舐めるように見られれば流石に気分が悪い。私は露骨に顔を歪めると、こいつらのプライドをボロボロにへし折ってやろうと口を開きかけた。
「へぇ、じゃあ俺がお前らを天国に送ってやるよ。」
その言葉と同時に後ろから抱き締められた。背中に感じる大きな温もり。上から降ってくる腰に響くテノール。悟だ。
190cm越えの身長に白い髪、サングラスかけためちゃくちゃイケメンの男が現れたら、そりゃあ並みの男では太刀打ちできない。案の定、男二人は縮こまって怯えていた。
「ま、待ち合わせなら言えよっ。」
「けっ、今日は引くぞ。」
小物感丸出しの捨て台詞を吐いて去っていった二人の後ろ姿に、悟と噴き出した。
ひとしきり笑った後、悟が私の全身を見る。さっきの男たちとは違って、悟に舐め回されるように見られても、もはや実際に舐め回されても構わない。喜びすら感じる。
「今度から待ち合わせなしね。」
「え〜。」
「俺が心配だから。今日めっちゃ可愛い。似合ってる。」
「ふふ、ありがとう。悟もかっこいい。流石私の彼氏。」
悟はシンプルなブラックパンツにホワイトのタートルネックニット、ブラックのロングコートを着ている。全体的にシンプルだけど、それが悟のスタイルの良さを引き立てている。首にかかったゴールドのネックレスがコーデに華を添えてて控えめに言ってめっちゃかっこいい。
「美桜、誕生日おめでとう。」
「ありがとう。」
「メインはあとでな。」
悟に耳元で囁かれて顔が熱くなった。確かに自分からリクエストしたと言えばそうなんだけども。まさか本当にくれると思わないじゃない?
悟に左手を差し出されたから、自分の右手を重ねた。すぐに指の間に悟の指が入る。いわゆる恋人繋ぎだ。私の手も大きい方だとは思うけど、やはり手の大きさはある程度身長に比例するのだろうか。私の手をすっぽりと覆う手に安心感を覚える。
私たちは電車を乗り継ぎ、水族館へ向かった。
当然のように私のチケットも購入してくれた悟にちゃんとお礼を言う。親しき仲にも礼儀ありだからね。
「チケットありがとう。」
「どーいたしまして。どこから行く?」
チケットと共にもらった館内地図を二人で覗き込む。イルカとアシカのショーは観たいから、それをベースに回ることにした。
館内に足を踏み入れれば、薄暗い空間にいくつもの水槽が置かれていた。悟と一緒に一つずつ見ていく。
悟は初めての水族館のようで、さっきから早く見たくて私の手を引っ張っている。そんな急がなくても魚は逃げないよ。そう笑いながら一歩を踏み出した。
二人してどこに魚がいるのか分からず、覗き込んで必死に探したり、水槽の側面を指でなぞったら魚が群がってきたり、子どもみたいなことをして楽しんだ。
中でも悟はチンアナゴにハマったようで、チンアナゴの水槽の前から動こうとしない。後でチンアナゴのグッズを買ってあげよう。私は水槽に張り付くようにチンアナゴを見つめる悟の横顔を見ながらそんなことを考えた。
気付けばショーの時間が迫っていた。ショーは早く行って席を取らなければ良いところで観れないのだ。悟と急いで会場に行けば、早めに入れたのか前の方の席に座ることができた。
スタッフさんにレインコートを渡され、悟が首をかしげる。
「?? なんでレインコート??」
「イルカショーってね、イルカが水を飛ばしてきたりするからすっごい濡れるの。」
「....マジ?」
悟は驚いたようにサングラスを奥の目を見開いている。私はレインコートを服の上からしっかりと着ると、悟にも着用を促した。よし、これならバレない。
「悟、無下限で防いでね。」
「....了解。」
二人分だからちょっと疲れるかもだけど、濡れたくないじゃない? 頑張ってね、彼氏さん。
そうして始まったイルカとアシカのショーは、水族館が初めての悟にとっては驚きの連続だったようだ。珍しくサングラスを取って食い入るように観ている。私がそんな悟を写真に撮っても気付かないくらい楽しんでいた。
「それではここで皆様に大サービスでーす!! 飛沫が少し飛びますので前方のお客様はご注意くださーい!」
「....! 悟!!」
「おっけー任せろ!」
アシスタントの言葉に、水が飛ばされると思った私は悟に無下限を使うように言外に指示する。
悟が無下限を自分と私に纏わせながら、私に顔を近づけて「少しって言ってるぜ?」と言ってきた。私が「少しなわけないじゃない!」と言い返した途端、イルカが尾びれを使ってものすごい量の水を飛ばしてきた。悟は目を見開いて固まった後、お腹を抱えてゲラゲラ笑い出した。私もおかしくて一緒に笑った。
周りの人がキャーキャー言っている中、私と悟だけは全く濡れずにゲラゲラ笑ってて、それがまたおかしくてお腹が痛くなるほど笑った。
「あー、すっげぇ笑った。」
「少しどころじゃなかったでしょ??」
「あれはモロに食らったらやべぇわ。」
出口で全く濡れていないレインコートを返却しながらそんな話をする。レインコートを脱ぐために一度は離れた手が、またすぐに自然と繋がれるのが嬉しい。
時計を見れば13時。まだご飯を食べていないからご飯にすることにした。目についたレストランに入ってメニューを選ぶ。
「俺大盛りオムライス。美桜は?」
「私エビフライ食べたいからこれにする。」
私が指差したのはハンバーグとエビフライのセット。悟がちょっと引いたような目を私に向ける。なによ。
「....水族館でよく魚介類食おうと思えるな。」
「別よ、別。あれはあれ、これはこれ。さっき泳いでたエビを揚げるわけじゃないんだから。」
しばらくして運ばれてきたエビフライにかぶり付く。身がぷりっぷりで美味しい。悟が私を見てるからエビフライが欲しいのかと思って「食べる?」って言ったら「いらね」って言われた。美味しいのにもったいない。
でも私は悟のオムライスもちょっと食べたい。そう思っていたら、私の目の前にオムライスの乗ったスプーンが差し出された。当たり前のように口に入れる。あ、これも美味しい。
「ん、ありがと。よくわかったね?」
「んな欲しそうな目で見つめられればな。」
そんな目で見てたかなぁ? えへへ。
デザートまでしっかり食べた後は、お土産ショップを物色する。
「悟、チンアナゴあるよ。」
「....!」
悟はどれにするか悩んだ後、白に黒い斑模様の一番小さいキーホルダーをカゴに入れてて笑った。どんだけ気に入ったのよ。なんとなくお揃いのものが欲しくて、私も白とオレンジの縞々模様のものをカゴに入れた。
水族館を出た私と悟は、電車に乗って箱根までやってきた。今日はここで明日の夕方までゆっくり過ごす予定だ。
11月になり気温が低くなってきたからか、だいぶ色づいていた。悟に案内されて旅館を見た瞬間、びっくりして隣にいる悟の顔を見た。
「待って、すっごい良いところじゃない?」
「美桜の誕生日だからな。良いところにした。」
和モダンテイストの新しい旅館。ロビーで悟が名乗れば、「お待ちしておりました」とすぐに案内された。
仲居さんの後ろをついていくと、本館を抜けて離れに案内された。周りが砂利になっている道の向こうに平屋の建物が見える。あれが離れだろう。あまりのクオリティの高さに、一体いくらしたのか怖くなった。
設備や食事の説明をした仲居さんが去っていく。私は悟に抱きついた。
「ありがとう!! すっごい良いところ!! ほんと嬉しい!」
「美桜の誕生日だからな。ちなみに全部俺が稼いだ金だからな。五条の金は使ってねぇ。」
悟は自分自身で稼いだお金でここに連れてきてくれたらしい。嬉しすぎる。そしてちょっとドヤ顔してるのかわいい。
私は悟の手を引いて部屋を見ていった。炬燵に座椅子、一段高くなった場所に並ぶ二つのクイーンサイズのベッド。そしてなんと言っても露天風呂!!
広々とした庭にはもみじや楓が植えられていて、見事なまでに紅葉している。赤オレンジ黄色といった色合いの景色を見ながら檜の露天風呂に浸かれるのだ。最高。
ここの露天風呂もいいけど、大浴場の露天風呂も入りたい。部屋の露天風呂はいつでも入れるから、大浴場の方を一回行ってみよう。
ということで、悟と着替えを持ってやってきたのは大浴場。暖簾の前で悟と分かれてそれぞれの色の暖簾をくぐる。
脱衣所で何の恥じらいもなく服を脱げば、他の利用者からの視線を感じた。
我ながら見事な身体だと思う。白い肌に、遂にFカップになってしまった胸。お腹は無駄な脂肪なんて一切なく、縦に線が入っている。お尻はキュッと上に上がっているし、脚は文句なしの長さと細さだ。
私は身体を隠すようのタオル一枚と腕に髪ゴムをつけて浴室の扉を開けた。
浴室特有のもわんとした湿った空気が肌にまとわりつく。空いているブースで身体を入念に洗う。これから悟に抱かれるのだ。そう思いながら隅々まで磨き上げた。
当然ながら外にある露天風呂の扉を開ければ、途端に入り込んでくる冷たい空気。いくら陽が沈んでいないとはいえ、11月の空気は流石に寒い。私は身体を縮こませながら、一番近くにあった露天風呂に入った。
少し熱めのお湯が一気に冷えた身体を温め直す。
「....あ〜。」
情けない声が口から漏れた。仕方ないよね。お風呂入ると口から感嘆の声というか、力が抜ける声というか、何か出てしまうのは仕方ないことだ。誰に言い訳しているのかわからないけど、そんなことをボーッと思う。
(悟もあっち側にいるのかな....)
男女を隔てている高い壁を見ながら悟のことを考えた。御三家の一角の五条家の嫡男で、うん百年ぶりの六眼と無下限術式の抱き合わせの天才児。もうこれだけですごい存在なのに、さらにあの容姿と性格。強烈だよね。でもまぁ、私もあまり人のことは言えないかもしれない。
うん百年ぶりの先祖返りの神器遣い。実家は呪具職人として栄える涼森家で、兄二人は特級呪具職人。容姿も自分で言っちゃうけど良いし、性格は....うーん。仲間は大事にするかな。どうでも良いって思った人は本当にどうでも良いから何もしない。助けられたら助けるけど、無理そうだったら自分優先。ある意味取捨選択が最適になされているのかな。
そう考えると私たちって相当お似合いなのでは? なんて考えて頬が熱くなった。
私は湯船から出るとのろのろ脱衣所に向かった。色々考えてたらのぼせた。物理的に頬が熱くなった。
部屋にあった浴衣をピッシリと着る。一応由緒正しい家出身だから、浴衣の着方もバッチリだ。備え付けのスキンケアを適当に顔に塗ったくって、髪も適当にドライヤーで乾かす。基本適当なんだよねぇ私。
荷物を持って女湯を出ようとすれば、きゃーきゃーと女の甲高い声が聞こえて察した。悟囲まれてるな。暖簾のくぐれば案の定囲まれている悟。でもその顔が心底嫌そうなもので思わず噴き出した。
「遅えよ。」
「ごめんごめん。」
周りの女には見向きもせず、私を見つけた瞬間こちらに歩いてくる悟。女たちが私を上から下まで見た後、悔しそうに顔を歪ませるのが愉快だ。
私はそんな女たちを鼻であしらってから、悟と手を繋いで離れへと戻った。
夕食の時間まであと三十分ほど。意外と時間が経つのが早い。三十分じゃどこも行けないし何も出来ないため、私はベッドにうつ伏せに寝っ転がって携帯をいじっていた。
さっき撮ったばかりの写真を見返していると笑いが込み上げてくる。特にショーの最中に撮った写真は、見た瞬間お気に入りになった。キラキラとした目、少し上がった口角、無意識に開いた口。普段の悟からは想像できない、何かに夢中になる小学生のような表情だ。
そうやって思い出に浸っていると、悟が私の隣に寝っ転がってきた。私の携帯を覗き込むように顔を近付けるから、悟にも見やすいように携帯の角度を調節する。
「お、これ俺にも送って。」
「いいよ。赤外線で送るね。」
悟も何枚か写真が欲しいみたいだから、送ってあげた。ついでに私のお気に入りのも送っておいた。
悟は自分でも見たことがない表情を写している写真に目を見開いた。
「....俺こんな顔してたの?」
「そうだよ。かわいいでしょ。」
私がかわいいって言ったことに少しムッとする悟も可愛い。そう思っていたら、悟は自分の携帯をサイドテーブルに置くと、私の肩に左腕を回してきた。そしてその腕で私の顔を自分の方に向かせる。
悟の芸術品のように整った顔が私の視界を埋め尽くす。少しずつ迫る碧に、抵抗することなく目を閉じた。
ちゅっ
短いキスだった。すぐに離れた熱が寂しくて、目を開ければ近過ぎてボヤけている綺麗な碧。その碧から目が離せなくなってジッと見ていれば、再び唇に熱を感じた。自然に私の瞼が下がる。
何度も短いキスをしていたら、唇を舐められた。口を開けろと言わんばかりのそれに、もはや条件反射で口を薄く開けば、遠慮なく入ってくる悟の舌。ぬるりとした舌は私の舌を掻っ攫っていくと、舌で愛撫するように動かし始めた。
「んん....はぁ....んっ.......。」
唇の間から自分のものじゃないと信じたい声が漏れる。
この深いキスももう何度もしているけど、毎回気持ち良くて訳がわからなくなってしまう。悟のことしか考えられなくて、身体の力が抜けていく。その証拠に、持っていた携帯が力なくベッドに落ちたことすら気付かなかった。
私の顔に触れていた左手が、肩から背中、腰、お尻を優しく撫でるように触れていく。布一枚挟んだそれすら気持ち良くて、腰がビクビクと反応する。
「....っん......はぁ、はぁ....。」
ようやく唇が解放されて、私だけの荒い呼吸音が部屋に響く。繋がった銀色の糸すらえっちで、それを悟が真っ赤な舌で舐めとるからさらにえっちだ。
あぁ、このまま抱かれる。
そう思った時、部屋にインターホンの音が響いて二人とも目を丸くした。まん丸の碧とまん丸の翡翠で数瞬見つめ合うと、どちらかともなく噴き出した。
「タイミング良すぎね?」
「あっはははは!!」
膨らみかけていた欲望に水を差された私たちは、笑いながらインターホンの応答ボタンを押した。
天ぷらにしゃぶしゃぶセット、何種類ものおかずが入った小鉢に、寿司。炬燵の上に次々と並べられていく料理に、私の目が輝きを増していく。
仲居さんが料理の説明をしてくれているけど、右から左へ流れていく。仲居さんが退室すれば、もう私と悟のターンだ!!
「「いただきます!!」」
私は箸を持ってオクラの天ぷらに齧り付いた。サクッという衣の音がした後に新鮮なオクラの味がする。美味しい。
先程水を差されたことなんて忘れて目の前の料理を食べ続ける。
デザートまでしっかり食べて、仲居さんに食器を下げて貰えば、チェックアウトまでこちらが呼ばない限り二人きりだ。そのことに今更心臓が早く鼓動する。
なんだか悟の顔を見れなくて、カウチに座ってライトアップされている庭を観察した。あのもみじすごい赤くなってるとか、あのミツカエデが黄色くていいとか、そんなどうでもいいことで頭を埋める。じゃないと悟のことでいっぱいになりそうだったから。
でも、そんな私の悪足掻きも、悟の行動一つで無駄になった。
「....美桜。」
悟はカウチに座る私の後ろから、首に抱き着くように腕を回してきた。そして耳元で囁かれれば、もう私になす術はない。
「ベッド行くか?」
「....ぅん。」
頷けば、さも当然のように横抱きにされてベッドに運ばれた。