碧を知る
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今日の授業も長かった。夜蛾先生が教室を出た瞬間にぐでんと机に倒れ込む私を傑がクスクスと笑う。硝子も足を伸ばして椅子にもたれ掛かっている。悟は任務でいないから、今は三人だ。
「美桜は悟のことをどう思っているんだい?」
「それ私も気になる。」
何の脈絡もなく唐突にぶち込まれた話題に目が点になった。え、今? しかも硝子めっちゃ身を乗り出してるじゃん!? すごい食い気味!!
「....答えなきゃいけないの?」
「別に答えたくないならいいよ?」
傑の言葉に、彼を拝みたくなったがすぐにその気持ちは消え失せた。
「まぁ、答えたくないなら無理やり聞き出すまで。」
「あー、そーいえばまだ酒残ってたなぁ。」
間違いない。私にお酒を飲ませて無理に聞き出すつもりだ。有る事無い事全部しゃべりそうだからそれだけは勘弁。
「....好きだよ。」
「それは友だちとして?」
「ううん。ラブの方。」
「五条も同じ気持ちだと思うけど、告白しないの?」
「今の状況が楽しくてさ。」
私がニヤリと笑いながらそう言うと、傑と硝子は何のことかわからなかったようで首を傾げた。
「私ね、この前悟に"お前のこと落としてやる宣言"されたの。」
「「ぶふっ」」
傑と硝子が吹き出した。私の言いたいことがわかったのだろう。
「それは最高だ。悟は美桜が既に落ちてることを知らずに落とそうとしてるわけか。」
「五条遊ばれてんじゃん。ウケる。」
「別に遊んでるわけじゃないよ? 楽しいなぁって思ってるだけで。」
「「それを遊んでるって言うんだよ。」」
「....でも最近、先に進みたい気持ちが出てきちゃって困ってる。」
悟のことを好きだと自覚してから、常にあった気持ちだ。
最近悟のふとした仕草であれやこれや妄想してしまう自分がいるのだ。あの手はどうやって私の頭を撫ででくれるのだろうかとか、あの広い胸に抱き締めらたらどんなだろうとか、あの唇でどんなキスを....とか!!
そんな話をしてすぐ、先に進むことになるなんて夢にも思わなかった。
+ + +
傑と硝子とそんな話をしてから数日後。二人が任務で不在で、教室には私と悟だけだった。寒くなってきたため放課後に鍛錬する気にもなれず、かと言って部屋に戻ってしたいこともない。私が携帯で兄からのメールに返信していると、椅子にだらんともたれながら悟がこっちを見てきた。憎たらしいくらい長い脚をこれでもかというほど前に伸ばしている。
「なぁ、美桜。」
「ん〜?」
「....お前誕生日プレゼント何欲しい?」
「硝子から聞いたの?」
「おう。」
そういえば先日硝子と誕生日の話をした。私の誕生日が来月で硝子にリクエストを聞かれたのだ。まだこの答えを伝えてなかった。言わなきゃ。
「欲しいものか〜。ん〜....。」
顎に指を当てて考える。欲しいもの、欲しいもの....。大抵は自分で買えるのだ。任務で入ったお金はたっぷりある。そこら辺の高校生の数十倍はお金持ちだ。どうせならお金で買えないものが欲しい。....あ、思い付いたけど、これ言ったら悟はどんな反応するかな。ふふっ。
私は携帯を置いて机に両肘をつき、その上に顎を乗せた。悟の方を見て、上目遣いで口を開いた。悟の反応が楽しみで仕方がない。
「悟が欲しい。」
「....は?」
「だから、悟が欲しいの。」
さて、どんな反応するかな? 「お前にはやんねーよ」って言うかな、それとも「馬鹿にすんな」って怒るかな? 私は悟の反応が楽しみで仕方がない。
悟は困ったようにその白い頭をガシガシと乱暴に掻いている。その手をそのまま首の後ろに置くと、言いづらそうに口を開いた。
「いいよ。やるよ。」
「....は?」
今度は私がその音を発する番だった。今「やるよ」って言わなかった? どゆこと??
悟は立ち上がって私に近付いてきた。190を超える巨人と座っている私。首が痛い。悟は戸惑う私と目を合わせるようにしゃがみ込んだ。澄んだ碧い瞳に私の間抜けな顔が映り込む。
「美桜、好きだ。」
「....へ?」
まさかこのタイミングで告白されると思ってなかった私は、頭が真っ白になった。待って、心の準備何も出来てない!!
「美桜のこと、護りたいし、俺のものにしたい。だから美桜の誕生日にリクエスト通り俺をあげるから、美桜は俺のものになって。」
「....。」
それ私も悟にプレゼントしてない? まぁいいけどさ。
悟は何も言わない私に焦れたように顔を近づけて来た。鼻と鼻がぶつかりそうな距離で見つめられる。
「返事は?」
「....ばか。私も好き。」
いつもの悟なら「馬鹿は余計だろ!?」って騒ぎ出すのに、こんな時に限ってそんなことはなくて、悟の真剣さをヒシヒシと感じた。
私は悟の碧い目を見てられなくなって、目を逸らした。すると目に入ったのは悟の唇。なんだかイケナイ気分になりそうで、唇からも目を逸らしたら、また悟と目があった。それをどう受け取ったのか知らないけど、悟は私の後頭部に手を回すと、目を閉じて顔を近付けてきた。私も目を閉じてそれを受け入れる。
ちゅっ
初めての口付けは、短いけど青春の甘さを充分に含んだものだった。
私が目を開けると視界いっぱいに広がる碧。また目を閉じると、再び唇に熱が触れた。角度を変えて何度も啄むようにキスされる。その度にほんわかとした感情が胸に広がる。あぁ、私今幸せなんだ。
夕陽が差し込む放課後の教室。誰もいないその場所で何度もキスをする私たち。背徳感溢れる青春の光景だった。
+ + +
傑と硝子が任務でいない日の放課後。教室で美桜と二人きりになった。この前硝子に美桜の誕生日が来月だということを聞いた。きっと硝子には俺の気持ちなんて筒抜けなんだろう。あ、傑もか。最近二人して俺のことをニヤニヤして見てくる。
悔しいけどありがたい情報だった。でも美桜が何欲しいかなんてわかるはずもなく。ググったりしたけど、どれもピンと来なかった。だから俺は美桜に直接聞いてみることにした。その方が確実だし、本人の希望のものをあげたいから。
俺は意を決して携帯をいじる美桜の方を見た。
「なぁ、美桜。」
「ん〜?」
「....お前誕生日プレゼント何欲しい?」
「硝子から聞いたの?」
「おう。」
美桜は欲しいものがパッと思い付かないようで考える素振りを見せる。何を言われても五条家に賭けて準備してみせる。
「欲しいものか〜。ん〜....。」
美桜は顎に指を当てて考えていたが、何か思い付いたようで顔を明るくした。しかし、どこか悪戯っ子のような表情を見せると、携帯を置いて机に両肘をつき、その上に顎を乗せた。俺の方をキラキラと上目遣いで見てくる。やめろ、そんな目で俺を見るな。
「悟が欲しい。」
「....は?」
マジで? え?? これ俺の都合の良い夢か? 願望? もはや幻聴か?? 情報が完結しないんだけど。ごめん、もっかい言ってもらっていい?
そう思っていたら美桜がもう一度言ってくれた。
「だから、悟が欲しいの。」
どうやら夢でも願望でも、幻聴でもないらしい。紛れもない現実だ。マジか。
美桜のことを好きだと自覚してから数週間。これは告白するに相応しい舞台ではないか。他でもない美桜が"俺を欲しい"と言っているんだ。好きな人から欲しいと強請られる。こんな嬉しいことはない。
俺は今すぐ美桜を抱き締めたい衝動に駆られるが、必死に耐えた。伸ばしかけた手を誤魔化すために頭を掻く。そしてなんて告白しようか迷った。頭にはいろんな言葉が浮かんでは消えていく。
あぁー! もう! 頭で考えても埒があかねぇ。
「いいよ。やるよ。」
「....は?」
美桜は俺の返事にビックリしていた。まさか許可が出ると思わなかったのだろう。そのまんまるになった翡翠の瞳に自分だけを映したくて、立ち上がって美桜に近付く。座っている美桜と目線を合わせるように膝を曲げた。
澄んだ翡翠の目に俺だけが映り込む。先程までの葛藤が嘘のように本心が口からこぼれ出た。
「美桜、好きだ。」
「....へ?」
再び戸惑った声を上げた美桜に、追い打ちをかけるように続ける。
「美桜のこと、護りたいし、俺のものにしたい。だから美桜の誕生日にリクエスト通り俺をあげるから、美桜は俺のものになって。」
「....。」
美桜は何も言わない。でもこれまでのことを思い出せば、美桜は多分俺のことが好きだ。今更気付いた。俺は美桜の答えが分かりきっていたけど、美桜の口から聞きたくて顔を近付けた。鼻と鼻がぶつかりそうな距離で美桜を見つめる。
「返事は?」
「....ばか。私も好き。」
いつもの俺なら「馬鹿は余計だろ!?」って返すけど、今はそんな気分じゃなかった。やっと美桜が俺のものになったのだ。ふざけている場合ではない。それに今、俺は最高に幸せだ。
俺が余韻に浸りながら美桜の目を見ていると、美桜は恥ずかしそうに目を逸らした。と思うと、俺の唇を見てすぐにまた目があった。え? マジ? キスしたいって強請られてる?? だって一度唇見てから目を見るってどう考えてもそうじゃね?? 据え膳食わぬは男の恥。いくしかない。
俺は目を閉じると逃げられないように美桜の後頭部に手を回して顔を近付けた。程なくして触れる温もり。
ちゅっ
最初だし、触れるだけですぐに離した。この前の出張のときよりも、数千倍ドキドキするし幸せだ。目を開けて美桜を見ると、赤く染まった頬に少し突き出された唇。見事なキスを待つ顔だ。たまらなくなりもう一度キスをする。角度を変えて美桜の唇を啄むように触れる。ふにっと柔らかい感触が脳髄に響く。止まらなくなりそうだ。
夕陽が差し込む放課後の教室。普段は勉強をするこの場所で、誰にも見られずにキスを続ける。背徳感溢れる青春の光景だった。
+ + +
ガラガラッ
古びた教室の扉が音を立てて開く。既に教室にいた傑と硝子は、自然と扉の方を見た。四人しかいない同級生のうち二人がそこにいた。
「おはよう。」
「はよ。」
「おはー。」
「おはよー。昨日遅くまで任務お疲れ様。」
いつも通り席についた悟と美桜に、傑と硝子は言葉に出来ない違和感を感じた。その違和感は、午前中の授業で確信に変わっていった。
昼休み。傑はその切れ長の目を三日月型に変えて昼食を食べる二人に問いかけた。
「で、何かあったのかい?」
ギクッ
「わかりやすすぎだろ。」
傑がそう言った瞬間に悟と美桜の肩がビクッとした。そのことに硝子が笑いながら突っ込む。
悟は一度箸を置くと、親に交際の報告をする高校生のような面持ちで傑と硝子を見る。
「俺ら付き合うことになったわ。」
「「やっとか....。」」
「え!? もっとおめでとうとかないの!?」
「「オメデトウ。」」
「心込めてくれない!?」
傑と硝子は、美桜の方を見た。ついこの前両片想いを楽しむか両想いになって先に進むか迷っていると話していた。どうやら収まるところに収まったようだ。
二人とも負けず嫌いでやられたらやり返すタイプだ。互いが互いを振り回している光景が容易に想像出来る。
「似たもの同士でお似合いだと思うよ。おめでとう。」
「どっちから告白したの?」
「悟。」
「いや、あれは美桜からじゃね?」
「....悟から。」
美桜は硝子の質問に顔を赤くしながら答えた。その様子に硝子の口角が上がる。これは面白そうだ。聞き出さない手はない。傑も同じことを思ったのだろう。頬杖をついて二人の方を楽しそうに眺めている。
傑と硝子の視線を受けた美桜は、「また今度!!」と言って食事を再開してしまった。こうなれば今日は何言っても無駄そうだ。そう思った傑と硝子も、いつか絶対聞いてやると意気込みながら食事を再開した。