碧を知る
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楽しかった旅行が終わると、またいつも通りの日常が戻ってきた。任務授業、任務任務授業。
それでも、旅行でより一層仲が良くなって忙しい毎日の合間に誰かの部屋に集まって朝まで桃鉄したりとか、授業放り出してみんなで原宿行って遊んで仲良く夜蛾先生に拳骨喰らったりだとか、普通(?)の高校生らしいことをするようになった。
午後の実技の授業中、夜蛾先生に任務が入り急遽自習になった。夜蛾先生がいなくなった途端に硝子がどこからか取り出したタバコに火をつける。息を大きく吸ってフーッと煙を吐き出す硝子に、以前から思っていたことを言ってみた。
「硝子ってさ、結構不良だよね。」
「あ? これのこと?」
「うん。見た目からして不良っぽい悟と傑と違って、意外で衝撃的。」
「おい、見た目からして不良ってなんだよ。」
「失礼だな。悟はともかく私は不良じゃないよ。硝子、一本くれるかい?」
「いや不良!?」
傑は硝子からタバコ一本とライターを貰うと、左手を風除けにしながら火をつけた。慣れてるな、常習犯か。
「美桜と悟もタバコはなくても、お酒くらい飲んだことあるだろう?」
「あー、御神酒? ならあるけど覚えてねぇわ。」
「私も御神酒と甘酒くらいかな。」
「「....まじ?」」
「私、良い子ちゃんなんで。」
「おい待て美桜。俺も良い子だろ?」
「悟は見た目が不良だからダメ。」
「どんな理屈だよ!」
良い子か良い子じゃないか騒いでいると、傑と硝子がニヤリと笑って何かを企んでいた。
「じゃあさ、今から酒買いに行って飲まね?」
「悟と美桜の初めてのお酒か。楽しそうだね。」
「飲んでみたい!!!」
「甘いのある?」
「チューハイとかもはやジュースだよ。」
午後の予定は決まった。自習なんてしない。みんなでお酒買いに行って飲む。楽しみでテンションが上がってきた。
「流石に制服だと年確されるから、着替えてから行こうか。」
「じゃあ大人っぽい服に着替えて集合ね〜。」
寮に戻ってそれぞれの部屋に入る。
今は夏が終わってすっかり秋だ。いくら昼間とはいえ風が吹くと寒い。私はダメージ加工された黒いジーンズに、シンプルなロゴの入った白い長袖、その上から黒いライダースジャケットを羽織った。ブーツを履いて自室を出ると、すでに全員着替えて待っていた。私が一番最後だったみたい。
悟は薄いグレーのタートルネックに黒いパンツとロングコート。顔にはもちろんいつもの丸いサングラス。傑は黒のパンツに黒いマウンテンパーカー、黒いキャップ。硝子は黒のパンツに白い長袖、その上にカーキのブルゾンを羽織り、黒いキャップを被っている。
なんというか、
「くろっ!!」
「全員黒いな、ウケる。」
「傑とか完全にヤバい人種じゃん。」
大人っぽい服装ってなればやっぱ黒を選ぶのは仕方ない気がする。私も何も指定がなければもう少しカラフルな服に....しないかもしれない。やっぱ黒だよ、万能だもん。
高専から徒歩十五分程にあるコンビニで買うのかと思ったけど、傑と硝子曰くそこは酒の品揃えが乏しいらしい。なんでそんなこと知ってんの。でも一番近いスーパーまで車で十五分。歩きだと何分かかるかわからない。まぁ、私たちに歩くという選択肢があるはずもなく。
ガラガラッ
悟が勢いよく扉を開けた。中にいる人たちの視線が集中する。ここは補助監督用の執務室だ。
「よぉ、暇なやつ車出して来んない?」
「ひゃ、ひゃいっっ」
狼に捕えられた哀れな子羊は、狼の言う通りに車を走らせる道しか残されていないのだ。
悟の命令に逆らえずに車を運転する補助監督。先程からミラー越しに私たちの顔を窺っている。
「悟のせいですごい怖がってるよー?」
「ほら、悟は不良だから。」
「あぁ、そーいえばそうだった。」
「うるせぇな! お前らだって歩きたくないだろ!?」
「アルコウトオモエバアルケタ....。」
「「ワタシモ。」」
「嘘つけっ!!!!」
あっという間にスーパーに着いた。悟は補助監督に駐車場で待機するよう脅している。かわいそうに。さっきから壊れたロボットみたいに頭を上下に動かしてるだけだ。後で胃薬でも買ってあげよう、そう思いスーパーに入った。胃薬が必要になる原因には目をつぶろう。ワタシワルクナイ。
入り口でカートとカゴを持って早速リカーコーナーに向かう。棚一面に並ぶ様々なお酒。何が美味しいとかさっぱりわからない。
傑と硝子は慣れたように瓶を何本かカゴに入れていく。傑はウィスキーっぽい瓶で、硝子は日本酒。チョイスしぶっ。
「何が美味しいの〜?」
「悟と美桜は子ども舌だからね。甘いチューハイがいいと思うよ。」
傑におすすめされて、冷蔵庫に陳列されているコーナーに向かった。カシスや梅、レモンなどの缶が並ぶ。隣で悟がグレープフルーツの缶を取ってカゴに入れてた。私は無難にカシスにしてみよう。そう思ってカシスのイラストが描かれた缶をカゴに入れた。
「....それだけでいいのかい?」
傑が驚いたように目を見開いている。やっぱり一缶じゃ足りないかな。じゃあこれも。そう思い隣にあったレモンと梨を入れる。梨のお酒って絶対美味しいやつだよこれ。しかも果汁20%。絶対ジュース。
隣で悟が手当たり次第カゴに入れていってて笑った。全部飲めるんだろうね? 私は初めてだし、足りなくなったら悟が買った分を飲めばいいや。
お酒を選び終われば、次はつまみだ。リカーコーナーに隣接されているおつまみコーナーで、各自好きなものを取る。
「おまっ、イカゲソって」
「美味しいじゃんゲソ。あとサラミ。」
「いや、ここはポテ◯とチョコだろ??」
「それもいいけどこっちも捨てがたい!」
「....食べたいものを買えばいいじゃないか。」
「「おっけー、任せろ。」」
悟とあーでもないこーでもないと騒ぎながらつまみを選ぶ。つまみだけじゃお腹いっぱいにならないということで、惣菜も入れていく。唐揚げにたこ焼き、チキン南蛮にピザまで。最終的にカゴいっぱいになったけど、まいっか。
レジに並ぶと流石に目立つのか視線がすごい。頭二つ飛び抜けるほど大きなの男二人(しかも片方は変な前髪、もう片方は白い髪に碧い瞳)に、自分で言うけど美女二人。しかも全員黒い服。目立つなと言う方が無理だ。
「あ、あの....。ねんれ..かくに....を....。」
「なにか?」
「あ"あ"?」
「ひぃっ!!」
レジの若い男の子が年確をしようとしたけど、悟と傑のひと睨みでその勇気は儚く散っていった。
合計二万超えの会計をみんなで割り勘する。硝子と袋詰めしてさぁ持とうと思ったら、重たい酒瓶の入った袋をさりげなく悟と傑が掻っ攫ってそのまま出口へ向かう。え、ちょっとキュンときた。
私と硝子は残されたおつまみしか入っていない袋を持って、前にある二つの背中を追いかける。
「クズのくせにやるな。」
「別にクズじゃないと思うけどな〜。」
「え、美桜まじ? どう考えてもクズじゃん。」
「表面上はクズだとしても中身は良い人だよ、二人とも。」
「....まじか。」
「悟も傑も、自分のテリトリー外の人には冷たくあしらうけど、一度中に入れた人のことはすごく大事にするタイプだと思うんだよね。」
「....ふーん。」
硝子も本当はわかってるくせに、素直じゃないなぁ。私は心の中でそう思いながら、補助監督の待つ車へ向かった。
+ + +
潰れるまで飲むということで、各自シャワーを浴びて部屋着に着替え、いつでも寝れる状態で集合することになった。
私は汗を流した後、お気に入りの部屋着に着替える。ミント色のキャミソールに同色でボーダー柄のモコモコパーカーを羽織り、グレーのボトムスを履く。もちろんブラもちゃんとつけている。流石にノーブラで部屋は出れない。
何回も入ったことのある悟の部屋は、モノクロ調にまとめられていて、綺麗に整頓されている。棚にはサングラスや時計といったファッション小物がおしゃれに並んでいる。なんとなく置いてあったスクエア型のサングラスを試しに掛けてみる。
「....なにも見えない。」
本当に真っ黒。薄く見えるとかではなくて、もはや黒い板なんじゃないかレベルでなにも見えない。これで見える六眼すご。
そのまま辺りを見回していると、誰かにサングラスを取られた。
「....なにやってんの?」
「悟が普段見てる景色はどんなんだろなって思って。」
「で、見えたの?」
「ううん、真っ黒でなにも。」
「ふっ、だろうな。」
そう言って悟は取り上げたサングラスを元の位置に戻した。
「おら飲むぞ!!」
私は梨のお酒、悟はグレープフルーツサワー、硝子と傑はウィスキーロック。それぞれ持ってみんなとぶつけ合った。
「「「「かんぱーい!!!」」」」
まずはひとくち。あ、美味しい! さすが果汁20%! ジュースだよこれ!
「どうだい? 初めてのお酒は。」
「美味しい! ジュースみたいだね?」
「チューハイだからな、それ。チューハイはジュースだぞ。」
私は乾杯してから静かな隣を見た。え、顔真っ赤なんだけどちょっと待って。
「悟? 顔真っ赤だけど大丈夫?」
「やばい....かも。」
「まさかの五条下戸か!? 下戸なのか!?」
「意外だね。飲めそうな雰囲気だったけど。」
悟はどれくらい飲んだのだろうか。そう思い悟が飲んでいたグレープフルーツサワーの缶を持ち上げる。
「半分くらい入ってない??」
「そこまで弱いとはね....。」
「度数は?」
「....3%。」
硝子はお腹を抱えてゲラゲラ笑っている。傑も想像していなかったみたいで目を見開いている。
「悟、空きっ腹はよくないからとりあえず何か食べた方がいいよ。」
そう言って傑は買ってきた唐揚げを悟の前に置いた。悟はそれを何個か食べると、「もう無理」と言ってベッドに倒れ込んでしまった。
布団もかけずに寝てしまった悟に、掛け布団をかけてあげる。
私も少し熱くなってきた身体をベッドに預けて飲みかけの缶を傾けた。
+ + +
飲み始めて一時間が経過した。最初の十分ほどで悟がダウンしたのは驚いたが、そこからは三人で比較的静かに飲んでいた。
いつもより潤んだ翡翠。上気してじんわりと赤くなった頬。熱を逃すような湿った吐息。
美桜は酔っていた。
「なんかふわふわしてきた」
「わーお。美桜も弱いのか?」
「みたいだね。」
美桜の前には空いているであろう缶が一本と、飲みかけの缶が一本。どちらもアルコール度数は4%だ。
なんだか楽しくなってきた美桜は、ふふっと笑いながらテーブルに頬杖をついた。そのままジッと硝子を見つめる。
「しょーこかぁわいっ」
「....酔うと本音が出るタイプか?」
「それか絡み酒か....。」
傑と硝子の前には空いた酒瓶が何本か転がっているが、二人は何も変わっていない。いつも通りだ。いや、いつもより少しテンションが上がっているかもしれない。だが、まだ酔いの域には達していない。
「なんかあつくなってきた」
美桜はそう言って着ているパーカーのチャックを少し下ろした。中に着ているキャミソールとそれを見事に押し上げる胸が覗く。濃い影を作る谷間も。でかい。
美桜はその格好のまま、テーブルの上で両手を組んでそこに顔をのせた。完全に寝る体制である。
その姿勢がいけないのだろう。美桜のたわわな白い胸がだいぶ見えている。誰かの生唾を飲み込む音が聞こえた気がした。
硝子はそんな美桜を見て、文字通り頭を抱えた。
「あー、美桜。寝るなら五条の隣にいけ。」
「んー....」
「ベッドの方が気持ちよく寝れるぞ。」
美桜は硝子の言葉にムクッと顔を上げた。美桜の潤んだ目と硝子の呆れた目が合う。
「ベッドいく。」
「おー、いけいけー。」
美桜は立ち上がらずにハイハイをして後ろのベッドに向かった。ベッドの方から見ればさぞかし絶景だっただろう。残念ながら傑と硝子の位置からはお尻しか見えなかった。
大きな身体の悟に合わせたのであろうセミダブルのベッドのため、少々窮屈だが二人で寝れないこともない。
美桜は壁を向いて寝ている悟を跨ぐと、悟の方を向いて布団に潜り込んだ。悟の温もりに安心したように息を吐くと、そのまま目を閉じた。やがて規則正しい寝息が聞こえてくる。
「「....」」
傑と硝子はお互いの顔を見合わせると、示し合わせたかのようにソッと立ち上がった。二人の手にはそれぞれの携帯が握られている。
そして音を立てないように、気配を消してベッドに近付き、悟と美桜を覗き見る。セミダブルのベッドで窮屈そうだが幸せそうに眠る二人を確認すると、傑と硝子は携帯を構えた。
パシャッ....カシャッ
静かな部屋にカメラ音が二回響いた。傑と硝子は、それぞれの作品を見せ合うと、満足そうに頷いた。そして音を立てないように片付けをして、ソッと部屋を出た。
+ + +
悟は顔に当たる眩しい光に、眉間に皺を寄せながら目を覚ました。いつもはしっかり閉める遮光カーテンを開けたまま寝てしまったらしい。それでもこの腕の中にある柔らかい温もりが心地よくて、起きているが碧い目は開けずにまどろんでいた。
「....ん..」
自身の腕の中から聞こえた微かな声に、悟のまどろみの時間は終わりを告げた。一気に意識が覚醒する。そして気付く。自分の腕の中に誰かいる。一体誰だ? この時ばかりは、持ち前の呪力感知能力も意味をなさなかった。
覚悟を決めた悟が目を開けると、まず目に入ったのは白い肌と長い睫毛。次にぷるんと艶のある唇。悟のすぐ横に美桜が寝息を立てて寝ていた。
「!?」
悟は隣にいるのが美桜であることを認識した瞬間、布団の中を覗き込んだ。よし、どちらも服を着ている。間違いは起きなかったようだ。
服を着てはいるが、美桜の服はだいぶはだけていた。いけないとはわかってはいるが、悟は目を離すことが出来なかった。それもそうだろう。美桜の着ていたパーカーは肩からずり落ち、露わになった柔らかそうな白い肌を陽の光が優しく照らしている。そしてなんと言ってもキャミソールを押し上げる見事な双丘。悟の位置からは、キャミソールの下に着ているピンク色の下着までしっかりと目に入る。その白い双丘を舐めまわしたい。自分のものだという印を付けたい。そんな欲望が悟の頭をいっぱいにする。悟が欲望のままに、美桜の胸に手を伸ばしかけたとき。
「ん....。」
長く黒い睫毛に縁取られた目がゆっくりと開いた。寝起き特有の潤んだ翡翠の目が悟の碧い目と合う。美桜は目の前の悟を認識すると、ふんわりと微笑んだ。
「....おはよ、さとる。」
その顔を見た悟は、自分の心が自分のものではないみたいに制御できなくなった。心臓が早鐘を打つ。心に暖かいものが広がる。
目を見開いたまま固まった悟に、美桜は首を傾げた。そしてふと下を見ると、目に映るのは自分のはだけた部屋着と中途半端な位置にある悟の手。美桜は悟のやろうとしていたことがすぐにわかり、いたずらっ子のような顔で揶揄った。
「悟のえっち。」
「....は!?」
えっちと言われた悟は、ハッとした。違うんだ、いや、違わなくないけど!?
自分の言葉ですごい動揺する悟に、美桜はクスクスと笑う。図星だったのだろう。反応がわかりやすすぎて、もはや可愛く思えてくる。
「触ってみたい?」
「....うん。」
「いいよ?」
「え、いいの!?」
「うん。別に減るものじゃないし。」
男として目の前のご馳走を食べないわけにはいかない。そんなことしたら男が廃る。悟は意を決して先程から固まったままだった手を美桜の双丘へ伸ばした。
指が白い肌に触れる。そのまま指の腹に力を入れると、むにゅと音が出そうなほど柔らかく沈む肌。悟は息継ぎもせず、ただ指の腹に全神経を集中させていた。それくらい神々しいものなのだ、おっぱいというものは。
久方ぶりに息を肺に送り込んだ悟は、その柔肌をさらに堪能しようと指ではなく手で触れようとした。
「はい、おわり〜。」
「....は?」
美桜はそんな悟を知ってか知らずか、悟の手を叩くと身体を起こして身なりを整えた。そして唖然としている悟を置き去りに、悟を跨いでベッドに腰掛けた。
「は? ちょ、美桜!?」
「なによ、触ったでしょ? もう終わりよ。あんまりしつこいと傑と硝子に悟におっぱい触られたって言いつけるからね〜?」
悟には、そうなった時の傑と硝子の反応が容易に想像できた。きっと傑は「嫌がる女性の胸を触るなんて最低だ。見損なったよ、悟」とか言って呪霊で仕掛けてくるだろう。これはまだいい。いつもやっていることだし。
問題は硝子だ。ゴミクズを見るような目で「やっぱクズだな。もう二度と治療してやんねー。」とか言いそうだ。まだ反転術式を習得していないのに、硝子の治療を受けられなくなるのは流石に困る。悟の頭では美桜のおっぱいと傑と硝子の罰とが天秤にかけられていた。やがて天秤は片方に傾いた。
「....それだけはまじで勘弁。」
悟は気付いた。美桜に触れても咎められない関係性になればいいのだと。そうすれば傑と硝子に怒られることもなく、美桜のおっぱいにも触り放題だ。あぁ、これぞ名案。なんて頭がいいのだろうか。メリットしかない。
それがつまりはどういうことなのか理解していない悟は、ベッドに腰掛ける美桜に宣戦布告をした。
「絶対美桜のこと落としてやるから首洗って待ってな。」
「....うん、わかった。待ってるね。」
悟の言いたいことがすぐにわかった美桜は「もうとっくに落ちてるよ」なんて言わずに微笑んだ。私がもう落ちているのにそれに気付かず落とそうとしてくる悟はさぞかし可愛いだろう。
美桜が悟に特別な感情を抱いていることに気付いたのはつい最近だ。しかし、自分の好きな人が自分を落とそうと必死になっていたら、絶対愛おしいと思うのだ。それに、両片想いの状態が一番楽しいと聞いたことがある。両想いになる前の貴重な時間を楽しもうじゃないか。
「じゃ、私自分の部屋で寝てくる〜。」
そう言って美桜は悟の部屋を出ていった。
悟は何かゾクゾクとしたものが全身を巡った。それは興奮、期待、興味、独占、様々な感情が混ざり合ったものだった。
その感情にしっかりと別の名前がついていることを悟は知らない。自分が美桜に対して感じた独占欲がそこからきていることも、美桜を落とす前に自分も美桜も既に落ちていることなど、悟が知る由もなかった。