碧を知る
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飛行機に乗って一時間ちょっと。
やってきました、四国!!
夏ということで海に行きたいとなり、海が綺麗な場所を探した。そして全員行ったことないということで四国に決定した初めての旅行。
三泊四日で四国を堪能する予定だ。
水色と白のストライプ柄のフリルオフショルダーに白いショートパンツ。足元はもちろんサンダル。私は風で飛ばないように麦わら帽子を手で抑えた。
硝子も麦わら帽子を被り、黒のサマーニットにデニムのショートパンツ、サンダルという完全にオフの格好だ。
「タクシーどこだろ?」
キャリーケースをガラガラと引き摺りながら、大きいタクシーを探す。
後ろからいつもの丸いサングラスに青と白のストライプのシャツの悟と、柄物のシャツを羽織った傑がついてくる。私と悟がおそろコーデみたいになっててちょっと恥ずかしい。
ようやく大きなタクシーを見つけ、目的地まで向かう。任務の報酬としてもらっているお金はたんまりあるし、こんなことは滅多にない。お金に糸目はつけずにいくと全員で決めている。
移動中もテンションが上がってみんなでギャーギャー騒ぎながら、いくつかの観光名所を回る。
石鎚山で登山したり、仁淀川の"にこ淵"の色がよく見る碧と似ていて魅了されたり、モネの庭でモネになってみようとか言ってお絵描き大会したり。ちなみに絵は硝子が一番上手くて悟と傑がいい勝負だった。
綺麗な景色の端に見えたり、すれ違う人に憑いていたり。やはりどこに行っても呪霊はいるもの。見たくないのに見えるって困る。旅行の時くらい呪霊のこと忘れさせてくれたっていいじゃない。私がブルーな気分になっていると、悟に頬を引っ張られた。
「おー、よく伸びるほっぺただな。」
「な、なにしゅるのよぉ〜」
結構強い力で引っ張られて、痛みに目を潤ませる。悟はサングラスがズレて露わになった碧い目でジッと私の目を見る。
「美桜が色々計画してくれて俺らすごい楽しいんだわ。だからそんな顔すんな。」
「え....。」
悟がある一点を見ているので、私もそちらに視線を向けた。そこにはお土産を物色している傑と硝子がいる。二人とも楽しそうにカゴにお土産を入れている。既にパンパンだけどまだ入れる気なの?
「だから今は前だけ見て楽しめ。」
不覚にもキュンときた。どうやら気を遣わせてしまったらしい。
「....ありがと。」
悟に聞こえないくらいの小さい声でお礼を言う。デコピンされた。ちゃんと聞こえたみたいだ。
私は自然と上がる口角を抑えられなかった。
+ + +
青い空、白い雲と砂浜。そして、透き通った海。
ここは、高知県柏島。
本当に日本なのか疑ってしまうほど、美しい海が広がっている。海水浴だけでなく、シュノーケリングやダイビングも出来るここは、日本有数の海が綺麗な場所である。ここの写真を見て、今回の目的地に決定したと言っても過言ではない。
美桜は硝子とともにホテルで水着に着替えた。美桜は黒のビキニで、硝子はカーキのビキニである。
美桜のものは両腰と谷間の部分が編み上げになっており、紐の間から皮膚が見えてセクシーだ。折角の旅行だし、大胆なデザインのものを選んだのだ。
一方硝子のものはホルターネックで、胸の部分がフリルになっている。色がカーキで落ち着いているため甘すぎない可愛さで、硝子らしいチョイスといえよう。
美桜たちは日焼け止めをしっかりと塗った後、一緒に買ったロングパーカーをしっかりと着てから部屋を出た。すぐ隣の部屋のベルを鳴らして悟たちを呼ぶ。
ほどなくして出てきた二人は色違いのアロハシャツを羽織り、黒の海パンというありきたりの格好だった。一つも留まっていないボタンのせいで、鍛えられた筋肉が露わになっている。これはモテる。
ホテル内を歩いているだけでも周りの視線が痛い。女たちのギラギラとした視線が美桜と硝子に突き刺さる。
真っ白な砂浜。夏本番だからか、観光客の姿も少なくない。
美桜はあらかじめ予約しておいたパラソルに荷物を下ろしたあと、着ているパーカーを脱いだ。パーカーの下から現れた美しい身体に悟と傑の目線は釘付けになった。
「えっろ....」
「おおきいね....」
悟と傑は鼻と口を抑えながら呟く。
続いて硝子もパーカーを脱いだ。硝子も結構良い身体をしているのだ。まぁ美桜には負けるが。
「硝子! 似合ってる!!」
「ありがと。美桜も似合ってる。エロい身体してるもんな。」
「神器遣いだし、それなりに鍛えてるからね。」
硝子は美桜の身体を上から下まで舐めるように見た。白い肌、大きいのに形の良い胸、信じられない程に細い腰。大きすぎない程良く肉のついた尻、そこから伸びるスラリとした脚。これで顔も綺麗ときた。文句なしの満点である。硝子は先程から仕事をしないクズ二人を呆れた目で見た後、ため息をついた。
美桜は悟が浮き輪を持ったまま固まっていることに気付き、声をかけた。
「悟、大丈夫? 具合悪いの?」
「....! いや、なんでも、ない....。」
歯切れの悪い返事に美桜は怪しむような顔を向けるが、すぐに悟に顔を逸らされた。
そんな中、傑が悟に助け舟を出した。
「二人で浮き輪を膨らませてきてくれないかい?」
「おっけー!」
「りょーかい。」
悟と美桜はホテルから借りてきた浮き輪をそれぞれ持ち、海の家に向かった。
触り心地の良さそうな白い髪。どこまでも透き通り、気付きかけているこの想いすらも暴かれてしまいそうな碧い目。鍛えられた男らしい身体。そして190cmを超える身長。顔良し身体良し。
小さいサングラスだけでは到底隠しきれていない悟の美貌に周りがざわめく。美桜はそんな周りを見て、隣にいる悟を眩しそうに見つめた。
「悟逆ナンすごそう。」
「あ"ぁ?? んなの興味ねぇよ。美桜も気をつけろよ。」
「ふふっ、ありがと。」
悟は隣で笑う美桜を見た。
艶のあるウェーブのかかった黒髪に宝石を嵌め込んだような翡翠色のアーモンドアイ。通った鼻筋に血色の良い唇。その身体は思春期の男子には辛いものがあるほど美しい。思わず二度見してしまうほど綺麗な形の膨らんだ胸に撫で回したくなるほど細い腰。そしてプリっと上がった尻にそこから伸びる綺麗な脚。見事だ。押さえるべきところを全て押さえている。そんな身体だ。
悟には先程からワンチャン狙いの男どもの視線を感じていた。その度に睨みつけて二度とそんな気など起きないようにしているが、本人がこの調子では不安が残る。
まぁ一級呪術師である美桜が非術師に負けるはずないのだが。
悟と美桜はパンパンに膨らませた浮き輪を持って硝子と傑の元へ戻った。二人は近くの自販機で飲み物を買っていたようで、悟用のメロンソーダと美桜の好きなリンゴジュースが置いてあった。
「ありがと。」
美桜たちはホテルから借りてきたクーラーボックスに飲みかけの飲み物を入れると、我先にと海へ走りだした。
美桜の綺麗にネイルされた足先が透き通った水に触れた。寄せては返す波を見ていると、心が浄化されていく気がする。
美桜は少しずつ足を進めて、ふくらはぎまで水に浸かった。冷たすぎるわけでもなく、丁度いい水温。美桜以外の三人はもう腰あたりまで浸かっている。別に海が怖いわけではない。しかし、なんとなくここにいたかったのだ。
目の前に広がる美しい海をボーッと見ていると、思いっきり顔に水をかけられた。髪が濡れて肌に張り付く。すぐに犯人がわかった美桜は「やったなぁ?」と水をかけられた方を見た。案の定、楽しそうな悟がいた。
「何してんだよ。おら、いくぞ!」
そう言ってさらに水をかけようとする悟から逃れるため、美桜は沖に向かって走り出した。
歩きにくい水の中で必死に足を動かして傑と硝子のもとへ向かう。その間にも悟に後ろから水をかけられる。あっという間に髪がびしょびしょになった。
「傑! 硝子! 共同戦線と行こうじゃないか!」
「「のった」」
「おいちょっと待て! 三対一は卑怯だぞ!?」
「悟、無下限使うの禁止で。」
「はぁっ!?」
ギャーギャー文句を言う悟を無視して三人で水をかける。三対一だからか悟だけがどんどん濡れていく。
両手で掬って水をかけるのが焦ったくなった美桜は、「いっそのこと悟を沈めてしまおう」と気配を消して悟の後ろに回った。悟が傑に夢中になっている間に、その白い背中に飛び乗る。
無下限術式に弾かれることなく、悟の背中に美桜の素肌が触れた。
悟は背中にむにゅっとした柔らかい何かを感じ、何が起きたのかわからないまま綺麗な海に沈んだ。
悟は沈みながら考えた。
後ろに誰か乗っている。今まで傑と硝子は自分の視界にいた。ということは、美桜か? やけに柔らかい感触....。まさか!? こ、これが....!! おっぱい!?
そう確認した瞬間、自分の中の何かが首をもたげそうになるも、理性で必死に抑え込んだ。そして水の中から顔を上げると、振り向いて文句を言った。
「ばっっかお前!!!」
「ごめんごめん、まさかこんな綺麗にキマると思わなくて。」
美桜は悟の背中に乗ったままだ。悟の首に手を回し、コアラのようにくっついている。なんとなく離れたくないのだ。
そんな美桜たちに硝子がお腹を抱えてゲラゲラ笑っている。傑は「やれやれ」というように両手を広げている。
「美桜! いつまでくっついてんだよ!」
「なんかあったかくて気持ちよくて。」
「はぁ!? いいから離れろ!」
美桜は悟が離れろとうるさいので、仕方なく手から力を抜いて自分の足で立った。
美桜は近くにあった浮き輪にお尻を入れて、ボーッと青い空を見上げた。良い天気だ。あの鳥はなんだろう。海鳥かな。
すると、浮き輪を持ち上げられたと思った瞬間、浮き輪からお尻が外れて宙に浮いた。美桜の口から「へ?」と間抜けな声が出る。何が起きたか理解する前に海へとダイブした。
美桜が水から顔を上げると、悟と傑が美桜の乗っていた浮き輪の両端を持っていた。きっと二人で美桜を海へ放り込んだのだろう。にしても。
「今のめっちゃ楽しいからもっかいやって!!」
「いいぜ、こいよ。」
「そんなに楽しいのかい? 私もやってもらおうかな。」
「夏油は流石にあそこまで飛ばないだろ。」
「硝子もやる!?」
「私はパス。お前らと違って身体能力は
美桜はいそいそと悟と傑が持つ浮き輪に身体をおさめた。そして二人を期待を込めた目で見る。
「めっちゃぶっ飛ばしてほしい!」
「本当かい? 手加減しないよ?」
「いくぜ傑!! せぇーーのっっ!!」
美桜は先程の比じゃないレベルに吹っ飛んだ。思いっきり海にダイブして驚いた魚たちが一斉に逃げていく。内心でごめんねと魚たちに謝りつつ、悟と傑にもう一回強請った。
何回かやってもらった後、希望通り傑も吹っ飛ばした。悟が本気出したせいで、傑も悟を本気でぶん投げていた。硝子はずっと浮き輪に乗ってゲラゲラ笑っており、楽しくて楽しくて仕方がなかった。
+ + +
ダイビングでウミガメと共に泳ぎ、波打ち際で夕陽を見ながらバーベキューをする。
バーベキューをしたいって傑が言った時、悟はバーベキューが何かわからなかったみたいだ。「御曹司まじか」ってなった私たちは、悟にバーベキューとはなんぞやかを説明する。要は焼肉を外でやるようなものだ。悟はそれを聞くと、初めてのことに興奮する小学生のように目を輝かせた。
悟は生まれてからずっと生きづらい人生を歩んできた。友達もいたが、根本的なところが違いすぎてそこまで仲良くなれなかったらしい。そんな悟は普通の少・中学生が体験するようなことを体験したことがなかった。純粋な旅行に行くのも初めて、海に行くのも初めてだという。
「また四人で旅行行こうね。」
「あぁ、そうだね。」
「次はどこ行く? 真冬の北海道とか行ってみたい。」
「真冬の北海道はやばいわ。」
今この瞬間は、私たちは呪術師ではなくただの高校生だった。
+ + +
香川県三豊市にある父母ヶ浜。ここは日本のウユニ塩湖と呼ばれるほど、鏡のように景色を反射させる。ここも旅行情報雑誌で見て四国に決定した理由の一つだ。
ただでさえ綺麗な夕陽が水面に反射して絶景を作り出している。四人ともその景色に見惚れていると、他の観光客が手を繋いでジャンプしているのを撮っていた。私もあれやりたい。
「あれやろっ!!」
「誰かに写真撮ってもらおうか。」
「めっちゃ飛んでいい?」
「おい五条、私がいるのを忘れるなよ? お前らが本気で飛んだら私の腕が千切れる。」
「ちぇ〜。」
近くにいた人にカメラを渡して、写真を撮ってもらうようお願いする。女性が悟と傑を見て色めきだっていることに、ちょっと心が曇った気がした。そんなことも「ほらいくぞっ」と言って楽しそうに駆け出す悟を見たらどうでも良くなった。
良さげな場所で、悟に差し出された手を右手で握る。左手には隣にいた傑の手。悟の隣には硝子がいる。
「「「「せーのっっ!!」」」」
みんなでジャンプして写真を撮った。撮れた写真を確認すると、個性溢れるジャンプに笑いが止まらない。
硝子はジャンプしてるのか分からないほどほぼ直立、悟は足を大きく広げて、私は両手を挙げ、膝を曲げて踵をお尻に付けるように、傑はお腹を丸めて膝を抱え込むように。
「やっべえなこれ!!」
「硝子これ飛んでいるかい?」
「飛んだよ。お前らと一緒にするな。」
「全員性格出すぎっ!!!」
ゲラゲラ笑い合って、その後も写真を撮り続けた。一度悟と傑で本気でジャンプしてもらったら、カメラの枠から外れて足しか写ってなくて笑えた。枠から外れるほどのジャンプってどんなんよ。
そんなことをしていると、あっという間に陽が沈んで夜がきた。
太陽が沈めばそこは月と星の時間。先程とは違う景色が広がる。上下に広がる星空に、惹き込まれるように足が勝手に進んでいく。後ろから戸惑った声が聞こえた気がしたけど、今はこの星空をもっと近くで見たかった。そう思って足を一歩、また一歩と進めていると、誰かに手を掴まれた。振り向くと、サングラスを取った悟が私の手を握っていた。
「どこまで行くんだよ。」
そう言われて来た道を見れば、結構遠くに傑と硝子らしき人影があった。目の前には暗い海。
「星をもっと近くで見たかったんだけど....。」
私はサングラスに隠されていない悟の目を見た。ため息が出るほど綺麗な色彩。六眼とかそういうことはどうでもいい。ただこの綺麗な色彩の瞳をもっと近くで見ていたい。
「ここにも綺麗な星があったね。」
「....は?」
悟が手で顔を抑えている。不意打ちだったかな? 帰ろうか、と繋いだままの手を引っ張る。
悟と並んで歩きながら星空を見上げる。今まで見て見ぬふりをしてきたけど。
「あーあ。気付いちゃったかもなー。」
「....? なにに?」
私の独り言に悟が反応するけど、あえて何も言わなかった。悟も気にしていないのか、そのまま手を繋いで傑と硝子のところまで戻った。
何に気付いたかなんて、言えるはずなかった。