千年血戦篇
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滅却師の侵入から一日が経過した。美桜の予想では今日再び侵攻を受け、千名以上の隊士が命を落とす。
その中には山本の命も含まれている。
「……こんなことしか言うことできないけど。気をつけてね。」
「おん、ありがとさん。美桜もな。自分の身を一番に考えるんやで。」
「ん、ありがとう。これ渡しておくね。」
そう言って美桜が取り出したのは、回道の込められた霊石。真子は照れくさく思いながらもそれをありがたく受け取った。
自分の身を案じてくれる。だから真子は安心して前だけ向いて戦うことが出来るのだ。
美桜は真子が怪我するであろう左肩をそっと撫でると、背伸びをして薄い唇にキスをした。
すぐに離された唇だが、どちらかが身じろぎすれば触れるほどの距離で見つめ合う。真子も美桜も何も言わない。ただ胡桃染色と薄紫色を交わらせ、静かに時を待つ。
やがて真子が動き美桜の唇にそっと触れると、甘さを含まない声色で言った。
「……いくで。」
「ん。」
五と七。二つの数字が並ぶ。その背中は護廷十三隊の隊長として一切恥ない、堂々としたものだった。
美桜は七番隊隊舎内の演習場にて、集まった自隊の隊士を一人ずつ視ていった。何名か黒を纏ってはいたが、それでも他隊に比べればその数は圧倒的に少なかった。
美桜には涙を飲んでその者たちを送り出すことしか出来ない。犠牲者ゼロなんて不可能なのだ。誰かが犠牲にならなければ別の誰かが犠牲になるだけだ。
せめて初手で命を落とすことがないように、一人でも多くの命を救うことが出来るように、結界を張ったこの場所である程度戦火が収まるまで待機させるつもりだ。
自隊の敷地を守ろうとしていない時点で誰かに見つかれば怒られそうだが、美桜には守っても守り抜くことが出来ないとわかっている。不可能なことに命を費やすなど愚か者のすることだ。
「……きた」
美桜は空間に十七の穴が空いたことを感知した。同時に青い霊子が天高く燃えているのが美桜のボヤけた視界でもはっきりと確認できた。
パフォーマンスのように己の居場所を皆に知らせ、死神が集まってくるのを待っているのだ。
「隊長」
「えぇ、行くわよ。みんなはここで待機。私の結界が消えるまで、中で休んでいてちょうだい。」
「ですが…!」
隊士たちは戦いの気配がする方に出動しようとしていたが、美桜から待機の命を受けて咄嗟に異議を唱えた。
「大丈夫。貴方たちを無駄死にさせたりなんかしないわ。」
「……隊長、お気をつけて。」
美桜は三席の不安な眼差しを振り払うように優しく微笑むと、その微笑みとは逆の、悪魔のような言葉を発した。
「あとで馬車馬のように働いてもらうからね〜! ちゃんと休んどなかいとキツいよ〜!!」
お楽しみに〜と言って去っていった自隊の隊長に、強張っていた隊士たちの表情が緩んだ。美桜はやると言ったらやる。よって本当に休みなく働かせられるのだろう。
隊士たちはこうしてはいられないと慌てて携帯食を口にしたり、壁に寄りかかって身体を休め始めた。
「なにここ〜、誰もいないじゃんか〜。ハズレ引いちゃった〜?」
白い装束に身を包み、腰まである長い黒髪を靡かせた滅却師バンビエッタ・バスターバインは、降り立った場所に死神が一人もいないことに気付き不満の声をあげた。
「あっちにはいっぱいいそうだし、あっち行こうかな〜」
そう言いながら目の上に手を当てて遠くを見る。その行動に何の意味があるのかはバンビエッタもわからない。
グサッ
「……え?」
そんなバンビエッタの後ろから、突然刀が出てきた。刀はバンビエッタの胸の中心を貫く。
バンビエッタは痛みに耐えながらも本能的に刀を引き抜くと、空間から飛び出たそれから距離を取った。
「っなによ、急に。痛いじゃない。」
「……ちょっとズレちゃった。」
刀はそのまま下へと振り下ろされ、切られた空間の隙間から美桜が姿を現した。
美桜は斬魄刀 銀琉についた血をはらうと、仕留め損ねた相手に目を向けた。離れているため肉眼で見ることは叶わないが、周りの建物から霊子を吸収して治癒を行なっている。初めて見るが大変興味深い仕組みだ。
「なーんだ。いるじゃん、隊長さん。」
「……随分回復が早いのね。」
「尸魂界には霊子が溢れてるからね!」
バンビエッタは応急処置を終えると、腰にある刀を抜いた。美桜も静かに銀琉を構える。
「「……」」
どちらも動かず、相手の様子を窺う。しかし遠くで爆発が起きた瞬間、均衡が崩れた。
ガキィィンッ
刃と刃がぶつかる。
美桜は見た目とは裏腹に意外と力のあるバンビエッタに驚いた。真正面から受け止めずに力を受け流す。
何度か刀の打ち合いが続く。美桜は力を受け流したり、衛膜を斬魄刀まで纏わせて刀を止めたりしている。
バンビエッタは手応えのなさを感じながら、自身の能力を発動し霊子の塊を作ると、それを美桜へと蹴り飛ばした。キラキラと光を反射させた青い霊子爆弾は、バンビエッタの能力である
美桜は飛んできたそれを銀琉で半分にする。その瞬間爆弾が爆発し、美桜は爆風に包まれた。
ドォォォンッ
戦闘を離れたところから見守る雫はその信頼ゆえか、美桜が至近距離で爆弾を喰らったにも関わらず全く動じない。
爆風がはれれば、傷はおろか汚れ一つない美桜の姿が見える。バンビエッタは己の爆撃を至近距離で受けたにも関わらず、無傷の美桜に口角をあげた。
「お姉さん見かけに寄らず強いねー。」
「……ありがとう。」
「でもそのままじゃあたしには敵わないよ。卍解どころか始解もしないの?」
「…さぁ?」
始解はしている。美桜の斬魄刀はどちらも常時解放型。常に始解の状態だ。だからこそ美桜は衛膜を纏い防御することが出来るし、異空間を出入りすることが出来る。
それとも、報告にあった卍解を封印するために卍解させたいのだろうか。
美桜は自分の卍解の危険性を正しく理解しているため、おいそれと卍解しない。そもそも卍解が戦闘向きではないため、卍解したところで戦局が大きく変わるかと問われれば答えは否だ。
「よく調べてるのね。」
「
バンビエッタはそう言って腰に両手を当ててドヤ顔をする。しかし言い換えれば、美桜が七番隊隊長であることと、鬼道を使うということ
話を聞いていた美桜と雫は半目になって呆れた。なぜバンビエッタがドヤ顔しているのかわからない。
ーーー天挺空羅!!
「「……!」」
その時だった。乱菊の天挺空羅が美桜と雫の脳裏に流れる。奴らが卍解を封じるのではなく、卍解を奪うこと、奴らの前で卍解してはいけないこと、そして既に二・六・十番隊隊長の卍解が奪われたことが告げられた。
「…卍解を、奪う? 封印じゃなくて?」
「へぇ〜もうあいつら奪ったんだ。」
美桜は卍解を奪われた隊長の中に、真子がいないことに胸を撫で下ろした。真子の卍解が奪われれば、瀞霊廷は容易に陥落する。もちろん悪い状況であることに変わりはない。ただ最悪の状況を避けることが出来ただけだ。
卍解することの多い六・十番隊隊長の卍解が奪われたということ、そしてバンビエッタが卍解するよう促してくることから、さすがに卍解せずに奪うことは出来ないのだろう。
しかし今回のような強敵相手に卍解せず戦うのは難しい。遅かれ早かれ、誰かが実験体の役割を果たさなければいけなかったのだ。
「で、お姉さんは卍解しないのー?」
「奪われると聞いて卍解するわけないでしょう?」
「ふーん……ってさっきから暑い! なんなのよ!」
美桜は自身の感知能力を使わなくても肌で感じる怒りに身体をぶるりと震わせた。
灼熱の霊力。マグマのようにグツグツと煮えたぎる憤怒。山本が怒っていた。
しかし、その怒りは届くことなく散っていった。