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カンカーン....カンカーン....カンカーン....
瀞霊廷に終業時間を知らせる鐘の音が響く。
流魂街にある志波空鶴邸には、既に多くの死神が集い、喜助が作った刀に霊圧を込めていっている。ルキアが送った電子書簡は、それぞれが親しい友人に転送していった結果、隊の垣根を越えて多くの隊士を呼び寄せたのだ。
「いやー、朽木サン!頑張りましたねぇ!」
「私もまさかこれ程広がると思ってもみなかった....!」
喜助もルキアも、黒崎一護を救うためにこれ程多くの死神が集まるとは思っていなかった。
霊力の譲渡は重罪。隊長格ならまだしも、一般隊士は弁明の余地なく裁かれる可能性も高い。それにも関わらず皆がこうして集まったのは、黒崎一護という男の行いの賜物だろう。
「お、もうやっとるようやな」
「これはこれは!平子サンに涼森サンじゃないっスか〜!」
瞬歩で現れた真子と美桜に、喜助が扇子をバッと広げて嬉しそうに笑う。
「すごい集まったね。ルキアちゃんが声かけたの?」
「いえ、私は限られた人に送っただけなのですが....それが気付けばここまで広まっていて....!」
「そんだけ一護に思うところあったっちゅーこっちゃ。」
「じゃが涅マユリに嗅ぎつけられたようでな。....ほれ、きおったぞ。」
夜一が顎で示す方を見れば、黒いヒラヒラとしたものがこちらに向かって飛んできていることに気がついた。
「げ。あの霊圧の感じは....!」
「....まだ苦手やったんか」
「無理無理無理!!気持ち悪いもん!!なんであんないっぱいいるの!?」
美桜は怯えたように真子の隊長羽織を握ると、その背に隠れた。真子は呆れながらも、頼られて満更でもなさそうだ。
それは死神同士の伝令に使われる、地獄蝶の群れだった。
虫がどうしても苦手な美桜は、虫の形をした地獄蝶ですら触わることが出来ない。指に乗せるなんて以ての外だ。故に、美桜の元に地獄蝶がやってくると、美桜は誰かに伝令を聞くように頼むのだ。
「"緊急招集。各隊隊長・副隊長は即時一番隊舎に集合。なお、浦原喜助は件の刀を隊首会議場に運び入れるように。"」
地獄蝶は、その場に居合わせた隊長・副隊長に同様の伝令を伝えると、また一つの群れとなって瀞霊廷に戻っていった。
「喜助に刀を運び込ませるということは、頭ごなしに罰するつもりはないということじゃろうな。....総隊長殿もお変わりになられたものじゃの。」
夜一は瀞霊廷の方を見ながら呟いた。
二千年という月日で凝り固まった山本の考え方が、わずか十六歳の人間によって変わった。
いや、変わったのではない。変えさせられたのだ。数年という死神にとってまばたきのような時間の中で、黒崎一護の数々の行いが、掟という枷を解いたのだ。ーーーいや、ハンマーで叩き割ったという方が正しいかもしれない。
それほど急激な変化だった。
+ + +
一番隊隊舎の隊首会議場。
山本を最奥に、各隊隊長・副隊長が並ぶなか、喜助は運び込んだ刀の説明をした。
「皆さんの霊圧をこの刀に込めてもらい、最後に朽木副隊長の霊圧で覆う。そして黒崎サンを貫けば、彼に死神の力を戻すことができマス。」
「....事情は相分かった。先刻、涅、浮竹両隊長より、初代死神代行が黒崎一護に接触したと報告を受けた。」
「「「!!!」」」
「初代死神代行....銀城空吾か!」
日番谷が懐かしい名を口にした途端、場の空気が一気に張り詰めた。
「銀城空吾が接触してきた以上、もはや一刻も無駄には出来ぬ!その刀を持って寄れ!」
山本の言葉に、卯ノ花が驚いたように目を見開いた。
「総隊長、それでは....」
「形はどうであれ、我らは黒崎一護に救われた。今度はその黒崎一護を、我らが救う番じゃ。たとえ仕来たりに背こうとここで恩義を踏みにじれば護廷十三隊永代の恥となろう!」
山本は椅子から立ち上がると、大きく一歩を踏み出した。それは物理的な一歩でもあり、新たな歴史の一歩なのかもしれない。
「総隊長命令である!護廷十三隊全隊長・副隊長はこの刀に霊圧を込めよ!....儂の命待たずして既に霊圧を込めた者は、此度に限り、罪には問うまい。」
山本の言葉に何名かの副隊長がほっと胸を撫で下ろした。
山本は残された一本の腕で喜助の用意した刀を持ち上げると、霊圧を込め始めた。熱く燃える炎のような霊圧が刀に吸い込まれては消えていく。霊圧を解放したからか、厳かな山本の存在が大きくなったように思う。
....ゴクリ
誰かの生唾を飲み込む音が広間に響いた。
それほどまでに、解放された山本の霊圧というものは重たかった。
やがて煮えたぎるマグマが冷え固まったようにその熱は身を潜め、元の岩のように硬く威圧感のある存在へと戻った。
「隊首会は解散とする。皆、刀に霊圧を込めてから退室せよ。」
山本がそう宣言すれば、一気に空気が弛緩した。
しかし、山本はいつまで経っても会議場から立ち去ろうとしない。全員霊圧を込めるかその眼で確認するつもりなのだろう。そんなことをしなくとも、霊圧を込め終わった刀を見れば誰が霊圧を込めたのかわかるのだが、山本はその眼で確かめることを選んだようだ。
山本の後に雀部が霊圧を込めると、二番隊から順に山本の前に置かれた刀に霊圧を込め始めた。
「なんや総隊長むっちゃ張り切っとるなぁ」
「一護くんに恩返ししたいと思ってたのは総隊長も同じだったんじゃない?」
「かもなぁ。....にしても総隊長ずっと見とるんか?緊張してまうわ〜。」
真子は伸びをしながらそう呟いた。口調といい態度といい、緊張している人のそれとは程遠い。
そうしている間に、卯ノ花まで順番が回ってきていた。真子は自身の後ろに控える雛森に「いくで」と軽く声をかけてから刀の方へゆっくりと足を進めた。
刀身に触れる。熱くも冷たくもない。ただ、蛍光灯のように光る刀身をずっと見続けることは出来なかった。
真子は目を閉じると、ゆっくりと霊圧を込め始めた。
真子が一護に向ける感情は少し複雑なものだ。もちろん愛とか恋とかではない。断じて。真子には美桜という最愛の存在がいるし、彼女以外に愛を捧げたことなど一度もない。
仲間意識というか、同志というか。虚化する原因は全く異なるものだが、貴重な虚化した者同士、通じ合うものはあるわけで。
魂をゆっくりと、時には急激に蝕まれる苦痛。自分ではないものに変容していく恐怖。抵抗しても無駄だというように嘲笑われたときの無力感。その全ては虚化した者にしかわからない。
一護が死神の力を失ってから、真子は空座町に近付かなくなった。明確な理由はない。ただ、なんとなく足がそちらを向かないのだ。そういうことにしている。
真子は目を開けた。随分と長い間霊圧を込めていた気もするが、周りの反応を見る限りそうでもないらしい。
真子はその場を雛森に譲ると、上がりそうな口角に意識して力を入れた。だって、急にニヤニヤしたら不気味ではないか。
白哉と恋次が霊圧を込めれば、美桜の番になった。
「ねぇ喜助さん。結構霊圧込めても平気??」
「大丈夫なように作ってますけど、あんまり一度に込めないでくださいね?涼森サン霊圧多いんスから。」
「ゆっくりだったら平気ってことね!わかりました!!」
美桜は刀身を指でそっと触れると、そこから自身の霊圧を注ぎ始めた。
霊圧を解放しているわけではないのに、ものすごい量の霊圧が刀に入っていく。普通の隊長格なら霊圧が枯渇するような量を放出しているはずなのに、美桜はケロッとして霊圧を注ぎ続ける。
「ちょ、美桜、どんだけ注ぐねん!!」
「あの、涼森サーン??」
「お〜い、美桜ちゃん、あとがつかえてるよ〜。」
真子や浦原、京楽が夢中になって霊圧を注ぐ美桜を止めた。
「ちぇ〜。」
「ちぇ〜やないわ!!入れすぎや、あほ。」
「だって入れても入れても底が見えない感覚が面白くて、、、どこまで入るのかなって。」
真子と美桜の会話を横で聞いていた喜助は冷や汗を流した。一護が霊圧を失った瞬間から考え始め、ようやく完成した一護を再び死神にするこの刀が破壊されるところだったのだ。
「喜助さんのことだから、ちょっとやそっとで壊れるような作りはしてないでしょ??」
「いや、まぁそーなんスけど....」
次同じようなことをする時がくれば、もっと丈夫に作ろう。喜助はそう心に決めた。
そうして全ての隊長格と数えきれないほどの死神が霊圧を込めた刀は、ルキアの手によって一護の力となった。
「これは、貴様のために浦原が用意した刀だ。これのおかげで私は、貴様にもう一度、死神の力を渡すことができた....!!」