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美桜が真子の写真集を手に入れてから数日。護廷十三隊の女死神の間ではもう随分と出回っているようで、至るところから写真集の話題が聞こえてくる。
「ねぇ、あれ見た?」
「見た!!!三人ともすっごいかっこよくない!?誰推し?私は六車隊長〜!やっぱあのムッキムキの筋肉でしょ!!」
「私平子隊長!!あの鋭い目付きがたまらなくてっ!!」
「あたしは鳳橋隊長だな〜。楽器なんでも弾けるのかっこいいもん。」
護廷十三隊の隊長というものは、何千人という死神の中のトップということもあり、現世でいうアイドルのような扱いをされることが多い。
故に先日のような写真集(たとえそれが盗撮であったとしても)は人気があるし、娯楽の少ない尸魂界ではあっという間に広がるのだ。
美桜は写真集が発売されてからというもの、隊士たちの話に敏感になっているのがわかった。....だって気になるではないか。旦那のことをかっこいいと言う、自分より若い女のこと。
真子に愛されている自覚はある。美桜も真子を愛している。それは例え尸魂界の歴史がひっくり返ったとしても変わらぬ事実である。だが、それとこれとは話しは別である。
真子の気持ちが自分に向いているからといって、他の女が真子にアタックするようなことは決して看過できる問題ではない。
美桜がふつふつと行き場のない気持ちを静かに温めているときに、事件は起きた。
ある日のお昼時。
真子に誘われてお弁当ではなく外食した二人は、心なしか重たくなったお腹を抱えて気分良く帰路についた。しばらくして見えてきた五番隊隊舎前で立ち止まる。
「ほなな。」
「うん、午後も頑張ろうね。」
そう言い合って美桜が七番隊に戻ろうとした時、聞こえてきた女の声に美桜の足が止まった。
「平子隊長〜!」
振り返れば、女隊士が三人。全員メイクが濃く、きつい香水の匂いが少し離れた美桜の鼻にも到達した。
「もぉ〜、どこ行っていらしたんですか〜?」
「私たち、今日こそ平子隊長のお時間いただきたくて!!」
「いつも断ってばかりで、一度も付き合ってくれないじゃないですか〜」
美桜は昨日真子がなぜお昼を誘ってきたのかわかった気がした。大方この女たちが昼休憩中に隊首室へ押しかけているのだろう。
自隊の隊士ならしっかりと指導できるが、見たところあれは他隊の隊士。あまり事を大きくすれば隊同士の対立に成りかねない。
だからこそ、直属の上司ではない真子は強く言うことも出来ず、得意の飄々とした態度でのらりくらりかわし続けているのだろう。
美桜は先日から少しずつ温められてきたものの温度が、一気に上がったのがわかった。
言い方は悪いが、真子は美桜を利用したのだ。確かに女避けとしての効力は十分発揮するだろう。実際夫婦であるし、美桜も真子に女がつくのは絶対嫌だ。
「(だから女避けにすることはいいけど....だったら最初からそうと言え。)」
だが、何より。許せないことがもう一つ。
美桜の脳裏に写真集を見て真子のことをかっこいいとキャッキャする隊士たちが浮かんだ。きっとこの女たちもそうに違いない。....この女たちは、真子のことが好きなのだ。そしてあわよくばと狙っている。
真子と美桜が夫婦関係にあることを知る者は意外と多くない。隊長・副隊長と上位席官、百年前から護廷十三隊にいる者くらいだろう。つまり、今いるほとんどの一般隊士は知らないのだ。
ピキッ....
美桜の何かに大きなヒビが入った。
美桜はツカツカと真子に詰め寄った。
「え、美桜?」
「涼森隊長?なんでここに?」
真子の声も、周りの隊士たちの声もまるっと無視して、真子の首に巻かれたスカーフとネクタイの中間のようなものを右手で掴む。そしてそれを勢いよく下に引っ張れば、バランスを崩した真子の顔が近くにやってきた。ここまで僅か三秒。
ちゅ〜〜
美桜はその唇に思いっきり口付けると、しばらくしてから唇を離した。
真子の唇に美桜のリップがほんのりとついている。
美桜は大きく息を吸い込むと、お腹の底から声を張り上げた。そして宣言する。
「平子真子は!百八十年前から!!....私のものなんだからっ!!!」
「「「「....」」」」
誰も何も言わない。水を打ったような静けさだ。
「....ッ!!!」
数秒後、我に返って羞恥で顔を真っ赤にした美桜は瞬歩で消えていった。
真子は普段では考えられない大胆な美桜の行動に面を食らったようで、頬を赤くしている。真子はその頬を人差し指で掻きながら、未だ呆気に取られている隊士に言った。
「....ってことで、二百年近く連れ添っとる可愛い奥さんがヤキモチ妬いてもうたから、せっかくのお誘いやけど受けられへんわ。すまんなァ。」
「「「あ、はい....」」」
真子は女たちに背を向けると、赤くなった顔を隠しながら五番隊隊舎に入っていった。
「....美桜ごっつ舌入れてきたやん...」
その言葉に反応する者はいなかった。
+ + +
「美桜ちゃーん、大好きな旦那が迎えに来たでー」
「え、真子?」
「お疲れさまです、平子隊長。」
終業時間の数分前。
真子は昼間の件の弁明をするために、終業時間前にやるべき仕事を全て終わらせて美桜を迎えに来たのだ。流石の雛森も、やることを終わらせているのなら、と何も言わずに送り出した。
真子は隊首室にあるソファにどっしり座ると、"美桜の仕事が終わるまでここにいる"とでも言うようにくつろぎ始めた。
流石に他隊の隊長にお茶の一つを出さないわけにはいかず、雫はすぐに給湯室に向かった。
皆の前でキスをしたため、美桜は様々な気持ちがぐしゃぐしゃに混ざり合っていた。
「(真子を取られたくない。でもみんなの前でのキスはやりすぎたかな....。真子呆れちゃったかな。私を女避けにするのはいいけど、ちゃんと言って欲しかったし、そしたら私だって....。何するんだろう?あぁ〜もう!!!)」
美桜が悶々としている間にも、奇妙な空気が七番隊隊首室に漂う。
雫にとっては地獄のようだった。いつもなら多少イチャイチャしながらも、仲良く二人で帰っていく。しかし今日の美桜は真子が来ても仕事を続けているし、真子も美桜に話しかけずに大人しく待っている。
雫はこの微妙な空気に耐えられなかった。
「隊長、お先に失礼します。」
「あ、うん。お疲れさま。」
「おー、お疲れさんー」
雫が退室したことで、真子と美桜の二人だけになる。
互いが互いを意識し合っているため、美桜の筆は進んでいないし、真子も雫に出されたお茶に手をつけていない。
先に折れたのは真子の方だった。
「あぁー!あかんわ!俺こーゆーん苦手なんやって!!」
真子は足を一度上に上げてから下に降ろすと、その反動で勢いよく立ち上がった。そして美桜の方へと歩いていき、美桜を後ろから包むように腕の中に入れた。
「美桜は何怒ってるん?」
「....別に怒ってなんかないですけどー?」
「あほ言え。怒っとるやないか。」
「....」
美桜は真子を後ろにくっつけたまま、新しい紙を出すと、そこに何かを書き始めた。
"誰、あの子たち"
白紙に黒い墨で書かれた女性らしい綺麗な文字。
真子はそれを見ると、後ろから美桜の持つ筆を指でつつく。察した美桜が真子に筆を渡せば、顔に似合わぬ達筆でその下に答えを書いた。
"ローズんとこの。"
そう書くと、美桜に筆を渡す。どうやら口で言えば口論になりそうだからか、敢えて文字で互いの主張を言い合うらしい。
しばらくそのやりとりが続いた。
"私を女避けにしたわけ?"
"ちゃうわ。偶然や、偶然"
"別に女避けでもいいけど、言って欲しかったんだけど?"
"嫌がる思てな"
"内緒の方が嫌"
"すまん"
"ふーん、まぁいいわ。で、やっぱ若い子の方がいいの?"
"何言ってんねん!美桜だけやわ!!"
"私言ってない。書いてる"
"何書いてんねん!....って、そーゆーことちゃうやろ!"
どうやら真子は口だけでなく文字でもちゃんとツッコミをするらしい。美桜はそのことが面白くてクスッと笑った。
真子はそんな美桜の頭を左手で撫でる。
"で、あの後告白でもされた?"
美桜の文字を読んだ時、真子はなぜ美桜が怒っているのか、そしてなんとなく噛み合わない会話の理由がわかった。
「やーっとわかったわ。美桜、勘違いしとるやろ。」
「え?なにが?」
「別にあの子らは告白とかそんなんちゃうわ。ただ俺に稽古つけてもらいたい言うてな。」
「....え"」
「まぁ多少の下心はあるんやろうけど、これっぽっちも靡かんわ。」
美桜は真子を囲んでいた女たちの会話を思い出した。確かに、誰も"告白"とか"一緒に遊びたい"とか、そんなことは言っていない。
どうやら、"付き合う"というのは男女の関係ではなく、修行とか稽古に付き合うという意味だったらしい。
「付き合うってそっち!?」
「当たり前やろ。まぁあっちの言い方も紛らわしいけどなぁ。」
美桜は盛大な自分の勘違いに脱力して、机に突っ伏した。勝手に一人で妄想して突っ走っていたのだ。恥ずかしすぎる。
「美桜チャンやっぱ嫉妬してくれたんかー?かわええなぁ。そんな美桜も大好きやで?」
美桜の頭を巡るのは、後悔ばかり。
「(あの時私、なにした?確か、みんなの前で....) ッ!!!」
「イタァッッ!!!」
美桜はみんなの前で真子とキスしたことを思い出し、ガバッと起き上がった。それにより美桜の頭が真子の顎にクリティカルヒットする。
「待って、私さっき、みんなの前で思いっきり....!」
「ちゅーしたなぁ?しかも舌も入れてきおって。....なんやっけ。 "平子真子は百八十年前から私のもの" やっけ?あれしびれたわぁ。俺愛されとんなぁ」
「あぁ....もうダメ。明日からどんな顔でいればいいの....」
「別にええんやない?隠してるわけでもないやろ?」
「それもそうだけど....」
美桜は不満そうに口を尖らせた。
「俺もちょいと心配してたんや。前は美桜が俺のもんってみんな知っとったから気にならんかったけど、結構美桜のこと見てんで?」
「私には真子だけだもん。」
「そら俺もや。美桜だけや。」
真子は美桜の顔を自分の方に向かせると、手で前髪を上げて額にキスをした。
要は似た者同士、互いに互いのことが大好きで仕方ないのだ。
もし、この場に雫がいたらこう思うだろう。
もう勝手にやってくれ。