幕間
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
冬を越えた木々が芽吹き、生命が誕生する。
死神の力を失った一護は、高校三年生になった。
ーーーユウレイは、見えない。
以前は喉から手が出るほど欲していた日常なのに、一護は虚無感を感じていた。
交通事故で犠牲になったサラリーマンの霊がいた電柱も、生前母と遊んだ公園に佇む女の子の霊も、何も見えないし、感じない。あの鼓膜を通り越して脳に直接響くような虚の叫び声。その気配。何も、感じない。
まるで自分の一部が欠けたような、自分ではないものになったような、そんな感覚。寂しささえ感じる。
そんな日常に慣れてきた頃。
喜んで良いことかわからないが、再び死神の世界に身を投じることとなった。
そしてそれは、己の生まれを知るきっかけでもあった。
+ + +
「あら....?」
ピロリンと軽快な音を立てて鳴った伝令神機に、書類を捌いていた雛森の手が止まった。
「なんやぁ?彼氏かぁ?」
「そうゆうのもセクハラになんよ、真子。」
執務中のはずなのに、自席で現世のファッション雑誌を広げる真子が、すかさず雛森を揶揄う。
雛森が否定の言葉を発する前に、真子の机に座って成人向け雑誌を熟読していたリサが指摘した。リサは、真子にファッション雑誌を届けに来たついでに世間話をしていたのだ。
「堂々とエロ本読んどるやつに言われたないわ!!」
「うるさい気が散る黙れ。」
真子の文句に、リサはエロ本から目を離さずに口だけで反応した。
「むっきぃぃぃ!!!」
「まぁまぁ二人とも。....これ、阿散井くんからなんですけど、隊長とリサさんも読んでみてください。」
そう言って雛森は手に持った伝令神機の画面を二人に向けた。
内容を読んだ真子が、ニヤリと口角を上げる。
「やるやんけ、ルキアちゃん。しっかし喜助もようやるわ。そないなこと出来るんあいつだけやろなぁ。」
そこには、浦原喜助が用意した刀に霊圧を込めれば、黒崎一護の死神の力を取り戻すことが出来ること。そしてそれに協力して欲しい旨が書いてあった。
もちろん、死神の力の譲渡は重罪だ。四大貴族の養子であるルキアすら、問答無用で投獄されたのだ。その後の刑については藍染らが四十六室を操っていたため定かではないが、いずれにせよ重罪であることに変わりはない。
「桃!これ俺にも転送せぇ!美桜と拳西、あとローズにも送るわ!」
「はい、隊長」
雛森は早速伝令神機を操作して真子に電子書簡を転送した。その横をリサが無言で通り過ぎる。
「ちょお待てリサ!」
「何?」
「何?てお前、もう帰るんか?」
「そう、帰る。」
「にしてもせめて一言言うてから帰らんかい!!しれーっとおらんようになったら、"なんでなんも言わずに帰ったんやろか"って残った俺らが変な空気になるやろ!!」
「んあぁ。ごめんごめん。準備のことで頭がいっぱいやった。」
真子はリサの言葉に首を傾げた。一体何の準備をするのだろうか。
「大勢の死神が集まるいうことは、新規顧客の開拓と知名度アップのチャンスやからな!」
そう言ってリサは隊首室から消えていった。きっと彼女の頭の中では、どうやって宣伝するかを考えていることだろう。
「商魂逞しいなぁ....」
案外商いというのがリサに合っているようだ。
真子はとりあえず拳西とローズに雛森からもらった電子書簡を転送すると、美桜の元に行くために隊首室を出ようとした。
「隊長は、どうしますか?」
「もちろん行くで。一護には世話なったしなぁ。ほな、俺美桜誘ってくるわ。」
「あ!隊長!!」
執務を放り出して美桜のところに行こうとする真子を雛森は止めたが、時すでに遅し。真子の姿はなかった。
七番隊隊舎。その執務室で静かに書類を捌いていた雫は、嫌でも覚えてしまった霊圧を感じてため息を吐いた。
すぐにノックなしで開けられるであろう扉を見れば、案の定勢いよく扉が開いた。
「美桜おるかー」
「....お疲れ様です、平子隊長。」
「おん、お疲れさん雫チャン。」
「隊長ならお休み中です。」
「邪魔するでぇ」
ズカズカと入ってから「邪魔をする」と言う真子に、雫は突っ込むことをやめた。この人に付き合うとこちらが消耗するだけなのだ。それをこの十七ヶ月で痛いほど理解した。
真子は執務室の奥の扉をそっと開けると、中に入っていった。
そこは美桜専用の仮眠室である。卍解で余剰睡眠時間を消費する美桜は、寝れる時に寝ることを総隊長である山本より許可されている。故に、任務のない穏やかな日はこうして昼寝をするのだ。
真子は隊長に復帰してすぐ自分用に持ち込んでおいた椅子に腰掛けると、すやすやと眠る美桜の寝顔をじっと見つめた。
気配に敏感な美桜が、こうして近づいても起きないということ。それは美桜が真子を心の底から信頼していることを意味する。
近付いても気付かないくらい、一緒にいることが当たり前で、自分を構成する一部なのだ。美桜は真子無くして成らず、真子は美桜無くして成らず。そういうとなんだか聞こえは良いが、要は共依存しているのだ。
真子は自分の頬が緩んでいることに気付かず、砂糖を焦がすような甘い目で最愛の妻の寝顔を見つめる。
その死覇装が乱れて濃い影を落とす谷間が見えている。真子は誘われるように、無意識にその双丘に手を伸ばした。
真っ白な雪原のような肌に、健康的な肌色の指が触れる。その弾力を確かめるように指に力を入れれば、むにゅっと音がしそうなほど柔らかく沈み込む。
幾度触れたかわからないほど触れて、口付けて、顔を埋めているにも関わらず真子を魅了し続ける双丘。
真子が子どものようにツンツンと胸に触れていれば、さすがの美桜も起きる。
「....ん、なにぃ..?」
「すまんなぁ、起こしてもうた。」
「ううん....おはよ」
「おはようさん。もう起きるか?」
「おきる」
美桜は腕をついて起き上がると、両手を天に向けて大きく伸びをした。それにより胸の膨らみが強調されていることに美桜は気付かない。
真子は手を伸ばして乱れた美桜の死覇装を整える。寝起きの美桜もぽけーっとしており、されるがままだ。
真子は立ち上がって美桜の後ろにいくと、寝るために解かれた髪を結び始めた。自分とは違い癖のある薄い金色の髪を指で優しく梳かす。そしてサイドテーブルに置いてある髪飾りを取り、慣れたように留めた。
そうしている間に覚醒したらしい美桜が、少し眠気を残した声で真子に疑問を投げかける。
「で、どうしたの?」
「どうもしとらん」
「何か用事があったんじゃないの?」
「用事ないと来ちゃダメなんか?って言いたいところやけど、今日はホンマに用事や。」
真子は見せる方が早いと伝令神機のメール画面を開いた状態で美桜に渡した。
乱菊から雛森へ、そして雛森から真子へ転送されたルキアの電子書簡を読む美桜の顔がどんどん明るいものに変わっていく。
「十七時にそっち行くね」
「おん。待っとるわ」
真子と美桜の間には、行く行かないの問答はない。そんなの、答えなんて決まっているではないか。
霊力の譲渡は重罪。だが真子と美桜にそんなことは関係ない。この電子書簡を見れば、きっとほとんどの死神は霊力を込めるだろう。それほどに黒崎一護という男に尸魂界は何度も救われてきたのだ。
それに、例え罪に問われようとも、真子は百余年尸魂界と藍染の手を逃れ続けた身。今更恐れることはない。
美桜はベッドから脚を下ろすと、脱いでいた靴を履いた。すかさず真子が壁に掛かっていた隊長羽織を美桜に羽織らせる。
ベッド横に置いておいた二本の斬魄刀を腰にさせば完成だ。
「おはようございます、隊長」
「おはよ、雫。ちゃんと休憩してる?」
「はい、いただきました。」
「ならいいわ。今日は十七時には上がるから。もちろん雫もね。」
「私もですか?かしこまりました。」
雫は今日の予定を思い出すが、早く退社しなければならない程の予定など思い付かなかった。
そんな雫に、真子が理由を説明する。
「喜助がなぁ、一護に死神の力を入れるための刀を作ったんやと。それにみんなで霊圧込めるんや。」
「....!!なるほど。それは早く行かなければなりませんね。」
「雫チャンよぉわかっとるなぁ。話が早くて助かるわ〜」
行きますか、なんて聞いてこない雫に、真子は純粋に感心した。さすがは美桜と九十年タッグを組んでいるだけある。
「ほな、あとで迎えにくるわ。」
「はーい。またあとでね。」
真子は後ろ手を振って隊首室を出て行った。
「さてと。私たちもさっさと終わらせますかねー。」
「はい。」
美桜は気合を入れるように頬を軽く叩くと、筆を持った。