幕間
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「取材ぃ??」
ある晴れた日の昼下がり。
五番隊隊首室で素っ頓狂な声が響いた。
その声を出したのは、顎あたりの派手な金色の髪をさらりとゆらし、斜めに切られた前髪から鋭い切れ長の目を覗かせた男、五番隊隊長の平子真子だ。
珍しく真面目に書類を片付けていた真子は、突拍子もないことを言い出した自身の副官を見た。先程まで筆を持っていた右手には何もなく、隊長格に相応しい重厚な机に頬杖をついている。ーーー完全に話を聞く体勢だ。
雛森はしまった、と思った。
折角真面目に書類を片付けていたのに、水をさしてしまったのだ。数秒前の自分に言いたい。今言うべきことではない、と。しかし口から出た言葉は二度と元には戻らないし、取り消すことも出来ない。
雛森は諦めたように口を開いた。
「檜佐木くんが来月の瀞霊廷通信で平子隊長と涼森隊長のことを特集で載せたいから、取材させて欲しいって言っていまして」
「瀞霊廷通信ってアレか、毎月配られとる雑誌みたいなやっちゃろ?復帰してすぐなんや聞かれたなぁ」
「そうです、そこの質問コーナーで、最近平子隊長と涼森隊長のことを聞かれることが多いみたいなんです。だから特集を組もうって思っているみたいで」
毎月配布される瀞霊廷通信には、ありとあらゆる情報が載っている。瀞霊廷を守護する護廷十三隊のことがメインだが、どこかの貴族が結婚しただの、あそこの甘味処の餡蜜は最高だの、そういう俗な記事もある。
その中の、"教えて!檜佐木先生!"というコーナーでは、編集長である檜佐木をはじめとした編集部宛に届く便りを題材に、ちょっとした記事を書いているのだ。このコーナーに寄せられた便りの中から、次号の議題を選ぶこともある。今回もそれだ。
藍染の封印から半年。復帰した真子をはじめとする仮面の軍勢、昇格したルキアや心に癒えぬ傷を抱えながら過ごす者も、新しい護廷十三隊に慣れた頃だろう。つまりは、皆心に余裕が出てきたのだ。
藍染との決戦後、大きな闘いもなく今のところ平和な日々が続いている。むしろこの一年が異常だったのだが、それは置いておこう。
自分のことが落ち着けば、当然周りに目を向ける。そんななか目についたのは、仮面の軍勢のリーダーであり、五番隊隊長に就任した平子真子。しかも七番隊隊長である涼森 美桜と夫婦らしい。そんな美味しい話題に食いつかないわけがない。
真子と美桜は終業後よく手を繋いで瀞霊廷を散歩している。それだけで多くの隊士の注目の的だ。
檜佐木も前々から二人のことを書きたいと思っていた。復帰した真子の簡単なプロフィールは掲載したことがある。もちろん真子だけでなく、ローズや拳西も掲載された。しかし今回檜佐木は、そんな表面的なことではなくもっと中に踏み込んだことを聞きたいらしい。
「別に俺は構わへんけどなぁ....美桜の許しがないと何も言えんで。」
「わかりました。檜佐木くんにはそう伝えておきます。」
「え、取材?」
戸惑いを含んだ声が昼下がりの執務室に溶けた。
その声を出したのは、背中の真ん中までの薄い金色の髪を執務の邪魔にならないよう軽く一つに結び、ぱっちりとした大きな薄紫の目を丸くした女性、七番隊隊長の平子美桜だ。
「そうです。檜佐木副隊長が次号の瀞霊廷通信に隊長と平子隊長のことを載せたいようです。」
「いやよ。だって瀞霊廷通信って瀞霊廷中に配られるじゃない。は、恥ずかしいわ....」
そう言う自分の隊長に、雫は「今更何を言っているのですか」という言葉が喉元まで出かかった。
毎日手を繋いで瀞霊廷を闊歩し、本当にお互いしか見えていないように二人の世界に入っている。
真面目な美桜は仕事を溜めることなどないが、真子が遊びにくるとその手は止まる。そして恋する乙女のように頬を赤らめながら設置されたソファで休憩するのだ。
雫はいつもの上司を見ているからこそ、今更恥ずかしいなどという気持ちがわからなかった。もう二人の仲を知らぬ者など瀞霊廷にいないのだから、今更瀞霊廷通信で特集を組まれても恥ずかしくも何ともないはずなのに。そう思わずにはいられなかった。
+ + +
「そうっすか、断られてしまいましたか....」
九番隊の瀞霊廷通信編集部。その一番上座に設置された机で、檜佐木は苦笑いした。書きたいなと思ってから、なんとなく美桜の許しが出ないだろうとは思っていたようだ。
すると、瀞霊廷通信編集部専用の応接室であんこモナカを頬張っていた白が、口いっぱいにあんこを詰め込み、さらには口の周りにもあんこが付いた状態で口を開いた。
「リサに頼んだらー?」
「リサ?....あぁ、矢胴丸さんですか?確か、前八番隊副隊長の。」
「そー。リサは美桜ちんと仲良いから色々知ってると思うよー。あとはけんせー!!」
「隊長が?」
「だってあの四人、霊術院で同期だもん」
「....!!」
檜佐木は思わぬ情報に目を見開いた。真子と拳西の仲が良いのはなんとなくわかる。二人は同じ仮面の軍勢として百余年共に過ごした。それだけだと思っていた。しかしまさか真央霊術院で同期だったとは夢にも思っていなかったようだ。
同じ年代から隊長格が何名も選出されるのは珍しい。真央霊術院の長い歴史の中でも、檜佐木の代から数十年で阿散井や雛森、吉良といった副隊長、さらには天才と呼ばれる日番谷が隊長として選出された時代は、俗にいう黄金時代と呼ばれていた。
その数十年間で"黄金"時代と呼ばれていたのだから、ある一年で隊長三名に副隊長が一名選出された時代は、一体"何"時代になるのだろうか。
「久南さんはいつ頃霊術院に入られたのですか?」
「あたしは一年後!けんせーが勝手に霊術院に行ったから、その後追っかけたの!けんせーってばひどいんだよ?あたしに何も言わずに朝起きたらいなくなってたの!!」
「....(あんたらそんな昔から一緒だったんすね)」
檜佐木は文句を言い続ける白に苦笑いした。そんな昔からいたならそりゃああれだけ仲が良くなるわけである。拳西が聞いたら「仲良くねぇ!!」と怒りそうだが。
檜佐木は重要な情報を提供した白に、来客用のあんこ饅頭を黙って差し入れした。
「え!!食べていいの!?」
「いいっすよ。良い情報教えていただいたんで。」
「やったー!!!しゅーへーっていい奴!!」
この情報があんこ饅頭三個で買えるなら安いものだ。
檜佐木は早速拳西とリサに話を聞くため、瀞霊廷通信部を飛び出した。