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藍染が無間に収監されて一週間。長きに渡る闘いが終わってから二週間が経った頃。
護廷十三隊の隊士たちの間では、ある噂で持ちきりだった。
「空いた隊長枠に百年前隊長だった人たちが就任するって本当か?」
「でも聞いたところによると虚の力を持ってるらしいぜ?ほら、霊術院で習っただろ、虚の力を持つ死神のこと。あれなんだってさ。」
「虚の力を持った人が、護廷十三隊の隊長ってどうなんだ?」
「でもその人たちが望んで手に入れたものじゃないらしい。なんでも藍染の謀略だったんだとか。」
「おっかねぇよな。まさか藍染隊長があんなことしでかすなんて。」
「バッカお前!もう隊長じゃないんだぞ!誰かに聞かれたらどうする!」
「わりぃ、つい癖で....」
そう、護廷十三隊の空位になっている隊長枠についてだ。
藍染の離叛からまだ半年ほどしか経っていないが、度重なる戦いに隊士たちの心はひどく不安定だった。
空座町での決戦は、一般隊士には"藍染を封印することに成功"という吉報のみが伝えられていた。しかし、上官である隊長・副隊長の怪我や雰囲気からして、決して完全な"勝利"であったわけではないことを皆察していた。
特に隊長が離叛した三・五・九番隊はかつての上官が離叛し、死亡または封印という結果に戸惑いを隠せなかった。
その三隊以外の隊長・副隊長も、皆己の未熟さを痛感し、修行に励んでいる。総隊長である山本も左腕を藍染との戦いでなくし、隻腕の総隊長となった。最も、隻腕になったからといって山本の威厳は落ちるわけではない。
しかし、総隊長である山本が腕一本失ったという事実は、護廷十三隊の隊士に重くのし掛かった。大海原であてもなく彷徨い続けるような不安が隊士たちの心にあったのだ。一般隊士が心の拠り所であり、指標となる隊長を求めるのは、自然なことだった。
尸魂界は今、変革の時を迎えているのであった。
当然、"空位の隊長枠をどうするか"という議題は、隊首会でも取り扱われた。
山本は残っている右手だけで杖を床に打ち付けると、細い目を開いて隊長格を見渡した。その眼光は二千年という年齢を感じさせないほど鋭い。
「さて、皆もわかっているが、先の闘いで空位になった三・五・九番隊隊長の枠を早急に埋めなければならぬ。隊長の器足る人物に、心当たりがある者はおるか。」
「そんなこと聞かなくなってわかってるでしょ〜、山じぃ。」
「ふむ。平子真子を含む仮面の軍勢か。確かにあやつらなら隊長の器と言えよう。」
「彼らは死神だけでなく虚の力を持っているそうじゃないカ。虚の力を持った隊長が成り立つのカネ。」
「いくら虚の力を持っているからといっても、その力は彼らが望んで得たものではありません。....しかし、彼らは本当にここへ戻ってきたいと思っているのでしょうか。」
「「「....。」」」
卯ノ花のもっともな言葉に、皆押し黙った。
京楽は一番仮面の軍勢の面々を知っている美桜に視線を向けた。
「どうなの、美桜ちゃん。彼らは本当にここに戻ってまた隊長をやりたいと思っているのかい?」
「....人それぞれじゃないでしょうか。死神に絶対戻らないって言う人もいれば、心の奥底で望んでいる人もいるでしょう。」
前者はひよ里、後者は真子のことだ。
ひよ里は死神そのものを嫌っているため、死神に戻ることはまずないだろう。しかし、真子は死神を嫌っているわけではない。確かに死神によって死神の座を追われたが、その全ての発端は藍染であり、全ての死神が悪いわけではない。それは真子も理解している。ーーーただ、理解と納得は別物だ。理解は自分の意思関係なく物事を捉えることであり、納得は自分の意思を踏まえた上で相手の言動を受け入れることである。
故に、望まれたから「はいわかりました」と首を縦に振るつもりは毛頭ない。一度は裏切られたのだ。通すべき仁義というものがある。
いずれにせよ、本人たちのいないところで話を進めていい問題ではない。
山本は次回の隊首会で、真子をはじめとする仮面の軍勢、そして浦原喜助と四楓院夜一を加えて議論することを決めてから、隊首会を解散させた。
空位の隊長枠について、中央四十六室でも議論が行われた。
藍染たちに壊滅させられた中央四十六室は、先日ようやくその機能を取り戻したばかりだった。取り戻して最初の仕事は、藍染惣右介の裁判だった。そして次の仕事は、空位の隊長枠をどうするか。どちらも尸魂界の命運を決める、重要すぎる議題だ。
「自らを
「しかし奴らは虚の力を持っておる!!そのような輩に隊長が務まるのか!?」
「では他に相応しい者がいるのか?」
「浦原喜助と四楓院夜一がいたはずじゃ。その二人は虚の力を持っていないと聞く。空位が全て埋まるわけではないが、二人なら隊長に相応しいといえよう。」
「だが我々は一度浦原喜助に永久追放という判決を下している。奴は天才だ。またこちらの懐に入れるのは危険ではないか?」
「確かに、百余年もの間罪を被ってきたのだ。恨まれている可能性は充分にある。」
本人が聞いたら「そんなことないっスよぉ〜」と言いそうだが、本当のところは喜助のみが知る。
「しかし護廷十三隊の隊長という重要な席をこのまま空位にしておくわけにはいかない。やはり元隊長に収まってもらうのが良いだろう。」
「虚の力を持つ隊長か....」
皆一様に押し黙った。
+ + +
真子たち仮面の軍勢は、山本より一番隊舎に来るよう通達がなされていた。
どんな話をされるか容易に想像できてしまった真子は、朝から口をへの字にしていた。
別に戻りたくないわけではない。隊長職は自分の性に合っていると思うし、部下の面倒を見るのも苦ではない。しかし、あの藍染の気配が色濃く残る古巣に戻るのが嫌なのだ。
百年以上経った今では、自分の知る隊士はほぼいないとみて良いだろう。それに藍染のことだ、きっと隊士たちからの信頼も厚かったのだろう。そこに入る自分。いくら元隊長だとはいえ、百年も尸魂界を離れていた身だ。知り合いなどほぼいない。そんな中でぽっと出の自分が隊長に就くとどうなるか。
「はぁ....」
真子は深いため息を吐いた。ただ、こうやって色々悩むくせに辿り着く答えは毎回同じもので、そんな自分にもため息を吐きたくなった。結局自分は、死神が好きで、隊長職も気に入っているのだ。
それに百年前と違って今は美桜も隊長だ。夫婦で隊長ってなんか良い....。そんな不純な動機もなかったとは言えない。
「相変わらずやなぁ、ここは。」
真子は目の前に聳え立つ一番隊舎を見上げた。
百年で尸魂界はだいぶ変わっていた。執務の合間に休憩(という名のサボり)に行っていた茶屋がなくなっていたり、毎年見に行っていた桜の木が伐採されていたり、更地だった場所にお店が出来ていたりと、百年の月日を感じさせるものが多かった。しかし、変わっていない場所もある。その代表格がここ、一番隊舎といえよう。
立ち止まる真子の横で拳西も扉に大きく描かれた"一"を見つめている。その心の中で一体何を考えているのか真子は興味がなかったが、自分とほとんど同じようなことだろうとあたりをつけた。
「行くで。」
いつもと同じく真子を先頭にして、仮面の軍勢は一番隊舎の扉を叩いた。
最終的に、真子たちは次の春から隊長として復帰することが決定した。
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