破面篇
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各地で繰り広げられていた十刃と隊長たちの戦闘に、仮面の軍勢が加わり戦況が変わった。
砕蜂と大前田に有昭田が加わり、片腕を失いながらも見事バラガンとの戦いに勝利した。
浮竹の治療を終えた美桜は、荒い息を整えながら横を見た。そこには瓦礫の山があるだけだが、美桜には先程からずっと浮竹の治療を見守っている霊圧があることに気付いていた。
「....春兄。」
美桜は小さな声でその霊圧の持ち主を呼んだ。
京楽は鬼道で己を見えなくしているようだった。十刃に不意打ちをするためだろう。
その意図を察した美桜は、結界を張ると京楽を招き入れた。
「治療するね。」
「....頼むよ、美桜ちゃん。」
美桜はようやく姿を見せた京楽の左肩に開いた大きな穴を見て顔を顰めた。あらかじめ渡しておいた回道を込めた霊石で少し治療されているが、それでも大怪我だ。
「今あっちはどんな感じ?」
美桜は肉眼で見ることのできない戦況を京楽に聞いた。
京楽は少し離れた場所で戦う三人を見ると、編笠を深く被ろうとした。しかし、そこに編笠がないことに気付き、困ったように髪を撫で付けた。
「....ちょっとまずいかもねぇ。」
「急ぐね。」
美桜は右手に金色の霊圧を溜めると、それを一気に京楽の左肩に押し込んだ。金色に光った傷はみるみるうちに穴を塞いでいき、元通りの肌に戻った。
美桜は額に浮かんだ汗を乱暴に拭いた。
「行ってらっしゃい。今度怪我しても治療しないからね。」
「それは怖いなぁ。怪我しないように気を付けなきゃ。」
京楽は顔色の悪い美桜を見た。またこの子は随分と無理をしているのだろう。それも仕方ないかもしれない。美桜は縛りもあるが、斬魄刀自体が戦闘向きの能力ではない。むしろ治療のスペシャリストのため、総隊長である山本にこの場における負傷者の治療を任されているのだ。
戦わなくていいと言えば聞こえはいいが、戦いに怪我は付きものだ。仲間が傷付き倒れ、命がこぼれ落ちていくのを一番近くで見なければならない。自分の腕に仲間の命がかかっているのだ。たとえ命を取り留めたとしても、彼らはまた立ち上がって敵に向かっていく。そして傷付き自分の元へ戻ってくるのだ。
美桜は自分が皆と同じように戦うことが出来ないことに負い目を感じている。そのため、無理をしてまで皆のために治療を行うのだ。
京楽は立ち上がると、出会った時から変わらない弟子の頭に大きな手を乗せた。
「浮竹のこと、頼むよ。」
「任せて。」
「それと美桜ちゃん。少し休んでおきなさい。」
「....はーい。」
美桜も自分が無理していることをわかっているのだろう。渋々ながらも京楽の命令に従った。
美桜は再び鬼道で姿を見えなくした京楽を見送ると、自分と浮竹の周りに強い結界を張ってから、目を閉じた。
「ッッ!!ひよ里ーーー!!!」
美桜は真子の切羽詰まった声で目を覚ました。長年共に過ごした自分でも数回しか聞いたことがない、そんな声だ。
美桜がハッとして顔を上げれば、ひよ里の霊圧が
「....え?」
美桜はどういうことなのか理解できず、ただ呆気に取られることしかできなかった。そんな美桜を呼び戻したのは、真子の声だった。
「っ美桜!!!治せるか!!!」
美桜はハッとした。真子が呼んでいるのだ。行かなければならない。美桜は瞬歩で真子の元へ向かった。
美桜の目に映ったのは、上半身だけのひよ里だった。先程美桜が感知した二つの霊圧は、勘違いでもなんでもなかったのだ。
腹の辺りで半分に斬られており、下半身が見当たらない。本来なら即死だ。今ひよ里が息をしていることすら不思議で仕方がない。
美桜は近くの瓦礫に紛れていた下半身を持ってくると、すぐにひよ里の上半身に隣接するように置いた。
美桜はひよ里の傷口を観察した。傷口と言って良いのかわからない。もはや断面図だ。しかし、幸い斬魄刀で斬られたせいか切り口はぐちゃぐちゃになっておらず、綺麗にスパッと斬られていた。この方が繋げやすいのだ。
美桜はひよ里の下半身を切り口に近付けて全力で時間回帰を行った。
まずは内臓に焦点をおき時間回帰をかける。しかし悠長なことを言っていられない。こうしている間にも大量の出血があるのだ。たとえ傷が癒えたとしても出血多量で死亡する可能性も十分にあった。
「....っ!頼めるか。」
「ひよ里ちゃんが諦めなければ大丈夫。」
真子は美桜の返事に安堵の息を漏らした後、ひよ里がこうなった原因を睨みつけた。
藍染は真子の視線に口角を上げると、低いテノールで真子を煽る。
「良い目だ。百年ぶりに生き返った目をしている。」
「....っ!!!」
「君は特別に、私の剣でお相手しよう。」
真子は下を向いた。さらりと揺れた髪でその表情は窺えないが、内心はらわたが煮えくりかえっているのだろう。逆撫を握る手に力が入っているのがわかる。
美桜はそんな真子を見た。そしてひよ里の治療で手が離せない両手の代わりに、自分の頭を思いっきり真子の額にぶつけた。
ゴチンッ
「いたぁぁ!!何すんねん美桜!」
「肩の力抜きなさい。真子まで飲み込まれてどうするのよ。」
美桜の鋭い声に真子はハッとした。憎しみで己を見失いかけていたのだ。
美桜は真子と額を付けたまま続けた。
「百年前のあの夜に真子は死んでなんかいないわ。それは
「....。」
真子は何も言えなかった。思い出したのだ。百年前も、この百年間も、そしてきっとこれからも、自分の隣には必ず美桜がいる。普段は優しくて、でもちょっとお茶目で意外と悪戯が好きで。それでいて自分が道に迷った時に必ず背中を押してくれる。「信じた道を行け」と、「私も隣にいるから」と。それがどれだけ心強いことか、本人は分かっていないだろう。
真子はフッと口角を上げた。先程までの自分がなんだか馬鹿らしくなってきた。あの真っ黒い感情とは真逆の、清々しい朝のような色の感情が心に広がった。
美桜は雰囲気が変わった真子に口角を上げた。元の真子に戻ったのだ。いってらっしゃい。その気持ちを込めて触れるだけのキスをした。
真子は立ち上がると、有昭田を呼んだ。
「ハッチ!!片腕のところ悪い。美桜が治療に専念できるように補助を頼む。」
逆撫を持つ手に、もう余計な力は入っていなかった。
真子を見送った美桜の頬を冷や汗がつたう。先程少し寝入っていたとはいえ、既に消耗していたのだ。その上で今回の時間回帰。物凄い勢いで霊力と体力が減っていくのがわかった。
美桜は異空間から飴玉サイズの霊石を取り出すと、それを口に含んだ。濃い紫色の霊石は、美桜が限界まで霊力を凝縮させた霊石だ。これは美桜自身の霊力を回復させるために用意しておいたものだ。霊力はこの霊石でどうにかなるが、体力はどうしようもない。
有昭田が結界を張りここを守護してくれているからといって、安心はできない。すぐ近くでは藍染たちが戦っているのだ。ひよ里を動かせる状態になれば、すぐにでも動かして安全な場所に避難したい。
(そのためには、早く治さなきゃ....!)
美桜はさらに霊圧を込めた。