破面篇
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転界結柱を守る戦いが終わった後、十刃が動き出し、それぞれ隊長たちと戦い始めた。
美桜はあくまでも回復要員のため、戦いには参加せずに山本の近くで待機していた。
先程戦いに参加したのは、転界結柱を破壊されたからだ。転界結柱の仕組みを把握しているのは喜助と美桜しかいない。喜助が近くにいない今、美桜が行くしかなかったのだ。
皆の戦いを見守っていると、ふと黒く重たい霊圧を感じた。美桜がそちらに目を向ければ、松本乱菊が化け物のような風貌の重たい霊圧の持ち主にやられて落ちていくところだった。それを雛森が追いかける。
美桜には霊圧でしか判断できないため、詳細な状況はわからないが、それでも劣勢の立たされていることは分かった。
檜佐木と吉良が参戦し一時は持ちこたえたかと思ったが、檜佐木も化け物に捕まり戦闘不能になった。
このまま副隊長たちが倒されるのを黙って見ているわけには行かないため、美桜が瞬歩で向かったのと同時に、山本も消えた。
「(もう少し、あと少し....!!)」
乱菊に回道をかける吉良は、迫りくるアヨンと呼ばれる化け物に焦っていた。吉良のすぐ近くには負傷した乱菊と雛森。先程まで戦っていた檜佐木も戦闘不能に陥った。まさに絶体絶命。
その時、アヨンの歩みが止まった。不思議に思った吉良が顔を上げると、アヨンの左胸に大きな穴が空いていた。
「....え?」
「全く、総隊長を前に出させるとは、情けない隊員たちじゃのう。」
吉良とアヨンの間には、白い隊長羽織。その背の文字は"一"。どうやら山本が助太刀に来たようだった。助太刀に来たのは山本だけではない。
「治療は任せたぞ。」
「....はい。」
吉良は自分のすぐ隣から聞こえた声に驚き目を見張った。白い隊長羽織に肩をこぼれ落ちる金色の髪。七番隊隊長の涼森 美桜だった。
「吉良君、乱菊ちゃんの治療代わるわ。雛森さんをお願いしていいかしら。」
聞こえてきた声にハッとした吉良は、立ち上がってその場を美桜に譲った。第二の四番隊と呼ばれる七番隊隊長だ。元四番隊とはいえ、そこから離れて久しい自分が治療するより余程良い。
それに以前、阿散井が一護との戦いで負傷した時に美桜の見事な回道の腕前を間近で見ていた。吉良は乱菊を治療し始めた美桜に一礼してから、辛そうに浅い呼吸を繰り返す雛森を治療し始めた。
美桜が乱菊に時間回帰をかけていると、あっという間に山本がアヨンを倒し、三人の女破面も戦闘不能に追いやった。
それぞれの隊長も十刃を戦闘不能に追いやり、勝利への道筋が見えてきた時、黒腔から出てきた破面と巨大な化け物によって戦況はひっくり返った。
美桜が乱菊の治療を終えて、雛森を治療する吉良と交代しようとした時、己の師の聞いたことのないほど切羽詰まった叫び声が聞こえて顔を上げた。
「浮竹ぇ!!!」
京楽が叫んでいる。浮竹がやられたようだ。美桜は浮竹がやられたことが信じられず、固まって目を見開いた。そのすぐ後に、山本の叫び声も聞こえて、美桜は居ても立っても居られなくなった。
「春水!!十四郎!!」
「....っ!!!」
吉良は先程までと打って変わって取り乱している美桜を見ると口を開いた。
「....行ってください。」
「....え?」
「行ってください、涼森隊長。ここはもう大丈夫です。行ってください!!」
「....っ!!お願いね!」
美桜はせめて、と右手に時間回帰の霊圧を纏うと、それを雛森に押し込んだ。一気に回復させるのは美桜の体力を消耗するため、あまり褒められた行為ではないが、流石に吉良一人でこの負傷者の数は荷が重い。これで雛森の怪我は半分近く回復したはずだ。美桜は後ろ髪を引かれる想いで京楽と浮竹の元へ向かった。
美桜が二人の元へ向かっている間に、新手の破面 ワンダーワイスが甲高い叫び声をあげた。鼓膜が破れそうになる程のそれは、ハリベルとバラガンを復活させた。そして藍染たちを覆っていた炎の檻を消すと、中から無傷の藍染たちが出てきた。
美桜は加勢するか迷ったが、大好きな霊圧を感じて迷いを消した。
「(きた....!)」
真子たちが来たのだ。まさに救世主と呼べるタイミングでやってきた彼らに、美桜の視界が滲んだ。
「待てや。」
美桜は真子に抱きつきたい衝動を抑え込んで、京楽と浮竹の元に向かった。
少し離れた場所にうつ伏せで倒れ込んでいる二人。腹と肩、それぞれに穴が空いている。京楽は意識があるのか開戦前に渡した霊石でこっそり回復させているようだ。美桜は涙を拭って浮竹の治療を開始した。
「久しぶりやなぁ、藍染。」
真子は被っていたハンチング帽を指でくるくると回しながら、百余年ぶりの藍染をその目に焼き付けた。
「久しぶりのご対面や。十三隊ん中に挨拶しときたい奴、いとるかぁ?」
「いてへんっ!!」
「お前には聞いてへんねん、ひよ里!」
「ウチには聞いてへんってどーゆーこった!みんなに聞いてんやろ??みんなに!!」
仮面の軍勢は挨拶したい人がいないのか、皆首を振る。少し考えるように下を向いたリサは瞬歩で消えていった。
「あ、こらリサ!!」
「ほな俺も、美桜と総隊長んとこ行ってくるわ。」
そう言って真子も消えていった。
うつ伏せに倒れた京楽を上から見下ろしたリサは、その頭を踏みつけた。
「いつまで、死んだふり、してんねんっ!!」
「....っあいたっっ!!」
容赦ないリサの蹴りが京楽の頭に入る。京楽は「いたたた」と言いながら起き上がると、百余年ぶりに見る副官の姿に頬を緩ませた。
「見ない間に随分と綺麗になったねぇ。」
リサも褒められて照れているのか、逆光で見えにくいが頬が赤くなっている。リサは照れ隠しのためにもう一度京楽を蹴り飛ばした。
抵抗されずに蹴り飛ばされる京楽。彼にとっては、百余年会えなかった副官からの蹴りすら愛おしいのだろう。
「ウチがどんだけ強くなったか、そこで見とき。」
そう言ってリサは京楽に背を向けて歩き出した。
「リサちゃん。元気そうで良かったよ。」
「....。美桜から霊石もらったやろ。それ使ってはよ怪我治し。」
どこまでも素直じゃないリサは、そう言って去っていった。京楽はリサのそんなところもわかっているため、顔を緩ませてリサを見送った。
真子は山本の近くに瞬歩で現れた。
「恨みを晴しに来おったか。」
「藍染にな。あんたらのことは、別にや。」
真子は山本の言葉に食い気味で返した。真子たちは藍染と戦いに来たのだ。可能性は低いとしても、護廷十三隊と戦う気など毛頭ない。
「今はお主らのことを、味方と考えてよいかの。」
「....あかんわ。俺らは藍染の敵、んでもって一護と嫁さんの味方や。」
一度は流刃若火に手をかけ抜きかけた山本だったが、真子の言葉に刀から手を離した。
真子はそれを見て瞬歩で消えていった。
「美桜。」
「....!真子っ!!」
真子は浮竹を治療する美桜に声をかけた。
美桜は一度治療の手を止めると、その目に涙を浮かべて真子に抱き着いた。
真子は美桜の震える背を落ち着かせるように撫でると、美桜の頬を両手で包んだ。涙で潤んだ薄紫色の瞳を見ていると、なんだか安心するのだ。自分の身をここまで心配してくれる人がいる。だから生きて帰ろうと、そう思えるのだ。
真子は美桜の瞼にキスを落とすと、順番に下に降りていった。瞼、頬、そして最後に唇にキスをした。
「....ん。はぁ....んっ。」
ここが戦場ということも忘れて舌を絡める。
美桜には数時間後の真子の未来が視えている。しかし、それでも不安なものは不安なのだ。
美桜は真子に自身の霊圧を送り込んだ。時間回帰が付与された霊圧は、真子の中に取り込まれ、今後怪我をした際にオートで発動する。一時間ほどしか保たないが、ないよりは良い。その一心だった。
やがて唇を離すと、互いに少し赤くなった唇が見えた。二人の唾液でテラテラと濡れて光を反射させている。
真子はもう一度美桜を強く抱き締めると、耳元で小さく囁いた。
「....行ってくる。」
「待ってるね。行ってらっしゃい。」
美桜は真子の背に両手を回すと、真子と自分を落ち着かせるように一定のリズムで軽く叩いた。
やがて真子は美桜を離すと、左手で斬魄刀を持ち猫背で消えていった。
「すまん、待たせたなぁ。」
「もういいのかい、真子。」
「美桜にも会えたからなぁ、満足や。それにそろそろ敵さんもしびれ切らす頃やろ。」
真子がそう言うと、ワンダーワイスが奇声をあげ始めた。
「あぁ〜〜〜うぅぅぅ。あああ〜〜〜。」
するとワンダーワイスの後ろにいた化け物が口をモゴモゴさせて何かを吐き出した。吐き出されたのは大量のギリアン。
「....行くで。」
真子の声を合図に、仮面の軍勢は虚の仮面を纏ってギリアンの群れに向かっていった。
他の仮面の軍勢がギリアンを難なく倒していく中、真子は藍染の前に降り立つ。
「どうや?随分使いこなすようになったやろ。終いにしようや、藍染。」
真子は目にも止まらぬ速さで斬魄刀を抜き、藍染に斬りかかった。もう少しでその刃が藍染に達するというとき、自身を攻撃する者に気付き、間一髪で体勢を変えて避けた。
「外したか。」
「あほぉ。当たっとるわい。」
否、全ては避けきれなかったようだ。しかし、真子が怪我をした瞬間、額の傷から金色の光が溢れて傷を癒していく。すぐに傷は癒え、顔に血が残るだけとなった。
藍染は先程から感じていた美桜の霊圧に目を細めた。真子の中に美桜の霊圧があることはわかっていたのだ。しかし、それがこのような形で出てくるとは思っていなかったようだ。
「それは彼女の能力かい?時間に介入するのか。一本は空間、もう一本は時間か。二刀一対といっても、他とは別の括りのようだね。実に面白い。」
「....。」
「平子隊長、貴方が涼森隊長のことを私に隠していたのは正しい判断だったよ。でなければ、貴方たちの前に彼女が実験材料となっていただろうからね。」
「....言うやなやいかい。」
真子は己の判断が正しかったことを知る。
藍染は研究者だ。研究者というものは、己の目的のために手段を選ばず突き進むことが多い。もちろん例外も存在するが、藍染は間違いなく前者だ。もしその目的に美桜が有効であると気付いた場合、なりふり構わず美桜を狙ってくるだろう。
真子は逆撫を握る力を強くした。