番外編
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●女の子の日
(藍染離反後)
まるで岩が乗っているのではないかと錯覚するほど重く、痛い腰。太い針で刺されている気がするほど痛いお腹。そして全体的に怠い身体。貧血による眩暈に頭痛。吐き気こそないものの、身体のありとあらゆる部分が不調を訴えていた。
不調を訴えているのは身体だけではない。精神的な不調もあった。
普段は気にも留めないようなことでイラッとくるし、悲しくなって涙が出てくるのである。こればかりはホルモンバランスの乱れによるものなので、仕方ないと割り切るしかない。
美桜はいわゆる"重たい方"ではないが、時々ものすごく重い時があるのだ。普段は平気なだけに、その時の沈み方がすごいのだ。
先に目が覚めた真子は、腕の中で眠る美桜を覗き込んだ。美桜が目覚めるまで寝顔を見つめるのが真子の日課なのだ。今日も安心しきった表情で眠る美桜が見れるだろう、と思った真子だったが、何やら険しい顔をする美桜にぼんやりとしていた意識が覚醒した。
美桜は時々魘されていることがある。今も良くない夢を見ているのだろうか。そう思った真子だったが、美桜の手が下腹部を抑えていることに気付き、原因を知った。
「(そろそろそんな時期か....)」
真子は痛むのであろう美桜の下腹部に、己の手を重ねた。少しでも痛みが和らげばいい。その一心だった。
美桜はツキツキとした痛みで目が覚めた。
「(最悪、今月重い。)」
起きた瞬間にそう思った。この痛みではとてもではないが執務どころではない。後で雫に連絡を入れよう。
眠ってしまいたいが、痛みがそれを許してくれない。眉間に皺が寄る。
「....なんか食べたいもんあるか?」
美桜が目覚めたことに気付いた真子が、朝特有の少し掠れた声で聞いた。
美桜は悩んだ。本当は何も食べずに寝てしまいたいが、この痛みをどうにかしないと眠ることすらできない。痛みをどうにかするには薬を飲むしかないが、薬を飲むためには何か食べなければいけない。でも痛い。負のスパイラルのような思考の渦に飲まれる。現状を打開するためにはとりあえず何か食べることから始めるしかないのだ。
食べたいもの。美桜の頭に浮かんだのは、あまりにも極端なものだった。
「ゼリー....。と、ハンバーガー。」
「ぶっっ!ハンバーガーて!!今食べるもんやないやろ!」
後者を聞いた真子が噴き出した。あまりにも対極的すぎる。美桜は病気なわけではないが、ハンバーガーは寝込む人が食べるようなものではない。
しかし、本人が食べたいと言っているのだ。その意思を尊重して現世にハンバーガーを買いに行こう。そう思い身体を起こそうとした真子だったが、服の裾を引っ張られた。
「....スナック菓子でもいいよ。」
我が家にゼリーはあってもハンバーガーがないことくらい美桜も知っている。真子に買いに行ってもらうのは悪いし、何よりそばにいて欲しいのだ。そのため、ハンバーガーは諦めて家にあるスナック菓子で手を打つようだ。
「ほんま、かわええなぁ。どこにも行かへんよ。」
「....ん。」
「ほなゼリーと菓子食いに行こうや。」
真子はそう言うと美桜を抱き上げた。寒くないように毛布で包んでリビングまで連れて行く。
堅い椅子ではなく柔らかいソファに座らせると、ゼリーとスナック菓子を取り出して美桜の元へ戻った。
のろのろといつもより数倍遅いペースで食べ始めた美桜の頭を優しく撫でれば、美桜は気持ちよさそうに目を瞑る。
時間がかかったがスナック菓子までしっかりと完食した美桜に薬を飲ませた後、再びベッドに連れて行こうとすれば、本人に拒否された。
「真子がご飯食べ終わるまでここにいる。」
そう言って美桜はソファに横になってしまった。しかしその目は真子をしっかりと捉えている。
真子は朝食を食べずに美桜の看病をしているつもりだったが、それは嫌みたいだ。真子は小さく息を吐くと、自分の朝食を作り始めた。
その背を美桜はソファに横になりながら見つめる。我儘を言っている自覚はある。でも嫌なものは嫌なのだ。情緒不安定すぎて嫌なことがあると本気で愚図りたくなるし、泣きたくなるし、怒りたくなるのだ。自分でもどうしていいのかわからない。
美桜は真子に抱き上げられて目が覚めた。少し眠ってしまっていたようだ。そのまま真子に身を任せれば、ベッドにそっと下ろされた。
真子は美桜が寒くないように肩までしっかりと布団をかけると、自身も横向きになっている美桜の背中側に横になった。そして後ろから美桜をすっぽりと覆うと、手を下腹部に置く。痛みが和らぐように真子の手で温めるのだ。
「なぁ美桜。生理止めたろか?」
美桜には真子の言いたいことがすぐにわかった。でも今動けなくなるのは困る。だからせめて....
「藍染との戦いが終わったらお願い。」
「ふっ、任せとき。」
美桜はいつか"ここ"に宿る愛の結晶を想像しながら目を閉じた。
+ + +
(オマケ)
いつも通りの時間に出勤し、本日の書類に取り掛かろうとした雫は、聞きなれない音に肩をびくつかせた。
音の発生場所を探せば、ピカピカと光る伝令神機。画面には自身の上司の名が表示されている。朝からどうかしたのだろうか。そう思いボタンを押してから耳に当てた。
「はい、もしもし。」
いつもの優しい穏やかな声が聞こえてくると無意識に思っていた雫は、知らない声が聞こえてきて目を見開いた。
「もしもーし、芦谷さんの携帯ですかー?」
一体誰だ。間違え電話だろうか。そう思った雫は、伝令神機を一度耳から離して表示されている名前を確認した。何度見ても「涼森隊長」と表示されている。
しかも相手は「芦谷さんの携帯ですか」と言った。ということは、自分にかけているのは間違いないようだ。
「....はい、芦谷です。失礼ですがどなたでしょうか?なぜ涼森隊長の伝令神機を....?」
「おーすまんすまん。美桜の旦那の平子っちゅーもんや。悪いなぁ急に。美桜なんやけど、今日体調悪いんで休ませるわ。その連絡や。」
「っ!!」
呼吸が止まった。美桜の旦那、といえば、時々本人から惚気話を聞くのでなんとなく知っている。
しかし先日、藍染の言っていた"平子隊長の妻"という言葉。雫はそこで初めて美桜の旦那が元隊長であることを知ったのだ。
気になって仕方がなかった雫は、大霊書回廊で"平子"という人物を調べたのだ。そこには、藍染の前に五番隊隊長を務めていた人物で、藍染の虚化実験の被害者となり生死不明とあった。美桜の話から生きていることは知っていたが、こうも堂々と自分に電話掛けてくるとは思わなかったのだ。
「....。」
「もしもーし。聞こえてますかー??」
「っはい!聞こえています!かしこまりました、ご連絡ありがとうございます。」
「おん、聞こえとるんならええわ。今日なんか任務入っとるか?入っとるなら京楽さんに代わりに行ってもらおう思とるけど。」
「いえ、特には入っていません。」
「さよか。ならあと頼んだで。」
「かしこまりました。隊長のこと、お願いします。」
「アホ、言われんでもやるわ。ほなな。」
そう言って電話を切られた。
雫はしばらくドキドキが止まらなかった。決して恋のドキドキではない。漫画の続きが気になって仕方がないというような、そんなドキドキだ。高揚感と表した方が適切かもしれない。
上司の旦那。なんとも気になる響きだ。自分が知らない美桜の姿をたくさん知っているのだろう。二人でいる時はどんな会話をしているのだろうか。どんな顔で甘えるのだろうか。
噂の旦那さんに会う未来はそう遠くない気がした。