尸魂界篇
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「....。起き....間に....なるで。」
美桜は誰かに呼ばれてる気がして眠りから目覚めた。それでもまだ寝ていたくて、その声から遠ざかるように背を向ける。
聞こえなくなった声にホッとして眠りにつこうとしたとき、突然耳にぬるりとしたものが這って飛び起きた。
「んあっ!!な、なに!?」
美桜が振り返れば、そこにはピアスを見せつけるように舌を出す真子がいた。どうやら、あまりにも起きない美桜の耳を舐めたようだ。
「朝からええ反応やなぁ。おはようさん、美桜。」
「もう!おはよう。」
楽しそうな真子に形ばかりに怒れば、大きな欠伸が出た。昨日は寝たのが夜遅かったから眠いのだ。
藍染の離反から一週間。粗方後処理は終わったが、隊長が不在である三・五・九の執務の手伝いをしているのだ。特に五番隊は副隊長の雛森がまだ入院中のため、ほぼ業務が滞っている状態だ。美桜は真子の古巣である五番隊を放っておくことが出来ず、復帰したばかりの日番谷と共に自隊の執務終了後、五番隊の執務を行なっているのだ。
美桜が疲れが残る身体に手をあてていると、時計を見た真子が平然と告げた。
「ええんか?時間。もう八時半やで。」
「え!?」
美桜が真子に言われて己の体内時計を確かめると、確かに八時半だった。美桜は時間を司る芙蓉のおかげで、時計を見なくとも時間がわかるのだ。
美桜は今日の予定を思い出しハッとした。
「大変!今日九時から隊首会っ!!」
「すまんなぁ、美桜の寝顔見とったらこんな時間になってもうた。」
「もう!」
美桜は急いでベッドから出ると、隣接している衣装部屋で死覇装に着替え始める。
その様子に笑いながら、真子は朝食を作りに一階へ降りて行った。
美桜が身支度を整えて一階に降りると、テーブルの上にはホカホカのベーコンエッグにトーストが準備されていた。席に着くと、コトリとカフェラテが置かれる。
「ありがとう。いただきます。」
トーストに齧り付く。サクッという良い音と同時にバターの風味が口いっぱいに広がる。美味しい。美桜は口には出さず無言でモグモグと食べ始めた。
真子はそんな美桜を見て、どこか違和感を覚えた。美桜はまだ気付いていないであろう不調を正確に読み取った真子は、自身の今日の予定を思い出した。
美桜はベーコンエッグを食べ終え、最後の一欠片になったトーストをカフェラテで流し込むと、すぐに席を立った。
歯を磨き、髪を整えて、いざ行こうとすると真子に呼び止められた。
「美桜、忘れ物。いってきますのチューや。」
「んっ。いってきます。」
「おん、行っといで。」
そう言って扉を開けた美桜を見送った後、真子は今日の予定をキャンセルするため、ポケットから携帯を取り出してどこかに電話をかけ始めた。
+ + +
目の前にそびえ立つ一番隊隊舎。
隊首会開始三分前。珍しくギリギリの到着である。遅刻魔が数名いるため、定刻通りに始まることは滅多にないが、わかってはいても焦るものだ。
美桜が早足で広間へ向かう途中、京楽に出会った。遅刻魔その一である。その証拠に、隊首会開始三分前だというのに全く焦っていない。
「お、美桜ちゃんじゃないの。今日は珍しく遅いんだね?」
「おはようございます。今日寝坊してしまって。」
「おや珍しい。起こしてくれなかったのかい?」
京楽は美桜が真子と住んでいることを知っている。
「ずっと寝顔見てたんですって!もう!起こしてくれればいいのに!」
美桜は恥ずかしさと怒りが混ざって強めの口調で京楽に愚痴を言う。京楽はそんな美桜に、「相変わらず仲が良さそうでよかったよ。」と笑いながら言った。
二人で並んでそんな話をしていると、広間に到着した。静かに自分の位置に並ぶ。
隊首会といっても、離反した三・五・九番隊は欠席だ。怪我をしている者も多い。一週間前までと随分景色が違う。
美桜と京楽が並んですぐ、山本が隊首会開始を宣言した。遅刻魔その二である更木は珍しく定位置に着いていた。
「これより、隊首会を始める。皆の者わかってはおるじゃろうが、先日隊長格から三名の離反者が出た。各隊復興作業等あると思うが、怪しい者がいた場合、即刻捕らえて二番隊へ投獄せいっ!!」
山本の言葉に、美桜は眉間に皺を寄せた。
(嫌な命令ね。仕方ないけど。自分の部下を監視しなきゃいけないなんて。真子はずっと藍染を監視し続けてたのか。すごいわね。私には到底できないわ。)
美桜が目を瞑って山本の話を聞いていると、唐突に名前を呼ばれた。
「さて、涼森 美桜。お主に聞きたいことがあるのじゃ。」
美桜は目を開けて山本の方を見た。皆の視線が美桜に集まる。
「なんでしょうか。」
山本は普段は開けることのない目を開けて、しっかりと美桜を見た。
「お主、いつから藍染たちの企みを知っておったのじゃ。」
「....百一年前のあの日から。」
美桜がそう言った瞬間、隊長の間で動揺が走った。皆の心のうちを代弁するように、砕蜂が美桜に向かって怒鳴る。
「貴様!百年前から知っていながらなぜ黙っていたのだ!貴様が隠さなければこのような事態はならなかったのだぞ!」
美桜は砕蜂に冷たい目を向けた。まるで無意味な質問をしてくるなとでも言いたげな目だ。
「逆に聞くわ。言ったら、誰が信じてくれるっていうの?」
「....!」
「皆鏡花水月の術中にいて、あの夜藍染が隊舎にいたことを何百人もの死神が証言している。そんな中で "貴方が見た藍染は偽物だ" って一体誰に言えばいいのよ。」
美桜は大きく息を吸ってさらに捲し立てた。
「仮に私が、藍染があの事件の真犯人であるという証拠を集めて提出したとしても、保身に走る中央四十六室によって捻り潰されるだけよ。あいつらは自分たちの決定が全て正しいと思ってるから、間違えを指摘する都合の悪い存在なんて消されるのよ。」
隊首会を静寂が支配する。誰も何も言えなかった。
その時、パンパンッと手を叩く音が聞こえた。京楽だ。張り詰めた空気が一気に弛緩する。
「まぁまぁそんなところにしてあげてよ、美桜ちゃん。君の想いはよくわかる。僕も同じだからね。」
美桜は、京楽にはっきりとは言っていないが真犯人は別にいることを告げていた。奴等が皆を騙しながら力を蓄えていることも。だから京楽も "真相を知っていながら何も出来ない自分" という何とも言えない無力感を抱えてきたのだろう。
「それに、鏡花水月に嵌りこの前まで気付くことが出来なかった護廷十三隊に、美桜ちゃんを責める資格なんてないと思うけどね。どうだい、山じぃ。」
京楽の言葉に、砕蜂だけでなく皆が下を向く。
そう、誰も自分で気付くことなど出来なかったのだ。美桜ですら、真子から教えてもらったから対策を立てることができただけだ。
「そうじゃの。お主らの言う通りじゃ。誰も藍染の企みに気付くことが出来んかった。それは儂等の落ち度であり、七番隊隊長を責めるのはお門違いというもの。」
「一つ。願いを申し上げてもよろしいでしょうか、総隊長。」
「なんじゃ。」
「百一年前の判決を取り消していただきたいのです。」
百一年前の判決というのは、浦原喜助の現世永久追放、握菱鉄裁の投獄、四楓院夜一の貴族籍剥奪、そして虚化した八人の虚として処理のことだ。
「よかろう。全て藍染の企みによるものだと判明した以上、その判決全てを取り下げるよう掛け合っておこう。」
山本のその言葉に、美桜は視界が滲んだ。肩の荷が、降りた気がした。
美桜はずっと気になっていた。罪を被せられたままの喜助たち。発見次第虚として処理される真子たち。そしてそれを全て知りながら隊長職に就く自分。
ただの自己満足かもしれない。でも、死神から逃げ隠れる生活をしなくていいようにしたかったのだ。
「....ありがとう、ございます。」
「ではこれにて解散とする。」
山本の一言で、隊長たちが出口へと向かっていく。京楽はその流れに逆らうように美桜のところに来て、自分よりかなり下にある頭を撫でた。
「よかったね、美桜ちゃん。」
「....うんっ!」
+ + +
隊首会終了後、七番隊隊舎の執務室で書類を片付けていた美桜は、身体の違和感に気付いた。なんだか重たいのだ。それに少し熱っぽい気もする。少し休めば治るだろう。そう思った美桜は軽く机の上を片付けると、黙々と書類をさばく雫に声をかけた。
「ごめん、ちょっと休んでくるね。お昼までには起きるから。」
「....かしこまりました。」
雫は美桜が午前中から仮眠を取ることに違和感を覚えつつ、自身の上官を見送った。
仮眠から目覚めた美桜は、先程よりも悪化した体調に気付き、困ったように頭を抱えた。これは午後の執務が出来そうにない。
藍染たちの離反から一週間。自隊の執務後に五番隊の執務を行なっていれば、そりゃあ身体も壊すだろう。
美桜は諦めたように息を吐くと、仮眠室を出て雫に早退する旨を伝える。
「ごめん雫、体調悪いから帰るね。」
「....!かしこまりました。お大事になさってください。」
「ありがとう。」
雫には能力を隠すことをやめた美桜は、執務室で空間を開いて直接家に入った。
重たい身体を引きずるようにしてリビングに入れば、そこにはキッチンで何かを作る真子の姿。
「....あれ?何でいるの......?」
「なんでって、美桜が体調悪くなる思とったからなぁ。」
そう、真子は朝の美桜の様子を見て、美桜の体調が悪くなることを予想していたのだ。そのため今日の予定を全てキャンセルし、美桜のためにお粥を作っているのである。
美桜は、真子が自分のことをいつも見てくれていることに嬉しさを感じた。そして元々入っていた予定をキャンセルしてまで自分を優先してくれたことにも。
美桜は軽く身体を流してから湯気が立ち上るお粥を食べた。出汁のきいたお粥が身体に染み渡っていく。真子なら「隠し味は愛情や」なんて言いそうだな、と思いながら完食した。
先程よりも軽くなった身体で寝室へ行き、ベッドに入る。片付けをしていたため遅れてきた真子も当然のようにベッドに入ると、横向きになり美桜の頭を撫でた。
美桜が真子の方に向くように横向きになると、頭を撫でていた手が背中へと移動する。真子の大きな手が懐にすっぽりと収まるように丸くなる美桜の背中を撫でる。
「そばに居たるからはよ眠り。」
「ん。ありがと。おやすみなさい。」
「おん、おやすみ。」
やがて規則正しい寝息が聞こえてきた頃、真子は美桜の頭にキスを一つ落とすと、自分も目を閉じた。
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