過去篇
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翌朝、予定通りの時間に目が覚めた美桜は身支度を整えた後、リサの部屋の扉を叩いた。
「リサ、おきてる?」
扉越しに少しくぐもったリサの返事が聞こえた。
「今行くわ。」
しばらくすると中から扉が開いた。
「おはよう、リサ」
「おはよ。」
美桜とリサは揃って入学式が行われる大広間へ向かった。
入学式ではこの真央霊術院を創設し、護廷十三隊の総隊長である山本元柳斎重國の挨拶があった。
( あの人が春兄と四郎兄の師匠か )
美桜は山本に会ったことはないが、京楽と浮竹から話は聞いていた。怒らせると怖いことや、老人に見えるが現役であること、好きなものから嫌いなもの、弟子だからこそ知っていることまで。特に山本の拳骨は頭が割れそうな程に痛いらしい。
美桜の優れた霊力感知能力が、山本の総隊長という肩書きに相応しい霊力を感知する。
( すごい霊力の量と密度……。しかも炎熱系の斬魄刀だからか、熱い )
美桜が山本の霊力を観察している間、山本が壇上から美桜をジッと見ていたことに彼女は気付かなかった。
真央霊術院では通常学級と特進学級の二つが存在する。一学年に六つある通常学級は約四十人で構成されている。それに対し、特進学級は一学年に一つだけで、構成人数はわずか二十人である。
特進学級はその名の通り、斬拳走鬼のどれかが他と比べて優れている者だけが、その敷居をまたぐことを許される。
当然、美桜とリサは特進学級である。
リサは教室の扉に手をかけ、ガラガラと音を立てて開けた。
中にいた何人かがこちらを見るも、美桜とリサは気にせずそのまま中へ足を踏み入れた。
隣り合わせで空いている一番前の席につき、教室内を珍しげに見ながら担当教師がやってくるのを待っていると、音を立てて扉が開いた。そこには例の金髪の青年が立っていた。
( あ、 )
「あの女の子もここなんやな。」
リサは揶揄うように
「それ内緒にしておいてよ〜特に本人には。」
美桜はもう、と恥ずかしそうに笑った。
そんな話をしているうちに、担当教師がやってきた。
年齢を感じさせる白髪混じりの黒髪を短く剃りあげ、筋肉質なその大きい体躯には、教師とは思えない威圧感があった。
院生の目が彼をとらえた途端教室がざわついたが、美桜には何故だかわからなかった。
その体躯に合った低く野太い声で、男は告げた。
「入学おめでとう。と素直に言いたいところだが、ここは死神になるための場所だ。まだ死神ではない君たちにこんなことを言うのは酷かもしれんが、死神は死と隣り合わせだ。一瞬で怪我をし、仲間が死んでいく。それが怖いやつはこの場から出ていけ。」
水を打ったような静寂が訪れた。今この瞬間だけは息遣いも聞こえず、耳が痛いくらいの静寂だった。
出ていく者は誰もいない。院生たちは怖気付くどころか、決意したような眼差しで教師を真っ直ぐ見た。それもそうだろう。皆死神になるためにここにいるのだ。理由はどうであれ、すぐに諦めるような弱い心の持ち主はこの教室にはいない。
その眼差しを受け取った教師は、満足そうに頷いた。
「よし。今年は才能がある者が多いと聞いている。楽しみにしているぞ。」
そして忘れていたかのように自己紹介を始めた。
「俺は齋藤権正。かつて死神をしていたが、怪我が原因で引退し、ここ真央霊術院で教鞭を取っている。一年間お前たちを死なないように鍛えていくから覚悟しておけ。」
そう言って入学に関する諸注意を伝えた後、「自己紹介をしてもらおうか」と告げた。
「名前と得意な斬拳走鬼を言ってくれ。」
権正は一番端の院生を見て、「では君から」と自己紹介を促した。
何人かの自己紹介が終わった後、美桜とリサの番が来た。
「涼森 美桜です。歩法と鬼道が得意です。よろしくお願いします。」
「矢胴丸リサや。得意なのは斬術。よろしく。」
そしてついにあの青年の番が来た。彼が気だるげに立ち上がると真っ直ぐな金髪が動きに合わせて揺れた。その髪と正反対の猫背で自己紹介をする。
「平子真子ですぅ。得意なんは斬術。よろしゅう。」
平子はその整った歯並びを見せるようにニィと笑った。
リサの口調と少し似ているその喋り方は、彼に似合っている気がした。
( 平子真子君……すごい霊力 )
美桜は平子と名乗った青年の霊力の量と密度に驚いた。春の柔らかな日差しのような、そんな暖かさを感じる。もっと近くで感じたい。美桜はそう思った自分に驚きつつ、邪念を祓うように頭を振った。
そうしている間に、全員の自己紹介が終了し、本日は初日ということもあり解散となった。
こうして真央霊術院での六年間が始まった。