破面篇
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
遂に決戦の時が来た。
誰の予想よりもずっと早く、藍染は準備を整えていた。
美桜は真子に力の限り抱き着いた。真子も痛いくらい美桜を抱き締め返す。
美桜は真子の胸に耳を当てて心臓の音を聴く。
ドクンッドクンッ
美桜は深呼吸するように大きく息を吐いた。
「(大丈夫。真子は強い。回道を込めた霊石も複数持たせた。赤は視えるけど、黒いモヤは視えない。大丈夫。どんな怪我を負っても生きていれば私が治す。)」
自分に強く言い聞かせた。そうでもしないと不安に押し潰されそうだったから。
美桜は顔を上げて真子を見つめた。お互いの瞳に、互いの姿が映る。美桜も真子も同じ顔をしている。相手が心配で仕方ないという顔だ。
自然に顔を近づけた。触れる直前で示し合わせたように二人とも目を閉じる。
ちゅっ
優しい口づけだった。
名残惜しいがそろそろ行かなくてはならない。それは真子も同じだった。
「行ってくる。行ってらっしゃい。」
「おん。気ぃつけてな。行ってくる。」
美桜と真子は別の方向へ歩き出した。
美桜は喜助の指示に従い、転界結柱を空座町の東西南北に設置した。
喜助は東、美桜は西の転界結柱に乗り、共に詠唱する。
『東に混沌、西に
南に
すると転界結柱が光りだし、空座町を囲むように緑色の光の道ができた。その光が天まで届いたとき、空座町は尸魂界のレプリカと入れ替わった。
今のところ異常もない。眼下に広がる街並みに何の気配もないことから、尸魂界にあったレプリカとの入れ替えも問題なさそうだ。
美桜は「私の役目はこれで終わり」と言いたいところだったが、これからの闘いで出る負傷者の治療を行わなければならない。
むしろこれからが本番だ。美桜は気を引き締めるために両手で頬をパチンッと叩いた。強く叩きすぎてちょっと赤くなっている気がする。しかし、不安な気持ちをどこかへ追いやる方法としては有効だった。
美桜は穿界門が開いた気配がしたため、そちらに目を向けた。見知った霊圧が次々と現世に降り立つ。その中には雫もいた。
雫は現世に降り立つや否や、すぐに美桜のところへやってきた。
「隊長....!」
「久しぶりね、雫。向こうは大丈夫そう?」
「はい。問題ありません。」
美桜は先程とは違う空間の歪みを感じ、顔を上げた。どうやらお出ましのようだ。
白い服に身を包んだ市丸と東仙、そして藍染。
護廷十三隊の隊長・副隊長が藍染の行く手を拒むように立ちはだかる。
「どうやら、間に合ったようじゃの。」
「間に合ったとは、一体何をもってそう言っている。そこにあるのが空座町でないことくらいわかる。だが、それは何の妨げにもならない。」
藍染がそう言うと、藍染の周りに黒腔が三つ開いた。それぞれ十刃と思われる破面を中心に、何人かの破面がいた。あの三人の十刃が一番から三番までの数字を与えられた者たちだろう。
「尸魂界に本物の空座町があると言うなら、君たちを殲滅して尸魂界に行き、そこで王鍵を創ればいい。」
それをさせないための護廷十三隊だ。そう簡単にやられたりはしない。
美桜は藍染の霊圧に顔を顰めた。以前から多かった霊圧がさらに多くなっている。美桜はそのことよりも、霊圧に何かが混ざっていることの方が気になった。
藍染本来の霊圧が三分の一ほどで、それに何かが混ざって別のものになっている霊圧が三分の二を占めている。その霊圧は、どちらかといえば虚に近いものだった。
そしてその核となっているであろう、胸の下辺りにある崩玉。藍染は、崩玉と融合しようとしているのだ。美桜はあの崩玉と融合しようと考える藍染が本当に理解出来なかった。きっと理解できる日など来ないだろう。
「十刃の三人の中で誰が一番強いかねぇ。」
「さぁ、それは藍染に聞いてみなきゃわからないな。」
こんな状況でも京楽と浮竹はいつも通りの調子だ。この非常事態の中でいつも通り会話できること自体に、二人の余裕というか、経験値の高さを感じる。伊達に二百年以上護廷十三隊の隊長を務めているだけある。普通の者なら雰囲気に呑まれそうになるだろう。または呑まれている。先程から冷や汗の止まらない大前田のように。
「....問題は、奴らと戦っている時に藍染が手出しをしないという保証がないことだ。」
日番谷の言葉はもっともだ。ただでさえ強い十刃と戦っている時に藍染の鏡花水月を使われれば、敵味方の判別が全く付かなくなる。藍染が十刃に鏡花水月の解放を見せているかは不明だが、能力の対象を絞れば死神だけを錯乱させることも可能だろう。そうなればまずこちらに勝ち目はない。
山本はいつもは閉じている目を開くと、杖に擬態させていた斬魄刀を解放した。
「万象一切灰燼と為せ 流刃若火!」
肌が焼け付くような熱が死神たちを襲う。避けなければ死神も巻き込みそうな始解だ。
山本は燃え盛る刀を一振りして藍染たちを炎の檻に閉じ込めた。
「これで暫くは手出し出来まい。ゆるりと片付けていこうかの。」
随分とやる気な山本に、京楽と浮竹が驚きの声を上げた。
「手荒だなぁ。」
「それだけ山じぃも怒ってるってことでしょ。」
そうしている間に、破面の中でも一番貫禄のある男が仕切り出した。右目に大きな傷跡のある爺は、骨で出来た椅子に座ると退屈そうに頬杖をつきながら護廷十三隊を見下した。
「こういうものは東西南北。四方の端に作るのが定石じゃ。」
そう言って後ろに控えていた部下に虚を呼び出させた。その虚は正確に転界結柱の位置を把握し、見えなくしてあった柱を顕現させた。そのまま柱を攻撃していたが、それぞれの柱の守り人に倒された。
爺改めバラガンによって派遣された破面を、吉良・檜佐木・綾瀬川はそれぞれ始解し倒すことが出来た。しかし班目は破面に倒され、転界結柱が一本破壊された。
「班目が....!」
「倒された....だと!?」
シュッ
美桜はその様子を確認した瞬間、静かに瞬歩でその場から消えた。美桜は喜助より転界結柱の維持を頼まれているのだ。その一本が破壊されたとなれば、そのまま放置することなどできない。
「大丈夫。美桜ちゃんが行ったから心配ないよ。」
「美桜なら元に戻せるしな。」
京楽と浮竹は柱が壊されたことに驚く日番谷と砕蜂に安心させるように言った。
日番谷はその時にようやく美桜がその場からいなくなっていることに気付いた。いつの間に、と驚く間もなく、壊れた転界結柱の様子に目を見開いた。
「隠している力だと?んなもんねぇよ。あったとしても、テメェみたいな雑魚には使わねぇよ!」
「....そうか。なら死ね。」
破面は班目に向かって足を振り下ろした。それで班目は潰れるはずだった。
班目は覚悟したはずの衝撃が来ないことを不思議に思い目を開けた。すると目の前の瓦礫に血が一滴、落ちてきた。自分の血ではない。自分は頭から出血などしていないのだ。では誰の血だ?
「....ウゥッ!!!」
班目は上から聞こえたうめき声に顔を上げた。そして驚き目を見張った。
「足が....!!」
そう、今にも班目を踏み潰さんとしていた足が、根本からなくなっているのだ。一体誰が。そう思った班目の目に、黒い靴が映った。顔を上げれば、白い隊長羽織に薄い金色の髪。自身の隊長とは違いすぎる華奢な背の文字は七。
「っ涼森、隊長....!」
美桜は地に伏せる班目をチラリと見ると、そのまま転界結柱へと歩いて行った。美桜は壊れた転界結柱に触れると時間回帰を行い、破壊される前の時間に戻す。急激な時間回帰は美桜の負担も大きいが、転送回帰が始まっているのだ。悠長なことは言っていられない。
班目は瓦礫と化していた転界結柱がひとりでに柱に戻っていき、元の転界結柱になっていくのを見て目を見開いた。班目だけではない。美桜の能力を知らなかった日番谷や砕蜂も驚いている。
「あれは、なんだ....?」
「涼森の斬魄刀の能力か?だが斬魄刀を鞘から抜いていない....。一体どういうことだ?」
転送回帰によって本物の空座町が戻ってきていたが、美桜が転界結柱を元通りにしたことでそれも停止し、また偽物の空座町と入れ替わった。
転界結柱が元通りになったことを確認した美桜は、振り返り班目と破面を見た。
破面は相当怒っているようで、額に青筋を浮かべている。それもそうだろう。死神を潰せる快感に浸る寸前で、自分の足を切り下ろされたのだ。
破面は口に霊圧を溜め、虚閃を放った。
美桜は避ける素振りも見せず、ただ右手を前に出した。すると、放たれたはずの虚閃はどこかへ消えた。
「....っ?!」
破面は自分の放った虚閃がどこに消えたのか、辺りを見回して探している。その顔には冷や汗が滲んでいた。先程まで戦っていた死神とは何もかも違いすぎることに気付いたのだろう。
「虚閃を探しているのかしら。じゃあお返しするね。」
美桜はそう言った瞬間、空間を割って虚閃を破面の顔面に
美桜は班目の元までゆっくり歩いて向かうと、伏せる班目を上から見下ろした。
班目は美桜とあまり関わりが深くないが、いつもの姿からは想像できないほど冷たい目で見下ろす美桜に冷や汗が出た。自分は何かをしただろうか。そんな言葉が班目の頭に浮かんだ。
「....雫。」
「はい。」
美桜は自身の副官を呼ぶと、近くで待機していたのだろう。すぐに雫が姿を現した。
「....自分の意地を優先した小さい男を治療しておいてちょうだい。」
「....はい。」
雫は若干嫌そうに顔を歪めると、渋々班目に回道をかけ始めた。
ガラガラッ
自分の虚閃に吹っ飛ばされた破面は、斬魄刀を抜いて帰刃をした。ただでさえ大きな図体がさらに巨大化し、マンモスのような大きさになっている。それと同時に美桜が切り落とした足は回復し、元に戻った。
「ごめんね〜マンモスくん。今私はイラッときているの。だからあんまり時間かけたくないの。」
美桜は少し申し訳なさそうに言うと、斬魄刀をゆっくりと抜いた。抜いたのは二本ある斬魄刀のうち銀色の柄、銀琉だ。
美桜は銀琉を地と垂直になるように構え、左手で鈍色に輝く刀身を支えた。そして刀身に霊圧を込めながらこちらへ向かってくる破面を見た。
「剥離。」
美桜がそう口にした瞬間、破面は縦半分で真っ二つになった。半分になった巨体が美桜たちの左右に倒れ込む。破面は何が起こったのかわからないまま、黒い塵となり消えていった。
美桜は今、刀身の延長線上にある空間を一瞬だけ分裂させたのだ。つまり、破面の縦半分の位置で空間を破面ごと分けたのだ。
生物だけでなく、全ての物は空間があるからそこに存在している。その空間を一瞬でも分けてしまえば、そこに存在するものも共に分けられるのだ。
「....んなっ!!」
間近で美桜の戦いを見ていた班目は、美桜が何をしたのか全く分からなかった。唯一分かったことといえば、この人が自分が足元にも及ばないほど強い、ということだけだ。
美桜は銀琉を鞘にしまうと、班目を見た。
「さてと。言い分を聞こうじゃないの、小さい男の班目三席?」
美桜の強さに驚いていた班目だが、先程から聞こえてくる言葉に額に青筋を浮かべた。
「....さっきから聞いていればなんすか、人を小さい男だの意地を優先させただの。そんなこと言われる筋合いないと思いますが。」
「貴方、本当に言っているの?」
班目は美桜の虫ケラを見るような目線にたじろいだ。なぜ自分が怒られているのか分かっていないようだった。
美桜は深いため息を吐くと、近くにあった瓦礫に腰を下ろした。
「貴方が与えられた任務は柱を守ること。卍解せずに守りきれるというのなら何も言わないわ。戦い方は自由だもの。ただ、己の安い意地を優先させて卍解をせず、それにより柱を守るという任務すら遂行できない。それってどうなの?」
「....!!」
「隊長になりたくないのか知らないけど、与えられた任務を遂行できないなら、卍解隠したままそこら辺で野垂れ死になさい。」
「....ちょっと待ってくださいよ涼森隊長!!あんただってずっと力隠してたじゃねぇか!」
美桜が力を隠していることは護廷十三隊の中では有名なことだった。なんせ彼女は隊長就任から藍染が離反するまでの九十年間、一度も斬魄刀を抜いたことがなかったのだ。
「私は力を隠したままでも任務を遂行してきたわ。一度だって失敗したことなどない。でも貴方は任務失敗よ。これが私と貴方の違い。」
「....」
班目にも思うことがあったのだろう。美桜がそう言うと、考え込むように下を向いてしまった。
美桜は話は終わりと言わんばかりに立ち上がった。そして雫に班目を治療してから戻ってくるように声をかけると、一瞬で消えていった。