破面篇
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指令が下った翌日、美桜は早速浦原商店に顔を出した。ガラガラと音を立てて横開きの扉を開ける。
「こんにちはー。喜助さんいますかー?」
数拍後、奥から「はーい」という声が聞こえた。待っているといつもの姿をした喜助が顔を覗かせた。
「いらっしゃい、美桜サン。」
「よろしくお願いしますね、喜助さん。」
「こちらこそっス。ささ、どうぞ中へ。」
美桜は喜助に勧められるがままに中へ入る。狭い居間で、出されたお茶を飲みながら喜助の計画を聞いた。元上司である鉄裁に茶を出されて美桜が少し緊張してしまったのは言うまでもない。
「転界結柱....?」
「そうっス。この四本の柱で結んだ場所を穿界門として、別の空間と入れ換えるんス。今技術開発局には空座町のレプリカを作ってもらってまス。」
空座町が決戦の地となれば、そこにある建物はおろか住民でさえ犠牲になりかねない。いちいちそこまで気にしていては勝てない。だから巨大な穿界門を作り、空座町の人や建物を含めた空間ごと入れ替えるのだ。そうすれば文字通り人っ子一人いない空座町が出来上がるというわけだ。誰もいないしレプリカの建物のため、戦闘でいくら壊れても一切心は痛まない。
「相変わらずすごいこと考えますね。」
美桜が心からの称賛を贈ると、喜助は照れたように扇子をバッと広げて顔を覆った。
「そんなことないっスよ〜!」
「では早速地下でやりますか?」
「あ、そのことなんでスが、美桜サン。貴女の空間お貸しいただけません?」
てっきりここの地下でやるものだと思っていた美桜は面を食らった。
「別にいいですけど....。理由をお伺いしても?」
「理由は三つっス。あ、ちょうど帰ってきましたね。ほら。」
そう言った喜助が外の方を見る。
美桜は先程から彼が近付いていることに気付いていたが、まさかここを拠点にしているとは思っていなかった。
「浦原さん、また今日も地下借りるぜ。って涼森隊長!?なんでこんなところに!?」
襖を開けながら喜助に話しかけていた恋次は、喜助と向かい合うように座る美桜を見た瞬間、目を見開いた。どうやら美桜に気付いていなかったようだ。
美桜はそんな恋次を見て少し不安になった。美桜は今霊圧を全く隠していない。限定印で二割に制限されているとはいえ、元々大きな霊圧の持ち主である美桜が霊圧を隠さなければ、すぐにわかるはずだ。しかし恋次は美桜に気付いていなかったことから、彼の霊圧感知能力が低いのか、それとも感知しようとしていないのか、はたまたその両方か。いずれにせよあまり褒められることではない。今度白哉に言おう。美桜は心の中でそう決めた。
「こんにちは、阿散井君。総隊長の命令でね、しばらく喜助さんのお手伝いすることになったの。」
「そ、そうなんすか....。」
「てなわけで、地下は予約が入っているんス。二つ目は装置が大きすぎてここじゃあ入るかわかんないんス。」
美桜は喜助のその言葉を疑問に思った。そんな大きい装置を一体どうやって設置するのだろう、と。そして三つ目の理由を察した。
「三つ目はまさか....」
「あ、バレちゃいました?そうっス。美桜サンの空間に入れておけば持ち運びが楽じゃないっスか〜!」
「はぁ....」
美桜は諦めたようにため息をついた。その方が合理的あると理解している美桜が断るはずない。
「わかりました。では早速行きましょうか。」
美桜と喜助は、異空間で転界結柱の作成に取り掛かった。
+ + +
何日か経ち、ようやく一本目が出来あがろうかという頃。
美桜は今日も今日とて喜助と異空間に篭り転界結柱の作成に勤しんでいた。すると、最近大人しくしていた銀琉が実体化して現れた。
「....!!どうしたの、銀琉。実体化までして。」
「....!その方が美桜サンの斬魄刀っスか。」
喜助も驚いたように銀琉を見た。そもそも実体化する斬魄刀など滅多にない。いたとしても主人以外に姿を見せないことがほとんどだ。それなのに自分という部外者がいる場で実体化する斬魄刀に、喜助の研究者としての何かが疼いた気がした。
「破面が虚圏から現世に向かっているみたいだ。数は四体。気をつけた方がいい。」
「「....!!」」
まだ決戦には早いはずだ。先日のようなお遊びなのか、こちらの戦力を知るために来ているのか、目的は不明だが出ないわけにはいかない。
「アタシが出ます。美桜サンは平子サンに連絡を。あそこに黒崎サンもいますから。」
「わかりました。」
美桜は異空間の扉と浦原商店の扉を繋げて喜助を見送った後、真子に電話をかけた。
ーー「なんや、珍しいやないか、美桜。どないしたん?」
「真子、破面が四体現世に向かっているそうよ。」
ーー「なんやて!?早すぎひんか!?」
「多分本番じゃないと思う。こっちは喜助さんが出るわ。そちらの死神代行君に伝えてもらえる?」
ーー「....せやな。連絡おおきに。」
「真子も出るの?」
ーー「....あんま死神の戦いに手ェ出しとぅないけどなぁ。」
美桜はそう言う真子に笑みが溢れた。真子のことだ。口ではそう言いながら、危なくなればいつでも助けられるように近くで見守っておくのだろう。素直じゃないのだ。
「気をつけてね。」
ーー「おん。ほなな。」
美桜は真子との電話を切った途端、力が抜けてその場に座り込んだ。こうも頻繁に襲撃があると気疲れするのだ。本当は休んでいたいが、美桜は護廷十三隊の隊長。この事態に休んでなどいられない。
「はぁ....。私も行くか。」
美桜は気合いを入れるように頬を軽く叩いてから、立ち上がって現世へ向かった。
美桜は現世の上空で霊圧を感知し、状況を把握した。
「(破面は四体。あっちは喜助さんが行ったし、日番谷隊長もいる。何とかなるでしょう。問題は....。)」
四つある霊圧のうち、一つだけ他の三体とは比べ物にならない程の霊圧がある。濃度も量も全く違う。恐らく、あれが
死神代行と交戦しているようだが、押されているようだ。
「(そちらに加勢するか。)」
美桜がそちらに向かおうとした時、別の方向から大好きな霊圧が近付いてきたのを感知した。美桜は死神代行の元に向かうのをやめて、そちらに行く。
「真子!」
「美桜、お前も出るんか?」
一応ここは戦場だが、真子と美桜は構わず軽いキスをした。日課になっているのだ、仕方ない。
「ん。押されてそうだからちょっと行こうかなって。真子も死神代行君のところ?」
「せや。折角育ってきたのにその芽摘まれたら悲しくて泣けてくるからなぁ。」
「じゃあ一緒に行こ。」
そう言って二人で一番大きな霊圧の元へ向かった。
霊圧を消して、水色の髪の破面と戦う死神代行を真子と見守る。
一度助けに入ろうかと思ったけど、ルキアちゃんが来たのでまた静観することになった。
けど、そのルキアちゃんがゼロ距離で虚閃を撃たれそうになったとき、流石にまずいと思い加勢しようとすれば、真子に止められた。「え?」と私が一瞬戸惑った間に真子が加勢した。....かっこいい、好き。
「やれやれ。ホンマは死神の戦いに手ェ出すの嫌やねんけどなぁ。こんだけ近くでドンパチやられとったらシカトする訳にいかんわ。」
こんだけ近くでドンパチって、私たちが近くで待機してたんじゃない。素直じゃないなぁ。正直に心配だったから見守ってたって言えばいいのに。
私はクスクス笑いながら素直じゃない旦那に破面を任せて、ルキアちゃんと死神代行君を治療しようと近付いた。
「あんたは....!」
「涼森隊長!?なぜここに!」
「こうやって挨拶するのは初めてね、死神代行君。七番隊隊長の涼森 美桜よ。怪我治してあげるからジッとしててちょうだいね。」
ルキアちゃんに「ちょっと待っててね」と一声かけてから、一護君に時間回帰をかける。
私はそのままルキアちゃんの質問に答えた。
「総隊長命令で喜助さんの手伝いをしていたの。そしたら破面が来たって言うから仕方なく。」
そう言った後、私の目は破面と闘っている真子に向く。
真子が敵と闘う姿なんて、何十年振りに見る。どうしよう、すごいかっこいい。真子が左手を額にかざし、仮面を出す。胸のトキメキが止まらない。この距離だと肉眼で見えないから、帰ってからもう一度やってもらおう。
虚化した真子が水色の髪の破面を押している。
「すまんなぁ、破面。あんた強そうやから、加減はなしや。」
そう言って真子が虚閃を放った。破面が吹き飛んで地面に衝突する。
その時、私は現世の空間が開き、もう一体の破面が来たことを感知した。真子と戦う水色の髪の破面よりも、霊圧が重たい。きっと彼よりも序列が上の十刃だろう。問題は、このレベルで序列が何番目か、ということである。あとこの上に一体何人の十刃がいるのだろうか。
「ねぇ一護君。」
「....なんだ。」
「あの水色の破面は何番目か知ってる?」
「確か
あれで六。上にあと五人。完成度が高すぎる。私は頭を抱えたくなった。
真子の方を見ると、相手の破面は今まで一度も抜いていなかった斬魄刀に手をかけていた。そしてそこに猛烈な霊圧が集まっていく。
まずいと思った私は、治療を放り出して真子の隣に瞬歩した。
「真子っ!!」
そして私は真子の左手に触れて、衛膜の範囲内に真子を入れる。衛膜の中に入れてしまえば余程のことがない限り安全だ。
「
何かを言いかけた水色の髪の破面は、突如現れた破面に止められた。病弱そうな白すぎる肌に涙が流れた跡のような顔の模様。良いところで止められた水色の髪の破面が大人しく命令を聞いていることから、彼の方が序列が上なのだろう。一体何番だ。
「任務完了だ。」
「(任務?)」
今あの破面は任務と言った。ではこの来襲は陽動だったのか。しかし現世で変わったことはなさそうだ。では一体何の目的だろうか。私が考えても答えは出なかった。
すると空が裂けて反膜が二人に降り注いだ。こうなってしまっては出来ることはない。
黒腔が閉じ完全に霊圧が消えた後、真子がため息を吐きながら仮面を消した。
「あーあ。逃げられてもうた。」
「向こうもこちらを倒そうとしてるわけじゃなかったね。」
「せやなぁ。なんや別に目的があるみたいやったなぁ。....ってか美桜。お前急に飛び出してきよったら危ないやろ?」
「仕方ないじゃない。新手が来たし、霊圧が跳ね上がったし、びっくりしたのよ。」
真子は私が触れたままの左手で、私の手を包み込むように握る。
「せやなぁ。あの霊圧はちと危なかったわ。おおきにな。」
「ううん、いいのよ。それよりも、かっこよくてドキドキしちゃった。」
私は繋がれた左手を上下にブンブンと振った。一応照れ隠しのつもりだ。面と向かって褒めるのは少し勇気がいるのだ。
「惚れてもうたか?」
「....ばか。そんなの二百年以上前から惚れっぱなしよ。」
真子の右手が私の頭の後ろに回る。近付いてくる胡桃染色に抵抗することなく目を閉じた。いつも通りキスをしようと私と真子の唇が近付けたとき、それに割って入る声があった。
「ちょっと待て!!なに俺らの前で堂々とキスしようとしてるんだよ!!大体お前らどういう関係だ!?」
私と真子はキスをやめて一護君の方を振り向く。
一護君とルキアちゃんは真っ赤な顔を両手で覆いつつ、指の間からこちらを覗いていた。二人とも正面から見るのは恥ずかしいけど、内心気になって仕方がないという感じだ。
「なんや一護。そない俺らの関係が気になるんか?」
「べ、べべべべつに!気になってなんか、ねぇよ!!」
「どもりすぎやボケェ。別に今更隠しとるわけでもないしな。」
私は真子の左手を持ち上げながら、自分の左手を二人に見えるようにかざす。私たちの左手の薬指には、きらりと光る金色の指環。
「美桜は俺の嫁さんやねん。」
「真子は私の旦那さんなの。」
私と真子の声が重なる。
数拍置いた後、二人はようやく意味が理解できたのか、一体に響き渡るほどの声で叫んだ。
「「えぇぇぇ〜〜!?!?」」
まるでお手本のような反応に、私は笑いをこらえることが出来なかった。