破面篇
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現世に成体の破面二体が出現したと報告があった。
その成体の完成度が予想以上に高く、現世の死神代行だけに任せておけないと、先遣隊を派遣することが隊首会で決定した。先遣隊には十番隊隊長 日番谷以下七名が選ばれ、現世へ向かった。
先遣隊を派遣してすぐ、六体の破面が現世に来襲した。隊長格でも限定解除しなければ倒せない程の完成度だったという。
その後、遂に藍染の目的が判明した。
「藍染の目的は王鍵の創生じゃ。」
山本の言葉に隊長の間で動揺が走った。
王鍵。それは霊王のいる霊王宮へ行くための鍵。その材料は十万の魂魄と半径一霊里の重霊地。重霊地は時代と共に移り変わる。今の重霊地は空座町だ。
「(藍染の目的は、霊王を殺し自身が王となること、か。随分と大それた目的だこと。)」
王になって何がしたいのだろうか。そんなに人の上に立ちたいのだろうか。人の上に立つのは疲れないだろうか。
もしかしたら藍染は皆から認められたいのかもしれない。あれだけ強大な力を持っていれば、周りは恐れ、遠ざかっていくだろう。それをわかっているが故に、人の上に立つことで自分の承認欲求を満たそうとしているのではないか。もしそうなら寂しい人だ。
美桜が目を瞑ってそう考えていると、山本が広間の入り口に向かって声をかけた。
「入れ。」
美桜は先程から霊圧を感じていたが、同時に自分の霊圧感知能力を少し疑っていた。今まで霊圧感知に頼りきりだった癖に都合の良い話かもしれないが、それだけ信じられなかったのだ。
扉がゆっくりと開いた。そこには先日まで尸魂界に来ることのできなかった、浦原喜助がいた。百余年前の虚化実験の首謀者が藍染であったことや喜助が藍染の目的を阻止するために尽くしたこと、そして美桜の要望もあり、尸魂界からの永久追放を解かれたのだ。
「喜助さん....」
喜助が尸魂界に来るのは百年前のあの日以来だ。死覇装ではなく、すっかり見慣れてしまった作務衣姿なのは、死神には戻らないという彼なりの決意なのかもしれない。
砕蜂や涅は喜助を見て露骨に顔を歪めている。元上司で、少なからず因縁がある相手なのだから仕方ないといえば仕方ない。
喜助は山本の前、つまり美桜たち隊長の間まで足を進めると、いつもと同じ気怠そうな雰囲気で山本を正面から見た。
そんな喜助に、山本が頭を下げた。
「浦原喜助。百余年前の件、改めて謝罪する。申し訳なかった。」
護廷十三隊の総隊長である山本が頭を下げたことに、喜助は困ったように頭を掻いた。
「もういいんスよ。こうして濡れ衣を晴らしてくれただけで充分っス。」
喜助はチラリと美桜を見た後、手に持っていた帽子を被り直しながら山本に鋭い目を向けた。
「それで、アタシをここに呼んだ理由を聞いてもいいっスか?」
「うむ。そうじゃな。儂の願いは二つ。一つ、隊長格を安全に虚圏へ送ること。決戦までに隊長格を何人か虚圏に送り、相手の戦力を減らしておきたいのじゃ。二つ、空座町で隊長格を戦闘可能にすること。聞いての通り、藍染の目的は空座町。故に決戦の地は空座町になるじゃろう。しかし我らが戦えばそこにいる魂魄も大地も多大な影響を受ける。空座町に影響なく隊長格を戦闘可能にして欲しいのじゃ。どうじゃ、出来るかの。」
山本は、普段は開けない目を片方だけ開けて喜助に問いかけた。
喜助は目を閉じてどうするか考えているようだった。彼の頭の中ではきっと、常人では理解できない内容が理解できない速さで処理されていることだろう。
「可能っス。ただ、アタシも一人だとキツいんで、手伝って欲しいっス。」
「よかろう。誰に頼むのじゃ。」
喜助は頭を撫でながら、涅と美桜の方を見た。
「技術開発局と美桜サンっスね。」
「(技術開発局はわかるけど、なんで私なのかしら。)」
「ほう。技術開発局は良いだろう。しかしなぜ涼森隊長を選んだのじゃ。」
山本も同じことを思ったのだろう。
喜助は美桜の腰を見ながら言う。
「彼女の斬魄刀の能力が必要なんス。」
そう言われて美桜は納得した。確かに虚圏に行くためには
山本は美桜を一瞥した。そして美桜が頷いたのを見たあと、その場を締めるように杖を床に叩きつけた。
「では、技術開発局と七番隊隊長涼森 美桜は浦原喜助の指示に従うように。これにて解散!」
解散した途端、喜助は美桜に近づいて来た。
「すいません、美桜サン。巻き込んじゃって。」
「気にしないでください。それに、現世の方が近くに居れるから嬉しいわ。」
喜助は帽子を被りながら、「相変わらず熱々っスね」と呟いた。
「それに、ありがとうございました。」
美桜は何に対する礼なのかすぐにわかった。当然のことをしたまでで、礼を言われるほどでもない。
「お礼は要りませんよ。むしろこれくらいしか出来なくてすいません。」
「それでもアタシらにとっては嬉しいんスよ。」
喜助は杖に擬態させている紅姫をゆらゆらと揺らしながら帽子を押さえた。
「では、準備が出来次第現世に来ていただいても?」
「わかりました。明日には伺います。」
喜助はこれから技術開発局に行って打ち合わせをするそうだ。美桜も執務を可能な限り片付けてから出発したい。二人は必要最低限の言葉を交わすと、すぐに別々の方向に歩いて行った。
隊舎に戻った美桜は、真面目に机に向かう副隊長の雫に隊首会での決定を話した。
「では隊長はしばらく現世に行かれるのですね。」
「そうなの。みんなのこと頼んだわよ。」
決戦は隊長副隊長で向かい撃つだろう。三席以下は現世で食い止めきれなかった時に尸魂界を守護してもらうことになる。そんな事態にならないといいが。
美桜はやらなければならない書類を終わらせ、雫に引き継ぎをした。
そして京楽に七番隊を頼んでから、現世へ出発した。
+ + +
「真子、私喜助さんのところで手伝いすることになったから、しばらく現世にいるの。」
夕食も済ませ、お風呂も入った後まったりしながら真子に隊首会での決定を伝える。
「美桜も虚圏に行くんか?」
「ううん、私は空座町組。行くのは四、六、十一、十二番隊の隊長副隊長の予定よ。」
治療のできる卯ノ花隊長と私を、虚圏と空座町に分けるのは当然だ。
怪我人もたくさん出る。厳しい戦いになるだろう。出来れば死者が少ないと良い。藍染との戦いはそういう戦いだ。
私は回道を込めた霊石を作りながら考える。時間停止空間に放り込んでおけば、回道が抜ける心配もない。一人一つとはいかないかもしれないが、できるだけ作っておきたい。治療が追いつかない可能性だってあるのだ。念には念を。
「虚圏に行く道は私が作って、帰り道は喜助さんと涅隊長がどうにかする感じだと思う。」
私と真子、二人でお互いが持っている情報の擦り合わせをした。
今日の隊首会で今まで書面でしか聞いてなかった情報を、実際に戦った本人から聞くことができた。向こうの情報が少ない中、実際に戦った本人からの情報はまさに宝の山だ。
それに喜助さんと夜一さんも別の破面と戦ったらしい。情報が多いことに越したことはない。
崩玉の覚醒期間を考えると、決戦は冬と思われる。でも相手はあの藍染だ。こちらの予想通りに行くだろうか。
「喜助も言うとったなぁ。破面の完成度もそのペースも予想以上やと。こりゃ冬じゃないかもしれんな。」
「あぁ、喜助さんと夜一さんは直接会って戦ったんだっけか。何か言ってた?」
「夜一は外皮の硬さに驚いとった。普通に殴ったらこっちがやられる硬さやと。」
私は破面の皮膚がそこまで硬いとは思わず、驚きに目を見開いた。
「破面の中でも序列が存在しとるんか、一方がもう一方に命令しとったらしい。」
「それに関しては日番谷隊長と戦った破面がベラベラ喋ってくれたみたい。隊長格以上の戦闘能力を持つヴァストローデ級の中でも、特に優れたヴァストローデ十人に一から十までの番号が振られていて、その十人の戦闘能力は他のヴァストローデとは比べ物にならないみたい。」
「はー、ヴァストローデの上って、どんだけやねん。」
こうやって戦う敵のことを考えれば考えるほど、この戦いが厳しいものになると思わざるを得ない。しかもその上には藍染を含む三人の元隊長がいるのだ。こちらも尸魂界だけでなく、仮面の軍勢や喜助さんたちを合わせても、どれだけ対抗することが出来るのだろうか。
「....
「何やそれ。」
「虚の斬魄刀解放のことなんだって。虚の斬魄刀解放は死神と違って一段階のみ。帰刃は虚が能力の解放をして本来の姿に戻るものみたい。だから帰刃をすると能力全てが跳ね上がる。しかも厄介なことに、それまでの傷が全て癒えるのよ。」
「....厳しいな。」
そのヴァストローデ級が藍染の元に一体いくついるのだろうか。隊長格より多くのヴァストローデ級がいたとしても、決戦までに出来るだけ減らしておきたい。そのためにも、明日から喜助さんを全力でサポートしなければならないのだ。