破面篇
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まだ暑い日が続く九月のこと。一護たちのクラスに転入生が来た。
金髪の髪を顎のラインで切り揃え、両手をポケットに突っ込み、猫背が目立つ転入生は、担任に言われて自己紹介をした。
「助平の平に小野妹子の子、真性サドの真に辛子明太子の子で、平子真子ですぅ。よろしく〜。」
癖のある挨拶とともに、力なく両手と頭を下げる。真子が頭を動かすと同時に、サラリと髪が揺れる。
「うおぉぉ〜い!平子君、逆!」
それは見事に左右逆に書かれた名前だった。といっても、"子"以外は左右対称のため普通の文字だが。
「上手いこと書けとるやろ?得意なんです〜、逆さま。」
その後、「席は可愛いギャルの隣がいい」と騒いでいた真子だったが、担任の指示で一護の隣になった。真子は席に座りながら、隣の一護に意味ありげな笑みを向ける。
「お隣さんやなぁ。仲良うしてや?黒崎君。」
ニヤリと笑った歯の隙間から舌ピアスが見える。
波乱の予感がした。
その日の夜。
今日の仕事を終えて帰宅した美桜は、どこかへ行こうとする準備する真子を見つけ首を傾げた。
「真子、こんな時間からどこ行くの?」
「現世で黒崎一護にちょっかい出しに行くんや。美桜も来るか?」
「あ、それ楽しそう。私も行く。」
「待っとるから着替えてき。」
美桜がクローゼットの中を漁っていると、以前リサからもらった制服が出てきた。近くの女子高のその制服は、セーラー服だ。水色の襟に青いスカーフ、ネイビーのプリーツスカート。紺色のソックスとブラウンのローファー、なぜかスクールバッグまでセットになっている。
制服。それは学校に通う若者だけが身に付けることを許される服。それ以上は制服ではなく、コスプレになる。美桜はうん百歳。もはやコスプレの次元も超越しつつある。
とはいえ、真子は制服だ。隣に並ぶ美桜が私服では、なんだかイケナイ関係だと思われそうだ。それに、"放課後デート"というものをしてみたかったのだ。そう思った美桜は、死覇装を脱ぐとセーラー服に着替えた。
廊下で壁に寄っ掛かり、携帯をいじっていた真子に声をかける。
「お待たせ。」
「ぶっ!!!おま、何でそないなもん持ってんねん!?」
「リサからもらったの。どう?」
美桜は全身を見せるように一周回ってみせた。その動きに合わせてふわりとスカートが浮く。
「かわええなぁ。さっすが俺の嫁さん。」
「ありがと。でもスカート短くて落ち着かない....。」
美桜の言葉に真子はスカートを見た。太ももの半分ほどしかないスカートは、美桜の白く細い脚を強調させていた。確かに彼女はロングスカートを好むため、ここまで短いのは履かない。
真子は制服姿の美桜にこのまま寝室に篭ろうかと思ったが、金髪ツインテールのうるさい女を思い出してその考えを却下した。
「ほな、行こか。」
美桜は当然のように差し出された手を取って、現世へ向かった。
一護にちょっかいを出しに行くといっても、流石に本人が家にいれば何もできない。
真子と美桜は、時が来るまでデートをすることにした。携帯の検索結果によれば、高校生はゲームセンターで遊んでプリクラを撮り、ファミレスでご飯を食べるらしい。
今は十九時。ちょうど良いし、先にご飯を食べることにした。
真子と美桜は、繁華街にあるファミレスに入店した。店員に人数を伝えるとボックス席に案内される。真子と美桜は向かい合わせに座らず、あえて隣同士に座った。その方が近くにいれるからだ。
「美味しそう〜。あ、私グラタンにする!シーフードの!」
「決めんの早いな。俺は....カルボナーラとマルゲリータにしよかな。サラダ頼むか?」
「そうだね、この蒸し鶏のサラダにしようかなぁ。一個でいい?」
「分ければええよ。美桜、デザートはええんか?」
「食べるけど後で注文する!」
「ほな決まりやな。」
真子は呼び出しベルを押し、やってきた店員に慣れたように注文していく。
注文を取り終えた店員が去っていくと、美桜はドリンクバーに行こうと立ちあがろうとした。
「見えへんやろ。俺が行ってくるから待っとき。」
「....ありがと。」
美桜は縛りのせいで見えない視界を霊圧感知で補ってはいるものの、あくまでも尸魂界だから出来ることだ。尸魂界の全ての物は霊子から作られている。そのため、常に微弱の霊力を放っているのだ。美桜はそれを感知することで物の位置を把握している。しかし、現世の物は霊子で出来ていないため、美桜お得意の霊圧感知で視界を補うことができない。
当然ながらそれを知っている真子は、美桜を一人で立たせるようなことはしない。
戻ってきた真子は、ジンジャーエールとリンゴジュースのグラスを持っている。リンゴジュースの方を美桜の前に置くと、座って自分のジンジャーエールを飲み始めた。
何も言わずとも好きな飲み物を取ってきてくれる。二百年以上一緒にいるのだから、当然と言えば当然だが、それでも美桜は嬉しかった。
メニューを広げてデザートを見ていると、料理が次々に運ばれてきた。
美桜はサラダを取り分け、真子はマルゲリータをピザカッターで食べやすい大きさにカットする。そして二人で手を合わせて食べ始めた。
「「いただきます。」」
美桜は湯気の出るシーフードグラタンにスプーンを入れ、フーッと息を吹きかけてから口に運ぶ。冷ましたがまだ熱かったようで、はふはふ言いながら食べている。
「あつっ、舌やけどしたかも。」
「何しとんねん。見してみ。」
真子は美桜の顎を軽く掴むと、自分の方へと向けた。そして自分の舌を「こうしてみ」とお手本を見せるようにべーっと出した。
露わになる舌とピアスに、美桜は自分の舌を重ねたくなったが、なんとか理性で抑え込み自分の舌を出した。
「先っちょが赤なっとるなぁ。治しとき。」
「もう。どうせ治るんだから確認しなくてもよかったでしょ〜?」
「せやなぁ。」
真子は先程から自分たちを見ている視線の中に、学校のクラスメイトがいることに気付いていた。その人物が自分たちを穴が空きそうなくらい見ていることも。
だから少し楽しくなってしまったというのもある。今だって顔を真っ赤にしながらも視線はしっかりとこちらを見ているのだ。どこまで耐えられるか気になってしまうのも仕方ない。
「真子、あーん。」
「....ん、んまいな。」
真子が考え事をしていると、美桜がスプーンを差し出してきた。何の抵抗もなく口を開けると、 口に入ってくるグラタン。
「ねぇ、さっきから穴空きそうなくらい見てくる人いない?知ってる人?」
「おん、クラスメイトちゅーやっちゃ。気にせんでええ。ほら美桜、これ食べるか?」
「....ん。ありがと。」
真子も流れるように美桜の口にカルボナーラを入れた。美味しそうに食べる美桜に真子の顔が緩む。
その後デザートまでしっかり食べた二人は、心なしか重たくなったお腹を抱えて店を出た。
美桜は霊圧感知でオレンジ色の髪の死神代行の霊圧がまだ家にあることを確認する。
「まだ家だね。どうする?」
「せやなぁ。あそこ行こか。」
あそこ、と真子が指を指したのはゲームセンター。二人は当初の予定通り、放課後デートを楽しんでいる。
美桜は初めて見るUFOキャッチャーに目を輝かせた。しかし、真子からやり方を聞いて、その意味を理解できなかった。
なぜ目の前にある景品をアームで取らなければいけないのか。とてもじゃないがこの細いアームで巨大なぬいぐるみが掴めるとは思えない。"アームで取れないなら空間を裂いて取ればいいじゃない"と考えてしまうのだ。
真子は納得のいっていない美桜の手を引いてプリクラエリアに来た。そこにはプリクラ機が数台並んでおり、様々なモデルがいろんなポーズをしている。
「わぁぁ!!!すご〜い!!!」
たとえ二百年以上生きていようが、女子は女子なのだ。美桜は真子の手を引っ張って一つ一つの特徴を見て回る。やがて一つのプリクラ機に決めると、お金を投入して操作を始めた。
真子は楽しそうな美桜の様子に人知れず胸を撫で下ろした。
藍染が動き出したこともあり、最近の美桜は気を張り詰めすぎていたのだ。そんな状態では決戦まで持たない。そう思ったこともあり、真子は美桜を連れ出したのだ。楽しそうな美桜の様子に連れ出してよかったと、心の底からそう思えた。
真子は、初めてなのに慣れたようにポーズを決めていく美桜が信じられなかった。
そして最後の一枚になったとき、美桜にネクタイを思いっきり引っ張られた。
「はぁ!?ちょ、待て....っ!」
体勢を崩した真子は目を見開いて迫ってきた唇を受け止めるしかなかった。その瞬間に聞こえたパシャリという音。
「ふふっ」
美桜は出来上がったプリクラを見て満足そうに微笑んだ。一番大きい場所には最後に撮った所謂チュープリが印刷されている。口元はハートのスタンプで隠されてはいるものの、確実にくっついているとわかる近さである。
ふわふわとした気分でゲームセンターを出ると、虚の霊圧を感じた。少し遅れて一護が家を出たのも。どうやらデートはこれで終わりのようだ。
真子と美桜は手を繋ぎ虚の方へと向かう。途中で人がいないことを良いことに、空に浮かんだ。
出現した虚がよく見える位置についた時、オレンジ色の髪の死神が近付いてきた。黒崎一護だ。
危なげなく一撃で倒す一護を上から見下ろす。
「にしても、霊圧感知下手ね。真子は霊圧隠してないんだけど....」
「ま、死神になったばっかの十五歳や。しゃーないんちゃう?ほな、行ってくるわ。」
真子はそう言って被っていたハンチング帽を美桜に深く被らせた。
美桜と黒崎一護は会って話したことはないが、一護は美桜のことを双極の丘で見ている。美桜と真子がいるところを見られると色々面倒なのだ。しかも先日の隊首会で先遣隊の派遣が決まった。何かの時に「金髪の隊長が正体不明の輩と一緒にいた」など伝われば、面倒なことこの上ない。
今美桜は制服を着ているし斬魄刀も持っていない。あれだけ霊圧操作も感知も下手くそな一護が完全に霊圧を消した美桜のことをわかるとは思えないが、念押しだ。
真子は美桜の頭をぽんぽんと撫でると、斬魄刀を顕現させて一護に向かっていく。
背後から忍び寄りながら斬魄刀を抜いた真子は、この地区の担当死神と話している一護に斬りかかった。咄嗟に斬月で受け止めた一護だが、襲ってきた人物とその手の斬魄刀を見て目を見開く。
「な、お前、平子!!それは斬魄刀か!?」
真子は口の前に人差し指を持っていき、静かにするよう合図する。綺麗に並んだ歯並びが露わになる。
「あんまし騒ぎなや、黒崎一護。お前みたいな霊圧のやつが、そない簡単に騒ついたらあかん。世界に響いて、感づかれるで。」
「....誰にだ。」
それすらもわからないとは。美桜は呆れてため息を吐いた。
「誰に、やと?そこまで言わへんとわからへんのんかい。」
真子も同じことを思っていたようだ。
「(....!!ほら、だから言ったじゃない。)」
どこかで虚が出現したようだ。しかも霊圧が濃く重たい。普通の虚ではなさそうだ。
真子は現れた霊圧に辺りを見回し、「来よったか」と呟く。
「見てみぃ。言わんこっちゃない。お前が霊圧ガタガタしよるからやぞ。」
「んなことはどうでもいい!お前が何者かって聞いてんだよ!」
「難儀なやっちゃなぁ。そない俺が何者か気になるんかい。」
真子は一度一護から距離を取ると、額の前に左手を出し、そこに虚の霊圧を集めた。現れたのは、虚の仮面。
「ほらよう見てみ。これ、なーんや。」
見覚えのある虚の仮面に絶句する一護。
「斬魄刀に、虚の仮面。もうわかるやろ?俺は死神の領域から虚の領域に足を踏み入れた者。言うたやろ。仲良うしてやって。」
望まざると足を踏み入れてしまった、虚の領域。真子はそんなことを感じさせずに、まるで自分が望んで手に入れた力のように一護に紹介する。
それは美桜のためであった。美桜が真子たちにどこか負い目を感じているのを知っているのだろう。だから美桜が見ているところでは、その力を望んで手にしたかのように話す。分かりにくい真子の優しさだ。
「俺は
"そっち側" 。その意味で言うと、美桜と真子は仲間ではないように感じる。死神と仮面の軍勢。こんな屁理屈言っても仕方ないとは思いつつ、美桜はついそんなことを考えてしまった。
「俺ら?じゃあ後ろにいるやつも、お前の仲間か。」
真子はチラリと美桜の方を振り返る。目があった美桜は呑気に真子に向かって手を振る。
「!!虚か!」
一護は今頃虚の霊圧を感じたようで、辺りを見回している。
「(おいおいおい。今頃気ぃついてんか?ホンマに大丈夫なんか、こいつ。)」
美桜は虚の近くに感じる懐かしい霊圧に目を細めた。
「(まさかとは思ったけど、近くで感じると似てるわ。息子なのかしら。)」
真子たちがそう考えている間に、一護は虚の元へ向かおうとしていた。それに気付いた真子が声を上げる。
「あぁー!!こら待て一護!まだ話終わってへんで!」
「お前らの仲間にはなんねぇ!俺は死神だ!!」
そう言って去っていった一護に、真子が呆れた目を向ける。
美桜は真子に近付いて、ずっと被っていたハンチング帽を真子の頭に乗せた。
「難儀なやっちゃなぁ、ホンマに。美桜、あの死神の霊圧知っとるか?」
「久しぶりに感じたけど、先代十番隊隊長 志波一心のものよ。黒崎一護の霊圧にずっと見覚えがあったけど、これではっきりしたわ。彼、死神の子どものようね。」
元隊長の息子という事実に真子が目を見開く。その相手は誰だ。死神相手に子を成せるなど、普通の人間ではない。
「喜助が知っとるな。」
きっと喜助のことだ。真子や美桜より多くの情報を持ってるに違いない。まぁ、彼の母親のことなどただちょっと気になるだけだから聞こうとも思わないが。
真子はため息を吐くと、制服のポケットから携帯を取り出した。
「もしもーし。平子やけど、猿柿さんの携帯ですかー?すまん、失敗してもうた。」
電話口からものすごい喚き声が聞こえる。近くにいる美桜にすらはっきり聞こえる怒鳴り声に、美桜はクスクスと笑う。何百年経ってもこの二人のやり取りは変わらないのだ。
「どうせ時間の問題や。気長にいこ。」
そう言って電話を切ると、真子は行きと同じく美桜に左手を差し出した。
「帰るで。」
美桜は右手を重ねると、一緒に空を蹴った。
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