尸魂界篇
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藍染と市丸が消えた後、美桜は霊圧感知で藍染と市丸が双極の丘にいることを確認した。
回道をかけたおかげか、先程よりも顔色が良くなった雛森を見る。まだ目覚めないと思うが、命に別状はないだろう。
美桜にはやりたいこと、いや、やるべきことがあるのだ。
「卯ノ花隊長。ここはお任せしてもよろしいですか。」
日番谷を治療している卯ノ花は、美桜の声に顔をあげた。
「....行かれるのですね。」
その言葉が許可と同義であると勝手に判断した美桜は、回道をやめて立ち上がった。
今にも双極の丘に向かおうとする美桜を卯ノ花が引き止める。
「ひとつ、お聞きしたいことがあります。」
「....何でしょうか。」
「百余年前のあの事件、首謀者は浦原喜助ではないのですね?」
確かめるような口調の卯ノ花に、美桜は頷いた。
「喜助さんは罪を被せられただけです。」
「やはりそうでしたか。彼はあのようなことをする人には見えませんでした。では貴女が藍染の元に行くのは"彼"の仇ですか?」
彼、と名前を出さずとも、二人が思い浮かべている人は同じだろう。
美桜はフッと笑って卯ノ花を見た。
「仇だなんてとんでもない。みんな元気ですよ。もちろん彼も。」
「そうだろうと思っていました。彼らが簡単に死ぬはずありません。」
美桜はそれに、と続けた。
「この百余年、彼とはずっと一緒に暮らしていましたし。今朝も見送りしてもらいました。」
卯ノ花は目を見開いた。全員生きていることは薄々感じていた。なんせ誰一人として死亡を確認した者がいないのだ。しかも全員隊長・副隊長たちだ。そう簡単には死なない。しかし、まさか美桜が彼とずっと一緒に暮らしていたとは流石に思わなかったのだ。
美桜はそんな卯ノ花に背を向けると、空間を繋ぎ合わせて双極へ向かった。
+ + +
本当は、魂魄に隠すなんてことをせずに、私の異空間に入れることが出来ればよかった。話が出なかったわけではない。むしろすぐに試すことになった。
しかし、異空間に入れた途端、自分の内側の深い部分が削られたのがわかった。崩玉が死神と虚の境界を壊そうとしていたのだ。
私は、少しずつ自身を侵蝕する崩玉に耐えきれなかった。でも、あの時の反応は正しいものだったと心のどこかで思っている自分がいる。本能だろうか。
それほどまでに危ないものなのだ、崩玉というものは。
+ + +
美桜は藍染の真後ろから空間を裂いて飛び出し、抜刀した銀琉で藍染の胸を貫いた。
ゴフッ
藍染の口から血がこぼれ落ち、白い隊長羽織を赤く染める。藍染は自身の胸を貫く斬魄刀を驚いたように見た後、顔だけ振り返りその持ち主を確かめた。
「涼森隊長か。さすがだね、この私に傷を負わせるとは。」
「お褒めにあずかり光栄だわ、藍染惣右介。」
深傷を負っているというのに、余裕の笑みを崩さない。それが美桜の勘に触る。
美桜は渾身の力で斬魄刀を藍染から引き抜いた。傷口から血が吹き出す。
美桜は美しい刀身に付いた穢れた血に顔を歪めた後、刀身を思いっきりはらってそれを飛ばした。そして念のため時間回帰をかけて、刺す前の状態に戻しておく。
そんなことをしている美桜に、藍染が斬魄刀を抜いて斬りかかってきた。その動きはとてもではないが深傷を負っている者のそれではない。
美桜は避ける素振りも見せず、藍染の鏡花水月を左手の人差し指で止める。衛膜を纏っているため、当然美桜に傷はつかない。
藍染の驚いた顔に美桜の胸がすいた。
一度美桜から離れて距離を取った藍染は、心底楽しそうに口角を上げた。
「面白い。その力が今までに一度も斬魄刀を抜かなかった理由かい?」
「そうとも言えるわね。」
そう。美桜は隊長になってから、今まで一度も斬魄刀を抜いたことがない。斬魄刀を抜くどころか、勤務中はその力すらほとんど使わずに過ごしてきた。
大抵のことが鬼道で事足りるという理由もあるが、最大の理由は、藍染に目を付けられる可能性があったからだ。藍染に目をつけられたら最後、美桜が真子の妻ということも露呈し、最悪美桜を人質にして真子たちを引き摺り出すということも起こり得る。それを避けるために、美桜は徹底的に斬魄刀の能力を使わず、鬼道だけで任務をこなしてきた。
幸いにも、美桜が作り上げた七番隊は敵と戦うことが少ない。前線で傷付き倒れた者を回収し応急処置を行う。そして速やかに四番隊に運び込むことで助けられる命を確実に救う。回道と瞬歩ばかり使うような、そんな隊である。
斬魄刀が二本もあるのに、一本も抜かないため少し噂になっていたようだが、そんなこと気にしていられない。
藍染は小手調べするために、まだ彼の満足する出来に達していない鬼道を放った。
「破道の九十 黒棺。」
藍染が詠唱破棄した黒棺が美桜を取り囲む。美桜は瞬歩で黒棺の外へ出ると、発動しようとしている黒棺に目を向けた。
「
美桜がそう唱えた瞬間、黒棺は跡形もなく消え去る。いや、消えたのではない。眠らせて保管したのだ。
時間停止空間に保管された黒棺は、その状態のまま時間を止める。時間停止空間から出せば、その瞬間から技が動き出す。
詳細は不明だが、己の鬼道が美桜によって防がれたことだけはわかった藍染は、面白そうに笑った。
「実に面白いよ、涼森隊長。どうやら私は君のことを過小評価していたようだ。」
藍染が再び斬魄刀を構えたとき、その手と首を封じるものがあった。夜一と砕蜂だ。どうやら二人は和解したらしい。
「おっと、これは懐かしい顔だ。」
そうしている間にも、双極の丘に次々と隊長格が集まってくる。虎徹副隊長の天廷空羅を聞いたのだろう。その目には裏切りに対する怒りや動揺、敵意などがあった。
「これはみなさん、お揃いで。」
藍染はこれだけの隊長格に囲まれていても全く動揺していない。それどころか、平然と美桜に話しかけてきた。
「そういえば涼森隊長。まさか君が平子隊長の妻だったとは驚いたよ。平子隊長は僕に妻の存在を隠していたからね。彼は元気かい?」
久しぶりに聞く名前に目を見開く者が何人かいた。そしてその妻が美桜という情報に、美桜に視線が集まる。
「元気いっぱいよ。今度会う時楽しみにしておきなさい。」
「ほう、それは怖いね。」
美桜は何かが空間に干渉しようとしていることに気付き、空を見上げた。
それを見た藍染が口角を上げた。
「そんなことまでわかるとはな。」
藍染を拘束する夜一が静かに言う。
「終わりじゃ、藍染。」
「....フッ。」
「何じゃ。何がおかしい。」
「あぁ、すまない。時間だ。」
何かにハッと気付いた夜一が砕蜂に向かって叫んだ。
「離れろ!砕蜂!!」
その瞬間、空から黄色の光が藍染に降り注いだ。
「地に堕ちたか、藍染。」
藍染は眼鏡を砕き、髪をかきあげた。
「面白いことを言う。最初から誰も天になど立っていない。僕も君も、神すらも。これからは、私が天に立つ。」
空間が完全に閉じ、辺りは静寂に包まれた。
藍染は完全に別の空間に行った。一度去って行ったからにはしばらく仕掛けて来ないだろう。そう思った美桜は斬魄刀を鞘に戻すと、辺りを見渡した。傷を負っている者が多いが、放っておいても平気そうな者ばかりだ。しかし重傷者が三名。
卯ノ花は日番谷と雛森の治療をしているため不在だ。となれば、美桜が指示を出すしかない。美桜は軽くため息をつくと、聞こえるように声を張り上げた。
「重傷者を私の近くに運んできてちょうだい。治療するわ。」
美桜の言葉に、ハッとしたように皆が動き出した。それぞれ自分の近くにいる重傷者を運ぼうとする。
檜佐木が旅禍であるオレンジ色の髪の少年に向かったとき、同じ色の髪をした女の子が待ったをかけた。
「黒崎君は私が治療します!!」
美桜はその子を一瞥した。彼女のヘアピンから自分と似たような能力の波長を感じる。彼女なら大丈夫だろう。
「いいわ。お願いね。」
美桜はルキアと浮竹に連れてこられた白哉を見る。その近くには、夜一に抱えられた阿散井の姿もあった。どちらも出血多量、危険な状態だ。
「雫!出来るところまででいいから応急処置しておいてくれない?」
「かしこまりました。」
雫が阿散井に回道をかけ始めたのを確認し、美桜は白哉に時間回帰をかけ始めた。
雫は隣で阿散井の治療をしながらも、見たことのないその能力に目が釘付けになった。
「隊長、それは....?」
「時間回帰。対象の時間を戻すの。今は傷の時間だけを戻して傷を負う前の状態にしてるの。....今までずっと隠しててごめんね。」
悲痛そうな表情で謝られた雫は、先程藍染が言っていた"平子隊長"という人物に関わりがあるのだろうとあたりをつけた。
「大丈夫です。これが終わったら、隊長のこと聞かせてください。いつも惚気るくせに誰だか隠していらっしゃった旦那さんのことも。」
「....そうね。もう隠す必要がなくなったからね。」
能力のことも、旦那のことも、藍染たちがいなくなったおかげで隠す必要がなくなったのだ。それでも、何が起こるかわからないため必要以上に能力は晒さないが、今までのように気を張っていなくてよさそうだ。
美桜は安堵の息を吐いて時間回帰に集中した。
時間回帰のおかげで少し回復したらしい白哉が目を覚ました。
美桜がその額にデコピンすると、隣にいたルキアが驚いたように声を上げる。
「な、何をなさるのですか!?」
「全く、頑固なところは治ってないわね、白哉君。素直になりなさい。周りの人がみんな貴方の気持ちを汲み取ってくれるわけじゃないんだから。言葉に出さなくても伝わることもあるけど、言葉に出さないと伝わらないことの方が多いのよ。貴方みたいな能面は特にね。」
白哉は「うるさい、余計なお世話だ」とでも言いたげな瞳で美桜を見た。
美桜は相手が動けないことをいいことに、もう一度デコピンする。同じ場所に二回デコピンをされて、白哉の額が赤くなる。
ルキアは美桜と白哉の様子に、おずおずと先程から気になっていたことを聞いた。
「あの、兄様と仲が良いのでしょうか?」
「昔ね、白哉君に鬼道を教えてたのよ。まだ白哉君が霊術院生のときで、今よりも表情豊かで、生意気君だったときにね。」
「では涼森隊長が兄様の鬼道の師匠ということでしょうか!?」
「まぁね。白哉君も努力したのよ。」
そう言っている間にも、みるみるうちに傷が塞がっていく。切れた死覇装や血に染まった隊長羽織すらも元に戻る。しかし、失った血は元には戻らない。元に戻すこともできるが、失血死寸前でない限りやりたくないのだ。面倒だから。
美桜は身体の傷が大方治ったことを確認した後、時間回帰をやめて立ち上がった。
「何日か入院が必要なくらいにしといたわ。そこで頭冷やしなさい。」
美桜はあえて傷を全て治さなかったのだ。めんどくさいからではない。痛い思いすれば良いとも思ってない。ただ、四番隊で一人頭を冷やせば良いと思ったのだ。
美桜が阿散井とそれを治療する雫の方を向いたとき、後ろで白哉が何か話しているのが聞こえた。きっと五十年前のことだろう。
美桜は聞こえないふりをしながら、阿散井の治療をする雫と交代した。