尸魂界篇
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美桜は異空間から出て隊舎に向かおうとしたとき、浮竹の霊圧を珍しいところに感じて足を止めた。
(あそこは懺罪宮の近く。寝ていなくて大丈夫なのかしら。すぐそばに白哉君もいるわね。そして旅禍らしき荒い霊圧も。)
今から向かうと確実に遅刻するが、このままでは気になって仕事どころではない。そう思った美桜は心の中で雫に謝りながら、隊舎へ向かう足を懺罪宮へと向けた。
懺罪宮。
そこは双極によって処刑される者が処刑前に入り、双極を見ながら己の罪を悔いる場所。
美桜が近くに到着した時、白哉と見たことのないオレンジ色の髪をした死神が戦っていた。あれが噂の旅禍だろう。先日の十一番隊三席の班目と六番隊副隊長の阿散井と戦っていた霊圧と同じだ。
美桜は二人の戦いを見守る浮竹の隣に降り立った。
「お、美桜か。」
「寝ていなくて大丈夫なんですか、浮竹隊長。」
「あぁ、今日は調子が良くてね。」
少し言葉を交わした後、美桜たちの目は旅禍に釘付けになった。まだ本気を出していないだろうが、それでも白哉に着いていくオレンジ色。
(喜助さんの言っていたことが本当なら、彼はまだ死神になってから一年経っていない。それなのにあの能力。恐ろしいわね。)
焦れたのだろうか。白哉が始解しようと斬魄刀を縦に持って構えた。
美桜は咄嗟に止めようと一歩踏み出すが、すぐに冷静になって足を止めた。ここで白哉の始解を止めようとすれば必然的に旅禍に味方することになる。そうなれば、自分の立場も怪しくなる。
どうしたものか、と考えていると、近付いてくる霊圧に気付いて口角が上がった。美桜の心配は杞憂に終わりそうだ。
(あぁ、夜一さんだ....)
白哉の斬魄刀に包帯が巻かれ、始解が阻まれた。
「「....!!」」
白哉と浮竹は、今現れた人物に驚いているようだった。
それはそうだろう。なにしろ彼女が姿を現すのは百余年振りだ。生きているか死んでいるかすら不明だったのだ。
「貴様は....!!」
「久しぶりじゃのう、白哉坊。」
「四楓院夜一!やはり生きていたか....!」
夜一だけではない。あの時現世に逃れた人は全員生きている。そして藍染に復讐する時を待ちながら修行しているのだ。
夜一は旅禍の腹に薬を直接叩き込むと、力が抜けてダラリとしたその身体を肩へ抱えた。
夜一が逃げようとしているのがわかったのだろう。白哉は「そうはさせぬ」と言わんばかりに夜一を睨みつける。
「逃すと思うか。」
「お主が一度でも儂に鬼事で勝てたことがあったかのう?」
そう挑発する夜一に、白哉は静かな怒気を滲ませた。
(なるほど。夜一さんはこうやって白哉君をからかっていたのね。)
夜一と白哉が瞬歩を繰り広げる。
美桜の目には夜一が白哉と遊んでいるように見えた。一見拮抗しているように見えるが、夜一は自分より大きく重い身体を抱えているのである。その状態にもかかわらず、白哉の瞬歩が追い付いていないのだから、実力的には夜一の方が上だ。
「三日だ!三日でこやつをお主より強くする!」
そう言って夜一が凄まじい速度で遠ざかっていった。
白哉は下から睨みつけるようにそれを見送ると、斬魄刀を鞘に納めた。
「興が削がれた。」
美桜は、そう言ってすぐに去っていった白哉に苦笑した。内心悔しくて仕方ないのだろう。美桜の頭には、白哉が昔のように「あの化け猫めっ!!」とキャンキャン騒いで悔しがる姿が思い浮かぶ。
美桜は血まみれで倒れている旅禍に近付いた。千本桜にやられたのだろう。身体に無数の傷がついている。回道をかけるために手を翳す。
薄い緑色の光が傷を癒していく。
美桜は回道も出来るが、やはり時間回帰の方が速いし楽で好きだった。今までずっと隠してきたが、今回ばかりはそう言っていられなくなりそうだ。
きっと、もうすぐで力を隠す生活は終わる。
美桜が力を隠さないこと。それは藍染が本気で動き始めたことと、戦いが激しくなることを示している。
藍染と戦えば真子が怪我するかもしれない。その時は、力を隠すなんて悠長なことは言っていられない。そもそも美桜が護廷十三隊の隊長でいるのも、真子のためだ。
美桜はこれからの未来を憂い、空を見上げた。
+ + +
怪我をしていた旅禍の治療を終えた美桜は、隊舎へは向かわずにある場所へ向かった。
切り立った崖の側面。
そこには喜助と夜一が遊びで作った秘密基地兼修行場がある。
美桜は夜一の霊圧を辿り、その入り口をくぐった。
「大丈夫ですか?」
少し息の荒い夜一に声をかける。
「なに、少し衰えただけじゃ。それより、こやつの傷を治してやってくれんかの。」
そう言って寝ている旅禍を顎で指す夜一。
「もとよりそのつもりです。」
彼は、"希望"ですから。
美桜はそう言ってから回道ではなく時間回帰をかけるために、旅禍の少年の隣に座った。
手のひらを上に向け、金色の光を纏った時間回帰の霊圧を手に溜める。そして旅禍の腹に霊圧を体内に押し込むようにして浸透させた。
一度体内に消えていった金色の光が、内側から傷を光らせる。大きな傷はより大きな光を放つ。傷が治っていくにつれて、溢れ出す光も弱いものになっていく。光が完全に消えた頃、その身体にひとつの傷もなかった。
「流石じゃのう。」
美桜は夜一のお世辞ではない言葉に照れ笑いしながら、「私に出来るのはこれくらいだもの」と謙遜した。
今回はここに来て傷を治すことができたが、毎回そうとは限らない。特に今後の戦いでどうなるかは誰にも予測できない。美桜は念のために回道をこめた霊圧で霊石を作り、夜一に渡した。
「すまんのう。」
夜一は白打と鬼道は得意だが、回道はからっきしなのである。回道が上手な人は、戦闘能力が低いことが多い。まぁ、例外もいるが。
役目は終えたしあまりここに長居していられない。そう思った美桜は、立ち上がり夜一に声をかけた。
「じゃあ私はこれで。」
「すまんな、助かった。」
「いいんですよ。お願いしますね、彼のこと。」
「なぁに。案ずるな。任せておけ。」
美桜は夜一の返事に安心したように頷いたあと、瞬歩で隊舎へと戻った。
+ + +
ゴツゴツとした岩が剥き出しになった天井。目覚めた一護は、一瞬で気絶する前のことを思い出した。勢いよく起き上がると、すぐ近くにいた夜一の胸ぐらを掴んで壁に押し付けた。
「なんで俺を連れ帰ったんだ!!あそこで俺が一番生き残る可能性が高かった!!なのになんでルキアじゃなくて俺を....!!」
夜一は自身の胸ぐらを掴んでいる手を握ると、静かに諭した。
「馬鹿者。あそこにおった者の中で白哉に勝てるものなどおらんかった。」
「じゃあなんでルキアを助けなかったんだよっ!!」
「案ずるな。あそこには浮竹と美桜がおった。浮竹は義理堅い男じゃ。自身の部下を救いにきた者を見殺しになどせぬ。それに美桜は回道の天才じゃ。今頃岩鷲の怪我なぞ綺麗になくなっておるぞ。」
少しずつ冷静になってきたのか、一護は静かに夜一の言葉を聞いている。
夜一はそのまま続けた。
「儂は、お主が一番白哉に勝てる可能性が高いと思い、お主を連れ帰ったのじゃ。」
夜一のその言葉に、一護の目が見開かれる。
「じゃが、今のままでは無理じゃ。お主にはここで白哉より強くなってもらうぞ。」
既に力の入っていない一護の手を胸ぐらから外した夜一は、奥へ向かって歩き始めた。
「もう傷は癒えておるじゃろう。始めるぞ、一護。」
夜一にそう言われた一護は、自身の身体を見下ろした。
そこには六番隊副隊長 阿散井恋次と戦ってついた傷も、十一番隊隊長 更木剣八と戦ってついた傷も、何も残っていなかった。残っているのは役目を終えた包帯だけである。
一護はあれだけ深かった傷が何一つ残っていないことを不思議に思うが、その気持ちを押し込めて夜一の後を追った。