尸魂界篇
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隊首会にて戦時特例が発令された翌日。
地獄蝶からの伝令を聞いた雫は、顔色を変えた。
「隊長....!藍染隊長が、何者かに殺害されたそうです!」
美桜はその言葉を聞いて、口に含んでいたお茶を吹き出さなかった自分を褒め称えた。藍染が死んだ?殺しても死ななそうなやつが?そんなはずはない。大方、鏡花水月の能力で藍染に見せかけているのだろう。
「遺体はどこに?」
「四番隊だと思われます。」
「藍染隊長のご遺体を確認しに行きますか」という雫の質問に、美桜は二択で答えることができなかった。なぜなら、藍染の遺体など存在しないのだから。
(藍染の "偽物" の遺体を確認しに、ね。)
そう、美桜は藍染の始解を今まで一度も見てこなかった。真子や喜助から鏡花水月の解放を見てはいけないと散々言われていたのだ。その恐ろしい能力を耳にタコが出来るほど聞かされてきた。それを知っていながら始解を見る者などいない。
おそらく、藍染はそのことに気付いていないだろう。なぜなら、藍染が始解を皆に見せているとき、美桜もその場にいた。しかし離れていたのだ。
美桜は自分を中心として五歩程しか見えていない。それより離れた場所は霊圧感知で位置や状況を把握している。つまり、周りから見れば解放を目撃しているが、美桜自身には見えていないのだ。
「遺体を確認しに行こうか。」
美桜はあえて誰の、とは言わずに立ち上がり、雫と共に四番隊へ向かった。
四番隊隊舎内付近にいた隊士に卯ノ花の元へ案内してもらう。美桜がここに来た理由がわかったのだろう。卯ノ花はすぐにどこかへ歩き出した。雫と黙ってその背に着いていく。
やがて一つの部屋の前で止まった卯ノ花に目線で入室を促される。軽く会釈をしてから扉を開けると、ベッドが一つ。見つかった遺体だろう。短い黙祷を捧げてから、顔に乗せられた白い布をそっと取り払う。そこには藍染ではない、スキンヘッドの知らない隊士がいた。
これで確定した。藍染は今回の旅禍騒動に乗じて、朽木ルキアの魂魄に隠された崩玉を手に入れるつもりだろう。
美桜が雫と卯ノ花をチラリと横目で見ると、二人とも悲痛な顔をしている。やはり、二人の目には藍染に見えているようだ。
美桜は卯ノ花に挨拶をすると、雫と部屋を出た。そのまま七番隊隊舎に戻ろうとするが、確認しておきたいことを思い出して足を止めた。
「ねぇ雫。」
「はい。」
「ちょっと寄り道していかない?」
護廷十三隊の隊長ですら立ち入ることを禁止されている区域。そこに中央四十六室の議事堂や住居がある。
世間的には死んだとされる藍染が身を潜めやすいのはどこか。姿を見られず、かつ情報が集まり戦局を常に把握できる場所。そんなものここしかない。
しかも中央四十六室は既に藍染の手に取って全滅している。ここにいれば、煩わしいことなど何もないのだ。
美桜は四番隊で藍染の霊圧を感知しようとしたが、本人も霊圧を抑えているのだろう。離れており感知出来なかった。しかし近くまで来れば感知出来る。
(やはり、ここにいるわね。)
基本はここから動かないだろう。しかし、それを決めつけると視野が狭くなるため注意が必要だ。
向こうは美桜も鏡花水月にかかっていると思っている。そのため、もしかしたら隊員になりすまして出歩くかもしれない。その時に、顔色を変えてしまえば今までのことが水の泡だ。
美桜は禁止区域の壁を睨んだ後、踵を返して七番隊隊舎へ戻った。
そんな美桜の様子を見る影が二つ。
「ギン、少し頼まれてくれるかい。」
「なんやろか。」
藍染は去っていく美桜の背中を見ながら、ギンに言う。
「涼森 美桜のことだ。」
市丸はその口を弧にした。
「どうやら彼女、相当鋭いみたいだ。このタイミングでここに来るということは、何かこちらのことを知っているのだろう。」
「そないな人には見えへんけどなぁ。」
市丸は藍染の頼まれごとをするために、部屋を出ていった。その足で大霊書回廊へ向かう。パネルで資料の場所を検索し、出てきた棚へ向かう。
「こら驚いた。あの人の奥さんやったんか。」
市丸はそこに書いてあったことに、その細い目から水色の瞳を覗かせた。
それは一枚の婚姻届の写しだった。
夫の欄には、百余年前に虚化実験の犠牲になった懐かしい名前。自身が三席であった頃に見ていた、見かけに寄らず綺麗な字。隣の妻の欄には涼森 美桜、と女性らしいしなやかな字で書かれていた。
証人は京楽春水と浮竹十四郎。随分と豪華だ。
市丸はその写しを持ってすぐに藍染の元へ戻った。
「藍染隊長。彼女、平子隊長の奥さんやわ。」
市丸はそう言って先程見つけた婚姻届の写しを藍染に渡した。
「ほぅ。これは驚いた。ではこちらのことを知っていると考えてよさそうだね。」
「どないします?」
殺します?と言外に聞く市丸に、藍染は笑みを深めた。
「いや、いいよ。彼女一人いたところで、我々は止められない。」
その言葉を聞いた市丸も、藍染と同様笑みを深めた。
+ + +
「ただいま〜」
美桜はいつもより重い身体を引きずって家へと帰った。
リビングから真子の好きなジャズの音がかすかに聞こえる。
リビングの扉を開くと、真子がこちらに背を向けて夕食の支度をしていた。味噌のいい香りがする。
美桜はその背に抱き付き、甘えるように背中に頬を擦り付けた。
「おかえり、美桜。遅かったなぁ、お疲れさん。」
「うん、ただいま....。」
美桜は真子のお腹に回した手の力を強くする。真子の身体が固まった気がした。
その様子に何かあったことを察した真子は、自身のお腹にある手優しく撫でた。
「後で話聞いたるから、先に風呂入っといで。」
ご飯まだ出来ひん。
そう言う真子のうなじにキスをしてから、美桜は着替えを取りに二階へ向かった。
真子は自分が作った鯖の味噌煮を箸で摘みながら美桜に聞いた。
「で、どうしたん。」
「....藍染が死んだことになった。」
真子は予想していなかった言葉に目を見開くも、すぐに意味がわかったのか、鋭い目になった。
「偽物を鏡花水月で藍染に見せとんのか。」
「うん。遺体を確認しに行ったけど、違う人だった。みんなあれが藍染に見えてるみたい。」
そう、みんな。
藍染の鏡花水月にかかっていない人なんて、瀞霊廷内で何人いるか。その中で戦える人となると、さらに限られる。少なくとも、隊長・副隊長を含む上位席官はみんなダメだろう。
「本物は四十六室に潜伏してる。今あそこには誰もいないからね。」
四十六室が全滅していることを知っている真子は、納得したようだった。
「第一級禁踏区域やから見つかることもなく情報が集まるもんなぁ。ほんま、よぉ頭が回るわ。」
本当に、敵ながら感心してしまう。
決戦の時は近い。
おそらく、朽木ルキアの処刑の日。その日に藍染たちは反旗を翻すだろう。まぁ、もう百年以上前から見えない場所で翻しているが。
朽木ルキアの処刑と旅禍の侵入。それを隠れ蓑にして進行する藍染の暗躍。
それぞれの想いが交差する中、その時は確実に迫っていた。