尸魂界篇

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「おはようございます、隊長。」
「おはよう」

朝、美桜は隊舎を歩いていると道ゆく隊士から挨拶される。それにいつも通り返事をしながら、執務室に向かう。

ガラガラと音を立てて執務室の扉を開けると、既に雫が仕事を始めていた。

「おはようございます、隊長。」
「おはよう、雫。」

自席につくと、昨日の情事を思い出してちょっと色の混じったため息が出た。旦那が好きすぎてつらい。

(甘々だったなぁ。幸せ....。)

ちょっと頬が熱くなったのを誤魔化すように筆を持った。


+ + +



カンカンカンカンッ

「緊急警鐘!瀞霊廷に旅禍が接近。各隊速やかに守護配置についてください。」

ここ何十年鳴ったことがない緊急警鐘が鳴った。

嫌な音だ。実際に聞いたわけではないが、あの時もこんな音だったのだろう。美桜は思わず眉間に皺を寄せた。

「隊長、ご指示を。」

雫に返事をする前に、美桜は霊圧感知で旅禍の霊圧を探った。西門である白道門付近に旅禍と思われる霊圧が複数ある。その近くに市丸ギンもいるようだ。何が狙いなのかはわからないが、とりあえず出撃する必要はなさそうだ。

「三番隊隊長が旅禍のすぐそばにいるわ。私たちは待機。」
「かしこまりました。」

そう言って部屋を出ていく雫を見送る。席官に指示を出しに行ったのだろう。


美桜は背もたれに身体を預け、天井の木目を見ながら考える。
喜助の話によれば、崩玉は朽木ルキアの中にある。だから美桜は朽木ルキアを助け出そうとする旅禍の味方をするべきだが、この立場で果たしてどれだけのことが出来るか。表立って動いたら、旅禍より先に自分が処刑対象になりそうだ。そうなっては目も当てられない。他の死神に悟られず、旅禍の助けをするか。


美桜は昨日の真子との会話を思い出した。中央四十六室が機能していないかもしれないという可能性。望みは薄いが、その可能性を否定するために、目を閉じて霊圧感知に集中した。
霊圧を一点だけに集中する。目指すは第一級禁踏区域。本来なら四十人の賢者と六人の裁判官の霊圧があるはずのそこには、一つの霊圧もなかった。もうこの時点で僅かな望みは潰えた。

しかし、口には出せないがちょっとだけ胸がすいた。
真子たちを虚として処分という決断を下した中央四十六室。元凶の藍染はもちろん、そんな決定を下した中央四十六室も許せなかった。百余年経って代替わりした者もいると思うが、心のどこかで藍染に「よくやってくれた」と言いたい自分がいて嫌になる。

美桜は目を開けて深いため息をついた。もう元には戻れないところまで進んでしまっている。

(中央四十六室の決定は藍染の都合のいいものになるってことね。それだけでもはっきりしたからまぁいっか。)

美桜が自席で考えを巡らせていると、どこからか地獄蝶が飛んできた。美桜は虫が好きではない。いくら地獄蝶とはいえ、出来るだけ手に乗せたくないのだ。
美桜は立ち上がると何か伝えたそうな地獄蝶を無視して執務室の扉を開けた。

「雫〜」

自らの上司が自分を呼んでいることにすぐ気がついた雫は、三席に何か言った後、美桜の元へ走ってきた。
美桜はその様子に申し訳なくなりながら、机の上で羽を休めている地獄蝶を指差す。

「あれお願い。」
「はぁ....。」

なぜ呼ばれたか察した雫が深いため息をつく。

「でも嫌なものは嫌なのよ。仕方ないじゃない。」
「地獄蝶に触れない隊長格など他におりません。」
「大丈夫。雫がいない時は仕方なく触るから。」

雫は机にいる地獄蝶にそっと指を近付ける。地獄蝶は少し羽ばたき指に止まって羽を広げたり閉じたりしている。

「隊長、緊急の隊首会だそうです。」
「旅禍のことかな〜。」

隊首会でどんなことを言われるかわからないが、雫に言っておきたいことがあった。

「ねぇ、雫。」
「はい。」
「....裏切りに見えるかもしれないけど、それでも私についてきてくれる?」

雫は珍しく目を見開いた。それもそうだろう。美桜と八十年以上一緒にいて、こんなこと言われたのなんて初めてだ。
"裏切りに見えるかもしれない"ということは、実際は裏切りではないということだ。たとえそうでなかったとしても、答えはひとつしかなかった。雫が片膝を床につき、首を垂れた。

「もちろんです。隊長。」
「....ありがとう。」

美桜は机の上を簡単に片付けた後、隊長羽織を翻して隊首会に向かっていった。

「じゃあ、行ってくるね。」
「はい、行ってらっしゃいませ。」



+ + +


一番隊隊舎。
美桜には、ここは堅苦しくて好きじゃないって言う真子の気持ちがよくわかった。空気が違うのだ。厳かで、堅い。まるで総隊長である山本のような雰囲気なのだ、一番隊隊舎というものは。

美桜は隊首会が行われる広間で所定の位置についた。藍染の隣というこの位置が本当に嫌だが、藍染の言動を近くで監視できる。それに反対の隣は東仙だ。こちらの動きにも警戒することができる。まぁ、他の隊長もいる隊首会で何かしてくることはないと思うが。



既に病欠という連絡のあった十三番隊隊長の浮竹と、三番隊隊長の市丸以外の隊長が集まっていた。

広間の扉がギィと古めかしい音を立てて開く。皆の視線がそちらに集中する中、そこにはいつも通りの妖しい笑みを浮かべた市丸がいた。

「きたか、三番隊隊長。」

椅子に座った山本が、厳しい目つきを市丸に向ける。市丸はそれをものともせず、いつもの調子でおちゃらけた。

「なんですの?いきなり呼び出されたかと思うたら、こない大袈裟な。尸魂界を執り仕切る隊長さん方が、僕なんかのために揃いも揃って。」

呑気な市丸に十一番隊隊長 更木剣八が顔に青筋を立てた。

「ふざけてんじゃねぇよ。そんな話で呼ばれたと思ってんのか?テメェ一人で旅禍と遊んでたらしいじゃねぇか。しかもヤリ損ねたとはどういうわけだ。」
「あら、死んでへんかってんねや、あれ。」

てっきり死んだと思ってんねんけどなぁと続けた市丸を、十二番隊隊長 涅マユリが嗤う。

「フッフッフッ。猿芝居はやめたまえヨ。我々隊長クラスが相手の魄動が消えたか察知できないはずはないだろう?」

今日もくだらない喧嘩をしている。美桜はそう思いながら目を閉じた。聞いていてもあまり意味がなさそうだ。

「やめんかみっともない。じゃが、お主がここへ呼ばれた訳は概ね伝わったかの。此度の単独行動、そして標的を取り逃すという失態。なにか、弁明でもあるかのう。」
「弁明なんてありません。僕のボンミスや。」

言い訳のしようがないという市丸に、美桜の隣にいる気配が動いた。

「ちょっと待て市丸。その前に聞きたいことがある。」

そう言って藍染が市丸に何かを聞こうとした時。

カンカンカンカンッ

「緊急警報!瀞霊廷に侵入者あり。各隊は守護配置について下さい。繰り返す....」

昨日からよく鳴る、否応なしに百余年前を思い出させるこの音。
京楽も同じことを思い出しているのだろう。編笠を深く被り直していた。

緊急警鐘が鳴り響く中、更木が飛び出していった。そんな更木を見て、山本はため息をついた。

「致し方ない。隊首会はこれにて解散じゃ。各隊守護配置についてくれ。」

山本のその声を合図に、皆出口へと歩き出した。
美桜はゆっくりと歩き出した京楽の隣に並んだ。

「京楽隊長。始まりますよ。」
「堅苦しいよ〜美桜ちゃん!ね、前みたいに春兄って呼んでよっ!」

美桜は隊長になってから、それまで春兄と四郎兄と呼んでいたのを隊長呼びするようになった。美桜なりの敬意である。護廷十三隊の中でも古参の二人を兄呼びするなど、逆に今までよく何もお咎めがなかったものだ。しかし二人とも隊長呼びが気に入らないみたいだ。
ちなみに美桜が隊長呼びするのは執務中だけだ。

「気が向いたらね。」

美桜が真剣な目で京楽を見る。その視線で、何が言いたいのか分かったのだろう。「やれやれ」と言いながら編笠を深く被った。




美桜が隊舎へ戻った時、雫の指示で隊士たちは皆持ち場についていた。

「雫、ありがとう。今戻ったわ。」
「隊長!おかえりなさいませ。」

すると、高濃度の霊子体がものすごい勢いで近付いてくるのがわかった。美桜は自分の肉眼では見えないのにも関わらず、思わずそちらを見てしまう。

やがて遮魂膜にぶつかった球体状のそれは、四つに分かれて散っていった。白道門で感じた懐かしい霊圧もある。
美桜はそのどれもが七番隊の管轄外に落ちたことを確認して、雫以下隊士に指示を出す。

「全てうちの管轄外に落ちたわ。私たちのやるべきことは負傷者の戦線離脱とその応急処置。戦う必要はないわ。でももし出会ってしまったら、自分の命を最優先に考えて行動しなさい。私たちには負傷者を救う力がある。私たちが負傷することで、助けられる命が助からない可能性があることを覚えておいてね。」

美桜は、「じゃあ雫、あとはよろしく」と一方的に声をかけた後、瞬歩でどこかへ消えていった。




旅禍が消えたと騒ぐ隊士を屋根の上から見下ろす一匹の黒猫。その黒猫はなぜか、人の言葉を話している。

「一人になってしまったか。じゃがその方が都合が良いかもしれんのう。」

美桜は霊圧を完全に消して、黒猫を後ろから抱き上げた。突然のことに黒猫が暴れるも、誰に抱き上げられたのかわかったのだろう。すぐに抵抗を止めた。

「お久しぶりです、夜一さん!」
「お、美桜か!久しいのう!元気しておったか?」
「はい!まさか夜一さんが旅禍に混ざってるなんて。」

美桜は黒猫改め夜一を腕の中に抱きかかえ、顎の下を撫でる。夜一は美桜に撫でられ、気持ちよさそうに目をつぶり、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
しばらくすると、ハッとしたように夜一が目を見開いた。大方、気持ちよくて夢中になっていたんだろう。
美桜はそんな夜一に笑いながら、撫でる場所を顎の下から頭に変えた。

「夜一さんはこれからどちらへ?」
「そうじゃな。喜助と作った秘密基地にでも行こうかの。」

そこは百余年前に虚化した真子たちを一時的に匿っていた場所である。その後すぐにきた美桜によってより安全な異空間に移動したが、あそこを知る者など今の護廷十三隊にはほぼいない。

「そうですか。私に出来ることがあったらいつでも言って下さいね。」

美桜は夜一に言っておかなければいけないことがあった。それを思い出した美桜は、声を顰めて夜一に言った。

「中央四十六室、全滅しています。」

予想していなかったのだろう。夜一は金色の目を大きく見開いて固まっている。

「どうやら議事堂全体に鏡花水月をかけているようで、誰も気付いていません。中央四十六室の決定には気をつけてください。」

尸魂界は奴らの手に堕ちつつある。そう明言しなくても、夜一には美桜の言いたいことが十分伝わった。

「わかった。情報助かったぞ。」
「何か進展があれば会いに行きます。それまでお気をつけてください。」

美桜が声をかけると、猫なのにドヤ顔されたのがわかった。

「儂を誰だと思うておるのじゃ。」

夜一がかつて瞬神と呼ばれていたのは知っている。その瞬歩は今も健在だ。でも、それでも美桜は心配なのである。
夜一は美桜の眉の下がった情けない顔をひと舐めすると、しなやかな動きで腕から降りた。そして数歩歩いてから振り返る。

「案ずるな。美桜も気をつけるのじゃぞ。」

そう言って瞬歩をして消えていった。猫なのに。


美桜はその姿を見送った後、目を閉じ感知に集中した。旅禍と思われる大きい霊圧が十一番隊の三席とぶつかっている。この分だとどちらが負けるか予想できた。間もなく終了する戦いの救護に誰かいかせようと、雫の元へ戻った。




七番隊隊舎に瞬歩で戻る。美桜は目当ての霊圧を見つけられず、首を傾げた。霊圧が近くにないのだから、ここにいるはずないのについつい目で探してしまう。キョロキョロと辺りを見回していると、三席に声をかけられた。

「おかえりなさいませ、隊長!副隊長なら招集があり一番隊隊舎へ向かわれました!」
「ありがとう。西五十五区に十一番隊三席が旅禍と戦っているの。もう少しで決着がつきそうだから、誰かその救護に向かってくれないかしら。」
「かしこまりました!」

そう言って三席は隊員数人を西五十五区へと向かわせた。
私はその誰にも赤い光や黒いモヤが見えないことを確認してから、隊舎へ入っていった。



+ + +


決戦が近いこともあり、美桜はいつも以上に仮眠を長く取るようにしていた。旅禍が来ていようがお構いなしだ。なぜなら、美桜の敵は旅禍ではないのだから。

美桜はぶつかり合っていた巨大な霊圧が消えたことを意識の端で感知して目が覚めた。
身体を起こしてボーッとしながら霊圧を探る。
先程十一番隊三席を破った旅禍が、今度は六番隊副隊長の阿散井恋次を破ったらしい。喜助から聞いていた通り、なかなか骨がある。六番隊隊長の朽木白哉は、副隊長である阿散井にしっかりとした治療をさせようとか、そういうことはしないだろう。むしろ敗北したのだからそこに捨ておけとか言いそうだ。
美桜は大きく伸びをし、身支度を整えてからある場所に向かった。



どこかの隊舎内。人目につかない場所で、担架に乗せられた阿散井を囲む影があった。三番隊副隊長 吉良イズルと五番隊副隊長 雛森桃である。

後悔を滲ませた吉良が、申し訳なさそうに雛森に言う。

「僕が見つけたときは既にこの状態だったんだ。もう少し早く見つけて加勢していれば....」
「そんな!吉良君のせいじゃないよ!」
「とりあえず、四番隊に連絡するよ。上級救護班を出してもらおう。」
「その必要はない。」

吉良と雛森の後ろに立っていた六番隊隊長 朽木白哉は、大怪我を負って荒い呼吸を繰り返す自身の副官を冷たい目で見た。

「「朽木隊長!」」

吉良と雛森は、いきなり現れた白哉に驚いたように声を上げる。

「牢に入れておけ。」

白哉の口からまさかそんな言葉が出ると思わなかったのだろう。ましてや阿散井は白哉の副官だ。雛森が戸惑いながら口を開いた。

「で、でも阿散井君は一人で旅禍と戦ったんです!」
「言い訳は聞かぬ。一人で旅禍に挑むということは、決して敗北は許されぬということだ。」

そう言うと、白哉は背を向けて歩き出した。
白哉の言うことに納得出来なかった雛森が、白哉に異議を唱える。

「ちょっと待ってください!そんな言い方「よせ!」」

吉良が雛森を止めた。

「申し訳、ございませんでした。」

吉良が白哉に向かって深く頭を下げる。吉良がなぜ頭を下げているのかわかった雛森も、同様に頭を下げた。
白哉はその様子を横目で見た後、再び背を向けて歩き出した。

「雛森くん、指示に従おう。阿散井君を牢へ。」

吉良と雛森が渋々指示に従おうとしていたとき。すぐ側から女性の声が聞こえた。

「全く、白哉君ったら。いつからあんな風になったのかしら。」

吉良と雛森は咄嗟に声の方へと向く。
そこには白い隊長羽織を纏い、白哉が去っていった方を見る美桜の姿があった。

涼森隊長!!」

涼森隊長と呼ばれた美桜は、二人を安心させるように微笑んだ。

「お疲れさま。白哉君にいじめられてない?大丈夫?」
「私たちは大丈夫ですが、阿散井君が....。」

雛森は担架に乗せられた阿散井を見る。応急処置として巻いた包帯に血が滲んできている。

美桜は「うわぁ痛そう」と言いながら阿散井の隣にしゃがみ込んだ。そして阿散井の傷に右手を翳し、そこから薄い緑色の霊圧を出した。回道だ。

雛森と吉良は、阿散井の傷を治している美桜の回道を見て目を見開いた。

(すごい速さで傷が治っていく)
(細かい霊力操作。さすが涼森隊長....)

「あんまりやると怒られちゃいそうだから、とりあえず止血と痛み止めだけね。大きな傷はほとんど治したから、見た目ほど酷くないわ。」

そう言って片目を閉じた美桜に、二人は頭を下げた。

「「ありがとうございます!!」」
「いいのよ。じゃあ私はもう行くね。」

そう言って瞬歩した美桜に、二人はもう一度頭を下げた。

美桜が消えた後、二人は阿散井を見た。回道をかけてもらったおかげか、先程より呼吸は落ち着いており、顔色も穏やかだ。さすが七番隊隊長である。

第二の四番隊として、前線にいる負傷者を応急処置しながら四番隊に運ぶ、そんな役割を持つ七番隊は、他の隊よりも構成人数が少ない。しかし、七番隊に属する者は皆回道を会得しており、瞬歩が得意な者が多い。また、それなりに戦闘能力もあるため、遠征の際は七番隊隊士が必ず数人派遣される。それだけで生存率が跳ね上がるためだ。そんな隊を九十年前に創り上げた美桜は、四番隊隊長である卯ノ花に劣らぬ回道の腕を持つという。その噂は本当だったのだと、吉良と雛森は目の前で証明された。

気を取り直した吉良と雛森は、阿散井を牢に入れるために動き出した。



その夜の隊首会で、隊長格を含む廷内での斬魄刀常時携帯および戦時全面解放が許可された。戦時特例である。


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