番外編
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●引越し祝い
(虚化して数年後)
先月から喜助さんたち三人は、自分たちの別の拠点を作り、そこで生活することになった。
私はずっとこの異空間を使ってくれていいのだけど、気になっちゃうみたい。
拠点が完成したと連絡を受けた私と真子は、手を繋いでその場所へ向かった。
「これ、隠れる気あるんか....」
真子の言葉にうんうんと頷く。
それもそのはず。大きく書いてあるからだ。 "浦 原 商 店 " と。
平屋の扉がガラガラと音を立てて開く。
中から緑と白の帽子に緑色の甚平、下駄という格好をした喜助さんが出てきた。
喜助さんは私たち二人を見るなり、手に持っていた扇子をバッと広げて口を隠し、陽気な声で話しかけた。
「お!平子サンと美桜サンじゃないっスか〜!ささっ、どうぞ中へ!」
まぁ元々その目的だったし....。と私と真子は顔を見合わせてから歩き出した。
広いとは言えない居間のちゃぶ台を私と真子、喜助さんと鉄裁さんで囲む。私の膝の上には猫になった夜一さんがくつろいでいる。
話を聞く限り、現世に駐在する死神から情報を集めるために、死神相手に商売をするらしい。
そのカモフラージュとして子ども相手に駄菓子屋も。
でも決して身体が鈍ることがないように、ここの地下に巨大空間を作って、そこで修行するみたい。
「美桜、いつの間に手伝いなんかしとったんか。」
「ううん、私何もしてないよ。」
じゃあ一体どうやって....?
そう思った私たちに、喜助さんはニンマリと笑った。
「お見せしましょうっ!!」
そう言って立ち上がった喜助さんの後を夜一さんがついていくので、私たちもそれに倣う。
やがてなんの変哲もない部屋に辿り着くと、喜助さんは畳を一枚剥がした。そこには穴が空いており、梯子が掛かっているのが見える。
どうやらこの下が修行空間になっているようだ。
喜助さんが梯子を降りていき、私もそれに続こうとしたら、真子に手を引かれた。
「美桜、梯子降りれるんか?」
真子のその言葉に、ハッとした。
「待って、私もしかして梯子降りれない!?」
考えてみよう。梯子というものは、己の手で綱を握り、降りていく。当然握力と腕力が必要だ。
私は筋力が十歳程度しかない。成長して当時より重たくなった身体を、この手で支え切れるかどうか....。
うん、やめておこう。
潔く諦めた私は真子に声をかけた。
「私、真子の霊圧辿っていくね。」
「難儀やなぁ。」
そう言って真子は梯子をスイスイ降りて行った。なんかちょっと悔しいけど仕方ない。
私は真子の霊圧をしっかり感知した後、空間を裂いて地下へ向かった。
一気に明るくなった視界に目が眩む。
近くにあった真子の手を握る。最近一緒にいる時、お互いのどこかしらに触れているのだ。
目が慣れてきた頃、最初に思ったのは、私の空間に似ているな、ということである。
荒れた大地に青い空。ところどころに生えている木。
霊圧でこの空間の大きさを測ると、思った以上に広くて驚いた。素朴な疑問を喜助さんにぶつける。
「これ、どうやったんですか?」
「簡単っス。掘ったんですよ。」
私と真子の目が点になる。
「「掘った??」」
「そうじゃ。三日三晩で掘り進めたんじゃ!」
夜一さんが近くの盛り上がった岩の上に乗って言う。
「人力で出来るもんなんか?」
「まぁ二回目っスからね。慣れたもんっス。」
「(二回目....。ということは一回目があるのね。)」
私は既視感を感じる広い空間に目を向けた。そして一回目の心当たりがあることに気付いた。
「あ、もしかしてあそこですか?」
虚化した真子たちが居た場所は確かこんな感じのところだった。
「ご名答っス。あそこは双極の丘の地下っス。」
あそこは二人の修行場だったそう。作ったのは何十年も前みたいで、純粋にすごいなって思った。地下にあるあれだけの空間を固定し続けるのは至難の業だ。流石喜助さん。
真子と二人で色々歩き回ってみる。
なぜか途中トラップが仕掛けられてたりしたけど、衛膜のおかげでなんともない。
しばらく歩くと、端の方に温泉があった。見えないようにするためか、周りを高い岩で囲まれたそこは、一度に何人か浸かれるほどの広さだ。
その温泉を見た私には、良い考えが思いついてしまった。引越し祝いということにしよう。
「ねぇ、真子。ここにあの霊石入れたらどうなるかな。」
真子は一瞬私が何を言っているのか分からなかったようだけど、すぐに思い当たったみたい。そしてニヤリと笑う。
「ええんちゃう?引越し祝いや。」
二人していたずらっ子のような顔でにやにやしながら、私は時間停止空間からいつぞやの巨大霊石を取り出した。
何十年も前のこと、私が真子の回道をこめた霊石を渡したくて頑張っていたアレだ。リサが発見してくれたように、水に入れておくと回道がほとんど抜けないのだ。
ここは修行場。修行に怪我は付きものだ。鉄裁さんも治せるけど、わざわざ上まで行かなきゃいけないなんて不便でしょう?
真子が喜助さんを呼ぶ。
「喜助ー!!」
「はーい。どうしたんスかー?」
喜助さんが岩からひょこっと顔を覗かせる。
そして私たちの足元にある霊石を見て、顔をヒクヒクさせた。
「なんスか、それ。」
「回道が込められた霊石!引越し祝いであげます!」
首を傾げる喜助さんに、これがどういうものなのか説明する。
「なるほど。その石に込められた回道がなくならない限り、この温泉が傷を癒してくれるんスね?」
でもそんな便利なものを、と渋る喜助さんに、夜一さんの喝が響く。
「良いではないか、喜助!」
「実際持っていても何十年空間に入れていただけなので....。」
喜助さんはちょっと悩んだ後、それならと受け取ってくれた。
この温泉が何十年後に死神代行の傷を癒すのはまた別の話。